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しおりを挟む付き合い始めて三カ月になり、抄介も就職先が決まり順調な生活を送っていた。
現在抄介は建築会社で就職しCADで図面を作成する仕事をしている。システムエンジニアの経験を買われて、会社のHPの管理も任されていた。
その就職先の同僚で女性社員がいるのだが、その人が玲のファンらしく、時々玲の話題を話されて、知らない情報まで得るようになっていた。
「玲君、とても可愛くてカッコいいですよね!」
玲が写っている雑誌を渡され見るが、確かに見入ってしまうほど綺麗に撮影されていて、自分も一瞬欲しくなってしまうこともあった。
こうやって玲の事を純粋に応援してくれる人がいることは、抄介としても単純に嬉しかった。
充実な毎日を送っていた抄介は仕事を終え、夕食の準備をしていた。
時間を見ると部屋に掛けてある掛け時計は八時になろうとしていた。
ピンポーンとインターホンが鳴る音が聞こえる。カメラ付きインターホンを確認すると玲が笑顔で立っていた。
「今開けるよ」
玄関へ行きドアを開けると、玲が満面な笑顔で入って来た。
「こんばんは!」
「どうぞ」
笑顔で玲を迎い入れると、お邪魔しますと言いながら靴を揃えてリビングへと向かい、夕食が置いてあるテーブルを見て言った。
「あ、ご飯の準備してくれてたんですね」
「うん、と言っても惣菜を買い揃えただけだよ。調理は一切せず皿とかコップ用意してるだけだし」
抄介は恥ずかしそうに言いながら準備を再開した。
「そういえばここまでどうやって来たんだ?今日仕事だって言ってたよな?」
「あ、今日は桜川さんにここまで送ってもらったんです。一応抄介さんの住んでるとこを確認したかったみたいで・・・」
少し言い辛そうに答え、抄介はぎょっとした表情になった。
「マジか。ちょっと怖いな」
「あはははは・・・」
玲は乾いた笑いをするが、さてと言って話題を変えてしまった。
玲と付き合う前にはなかった食事用のテーブルを二人で出資して買い、それからというものテーブル席で食事を摂るようになった。
昔はソファにあるローテーブルを使って食事をしていのだが、玲から食事するのにメリハリが必要だと言われ、テーブル、椅子を置くスペースは十分にあるので置いてみたのだ。
買ってきた夕食をテーブルに並べ終わると二人は座って食事を始めた。
玲の俳優としての仕事も順調らしい。
ゲスト出演も増え始め、まだレギュラーはないがそれでも俳優の仕事が増えていることが嬉しいらしい。
おかずを食べながら抄介は今日、密かに玲に渡したい物があった。
どのタイミングで渡そうと様子を見ていたが、今が良いチャンスだと思い声を掛けた。
「あのさ」
抄介は少し緊張しながら口を開く。
「玲に今日渡したい物があるんだ」
「え、何ですか?」
好奇心に満ちた表情で玲は抄介を見た。
「これ」
言いながらポケットに閉まっていたある物を取り出した。
テーブルにそれを置くと、玲はきょとんとした表情でそれを見ていた。
「鍵?」
「うん。ここの部屋の合鍵だ」
「え?」
目を見開いて抄介を凝視している。その様子を見て抄介は少しだけ気まずさを感じた。
さすがにちょっと重かっただろうかと不安に思いながら玲を見つめていると、
「嬉しいです!合鍵を俺にくれるんですか!」
想像以上に喜んでいてくれたので、抄介少しずつ安堵し始めた。
「そ、そう。休みが中々合わないことがあるから、俺が玲のマンションに行くより来てもらった方が安心じゃないのかなって思ってさ」
「そうですね。ありがとうございます。嬉しいです!」
そう言い、暫く鍵を熱く見つめるとぎゅっと手のひらに握り締め、すぐに自分のキーケースに鍵を付けていた。
「これで落とすこともないですね!」
玲のキーケースを抄介に見せると、もう一言抄介は付け加えた。
「ああ。それでもし俺の部屋に入りたかったら、一言LINEなり電話で連絡してくれればいいから」
「はい!わかりました!」
嬉しさのあまり玲は、抄介の背後に周り込み首から腕を回して甘えるような仕草をした。
「俺、抄介さんの部屋に住んじゃおうかな?」
浮かれるあまり冗談っぽく言うが、抄介からは真面目なトーンで返って来た。
「ダメだよ。玲は俳優さんだ」
そう返され玲は気落ちし抄介の背中から少し離れ、無理して返事をした。
「そうですよね。冗談です」
玲の声のトーン少し落ちる。
抄介が言ったことは正しい。マスコミに気づかれなければ関係は続けて良いことになったのだ。だからこれ以上望んではいけないのだと玲は自分に言い聞かせた。
無言になる玲に、続けて抄介は言った。
「・・・俺も玲と一緒に住めたら、幸せだけどな」
「抄介さん・・・」
その言葉が嬉しくて、再び玲は背後から抄介を思いっきり抱き締めた。
「ね、一緒に住めたら幸せだよね」
胸の前に回された玲の腕を抄介はそっと触れた。
「その合鍵が少しでも玲と一緒に過ごせる時間が増えるといいな」
抄介の本音に触れた気がして玲は嬉しく思った。
きっと抄介も本当は玲と同じ気持ちなのだろう。しかし現実がそれを許してくれない。だからせめてこういう形にしたのだと理解したのだ。
「はい!」
そう言うと玲は自分の席に座り直し、再び食事が始まった。
こうやって二人一緒に居られるこの瞬間が尊く、これからも長く続けていきたいと心から願った。
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