ある休憩室で突然一目惚れをした話

リツキ

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 ふと目を覚ました玲は、体を起こそうとするが腰に痛みを感じ起こせずにいると、背後から背中越しに抱き締めて来る人物がいた。
 顔だけそちらへ向けると、抄介の優しい顔があった。
「おはよう、玲。今6時だよ」
「・・・おはようございます。もう起きていたんですね」
 満面な笑顔で迎えられ、起きて早々玲は恥ずかしさで顔を赤らめた。
「綺麗な背中だな」
 抄介は玲の背中を一瞥すると、再び抱きしめる。抄介の体温が背中越しから伝わり、少しだけ玲はときめいていた。
「そんなことないです」
「そんなことあるよ。本当に色白で綺麗だ」
「恥ずかしいです」
「昨日も色っぽかった」
 そう言って抄介は玲の後ろの首筋に軽くキスをする。
「い、色っぽいって・・・初めて言われました」
 背後からもわかる玲の頬と耳がすっと赤く染まっていった。
「本当だよ、普段の玲は可愛いのにちょっとしたギャップだった」
 くるりと玲は抄介の方へと向かうと、玲は抄介の頬にゆっくりと触れる。
 穏やかで幸せに包まれた抄介の表情に、玲も多幸感に満たされた。
「夢じゃないんですね」
「夢だったらお互い裸じゃないよな?」
 意地悪な笑みで答える抄介に玲は更に恥ずかしさが増した。
「・・・そうですね」
 そう言って抄介は玲の唇に優しくキスをした。
 抄介は玲が愛おし過ぎて、ずっと自分の下から離そうとしない。
 かなり締まりのない顔で玲を見つめていた。
「俺も起きた瞬間、昨晩のことは夢じゃなかったんだなって思ったんだよ」
「抄介さんも?」
「この展開になるなんて、玲が来る前に想像してなかったから」
 言われて玲も頷いた。
「そうですね、俺もまさかこんな・・・裸で二人、布団の中にいるなんて想像してなかったです」
 布団に潜り込みながら玲は言い、抄介は潜る彼を優しく髪に触れながら言った。
 玲は嬉しそうに笑むが、次第に言い辛そうな表情に変わって、実はと話し始めた。
「実は俺・・・初めてだったんです」
「え?初めてって・・・何が?」
 キョトンした表情で尋ねる抄介に、更にモジモジとしながら玲は答えた。
「その・・・Hすることです」
「・・・え?」
 驚き抄介は玲を見つめると、困った表情で見つめ返していた。
「Hが初めてって、すること自体がってことか?」
「・・・はい」
「え!!」
 抄介は信じられず声を上げた。これほどの美貌で経験がないなんて考えられなかったからだ。
「誰とも付き合ったことがなかったのか?」
「いえ、あります。でもそこまでいかなかったというか。そういう雰囲気はあったんですけど邪魔が入って進まなかったというか」
「マジかよ」
 再び驚き抄介は玲をマジマジと見つめていたが、恥ずかしそうに玲の手のひらが抄介の視界を塞いだ。
「あんまり見ないで下さい。恥ずかしいので」
「・・・つまり、玲の初めてって俺ってこと?」
 高鳴る心臓を抑えつつ抄介は玲に尋ねると、黙って静かに頷いた。
「引きましたか?」
 恐る恐る玲は抄介に尋ねるが、抄介は静かに顔を横に振った。
「そんなわけないだろう!嬉しいよ。玲の初めてが俺だなんて・・・」
 言って嬉しそうに抄介は玲の頬を撫でると、ホッとした表情になった。
 抄介はこれほどまでに惚れた相手の初体験が自分だったなんて、こんなに嬉しいことはない。
 幸せを胸に抱きながら暫く抄介に寄り添っていた玲だったが、再び何かを思い出したのか急に曇った表情になった。
「・・・俺たちの関係、事務所にバレたら何て言われるんだろう」
 抄介は彼の顔を見て優しく諭すように口を開く。
「実はさ、玲のマネージャーさんにこの前声をかけられたんだよ」
「え、どうしてですか?」
 驚き、玲は少し体を起こしかけた。
「たまに外を散歩していて、その時丁度映画の撮影現場に出くわすことがあったんだけど、遠巻きで見てたら声をかけられた。倉沢抄介さんですよねって」
「え、なんで桜川さん知ってたんだろう」
 驚きながら玲は疑問を口にする。
「二人で撮った写真を見て覚えていたらしい」
「・・・そうだったんですね」
 玲は神妙な面持ちで返答した。
「それで散々玲とは生きている世界が違うって言われて、確かにそうだとは思っていたから、言われたことで余計そう思い込んでしまったというのか。でも玲がこの部屋に来て、もう二度と会えないと思ったら、勝手に体が動いてたんだよ」
「抄介さん」
 お互い一瞬微笑み合うが、それでも玲の不安は消えてはいない。
 抄介は不安な玲の視線を合わせてきっぱりと言い切った。
「マネージャーさんにバレたらかなり怒られるかもしれない。その時は俺も一緒に怒られるよ。それでわかってもらえるよう説得する」
「抄介さん」
 抄介の言葉に玲は嬉しくて抱き締め、抄介も抱き締め返した。
「俺はもう迷わない。俺はこれからも玲と一緒にいる」
「・・・俺もです。抄介さんが大好きです」
 抱き合いながら暫く二人は幸せの余韻に浸っていた。





「俺、そろそろ行きますね」
 服を着て身支度を整えた玲は、振り返り抄介を見た。
 散々いちゃついた後、二人は揃って温泉に行き体を洗うと、玲が八時には旅館を出ると言っていたので、慌てて抄介の部屋に戻り服に着替えた。
「あ、そうだ!」
 抄介は玲を呼び止め、携帯を取り出した。
「連絡先を教えて欲しい。玲の携帯の連絡先をね」
「はい!今それをしようと思って」
 にっこり笑った玲は、パンツのポケットから携帯を取り出し、お互いの連絡先を教え合った。
「これは本物です。だから安心して下さい!」
「・・・うん」
 噛みしめるように抄介は頷いた。
「いつまで抄介さんはここにいるんですか?」
「あと一週間ぐらいかな。もうちょっとのんびりしようと思って」
「そうですか。撮影もあとに二週間くらいだって言ってました。俺はそんなに出番があるわけじゃないので一週間で終わりましたけど」
「そっか」
 なんとなくお互い離れ難く、立ちながら暫し沈黙が続いた。
 しかしあと十分程で八時になろうとしているので、玲を解放しなければならなかった。
「また連絡します」
 玲は澄んだ瞳で抄介に言う。
「うん、俺も連絡するから・・・」
 そう言って抄介は玲の手に触れ、繋いだ。
「また、デートしような」
「はい。今度こそキャンプ行きましょうね!」
 満面な笑顔の玲に抄介は惹かれ、玲の唇に自分の唇を重ねた。
 優しく触れ合うと、すっと玲から離れた。
「頑張ってこいよ。応援してる」
 抄介の力強い言葉に玲は少し感動し、はいと言った。
 手を振って、部屋を出て行く姿が見えなくなるまで、抄介は見送っていった。


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