潜魔窟物語

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第五章『復活に向かって』

第三十五話『再出発』

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王宮を後にしたナシャは、歩兵師団の兵舎に立ち寄った。
かつての部下だったものの顔がいくつもあったが、力を持った部下のうちの幾人は姿が見えないことから、まだ存命であり、おそらく王太子とともに反旗を翻す機会を伺っているのだろうと思った。

「師団長殿!」
兵舎に入ってきた顔が尊敬する上官であったことから、兵士たちは喜びの声をあげた。

「お前たち、こんなところで再会するとはな」
ナシャは部下一人ひとりの顔をゆっくりと見た。
ナシャと同じ釜の飯を食い、厳しい操練に耐え、蛮族の侵攻を幾度となく退けた者たちだ。
いずれも精鋭と言って差し支えない手練れだが、そんな者たちが命を落としたという現実が、ナシャに少なからず衝撃を与えた。

「王命により、敵国へ潜入し敵兵力の増強の秘密を探ることとなった。私と同行する者を2名募るが、我こそはと名乗り出る者はいるか?」
ナシャの問いかけに、ほぼ全員が同行の意思を示した。

「こら、全員を同行させることはできんぞ。防衛はどうするのだ」
少しだけ非難したものの、相変わらずの頼り甲斐のある部下の姿に微笑みを浮かべた。

「もちろん防衛が重要であることは理解しておりますが、それ以上に師団長殿との任務に同行したいと思う心情を理解してくだされ」
ナシャの部下のなかでも特に古参であるルドが答えた。
ルド自体は防衛という重要な任務を捨て置けない事情と、年齢的な事情を勘案し同行の意思は示していなかったが、本心ではナシャとともに行きたいと思っていた。
だからこそ、同行を願う若い兵士たちの気持ちがよく理解できたのだ。

「仕方ないやつらだ。では、私が選抜する」
そう宣言して3人の兵士を選出した。
大柄で物静かであるが任務遂行能力に長け、特に防具の取扱いに優れたシーマ。
索敵能力に優れたサージ。
単騎戦闘であればナシャに引けを取らない実力であるソール。
敵国の内情がつかめない状況であることから、ある程度想定できる困難を排除できる者であると言えた。

「では、出発は明後日の早朝、各自それまで準備を怠るなよ」
ナシャからの檄に、三人は最敬礼で応えた。
その様子を見て満足そうに頷いたナシャは、自分も敬礼を返し兵舎を出た。

1年の半分近くが寒冷な気候であるヤタガ王国では珍しく、日差しが暖かく、爽やかな空気が流れている。

ナシャは燦々と降り注ぐ太陽の光を目を細めながら見た。

帰路の途中、青果店に立ち寄り、新鮮な果実を幾つか購入した。

店主と看板娘は馴染みの顔だが、店主の妻の姿はなく、ナシャは、無事に生きてくれていればいいのだが……と心の中で願った。



2日後。
兵装を整えたナシャは、カノとサムに見送られ、自宅を出発した。

サムはナシャの出征を泣いて嫌がったが、すぐ帰ってくることと帰ったら特別な技を伝授することを約束することで何とか説得することができた。

「お早い帰還を祈っていますね」
カノはそう言うと、ナシャの頬に口づけをして、サムにからかわれた。

「では、留守を頼む」
ナシャはカノを抱擁しながらサムと拳を合わせ、後ろ髪を引かれる思いを感じながら出発した。

ゆっくりと街角を抜け、王宮へと続く道を歩いていたが、不意に、道を逸れて別の道を進み始めた。

やがて、歩みを止めたナシャの目の前には、街中にポカンと開いた洞窟の入口があった。
ナシャが、死後の世界にやってきた際に抜けてきた洞窟だ。

ナシャは、ふっと息を吐き、洞窟に入った。
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