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第四章『訪れる試練』
第二十七話『魔の囁き』
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首なし戦士を倒したナシャ達は、ウルを先頭に慎重に罠を探知しつつ歩を進めていく。
今はさほど広くない石畳の通路が長く伸びている場所を歩いていた。
煙草をふかし、しかめっ面をしたウルがひとつ溜息をつき、目の前に石を投げた。
緩やかな放物線を描いて飛んでいった石が地面にぶつかると、その周囲に数条の火柱が立ち昇った。
「ったく、なまら面倒だわ」
罠の数と解除の手間に対し、ウルが思わず地元訛りを交えて愚痴をこぼした。
罠に嵌まると死につながるため、高い集中力を維持し続けなければならないが、罠の数が多いと一息つく暇がなく疲労が蓄積する一方なのだ。
「だ、大丈夫ですか?」
ハーシマが心配そうにウルに声をかけると、ウルは手をひらひらと動かして平気であることをアピールした。
「静かに」
後衛のナシャがメイスを構え後方に鋭い視線を送った。
よくよく耳を澄ますと、複数の足音が微かに聞こえてきた。
あまり大きな魔物ではないようだ。
ナシャがハーシマに合図を送る。
ハーシマは軽くうなずき、ささやくような声で呪文を唱え始めた。
魔物の足音が次第に近づき、魔物がナシャ達を見つけて奇声を発した瞬間、ハーシマは杖を振った。
潜魔窟をうろつく不届きな人間を成敗しようと走り出した魔物たちの目の前で火球が爆発した。
突然の衝撃に吹っ飛ばされた魔物の一匹が苦痛に呻くが、火球の残影を突き破って突進してきたナシャの一撃で呻くことを終わらされた。
もう一匹は素早く立ち上がり、威嚇の咆哮を上げる。
犬の顔を持つ半獣人の魔物のドーフェだ。
眼差しは怒りに満ちているが、耳が後ろに倒され、怯えていることがわかる。
ナシャは生き残りのドーフェの様子を伺う。
怯えた様子から逃走するものと思っていたが、急転回してハーシマに襲いかかろうと試みる。
が、ウルの投げナイフに大腿を貫かれ、ものの見事に転倒し、ナシャによって止めを刺された。
「わ、罠も多ければ、敵もお、多いですね」
魔物との戦闘にだいぶ慣れてきたとはいえ、まだ緊張が強いハーシマは、安堵の表情を浮かべながら大きく息を吐いた。
「とはいえ、魔物は思った以上に強くはない」
メイスに付いた血を振り払いながら、ナシャが言った。
そのときだった。
フフフフ......
フフフフ......
何処からか妖しげな声が響いてきた。
声は続けた。
うぬぼれ屋さんがいるわ......
臆病者もいるわね......
ねっとりとした言葉遣いには、嘲笑の響きが含まれている。
「これは何だ?」
「潜魔窟が発する戯言だ、気にするな」
ナシャの疑問にウルが答える。
「せ、せ、潜魔窟自体がしゃ、しゃべるんですか?」
杖を抱えるようにして、ハーシマは辺りをキョロキョロと見回す。
だが、周囲には何もない。
声はなおも続いた。
年寄りが戯言を言っているわ......
偉そうにほざいているわね......
「へーへー、確かに俺は年寄りだな」
煽るような声に対し、ウルは平然と受け流した。
事実を指摘されたところで痛くも痒くもないのだ。
ハーシマはともかく、ナシャも同じく受け流すだろうと思っていた。
だが、少しだけ様子は違った。
「今までの戦闘で私と対等に戦える魔物がいなかったが。魔物は人間より弱い存在なのだな」
ナシャが、声に対し煽り返した。
ハーシマもそうだそうだ!と返していたが、ウルは引っかかった。
本来のナシャであれば、冷静に受け答えしているはずだ。
いや、表面上は冷静に受け答えしているように見えるが、わざわざ敵を煽るようなことはしないはずだ。
『にぃちゃん、どうした?』
ウルは心の中で呟いた。
答えの見えない違和感の理由がわかった気がした。
明らかにナシャは気負っているのだ。
「お前ら、ほんと気にすんな」
ウルが、2人に話しかけ会話を終わらせ先に進み始めた。
これ以上、歯車を狂わせる訳にはいかないと思えた。
必ず仕留めるわ、うぬぼれ屋さん......
絶対仕留めるわね、あんたたち......
妖しげな声に妙な喜びの響きが加わり、辺りから魔物の気配が全て消えた。
「ウル殿、これからも厳しそうだ、油断せずに進もう」
しばしの沈黙のあと、ナシャがウルに言った。
「それがいいべな、気ぃつけんべ」
ウルがいつもの調子で答えた。
答えたが、内心で警戒心を強めた。
今はさほど広くない石畳の通路が長く伸びている場所を歩いていた。
煙草をふかし、しかめっ面をしたウルがひとつ溜息をつき、目の前に石を投げた。
緩やかな放物線を描いて飛んでいった石が地面にぶつかると、その周囲に数条の火柱が立ち昇った。
「ったく、なまら面倒だわ」
罠の数と解除の手間に対し、ウルが思わず地元訛りを交えて愚痴をこぼした。
罠に嵌まると死につながるため、高い集中力を維持し続けなければならないが、罠の数が多いと一息つく暇がなく疲労が蓄積する一方なのだ。
「だ、大丈夫ですか?」
ハーシマが心配そうにウルに声をかけると、ウルは手をひらひらと動かして平気であることをアピールした。
「静かに」
後衛のナシャがメイスを構え後方に鋭い視線を送った。
よくよく耳を澄ますと、複数の足音が微かに聞こえてきた。
あまり大きな魔物ではないようだ。
ナシャがハーシマに合図を送る。
ハーシマは軽くうなずき、ささやくような声で呪文を唱え始めた。
魔物の足音が次第に近づき、魔物がナシャ達を見つけて奇声を発した瞬間、ハーシマは杖を振った。
潜魔窟をうろつく不届きな人間を成敗しようと走り出した魔物たちの目の前で火球が爆発した。
突然の衝撃に吹っ飛ばされた魔物の一匹が苦痛に呻くが、火球の残影を突き破って突進してきたナシャの一撃で呻くことを終わらされた。
もう一匹は素早く立ち上がり、威嚇の咆哮を上げる。
犬の顔を持つ半獣人の魔物のドーフェだ。
眼差しは怒りに満ちているが、耳が後ろに倒され、怯えていることがわかる。
ナシャは生き残りのドーフェの様子を伺う。
怯えた様子から逃走するものと思っていたが、急転回してハーシマに襲いかかろうと試みる。
が、ウルの投げナイフに大腿を貫かれ、ものの見事に転倒し、ナシャによって止めを刺された。
「わ、罠も多ければ、敵もお、多いですね」
魔物との戦闘にだいぶ慣れてきたとはいえ、まだ緊張が強いハーシマは、安堵の表情を浮かべながら大きく息を吐いた。
「とはいえ、魔物は思った以上に強くはない」
メイスに付いた血を振り払いながら、ナシャが言った。
そのときだった。
フフフフ......
フフフフ......
何処からか妖しげな声が響いてきた。
声は続けた。
うぬぼれ屋さんがいるわ......
臆病者もいるわね......
ねっとりとした言葉遣いには、嘲笑の響きが含まれている。
「これは何だ?」
「潜魔窟が発する戯言だ、気にするな」
ナシャの疑問にウルが答える。
「せ、せ、潜魔窟自体がしゃ、しゃべるんですか?」
杖を抱えるようにして、ハーシマは辺りをキョロキョロと見回す。
だが、周囲には何もない。
声はなおも続いた。
年寄りが戯言を言っているわ......
偉そうにほざいているわね......
「へーへー、確かに俺は年寄りだな」
煽るような声に対し、ウルは平然と受け流した。
事実を指摘されたところで痛くも痒くもないのだ。
ハーシマはともかく、ナシャも同じく受け流すだろうと思っていた。
だが、少しだけ様子は違った。
「今までの戦闘で私と対等に戦える魔物がいなかったが。魔物は人間より弱い存在なのだな」
ナシャが、声に対し煽り返した。
ハーシマもそうだそうだ!と返していたが、ウルは引っかかった。
本来のナシャであれば、冷静に受け答えしているはずだ。
いや、表面上は冷静に受け答えしているように見えるが、わざわざ敵を煽るようなことはしないはずだ。
『にぃちゃん、どうした?』
ウルは心の中で呟いた。
答えの見えない違和感の理由がわかった気がした。
明らかにナシャは気負っているのだ。
「お前ら、ほんと気にすんな」
ウルが、2人に話しかけ会話を終わらせ先に進み始めた。
これ以上、歯車を狂わせる訳にはいかないと思えた。
必ず仕留めるわ、うぬぼれ屋さん......
絶対仕留めるわね、あんたたち......
妖しげな声に妙な喜びの響きが加わり、辺りから魔物の気配が全て消えた。
「ウル殿、これからも厳しそうだ、油断せずに進もう」
しばしの沈黙のあと、ナシャがウルに言った。
「それがいいべな、気ぃつけんべ」
ウルがいつもの調子で答えた。
答えたが、内心で警戒心を強めた。
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