潜魔窟物語

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第四章『訪れる試練』

第二十六話『再び深部へ』

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ナシャは、ウルに倣い、割符を割いてみた。
次の瞬間、ナシャはトインにある『書房二月』の目の前に立っていた。

自分の身に起きた現象があまりに現実離れしているので、ナシャは周囲を確認するかのようにキョロキョロと見回す。

すると、突然目の前にハーシマが現れ、ナシャと同じように辺りをキョロキョロしたので、ナシャは思わず笑ってしまった。 


「よし、揃ったな。んじゃ行くぞ」
ウルとしては、ナシャ達の反応含め何度も体験していることなので、感情の動きも見せず淡々と場を仕切った。

 
ウルから、今回は3フロア分下ったところで野営をし、翌日2フロア下ってから引き返すとの予定を伝えられ、ナシャとハーシマはそれぞれ頷いた。




探索を始めてすぐに、ウルは例えようのない違和感を感じていた。

これまで、このパーティで何度も探索しているが、ウルとしては何ら問題なく自らの役割をこなせていると感じていたが、今回の探索では、妙に作業が滞るような感覚があった。

『何だっつうんだ?何が変なんだ?』
そう頭の中で呟きながら、毒霧噴射の罠を解除した。
すると、半透明の姿で、全身鎧を身に纏った戦士のような姿が目の前にぼんやりと現れてきた。

罠を解除すると魔物が出現するという、二段階の罠だ。
さすがにこれを防ぐ術はウルにもない。

次第に実体をはっきりさせていく戦士。
見た目だけなら、どこかの王国の有名な騎士のように威風堂々とした佇まいだが、頭部はない。
それでも獲物を認識することはできるらしく、ウル達に向かって身構えると、鈍く輝く剣をスラリと鞘から抜いた。

ナシャがパーティの前線に鋭く躍り出て、メイスの一撃を首なし戦士に向かって思い切り振り込んだ。

すんでのところでナシャのメイスを盾で受けたが、猛烈な威力によってやや体勢を崩す。

ハーシマはそれを見て、すぐさま呪文を唱え杖を首なし戦士にふるう。
すると、首なし戦士の周りに幾本もの蜘蛛の糸がわき出てきて、まとわりついた。
敵の動きを鈍くする呪文だ。

体勢を崩したうえに動きまで制限された首なし戦士は、ナシャの情け容赦ないメイスの猛攻にさらされた。

ハーシマが応援の声を上げるなかでウルも追撃の隙を伺っていたが、ここでも再び違和感を覚えた。

その違和感の正体を探ろうとした矢先、首なし戦士の隙を先に見つけてしまい、ウルの体は自然に反応した。

崩れかかった体勢でナシャの攻撃を何とか受け止めた首なし戦士の足を蹴飛ばして転倒させたウル。

すぐさまナシャはメイスを腹部の装甲の薄い部分に叩き込むと、首なし戦士の体はグニャリと折れ曲がった。

ナシャはさらに電光石火の速度で、本来ならば頭がある首の部分にメイスを振り下ろすと、首なし戦士の体がビクンと1つ跳ね、完全に動きを止めた。


「や、やりましたね!」
魔物を仕留めたナシャ達のもとへハーシマが駆けてきた。

「やつはロックター。最初の10フロアには出現しないが、これからは頻繁に見かける魔物だ。単体ならばさほど脅威ではないが、集団で出てくると厄介だな」
ウルがロックターと呼ばれる魔物が残した宝箱の罠を解除しながら説明をした。

「確かに厄介そうだ」
ナシャはメイスを腰の武器留めに引っ掻けると、ウルの解除作業に視線を向けた。
ナシャとしても、結果は圧勝だったが複数体でかかってきらた苦戦するだろうと感じていた。
そして、宝箱から現れたものががらくたのような武器だったことにガックリと肩を落とし、ハーシマに慰められていた。

その様子は普段どおりであり、見ていて微笑ましいものだとウルは感じていた。

しかし、それよりも違和感の理由がわからないままであることが気になっていた。

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