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第三章『狭間の街トイン』
第二十一話『より深みへ』
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宿で一夜を過ごし、翌朝ナシャ達3人は早速潜魔窟に向かった。
地上の潜魔窟の入口と同じく、しばらく地下へと続く階段を降りると、洞窟の中とは思えない広々とした空間に出た。
「おう、ここから先には鍵となる魔物はいない。下へと続く道は常に開いているが魔物が尽きることもないから気をつけろ」
ウルが突然、さらりと重要なことを伝えてきた。
「ウル殿、そう言う大事なことは前もって知らせてもらえないだろうか……」
ナシャが苦情を言うも「忘れていたんだ、仕方ないだろう」と言いガハハと笑うウルの姿を見て怒る気をなくした。
「こ、ここには魔物の気配はまだないです」
緊張した面持ちのハーシマが魔法で周囲を探査した結果を伝えた。
「ありがとよ。さて、ここからも俺が先導するが、常に背後にも気を配ってくれ」
その言葉でトインよりさらに地下へと続く潜魔窟の探索が始まった。
このフロアは朽ちた建物が並ぶ、遺跡のような空間が広がっていた。
ウルはほんの小さく舌打ちをしてから、罠を探りつつ歩を進めた。
気の抜けない、決して気の抜けない時間が過ぎていく。
ウルはいつになく難しい顔をして額に汗を浮かべていた。
歩く速度は今までと変わらない。
いや、むしろ僅かだけ速い。
しかし、並々ならぬ緊張感を漂わせている。
それほどまでに命の危険が目前にあるということなのだろう。
ウルがピタリと動きを止めた。
次の瞬間、ナシャが後方に投げナイフを放つ。
光の線が走り、数ケーブ先(1ケーブ=約1.8m)に立っていた魔物の腕に突き刺さった。
ギャッ!っとうめき声を上げたのは、ジャカンと呼ばれる犬の顔を持つ人型の魔物で、極めて獰猛な種族だ。
ナシャはナイフを投げた方向よりやや左にずれた辺りに走ると、メイスの先を建物と建物の間の虚空に向かって突き出した。
建物の影からナシャ達を襲うつもりだったジャカンの群れだったが、仲間が不意をつかれた先制攻撃に見舞われ、慌てたところにメイスが飛び出てきたので、ジャカンは驚きの叫びをあげた。
その声で敵の数と場所を予測し、ナシャは恐るべき速度でメイスを下方に振るい、一匹のジャカンのスネを砕いた。
仲間がやられ、怒りの咆哮を上げたのは4匹。
ナシャの背中に曲刀が袈裟斬りで降りかかるが、ナシャは巧みに鎧の厚い部分の装甲で受け流すと、襲ってきたジャカンの顔面に横殴りのメイスを叩きつける。
仲間意識の非常に強いジャカンは、憎きナシャに殺到しようとしたが、ハーシマがナシャの周囲に張り巡らせた電撃防護壁に引っかかり、苦悶の表情を浮かべた。
「前に飛ばせ!」
ウルの声に反応したナシャが目の前のジャカンの腹部に思い切り蹴りを入れてウルの注文に応えると、飛ばされたジャカンは罠の発動によりポッカリと開いた奈落の底へと続く穴に落ちていった。
電撃の効果で一時的に運動機能が阻害された一匹は、ハーシマの雷の槍の魔法に胸を貫かれ、残る一匹は己の死を悟ったが、道連れを狙おうとハーシマに突進した。
しかし、その行動は些細な抵抗にすらならなかった。
後方にいたはずのウルが突如目の前に現れ、足を払われると立ち上がる前に心臓をウルの短刀で一突きにされた。
「これで終いか?」
ナシャが無力化した2匹のジャカンの命を容赦なく刈り取ったところで口を開き、ウルは首を振った。
そして「お前ら、まだ動くな」と言うと、足元から小さな石を数個拾い、目の前に投げ始めた。
すると、小石に反応した奈落の罠が次々と発動し、周囲には幾つもの穴が出現した。
中にはナシャの足元から2ケーブ程の位置にも奈落があり、ナシャは肝を冷やした。
「遺跡があるフロアは落とし穴だらけであることが多くてな。だが、落とし穴の場所には幾つかのパターンがあって、それを掴むのに時間がかかっちまった」
ウルの表情が穏やかになったのを見るに、罠については解決できたのだろう。
「あ、危ないところですね…」
ハーシマが底の見えない奈落を覗き込みながら呟いた。
「そうだ、だが俺が助けてやるから痛あっ!」
いつの間にかハーシマの後ろに回り込み、ハーシマの尻に手を伸ばしたウルは突然手に痛みが走り、思わず声を出した。
「い、いつも触られるので、で、電撃防護壁の魔法をお尻に弱くかけておきました!」
ハーシマが笑顔でタネ明かしをするとナシャがガハハと笑い、ウルは憮然としながら「こいつらの血の匂いで魔物が寄ってくっから先を急ぐぞ」と言い、スタスタと歩いていった。
ナシャとハーシマは顔を見合わせ再び笑うと、ウルの後を早足で追いかけた。
地上の潜魔窟の入口と同じく、しばらく地下へと続く階段を降りると、洞窟の中とは思えない広々とした空間に出た。
「おう、ここから先には鍵となる魔物はいない。下へと続く道は常に開いているが魔物が尽きることもないから気をつけろ」
ウルが突然、さらりと重要なことを伝えてきた。
「ウル殿、そう言う大事なことは前もって知らせてもらえないだろうか……」
ナシャが苦情を言うも「忘れていたんだ、仕方ないだろう」と言いガハハと笑うウルの姿を見て怒る気をなくした。
「こ、ここには魔物の気配はまだないです」
緊張した面持ちのハーシマが魔法で周囲を探査した結果を伝えた。
「ありがとよ。さて、ここからも俺が先導するが、常に背後にも気を配ってくれ」
その言葉でトインよりさらに地下へと続く潜魔窟の探索が始まった。
このフロアは朽ちた建物が並ぶ、遺跡のような空間が広がっていた。
ウルはほんの小さく舌打ちをしてから、罠を探りつつ歩を進めた。
気の抜けない、決して気の抜けない時間が過ぎていく。
ウルはいつになく難しい顔をして額に汗を浮かべていた。
歩く速度は今までと変わらない。
いや、むしろ僅かだけ速い。
しかし、並々ならぬ緊張感を漂わせている。
それほどまでに命の危険が目前にあるということなのだろう。
ウルがピタリと動きを止めた。
次の瞬間、ナシャが後方に投げナイフを放つ。
光の線が走り、数ケーブ先(1ケーブ=約1.8m)に立っていた魔物の腕に突き刺さった。
ギャッ!っとうめき声を上げたのは、ジャカンと呼ばれる犬の顔を持つ人型の魔物で、極めて獰猛な種族だ。
ナシャはナイフを投げた方向よりやや左にずれた辺りに走ると、メイスの先を建物と建物の間の虚空に向かって突き出した。
建物の影からナシャ達を襲うつもりだったジャカンの群れだったが、仲間が不意をつかれた先制攻撃に見舞われ、慌てたところにメイスが飛び出てきたので、ジャカンは驚きの叫びをあげた。
その声で敵の数と場所を予測し、ナシャは恐るべき速度でメイスを下方に振るい、一匹のジャカンのスネを砕いた。
仲間がやられ、怒りの咆哮を上げたのは4匹。
ナシャの背中に曲刀が袈裟斬りで降りかかるが、ナシャは巧みに鎧の厚い部分の装甲で受け流すと、襲ってきたジャカンの顔面に横殴りのメイスを叩きつける。
仲間意識の非常に強いジャカンは、憎きナシャに殺到しようとしたが、ハーシマがナシャの周囲に張り巡らせた電撃防護壁に引っかかり、苦悶の表情を浮かべた。
「前に飛ばせ!」
ウルの声に反応したナシャが目の前のジャカンの腹部に思い切り蹴りを入れてウルの注文に応えると、飛ばされたジャカンは罠の発動によりポッカリと開いた奈落の底へと続く穴に落ちていった。
電撃の効果で一時的に運動機能が阻害された一匹は、ハーシマの雷の槍の魔法に胸を貫かれ、残る一匹は己の死を悟ったが、道連れを狙おうとハーシマに突進した。
しかし、その行動は些細な抵抗にすらならなかった。
後方にいたはずのウルが突如目の前に現れ、足を払われると立ち上がる前に心臓をウルの短刀で一突きにされた。
「これで終いか?」
ナシャが無力化した2匹のジャカンの命を容赦なく刈り取ったところで口を開き、ウルは首を振った。
そして「お前ら、まだ動くな」と言うと、足元から小さな石を数個拾い、目の前に投げ始めた。
すると、小石に反応した奈落の罠が次々と発動し、周囲には幾つもの穴が出現した。
中にはナシャの足元から2ケーブ程の位置にも奈落があり、ナシャは肝を冷やした。
「遺跡があるフロアは落とし穴だらけであることが多くてな。だが、落とし穴の場所には幾つかのパターンがあって、それを掴むのに時間がかかっちまった」
ウルの表情が穏やかになったのを見るに、罠については解決できたのだろう。
「あ、危ないところですね…」
ハーシマが底の見えない奈落を覗き込みながら呟いた。
「そうだ、だが俺が助けてやるから痛あっ!」
いつの間にかハーシマの後ろに回り込み、ハーシマの尻に手を伸ばしたウルは突然手に痛みが走り、思わず声を出した。
「い、いつも触られるので、で、電撃防護壁の魔法をお尻に弱くかけておきました!」
ハーシマが笑顔でタネ明かしをするとナシャがガハハと笑い、ウルは憮然としながら「こいつらの血の匂いで魔物が寄ってくっから先を急ぐぞ」と言い、スタスタと歩いていった。
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