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第二章『いざ潜魔窟へ』
第十二話『次の目標』
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嫌味たらしい若者たちが潜魔窟に入って行くのを見届けたハーシマが、頬を膨らませながら「わ、私はまだ、と、年増じゃないです……」と、妙にぷりぷりと怒りながら言った。
「ねぇちゃん気にすんな、あいつ等はそういう年齢なんだよ」
と、いつの間にかハーシマの後ろに立っていたウルが、いつものようにハーシマの尻を撫で、ハーシマを飛び上がらせた。
「ウル殿、そういうのは同意を得てからにしていただきたい。で、これからどうする?」
ナシャはナシャで変にズレたことを言いながら、次の展開のことを気にした。
「あぁ、まずは潜魔窟で得たいらないアイテムを売りさばこう。それから酒場で次の目標について話す」
そう言ってウルは、2人を先導し始めた。
たどり着いたのは、潜魔窟からほど近くにある「赤肌堂」という店だった。
扉を開けると「いらっしゃい」と、優しげな男の声が聞こえてきた。
ナシャが声のする方を見やると、店主と思われる赤い肌の屈強な男がカウンター越しに立っていた。
「店長、潜魔窟で見つけたモンをこいつ等から買い取ってくれ」
ウルが店主の男に親しげに話しかけた。どうやら旧知の仲のようだ。
ナシャとハーシマは、ウルに促されるまま、潜魔窟内で獲得したが実用的とはいえない武具などをカウンター上に置いた。
「ウルさん、こいつは結構ガラクタに近いよー」
店主は相当目利きに優れているらしく、一瞬で持ち込んだ武具の価値を見抜いた。
「まぁまぁ、店主の取引先なら儲けは出せるだろ?」
「それが仕事だからな。んー、今回はこのくらいかな?」
「十分だよ、ありがとよ」
ウルと店主だけで話がまとまったが、ナシャとハーシマは特に口を挟まなかった。
価値がわからないから、挟みようがなかったのだ。
「よし、にいちゃんの滞在費と冒険に必要な消耗品を買う金はできたな、上出来だ」
赤肌堂を出たウルがそう言って金が入った袋をナシャに渡した。
中を確認すると、青衣亭であれば2ヶ月ほど滞在できそうな金が入っていた。
「これほどの金、受け取れぬ。3人で分けなければ」
ナシャはそう言ってウルに金を返そうとしたが、ウルはもちろん、ハーシマも受け取ろうとしなかった。
ウルもハーシマも、潜魔窟には金目的で入っているわけではないようだった。
ナシャは、金の使い道を冒険に必要なものに限定すれば不公平さはないだろうと考え、2人の心遣いを受け、金を受け取ることにした。
その日の夜。
3人は青衣亭に集まり、夕食をとりつつウルが話していた今後の目標について話し合うことにした。
ナシャは果実酒、ハーシマは麦酒、下戸のウルは豆の葉の茶を飲んでいる。
「んじゃ、これからの目標なんだか、まず次回は、潜魔窟で2泊して地下7階まで進むつもりだ」
ウルが豆の煮物をちびちびと食べながら話し始めた。
「そのことだが、潜魔窟は一体地下何階まであるんだ?」
ナシャがずっと気になっている質問をした。
「正確にはわからん。前回魔王の討伐を成功させたパーティは確か地下56階で魔王と戦ったらしいが、その前は地下33階だったそうだし、その辺は曖昧だ」
「では、目標が立てづらいと思うが、どうする?」
ナシャとしては少しでも事前に対策を練られる方がいいが、こと潜魔窟ではそれが困難な状況なので、少しだけ不安を感じていた。
「次も潜魔窟の順応が目的だが、まずはトインという街に到達するのが当面の目標だ」
「潜魔窟の中には街があるのか?」
ウルの話に、ナシャが反応した。
「そうだ。どんな構造であっても、必ず地下10階にある」
ウルは魚の煮付けをちびちびと食べつつ話す。
ナシャには潜魔窟内の街というのがイメージ出来なかった。
そして、ハーシマはどんな反応を示しているのか気になり、隣に視線を移した。
ハーシマは、奇妙な笑みを浮かべ「ムフフフフフフフ……」と笑いながら、肉料理をムシャムシャと食べていた。
笑みは浮かべているが、目は笑っていない。
不意に、ナシャに顔を向け「私はまだ年増って年じゃないですよ!」と叫んだかと思うと、再びムフフ……と笑いながら、肉を頬張った。
そうかと思うと、不意にウルに顔を向け「私のお尻はタダじゃないですよ!」と叫び、今度はさめざめと泣きながら肉を頬張った。
ハーシマの意外な酒癖に驚いたウルとナシャは、俯き黙ってしまった。
「ねぇちゃん気にすんな、あいつ等はそういう年齢なんだよ」
と、いつの間にかハーシマの後ろに立っていたウルが、いつものようにハーシマの尻を撫で、ハーシマを飛び上がらせた。
「ウル殿、そういうのは同意を得てからにしていただきたい。で、これからどうする?」
ナシャはナシャで変にズレたことを言いながら、次の展開のことを気にした。
「あぁ、まずは潜魔窟で得たいらないアイテムを売りさばこう。それから酒場で次の目標について話す」
そう言ってウルは、2人を先導し始めた。
たどり着いたのは、潜魔窟からほど近くにある「赤肌堂」という店だった。
扉を開けると「いらっしゃい」と、優しげな男の声が聞こえてきた。
ナシャが声のする方を見やると、店主と思われる赤い肌の屈強な男がカウンター越しに立っていた。
「店長、潜魔窟で見つけたモンをこいつ等から買い取ってくれ」
ウルが店主の男に親しげに話しかけた。どうやら旧知の仲のようだ。
ナシャとハーシマは、ウルに促されるまま、潜魔窟内で獲得したが実用的とはいえない武具などをカウンター上に置いた。
「ウルさん、こいつは結構ガラクタに近いよー」
店主は相当目利きに優れているらしく、一瞬で持ち込んだ武具の価値を見抜いた。
「まぁまぁ、店主の取引先なら儲けは出せるだろ?」
「それが仕事だからな。んー、今回はこのくらいかな?」
「十分だよ、ありがとよ」
ウルと店主だけで話がまとまったが、ナシャとハーシマは特に口を挟まなかった。
価値がわからないから、挟みようがなかったのだ。
「よし、にいちゃんの滞在費と冒険に必要な消耗品を買う金はできたな、上出来だ」
赤肌堂を出たウルがそう言って金が入った袋をナシャに渡した。
中を確認すると、青衣亭であれば2ヶ月ほど滞在できそうな金が入っていた。
「これほどの金、受け取れぬ。3人で分けなければ」
ナシャはそう言ってウルに金を返そうとしたが、ウルはもちろん、ハーシマも受け取ろうとしなかった。
ウルもハーシマも、潜魔窟には金目的で入っているわけではないようだった。
ナシャは、金の使い道を冒険に必要なものに限定すれば不公平さはないだろうと考え、2人の心遣いを受け、金を受け取ることにした。
その日の夜。
3人は青衣亭に集まり、夕食をとりつつウルが話していた今後の目標について話し合うことにした。
ナシャは果実酒、ハーシマは麦酒、下戸のウルは豆の葉の茶を飲んでいる。
「んじゃ、これからの目標なんだか、まず次回は、潜魔窟で2泊して地下7階まで進むつもりだ」
ウルが豆の煮物をちびちびと食べながら話し始めた。
「そのことだが、潜魔窟は一体地下何階まであるんだ?」
ナシャがずっと気になっている質問をした。
「正確にはわからん。前回魔王の討伐を成功させたパーティは確か地下56階で魔王と戦ったらしいが、その前は地下33階だったそうだし、その辺は曖昧だ」
「では、目標が立てづらいと思うが、どうする?」
ナシャとしては少しでも事前に対策を練られる方がいいが、こと潜魔窟ではそれが困難な状況なので、少しだけ不安を感じていた。
「次も潜魔窟の順応が目的だが、まずはトインという街に到達するのが当面の目標だ」
「潜魔窟の中には街があるのか?」
ウルの話に、ナシャが反応した。
「そうだ。どんな構造であっても、必ず地下10階にある」
ウルは魚の煮付けをちびちびと食べつつ話す。
ナシャには潜魔窟内の街というのがイメージ出来なかった。
そして、ハーシマはどんな反応を示しているのか気になり、隣に視線を移した。
ハーシマは、奇妙な笑みを浮かべ「ムフフフフフフフ……」と笑いながら、肉料理をムシャムシャと食べていた。
笑みは浮かべているが、目は笑っていない。
不意に、ナシャに顔を向け「私はまだ年増って年じゃないですよ!」と叫んだかと思うと、再びムフフ……と笑いながら、肉を頬張った。
そうかと思うと、不意にウルに顔を向け「私のお尻はタダじゃないですよ!」と叫び、今度はさめざめと泣きながら肉を頬張った。
ハーシマの意外な酒癖に驚いたウルとナシャは、俯き黙ってしまった。
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