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第二章『いざ潜魔窟へ』
第十話『野営』
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ナシャ達は最初の戦闘を終えた後も、フロアの探索を進めながら次のフロアへの道を開く鍵となる怪物を求めて戦闘を繰り返した。
精彩を欠いていたハーシマも、徐々に緊張がほぐれ、ナシャとウルへのサポートをそつなくこなせるようになっていた。
やがて、エリア全体を探索し終えたが、一向に鍵の怪物が見つからない状況に陥った。
怪物の気配はもうない。
しかし、次のフロアの入口は見当たらず、ウルも首を傾げた。
「これはどういうことだ?」
何が何だかわからないナシ、は腹が減ったのか、干し肉をかじりながら歩いている。
「わた、私の魔法でも怪物は感知できません……」
ハーシマが申し訳なさそうに俯く。
潜魔窟では実体がなく目に見えないフストのような怪物もいるが、魔法感知であれば発見は可能だが、それも見当たらない。
「んー、なんだべなぁ……」
ウルが顎に手を当てて、見落としがないか今一度自分たちの行動を思い返していた。
が、特に思いつくことはなかった。
3人で頭を悩ませながら、幾度も通った曲がり角に差し掛かったとき、突然、ゴゴゴゴゴ……と重い物を引きずるような音が辺りに響いた。
「開いた……な……」
ウルが、次のフロアへの入口が開いたことを潜魔窟未経験の2人に知らせた。
「でも、何故……?」
ナシャが当然の疑問を口にする。
「んー……お前ら、靴の裏を見ろ」
ウルが何か思いついたように、2人に言いながら自分も靴の裏を見る。
それに倣いナシャとハーシマも靴の裏をそれぞれ見てみると、よく見るとハーシマの靴の裏に黒い点のような染みがあった。
ウルはさり気なくハーシマの脚を撫でつつ黒い染みを指差し「こいつだな」と言った。
ナシャと顔を赤くしているハーシマの頭に疑問符が浮かんでいるのを察したウルが、説明を加えた。
「あぁ、多分だが虫より小さな怪物で、こちらの動きを他の怪物に伝えて襲わせる役割をしていると思う。が、他の怪物は倒されちまって、どうしようもなくなって彷徨いてたところをねぇちゃんに踏み潰された……ってところじゃねぇのか」
ウルの説明が正しいか間違っているか2人にはわからなかったが、とりあえず合っているということにして、2人はウンウンと頷いた。
何より、次のフロアに進めることが嬉しかったので、余計なことは考えたくなかったのだ。
次のフロアに続く階段を降りた先は、薄暗い森の中だった。
この場所ではナシャが前衛、ウルが後衛を務めフロアの探索を始めた。
道中、獣型の怪物ルフクや獣人型の怪物の一種であるコモランの襲来を受けたがナシャの適切な指揮が功を奏し、特に問題もなく怪物を退け、次のフロアの一口が開く音が響いた。
「この階層は困難ではなかったが、特に得られるものもなかったな」
ナシャが潜魔窟の手応えのなさと思っているような報酬に結びつかないことを揶揄するように、言った。
「まだ2階層目だからな。下層に行けば行くほど、怪物は強くなるし罠も多くなるから気をつけな」
ウルが耳をほじりながら応じる。潜魔窟の酸いも甘いも知るウルには、ナシャの発言が戯言に聞こえていた。
「で、では、次の階層に進みましょうか」
ハーシマが倒した怪物が出した宝箱の中身をガッカリした目で見つめてから、ナシャとウルに話しかけたが「いや、今日はここで野営する。明日は次の階層を探索したら一度地上に戻るぞ」と言われ、ナシャとハーシマは目を丸くした。
「何故だ?この先はかなり危険なのか?」ナシャがウルに理由を聞いた。
「お前ら気付いていないだろうが、潜魔窟に入ってもうだいぶ時間が経過している。なので今日は休む」
ウルはそう言って、野営の準備を始めた。
その有無を言わせぬ行動に、ナシャとハーシマは黙って従うしかなかった。
ウルが周囲に落ちている焚き木を重ね、手慣れた手付きで火打石で火を点けた。
焚火の準備中にハーシマから「わた、私が魔法で火を点けますか?」と提案されたが、ナシャとウルから同時に「それはロマンがない」と言われ、ハーシマは素直に引き下がった。
こういう男の妙なこだわりに付き合うことの無駄さをハーシマは知っているのだ。
パチパチと音を立て、焚火は周囲に明るさと温かさを振りまいた。
ナシャは、焚火を利用して、持ってきた食料で簡単な料理を作り、ウルとハーシマの舌を唸らせた。
「さて、私が火の番をする。ウル殿とハーシマ殿は休んでいてくれ」
食事を終え、ナシャはそう言いながら2人に薄手の毛布を手渡した。
それに対し「わ、私が火の番をしますから、ナシャさんは休んでください」とハーシマが言ってきたが、ナシャは「いいから休め、休むことも大事なのだ」と返した。
ハーシマは、自分が一番若いのに休むことに引け目を感じていたが、ナシャの言葉に譲らない意思を感じ、若干のうしろめたさを感じながらも、毛布に包まり横になった。
そして、ものの数分で寝息を立て始めた。
「ま、ねぇちゃんは初めての冒険だ。本人も知らん間に無理しているからな」
すぐに眠りに落ちたハーシマを見て、ウルは思わずクスリと笑い、ナシャもつられて笑った。
笑った理由には、ハーシマがさりげなくウルから距離を取ってから横になったことに気づいたことも含まれている。
「ウル殿も休んでくれ。私も火の番をしつつ少し休む」
「おう、にぃちゃんも無理はすんなよ。途中で代わるからよ」
そう話し、ウルは寝転び、ナシャは焚火の近くの木に寄りかかるように腰をかけた。
ナシャの心情として、早く任務を遂行し一刻も早く祖国に戻りたいところだったが、潜魔窟の探索には思いのほか時間を要することを知り、内心焦りを感じていた。
しかし、何の縁もないながらも成り行きで組んだパーティが、意外と悪くないなと感じてもいた。
常に命の危険に晒される状況だからこそ、このパーティでじっくり腰を据えて潜魔窟に挑もうと、焚火を眺めながらナシャは1人、考えていた。
精彩を欠いていたハーシマも、徐々に緊張がほぐれ、ナシャとウルへのサポートをそつなくこなせるようになっていた。
やがて、エリア全体を探索し終えたが、一向に鍵の怪物が見つからない状況に陥った。
怪物の気配はもうない。
しかし、次のフロアの入口は見当たらず、ウルも首を傾げた。
「これはどういうことだ?」
何が何だかわからないナシ、は腹が減ったのか、干し肉をかじりながら歩いている。
「わた、私の魔法でも怪物は感知できません……」
ハーシマが申し訳なさそうに俯く。
潜魔窟では実体がなく目に見えないフストのような怪物もいるが、魔法感知であれば発見は可能だが、それも見当たらない。
「んー、なんだべなぁ……」
ウルが顎に手を当てて、見落としがないか今一度自分たちの行動を思い返していた。
が、特に思いつくことはなかった。
3人で頭を悩ませながら、幾度も通った曲がり角に差し掛かったとき、突然、ゴゴゴゴゴ……と重い物を引きずるような音が辺りに響いた。
「開いた……な……」
ウルが、次のフロアへの入口が開いたことを潜魔窟未経験の2人に知らせた。
「でも、何故……?」
ナシャが当然の疑問を口にする。
「んー……お前ら、靴の裏を見ろ」
ウルが何か思いついたように、2人に言いながら自分も靴の裏を見る。
それに倣いナシャとハーシマも靴の裏をそれぞれ見てみると、よく見るとハーシマの靴の裏に黒い点のような染みがあった。
ウルはさり気なくハーシマの脚を撫でつつ黒い染みを指差し「こいつだな」と言った。
ナシャと顔を赤くしているハーシマの頭に疑問符が浮かんでいるのを察したウルが、説明を加えた。
「あぁ、多分だが虫より小さな怪物で、こちらの動きを他の怪物に伝えて襲わせる役割をしていると思う。が、他の怪物は倒されちまって、どうしようもなくなって彷徨いてたところをねぇちゃんに踏み潰された……ってところじゃねぇのか」
ウルの説明が正しいか間違っているか2人にはわからなかったが、とりあえず合っているということにして、2人はウンウンと頷いた。
何より、次のフロアに進めることが嬉しかったので、余計なことは考えたくなかったのだ。
次のフロアに続く階段を降りた先は、薄暗い森の中だった。
この場所ではナシャが前衛、ウルが後衛を務めフロアの探索を始めた。
道中、獣型の怪物ルフクや獣人型の怪物の一種であるコモランの襲来を受けたがナシャの適切な指揮が功を奏し、特に問題もなく怪物を退け、次のフロアの一口が開く音が響いた。
「この階層は困難ではなかったが、特に得られるものもなかったな」
ナシャが潜魔窟の手応えのなさと思っているような報酬に結びつかないことを揶揄するように、言った。
「まだ2階層目だからな。下層に行けば行くほど、怪物は強くなるし罠も多くなるから気をつけな」
ウルが耳をほじりながら応じる。潜魔窟の酸いも甘いも知るウルには、ナシャの発言が戯言に聞こえていた。
「で、では、次の階層に進みましょうか」
ハーシマが倒した怪物が出した宝箱の中身をガッカリした目で見つめてから、ナシャとウルに話しかけたが「いや、今日はここで野営する。明日は次の階層を探索したら一度地上に戻るぞ」と言われ、ナシャとハーシマは目を丸くした。
「何故だ?この先はかなり危険なのか?」ナシャがウルに理由を聞いた。
「お前ら気付いていないだろうが、潜魔窟に入ってもうだいぶ時間が経過している。なので今日は休む」
ウルはそう言って、野営の準備を始めた。
その有無を言わせぬ行動に、ナシャとハーシマは黙って従うしかなかった。
ウルが周囲に落ちている焚き木を重ね、手慣れた手付きで火打石で火を点けた。
焚火の準備中にハーシマから「わた、私が魔法で火を点けますか?」と提案されたが、ナシャとウルから同時に「それはロマンがない」と言われ、ハーシマは素直に引き下がった。
こういう男の妙なこだわりに付き合うことの無駄さをハーシマは知っているのだ。
パチパチと音を立て、焚火は周囲に明るさと温かさを振りまいた。
ナシャは、焚火を利用して、持ってきた食料で簡単な料理を作り、ウルとハーシマの舌を唸らせた。
「さて、私が火の番をする。ウル殿とハーシマ殿は休んでいてくれ」
食事を終え、ナシャはそう言いながら2人に薄手の毛布を手渡した。
それに対し「わ、私が火の番をしますから、ナシャさんは休んでください」とハーシマが言ってきたが、ナシャは「いいから休め、休むことも大事なのだ」と返した。
ハーシマは、自分が一番若いのに休むことに引け目を感じていたが、ナシャの言葉に譲らない意思を感じ、若干のうしろめたさを感じながらも、毛布に包まり横になった。
そして、ものの数分で寝息を立て始めた。
「ま、ねぇちゃんは初めての冒険だ。本人も知らん間に無理しているからな」
すぐに眠りに落ちたハーシマを見て、ウルは思わずクスリと笑い、ナシャもつられて笑った。
笑った理由には、ハーシマがさりげなくウルから距離を取ってから横になったことに気づいたことも含まれている。
「ウル殿も休んでくれ。私も火の番をしつつ少し休む」
「おう、にぃちゃんも無理はすんなよ。途中で代わるからよ」
そう話し、ウルは寝転び、ナシャは焚火の近くの木に寄りかかるように腰をかけた。
ナシャの心情として、早く任務を遂行し一刻も早く祖国に戻りたいところだったが、潜魔窟の探索には思いのほか時間を要することを知り、内心焦りを感じていた。
しかし、何の縁もないながらも成り行きで組んだパーティが、意外と悪くないなと感じてもいた。
常に命の危険に晒される状況だからこそ、このパーティでじっくり腰を据えて潜魔窟に挑もうと、焚火を眺めながらナシャは1人、考えていた。
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