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第二章『いざ潜魔窟へ』
第九話『初戦闘と初報酬』
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ナシャ達3人は、ウルの薦めもあって潜魔窟を何度か出入りし、坑道のような構造になったところで潜入を始めた。
先頭はウル、次にハーシマ、後衛がナシャである。
ウルは、罠を見逃さないように、慎重に慎重に歩を進め、時に歩を止め、ハーシマの魔法で周囲の状況を確認する。
「ん?」
ウルが首を傾げ、ハーシマとナシャを止めると、坑道の壁を短剣の先でツンツンと突付き始めた。
すると3ケーブ(1ケーブ=1.8メートル)ほど先で槍が飛び出てきた。
どうやらウルが罠を解除したようだ。
「ここを黙って通過してたら、お陀仏だったな」
「んだな、ねぇちゃんが串刺しになってたな」
ナシャとウルが真顔で死の状況を説明するので、ハーシマの顔は真っ青になった。
その様子を笑って見ていたナシャだったが、不意に表情を硬くしメイスを構えた。
視線は坑道の曲がり角の先にある。
「ハーシマ殿、3体だ。牽制出来るか?」
ナシャがハーシマを守るように前に進み出る。
「あ、あの、は、発火の魔法を使えば」
ハーシマの提案にナシャは親指を立てて同意の意思を伝える。
それを見てハーシマは魔法の詠唱を始め杖の先端が赤く輝く。
輝きが増し、魔法が完成する直前で、ウルが足元の小石を曲がり角に向けて投げた。
その音に反応した怪物、リルンスが「グギ?」と声を出す。
その瞬間、リルンスの目の前に炎が巻き上がり、リルンスの肌を焼いた。
リルンスの悲鳴を切り裂き、ナシャが一気に距離を詰め致命的なメイスの一撃をリルンスの一匹に叩き込む。
次いでナシャの背後から現れたウルが、リルンスの喉を切り裂いた。
残る一匹が顔を焼かれながらも、憎しみに満ちた眼差しを向け、小斧を振りかぶりながらハーシマに迫ってきた。
ハーシマは咄嗟の状況と恐怖で動けなくなっていた。
ただれた皮膚の奥に邪悪な笑みを浮かべ、リルンスはハーシマの頭上に小斧を振り下ろした。
まさに小斧がハーシマに食い込もうとした瞬間、ウルがハーシマのフードを引っ張り、致命的な瞬間を回避した。
絶好の機会を逃したリルンスは、やや遅れて駆けつけたナシャの一撃に沈められた。
「す、すみ、すみません!」
戦闘が終わり、ようやく落ち着きを取り戻したハーシマが2人に謝罪した。
「ねぇちゃんは初の戦闘だから動けなくなるのは仕方ねぇ、しばらくはカバーしてやる。だが、いつまでもじゃねぇからな」
ウルがハーシマを気遣いつつ、尻を撫でてハーシマをビクつかせた。
「ウル殿の言うとおりだ」
メイスに付いた血を払いながら、ナシャもハーシマを慰めた。
兵士は初陣を生き残ることが最も難しいと言われている。
ナシャもそのことを身を以て知っているので、ハーシマが動けなくなったことを責める気はなかった。
「ほれ、にいちゃん。アイツラが残した宝箱があるぞ」
ウルが指さした先に、宝箱がポツンと置かれていた。
潜魔窟内では怪物を倒すと、宝箱が出現することが知られている。
今、ナシャの目の前に現れた宝箱は、リルンスを退治した報酬、ということなのだろう。
ナシャが、宝箱に手を伸ばした瞬間、ハーシマが「あっ」と声を出した。
ナシャはその声に構わず宝箱を開けると、中には幾ばくかの金貨と、一振りの短剣が入っていた。
鞘から短剣を抜くと、刃が青白く柔らかな光を帯びていた。
「これは、魔力があるのか?」
刃を眺めながら、ナシャが呟く。
「えぇっと……待ってください。れ、冷気の魔力を持って、持ってます」
ハーシマは魔法を用いて、短剣に秘められた力を確認した。
「そうか!潜魔窟とはこんな有益な物が得られるのか!」
ハーシマの言葉を聞き、ナシャは浮足立った。
たった一回の戦闘で、こんなにもあっさりと魔法武具を得られるなら、王太子に相応しい剣もすぐに見つかると思ったからだ。
が、ウルの言葉がその考えに冷水を浴びせた。
「それ、確かに魔力はあるが、力はほとんどねぇぞ。せいぜい少し冷たいかも?と思わせる程度のゴミだな」
「そ、それは本当か?」
ナシャの顔には驚きが満ちていた。
「お、おそらく。魔力は感じますが、本当に、か、感じる程度しかないです」
ハーシマが申し訳なさそうにウルの言葉に同調し、ナシャはガクッと肩を落とした。
「ま、簡単には良いもんは出て来ねえべ。あとよ、宝箱には罠が仕掛けられていることが多いから、俺やねぇちゃんが罠を確認してから開くようにしねぇと死ぬど」
ウルは、ナシャの為を思い、あえて少し強めの言葉て注意を促した。
一時的な欲を優先しては、潜魔窟では生き残れないのだ。
その後、何度かリルンスの群れを倒し、宝箱を手に入れたが、その全てが、ウルが言う魔力を持っていてもゴミ以下と呼ばれるものであった。
先頭はウル、次にハーシマ、後衛がナシャである。
ウルは、罠を見逃さないように、慎重に慎重に歩を進め、時に歩を止め、ハーシマの魔法で周囲の状況を確認する。
「ん?」
ウルが首を傾げ、ハーシマとナシャを止めると、坑道の壁を短剣の先でツンツンと突付き始めた。
すると3ケーブ(1ケーブ=1.8メートル)ほど先で槍が飛び出てきた。
どうやらウルが罠を解除したようだ。
「ここを黙って通過してたら、お陀仏だったな」
「んだな、ねぇちゃんが串刺しになってたな」
ナシャとウルが真顔で死の状況を説明するので、ハーシマの顔は真っ青になった。
その様子を笑って見ていたナシャだったが、不意に表情を硬くしメイスを構えた。
視線は坑道の曲がり角の先にある。
「ハーシマ殿、3体だ。牽制出来るか?」
ナシャがハーシマを守るように前に進み出る。
「あ、あの、は、発火の魔法を使えば」
ハーシマの提案にナシャは親指を立てて同意の意思を伝える。
それを見てハーシマは魔法の詠唱を始め杖の先端が赤く輝く。
輝きが増し、魔法が完成する直前で、ウルが足元の小石を曲がり角に向けて投げた。
その音に反応した怪物、リルンスが「グギ?」と声を出す。
その瞬間、リルンスの目の前に炎が巻き上がり、リルンスの肌を焼いた。
リルンスの悲鳴を切り裂き、ナシャが一気に距離を詰め致命的なメイスの一撃をリルンスの一匹に叩き込む。
次いでナシャの背後から現れたウルが、リルンスの喉を切り裂いた。
残る一匹が顔を焼かれながらも、憎しみに満ちた眼差しを向け、小斧を振りかぶりながらハーシマに迫ってきた。
ハーシマは咄嗟の状況と恐怖で動けなくなっていた。
ただれた皮膚の奥に邪悪な笑みを浮かべ、リルンスはハーシマの頭上に小斧を振り下ろした。
まさに小斧がハーシマに食い込もうとした瞬間、ウルがハーシマのフードを引っ張り、致命的な瞬間を回避した。
絶好の機会を逃したリルンスは、やや遅れて駆けつけたナシャの一撃に沈められた。
「す、すみ、すみません!」
戦闘が終わり、ようやく落ち着きを取り戻したハーシマが2人に謝罪した。
「ねぇちゃんは初の戦闘だから動けなくなるのは仕方ねぇ、しばらくはカバーしてやる。だが、いつまでもじゃねぇからな」
ウルがハーシマを気遣いつつ、尻を撫でてハーシマをビクつかせた。
「ウル殿の言うとおりだ」
メイスに付いた血を払いながら、ナシャもハーシマを慰めた。
兵士は初陣を生き残ることが最も難しいと言われている。
ナシャもそのことを身を以て知っているので、ハーシマが動けなくなったことを責める気はなかった。
「ほれ、にいちゃん。アイツラが残した宝箱があるぞ」
ウルが指さした先に、宝箱がポツンと置かれていた。
潜魔窟内では怪物を倒すと、宝箱が出現することが知られている。
今、ナシャの目の前に現れた宝箱は、リルンスを退治した報酬、ということなのだろう。
ナシャが、宝箱に手を伸ばした瞬間、ハーシマが「あっ」と声を出した。
ナシャはその声に構わず宝箱を開けると、中には幾ばくかの金貨と、一振りの短剣が入っていた。
鞘から短剣を抜くと、刃が青白く柔らかな光を帯びていた。
「これは、魔力があるのか?」
刃を眺めながら、ナシャが呟く。
「えぇっと……待ってください。れ、冷気の魔力を持って、持ってます」
ハーシマは魔法を用いて、短剣に秘められた力を確認した。
「そうか!潜魔窟とはこんな有益な物が得られるのか!」
ハーシマの言葉を聞き、ナシャは浮足立った。
たった一回の戦闘で、こんなにもあっさりと魔法武具を得られるなら、王太子に相応しい剣もすぐに見つかると思ったからだ。
が、ウルの言葉がその考えに冷水を浴びせた。
「それ、確かに魔力はあるが、力はほとんどねぇぞ。せいぜい少し冷たいかも?と思わせる程度のゴミだな」
「そ、それは本当か?」
ナシャの顔には驚きが満ちていた。
「お、おそらく。魔力は感じますが、本当に、か、感じる程度しかないです」
ハーシマが申し訳なさそうにウルの言葉に同調し、ナシャはガクッと肩を落とした。
「ま、簡単には良いもんは出て来ねえべ。あとよ、宝箱には罠が仕掛けられていることが多いから、俺やねぇちゃんが罠を確認してから開くようにしねぇと死ぬど」
ウルは、ナシャの為を思い、あえて少し強めの言葉て注意を促した。
一時的な欲を優先しては、潜魔窟では生き残れないのだ。
その後、何度かリルンスの群れを倒し、宝箱を手に入れたが、その全てが、ウルが言う魔力を持っていてもゴミ以下と呼ばれるものであった。
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