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第一章『潜魔窟に挑む者たち』
第四話『魔術師ハーシマとの出会い』
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「ね、入れないんスよ」
雑貨屋の店主がニヤニヤと笑いながらナシャに話しかけてきた。
「いやしかし、私は入口をくぐりしばらく階段を降りてたはずだが……」
ナシャは今の状況を未だ飲み込めずにいた。
ナシャの戸惑う様子が面白いようで、店主はくすくす笑いながら説明し始めた。
店主が言うには、そもそも、潜魔窟内には一定の条件を満たした3人組のパーティの1組以外は基本的には入れないようだ。
そして、潜魔窟の入口に焚かれている篝火の色によっても条件が変化するようで……
・緑の篝火の時は条件を満たした3人組のパーティのみ潜入可能
・赤い篝火の時は潜魔窟内にパーティがいるので何人も潜入不可
・黒い篝火の時は潜魔窟内のパーティが生死不明であり、パーティ捜索のために条件問わず1名のみ潜入可能
・青い篝火の時は生死不明のパーティの捜索のため1名潜入しているので他は潜入不可
・篝火が消えている時は魔王が討伐された状態であり、誰でも潜魔窟に入れるが内部には何もない
……ということらしかった。
「そうなのかもしれないが、しかし、何故私は階段を下ったのに……」
自分が体験したことが現実離れし過ぎていて納得できないナシャだったが、店主に「よくわからないッスけど、それが魔王の呪いなんじゃないッスか?」という言葉を受け入れざるを得なかった。
あまりに不可思議な出来事に混乱していたナシャだったが、少しずつ冷静になったところで、ふと、店主が話した一定の条件というのが気になった。
「お、おはようございます」
思案するナシャの意識の外から、店主へおずおずと挨拶する声が聞こえてきた。
声の方向へ目を向けると、ローブを纏った女性が立っていた。
「あ、魔術師さん、おはよッス」
店主が女性に挨拶を返すのを見てナシャも、魔術師と呼ばれた女性に会釈した。
「わ、私はまだ見習いです! す、すみません、頼んでいたものは、と、届いていますでしょうか?」
おそるおそる聞いてくる女性に店主は笑顔で「あぁ、届いてるッスよ」と答え、紙袋を差し出した。
女性は、紙袋の中身を確認し、満足そうにうなずいた。
「すまん、潜魔窟に入るには一定の条件があると言っていたが、その条件とはなんだ?」
ナシャは、店主と魔術師のやり取りを邪魔するのが申し訳ないとは思ったが、自分の任務を遂行するために情報収集を優先することにした。
「あ、そうだ、それを伝えてなかったッスね。魔術師さん、教えてやってほしいッス」
店主から突然話をするように言われ、紙袋を抱えて微笑んでいた魔術師の女性は表情を一気に硬くして狼狽えた。
「え、え、えっと……、潜魔窟に入るには戦士ギルド、魔術師ギルド、レンジャーギルドのどれかに所属して、ギルドから承認証をもらう必要があるんです……」
女性が自信なさげなか細い声で話してきた。
「それ以外は条件はないのか?」
緊張している女性を見て、誰も気付かないだろう程度の響きにするように気遣いを込めて、ナシャは引き続き質問をした。
「あ、え、な、何故かは判明していませんが、せ、潜魔窟は、戦士と魔術師とレンジャーの組み合わせのパーティじゃなきゃ入れないんです」
ナシャの気遣いに気付かず、より一層緊張した女性がつっかえつっかえ答えた。
それを聞いたナシャは、自分が潜魔窟に入るには、仲間を見つけてパーティを組むか、黒い篝火の時を見計らうかのどちらが効率的か考え、一つの答えを導き出した。
「私はヤタガ王国のナシャ、ナシャ・オスロと申す。王命により潜魔窟の探索をしなければならないが、良ければ私と一緒に探索をする魔術師を紹介してもらえないだろうか?えぇっと……」
ナシャは、なるべく丁寧に話しながらも、女性の名前がわからず言いよどんだ。
「あ、わ、私はハーシマ・アルデンと言います。ざ、残念ながら今は魔術師が不足していて、私には紹介できる人がいないんです。本当にすみません……」
ハーシマと名乗った女性魔術師が、心底申し訳なさそうに話し、深々と頭を下げた。
「貴殿も先約があるのか?」
「わ、わた、私なんかじゃ全然ダメです!ご迷惑をお掛けしちゃうに決まっています!」
ナシャの申し出に全力で拒否反応を示したハーシマ。
だが、ナシャは引き下がらなかった。
「貴殿の実力は私にはわからないが、先ほど来の話を聞くに魔術師ギルドから承認証をもらっていると推察する。であれば、ギルドが潜魔窟に入るだけの実力があることにお墨付きを与えたに等しいのだから問題ない。先約がなければ是非私と組んでいただきたい」
その後も、何度か組む組めないの話が繰り広げられたが、結局はハーシマが折れてナシャとパーティを組むことに合意した。
ナシャとしては任務遂行の為に是が非でも魔術師を確保しなければならなかったのでハーシマを全力で説得したが、実際、ハーシマが自認するような未熟者であってもナシャにとっては大きな障壁ではなかった。
ただ、ナシャとしてはハーシマが自信がないなら、ナシャが常にハーシマに気をかけて動きを指示すれば問題なく守れるだろうと思っていた。
こうして、ナシャとハーシマはパーティを組むことになった。
ナシャが残りの条件を満たすためには、潜魔窟内に同行してくれるレンジャーを探してパーティを組むことになるのだが、それについてはコネも何も無いナシャにとっては面倒な展開だろうなと、ナシャは予測していた。
雑貨屋の店主がニヤニヤと笑いながらナシャに話しかけてきた。
「いやしかし、私は入口をくぐりしばらく階段を降りてたはずだが……」
ナシャは今の状況を未だ飲み込めずにいた。
ナシャの戸惑う様子が面白いようで、店主はくすくす笑いながら説明し始めた。
店主が言うには、そもそも、潜魔窟内には一定の条件を満たした3人組のパーティの1組以外は基本的には入れないようだ。
そして、潜魔窟の入口に焚かれている篝火の色によっても条件が変化するようで……
・緑の篝火の時は条件を満たした3人組のパーティのみ潜入可能
・赤い篝火の時は潜魔窟内にパーティがいるので何人も潜入不可
・黒い篝火の時は潜魔窟内のパーティが生死不明であり、パーティ捜索のために条件問わず1名のみ潜入可能
・青い篝火の時は生死不明のパーティの捜索のため1名潜入しているので他は潜入不可
・篝火が消えている時は魔王が討伐された状態であり、誰でも潜魔窟に入れるが内部には何もない
……ということらしかった。
「そうなのかもしれないが、しかし、何故私は階段を下ったのに……」
自分が体験したことが現実離れし過ぎていて納得できないナシャだったが、店主に「よくわからないッスけど、それが魔王の呪いなんじゃないッスか?」という言葉を受け入れざるを得なかった。
あまりに不可思議な出来事に混乱していたナシャだったが、少しずつ冷静になったところで、ふと、店主が話した一定の条件というのが気になった。
「お、おはようございます」
思案するナシャの意識の外から、店主へおずおずと挨拶する声が聞こえてきた。
声の方向へ目を向けると、ローブを纏った女性が立っていた。
「あ、魔術師さん、おはよッス」
店主が女性に挨拶を返すのを見てナシャも、魔術師と呼ばれた女性に会釈した。
「わ、私はまだ見習いです! す、すみません、頼んでいたものは、と、届いていますでしょうか?」
おそるおそる聞いてくる女性に店主は笑顔で「あぁ、届いてるッスよ」と答え、紙袋を差し出した。
女性は、紙袋の中身を確認し、満足そうにうなずいた。
「すまん、潜魔窟に入るには一定の条件があると言っていたが、その条件とはなんだ?」
ナシャは、店主と魔術師のやり取りを邪魔するのが申し訳ないとは思ったが、自分の任務を遂行するために情報収集を優先することにした。
「あ、そうだ、それを伝えてなかったッスね。魔術師さん、教えてやってほしいッス」
店主から突然話をするように言われ、紙袋を抱えて微笑んでいた魔術師の女性は表情を一気に硬くして狼狽えた。
「え、え、えっと……、潜魔窟に入るには戦士ギルド、魔術師ギルド、レンジャーギルドのどれかに所属して、ギルドから承認証をもらう必要があるんです……」
女性が自信なさげなか細い声で話してきた。
「それ以外は条件はないのか?」
緊張している女性を見て、誰も気付かないだろう程度の響きにするように気遣いを込めて、ナシャは引き続き質問をした。
「あ、え、な、何故かは判明していませんが、せ、潜魔窟は、戦士と魔術師とレンジャーの組み合わせのパーティじゃなきゃ入れないんです」
ナシャの気遣いに気付かず、より一層緊張した女性がつっかえつっかえ答えた。
それを聞いたナシャは、自分が潜魔窟に入るには、仲間を見つけてパーティを組むか、黒い篝火の時を見計らうかのどちらが効率的か考え、一つの答えを導き出した。
「私はヤタガ王国のナシャ、ナシャ・オスロと申す。王命により潜魔窟の探索をしなければならないが、良ければ私と一緒に探索をする魔術師を紹介してもらえないだろうか?えぇっと……」
ナシャは、なるべく丁寧に話しながらも、女性の名前がわからず言いよどんだ。
「あ、わ、私はハーシマ・アルデンと言います。ざ、残念ながら今は魔術師が不足していて、私には紹介できる人がいないんです。本当にすみません……」
ハーシマと名乗った女性魔術師が、心底申し訳なさそうに話し、深々と頭を下げた。
「貴殿も先約があるのか?」
「わ、わた、私なんかじゃ全然ダメです!ご迷惑をお掛けしちゃうに決まっています!」
ナシャの申し出に全力で拒否反応を示したハーシマ。
だが、ナシャは引き下がらなかった。
「貴殿の実力は私にはわからないが、先ほど来の話を聞くに魔術師ギルドから承認証をもらっていると推察する。であれば、ギルドが潜魔窟に入るだけの実力があることにお墨付きを与えたに等しいのだから問題ない。先約がなければ是非私と組んでいただきたい」
その後も、何度か組む組めないの話が繰り広げられたが、結局はハーシマが折れてナシャとパーティを組むことに合意した。
ナシャとしては任務遂行の為に是が非でも魔術師を確保しなければならなかったのでハーシマを全力で説得したが、実際、ハーシマが自認するような未熟者であってもナシャにとっては大きな障壁ではなかった。
ただ、ナシャとしてはハーシマが自信がないなら、ナシャが常にハーシマに気をかけて動きを指示すれば問題なく守れるだろうと思っていた。
こうして、ナシャとハーシマはパーティを組むことになった。
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