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第一章『潜魔窟に挑む者たち』
第二話『ノーイス島の洞窟』
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潜魔窟がある島、ノーイス。
北にはヤタガ王国などの国が林立するサンブ大陸、南は熱帯雨林が広がるストリ大陸、東には宗教公国が支配するサウノライ大陸、そして西には砂漠が大半を占めるナック大陸と、四方の大陸の中間に位置している。
島はほぼ円形で、直径はおよそ50シリ(1シリ=約1.8Km)と、それほど大きな島ではないが、大陸間の中継地ということで交易の重要拠点の地位を確立しており、温暖な気候を活かした果実の栽培が盛んであり、島の重要な収入源となっている。
島は全体的に隆起していて、交易港のある島北部の街サウナトが島唯一の玄関口となっている。
潜魔窟があるウェスセスは島の中央に位置し、ナシャを乗せた乗り合い馬車は、果実畑の間をウェスセスに向けてガタゴトと揺れながら進んでいた。
しばらくして、乗り合い馬車は2度目の馬の休息地点に到着した。
数人の乗客が馬車を降り、めいめい身体を伸ばすなどしていて、ナシャもそれに倣い、ひと伸びをして凝った身体をほぐしていく。
ほっと一息ついた瞬間、果実畑の奥から奇声があがった。
その奇声の異質さを察知したナシャが、素早い動きでメイスを構える。
呼吸を深くして、意識を広くする。
果実畑からガサガサと音がなる。
その音から、複数の何かが存在していた。
「危険が迫っている、馬を落ち着かせてくれ。他の客は馬車に避難してくれ」
ナシャは馬車の馭者に指示を出すと、ゆっくりと、果実畑と馬車の間に立つように移動した。
ここで馬車に被害を出すことは移動手段を失う結果になるからだ。
一際大きな奇声が響き、果実畑から何かが飛び出した。
子ども程の大きさだが手には槍を持っている。
ナシャは迷わず横に薙ぎ払うようにメイスを振るう。
突然の攻撃に晒された何かは、咄嗟にナシャのメイスを槍で受け止めようとした。
それこそがナシャの狙いだった。
ナシャの攻撃を防ぐはずだった槍の柄はポキリと折れ、メイスは何かの腕をしたたかに打ち付けた。
何かは「ギャッ!!」と声を上げ、苦痛に顔を歪めた。
緑色の肌に原始的な服装、邪悪な光を宿す目は大きく見開かれ、口元には大きな牙が生えている。
およそ害しか感じられない外見であったことから、ナシャは躊躇なくメイスを何かの頭に叩き込んだ。
形容しがたい気色悪い音とともに何かの頭が潰れ、何かは絶命し、ナシャはそれを蹴り飛ばした。
突然目の前に飛んできた仲間の死体に視界を奪われたもう一匹の何かは、慌ててそれを横へのステップで避けたが、その先に待っていたのはナシャの無慈悲なメイスの一撃だった。
わずか数瞬のできごとに馭者は呆気に取られていたが、すぐに我に返り愛馬の無事を確認する。
幸い、馬がパニックになる前に事は終わったので混乱は生じなかった。
「兵士さん、こちらは無事でさぁ!」
馭者がナシャに叫ぶと、警戒を続けていたナシャは軽くうなずいた。
やがて危険が去ったと確信したナシャは、足元に転がる何かの死体を観察し始めた。
長年兵士をしているナシャであったが、このような生物を見たことがなかった。
「こいつはリルンスって魔物でさぁ、兵士さん」
ナシャの近くに寄ってきた馭者が告げた。
「魔物?そうか、これが魔物か……」
ナシャがそうつぶやくと、リルンスの死体は煙を出しながら溶けていき、しまいには完全に消え去った。
これこそが、魔物である所以なのだろう。
「そうでさぁ、この島には魔物が住み着いてて、こいつは魔物の中では弱い奴でさぁ」
ナシャのつぶやきに、馭者が勝手に答える。
「リルンスは基本的には夜行性で、臆病なもんで襲ってくることは稀なんでさぁ」
馭者の説明が続く。
「臆病?そうは見えなかったが?」
ナシャは馭者に疑問をぶつけた。
「潜魔窟に魔王が復活しているときは獰猛になるんでさぁ、兵士さん。うちら馬車にとっては危険が増えるんで面倒な状況なんですが、兵士さんにとっては都合良い状況になってることでさぁ」
ナシャは馭者の言葉の意味を掴めなかったので沈黙した。
「潜魔窟は魔王が復活すると活性化して、いろんなお宝が潜魔窟に出てくるようになる。兵士さんもそれを目当てなんでしょ?つまりそういうことでさぁ」
兵装した者が潜魔窟のあるウェスセスに向かう意味を、馭者は理解しているのだ。
ナシャの手により魔物の襲来を退けた乗り合い馬車はその後順調に進み、夕闇が迫るころ、目的地であるウェスセスの中央広場に到着した。
ナシャは馭者に宿の場所を聞くと、礼を告げて馬車を降りた。
本来の目的地は聞かずともすぐにわかった。
中央広場の真ん中に、青白い篝火が輝く大きな門と、その奥に口を広げる闇深き洞窟が見える。
それが潜魔窟であることは、初めてこの地を訪れたナシャの目にも明らかだった。
北にはヤタガ王国などの国が林立するサンブ大陸、南は熱帯雨林が広がるストリ大陸、東には宗教公国が支配するサウノライ大陸、そして西には砂漠が大半を占めるナック大陸と、四方の大陸の中間に位置している。
島はほぼ円形で、直径はおよそ50シリ(1シリ=約1.8Km)と、それほど大きな島ではないが、大陸間の中継地ということで交易の重要拠点の地位を確立しており、温暖な気候を活かした果実の栽培が盛んであり、島の重要な収入源となっている。
島は全体的に隆起していて、交易港のある島北部の街サウナトが島唯一の玄関口となっている。
潜魔窟があるウェスセスは島の中央に位置し、ナシャを乗せた乗り合い馬車は、果実畑の間をウェスセスに向けてガタゴトと揺れながら進んでいた。
しばらくして、乗り合い馬車は2度目の馬の休息地点に到着した。
数人の乗客が馬車を降り、めいめい身体を伸ばすなどしていて、ナシャもそれに倣い、ひと伸びをして凝った身体をほぐしていく。
ほっと一息ついた瞬間、果実畑の奥から奇声があがった。
その奇声の異質さを察知したナシャが、素早い動きでメイスを構える。
呼吸を深くして、意識を広くする。
果実畑からガサガサと音がなる。
その音から、複数の何かが存在していた。
「危険が迫っている、馬を落ち着かせてくれ。他の客は馬車に避難してくれ」
ナシャは馬車の馭者に指示を出すと、ゆっくりと、果実畑と馬車の間に立つように移動した。
ここで馬車に被害を出すことは移動手段を失う結果になるからだ。
一際大きな奇声が響き、果実畑から何かが飛び出した。
子ども程の大きさだが手には槍を持っている。
ナシャは迷わず横に薙ぎ払うようにメイスを振るう。
突然の攻撃に晒された何かは、咄嗟にナシャのメイスを槍で受け止めようとした。
それこそがナシャの狙いだった。
ナシャの攻撃を防ぐはずだった槍の柄はポキリと折れ、メイスは何かの腕をしたたかに打ち付けた。
何かは「ギャッ!!」と声を上げ、苦痛に顔を歪めた。
緑色の肌に原始的な服装、邪悪な光を宿す目は大きく見開かれ、口元には大きな牙が生えている。
およそ害しか感じられない外見であったことから、ナシャは躊躇なくメイスを何かの頭に叩き込んだ。
形容しがたい気色悪い音とともに何かの頭が潰れ、何かは絶命し、ナシャはそれを蹴り飛ばした。
突然目の前に飛んできた仲間の死体に視界を奪われたもう一匹の何かは、慌ててそれを横へのステップで避けたが、その先に待っていたのはナシャの無慈悲なメイスの一撃だった。
わずか数瞬のできごとに馭者は呆気に取られていたが、すぐに我に返り愛馬の無事を確認する。
幸い、馬がパニックになる前に事は終わったので混乱は生じなかった。
「兵士さん、こちらは無事でさぁ!」
馭者がナシャに叫ぶと、警戒を続けていたナシャは軽くうなずいた。
やがて危険が去ったと確信したナシャは、足元に転がる何かの死体を観察し始めた。
長年兵士をしているナシャであったが、このような生物を見たことがなかった。
「こいつはリルンスって魔物でさぁ、兵士さん」
ナシャの近くに寄ってきた馭者が告げた。
「魔物?そうか、これが魔物か……」
ナシャがそうつぶやくと、リルンスの死体は煙を出しながら溶けていき、しまいには完全に消え去った。
これこそが、魔物である所以なのだろう。
「そうでさぁ、この島には魔物が住み着いてて、こいつは魔物の中では弱い奴でさぁ」
ナシャのつぶやきに、馭者が勝手に答える。
「リルンスは基本的には夜行性で、臆病なもんで襲ってくることは稀なんでさぁ」
馭者の説明が続く。
「臆病?そうは見えなかったが?」
ナシャは馭者に疑問をぶつけた。
「潜魔窟に魔王が復活しているときは獰猛になるんでさぁ、兵士さん。うちら馬車にとっては危険が増えるんで面倒な状況なんですが、兵士さんにとっては都合良い状況になってることでさぁ」
ナシャは馭者の言葉の意味を掴めなかったので沈黙した。
「潜魔窟は魔王が復活すると活性化して、いろんなお宝が潜魔窟に出てくるようになる。兵士さんもそれを目当てなんでしょ?つまりそういうことでさぁ」
兵装した者が潜魔窟のあるウェスセスに向かう意味を、馭者は理解しているのだ。
ナシャの手により魔物の襲来を退けた乗り合い馬車はその後順調に進み、夕闇が迫るころ、目的地であるウェスセスの中央広場に到着した。
ナシャは馭者に宿の場所を聞くと、礼を告げて馬車を降りた。
本来の目的地は聞かずともすぐにわかった。
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