2 / 11
第ニ話『ノブロウ』
しおりを挟む
僕は、ぶら下がっている僕の体を眺めながら、妙に落ち着いている自分に気が付いた。
死んだらどうなるのだろうと考えたことはあったものの僕は自分が幽霊になるとは思っていなかったのに、なぜか今現在の状況に僕は驚いていなかった。
「僕、死んだんだ」としゃべってみたけど、多分これも誰にも聞こえていないと思えた。
現実感がない分、驚きようも悲しみようもないのだろうか。
「そう、兄ちゃんは死んだんだ。いつ死ぬかと思ってずっと見てたけど、最後は思い切って死んだな」
僕の背後から突然声が聞こえてきて、僕は後ろを振り返った。
今の僕と同じように、ほぼ透き通ってみえるような男の人がそこに立っていた。
「あなたは誰ですか?」
「俺はこの辺をうろついている幽霊で、ノブロウって言うんだ。よろしくな兄ちゃん」
ノブロウと名乗る男は、感情の込められていない声で答えた。
「あの、あなたは幽霊で、僕も今は幽霊なんですか?」
「うーん、幽霊とは言ったけど正直わからないんだわ、今の状況。でも、兄ちゃんが死んで体から今の兄ちゃんが出てくるとこ見てるし、それを幽霊と思えばしっくりくるから、多分そうじゃないか」
なんとも釈然としない答えだったけど、確かにそれしか説明のしようがないように思えた。
「まぁ、誰でも死ぬ経験は一回しかできないから、誰にもわかんないだろうな」
ノブロウの声はやはり感情がない。
そのことが気になったけど、僕はもうひとつ気になったことを質問することにした。
「あの、ノブロウさんは、どうして僕が死ぬことがわかったんですか?」
ーーーー
ノブロウが言ったことに嘘がないのだとしたら、僕がいつ死ぬかずっと見ていたと言っていたし僕が死ぬ瞬間も見てるようだ。
でも、身も知らずの僕が死のうとしていることを知っていることが不思議だった。
「虫の報せって言葉知ってるよな?人間ってのは、死のうと思っていると、わかる奴にはわかる何かを発するんだよ。俺はそれを感じとる力が鋭いんでな」
「はぁ……」
「兄ちゃんが遺書を書き始めた辺りになるかな?ここいらをうろついていて、死の願望の気配を感じてな、探してみたら兄ちゃんだったんだわ」
「はぁ……」
「まだ若いのに死ぬのかとは思ったけど、俺には止める義理も力もないしな、だから最後くらいは見届けようと思ったんだわ」
「はぁ……」
ノブロウの話に、いまいち信憑性が感じられなかった僕の返事は気の抜けたものになってしまっていたが、ノブロウは気を悪くする素振りもなく、話を続けた。
「実は、俺も自殺した身でな。とある事情で借金をしこたま抱えちまってな。自己破産なりすれば死ぬ必要なかったんだろうが、それができなくてな」
「そうですか……死んだらみんな幽霊になるんですか?」
「いや、人それぞれみたいだな。なる人もいればならない人もいる。その違いはわからんが」
「幽霊になったら、人が死にそうなのを感じられるんですか?」
「他人がどう感じるか知らんけど、俺は生きてる時から感じてたな。いわゆる霊感ってやつかな?姿かたちは見えなかったが、いるのは生きてた時から感じたな」
「そう……ですか……」
僕には霊感とか幽霊とか、到底信じられないものなだけに、ノブロウの話がどんどん胡散臭く聞こえてきた。
今までの人類史の長さを考えたら、幽霊が存在すていればそこかしこに幽霊が溢れかえってしまうではないか。
それに、幽霊は死んだ瞬間の姿で存在するとすれば、老人は老人の幽霊のままになっちゃうわけで、死んでも老いてることになる。
それじゃ悲しくないだろうか?
もし、若返って幽霊になるなら、なんだか今までの人生を否定するように感じる。
僕は、そんな幽霊の存在にどうしても矛盾を感じてしまうのだ。
とはいえ、今は僕自身が幽霊のような存在になってしまっているので、なんとも複雑な気分だった。
僕は何故、幽霊になったんだろう?
そんな僕の疑問が顔に出ていたようで、ノブロウが僕にこう言った。
「まぁ、兄ちゃんはまだ死んだばかりだから、これから色々見ていけばいいさ」
確かにそうだ。
そう思った時、玄関の方から悲鳴が上がった。
玄関に立っていたのは、僕の母だった。
死んだらどうなるのだろうと考えたことはあったものの僕は自分が幽霊になるとは思っていなかったのに、なぜか今現在の状況に僕は驚いていなかった。
「僕、死んだんだ」としゃべってみたけど、多分これも誰にも聞こえていないと思えた。
現実感がない分、驚きようも悲しみようもないのだろうか。
「そう、兄ちゃんは死んだんだ。いつ死ぬかと思ってずっと見てたけど、最後は思い切って死んだな」
僕の背後から突然声が聞こえてきて、僕は後ろを振り返った。
今の僕と同じように、ほぼ透き通ってみえるような男の人がそこに立っていた。
「あなたは誰ですか?」
「俺はこの辺をうろついている幽霊で、ノブロウって言うんだ。よろしくな兄ちゃん」
ノブロウと名乗る男は、感情の込められていない声で答えた。
「あの、あなたは幽霊で、僕も今は幽霊なんですか?」
「うーん、幽霊とは言ったけど正直わからないんだわ、今の状況。でも、兄ちゃんが死んで体から今の兄ちゃんが出てくるとこ見てるし、それを幽霊と思えばしっくりくるから、多分そうじゃないか」
なんとも釈然としない答えだったけど、確かにそれしか説明のしようがないように思えた。
「まぁ、誰でも死ぬ経験は一回しかできないから、誰にもわかんないだろうな」
ノブロウの声はやはり感情がない。
そのことが気になったけど、僕はもうひとつ気になったことを質問することにした。
「あの、ノブロウさんは、どうして僕が死ぬことがわかったんですか?」
ーーーー
ノブロウが言ったことに嘘がないのだとしたら、僕がいつ死ぬかずっと見ていたと言っていたし僕が死ぬ瞬間も見てるようだ。
でも、身も知らずの僕が死のうとしていることを知っていることが不思議だった。
「虫の報せって言葉知ってるよな?人間ってのは、死のうと思っていると、わかる奴にはわかる何かを発するんだよ。俺はそれを感じとる力が鋭いんでな」
「はぁ……」
「兄ちゃんが遺書を書き始めた辺りになるかな?ここいらをうろついていて、死の願望の気配を感じてな、探してみたら兄ちゃんだったんだわ」
「はぁ……」
「まだ若いのに死ぬのかとは思ったけど、俺には止める義理も力もないしな、だから最後くらいは見届けようと思ったんだわ」
「はぁ……」
ノブロウの話に、いまいち信憑性が感じられなかった僕の返事は気の抜けたものになってしまっていたが、ノブロウは気を悪くする素振りもなく、話を続けた。
「実は、俺も自殺した身でな。とある事情で借金をしこたま抱えちまってな。自己破産なりすれば死ぬ必要なかったんだろうが、それができなくてな」
「そうですか……死んだらみんな幽霊になるんですか?」
「いや、人それぞれみたいだな。なる人もいればならない人もいる。その違いはわからんが」
「幽霊になったら、人が死にそうなのを感じられるんですか?」
「他人がどう感じるか知らんけど、俺は生きてる時から感じてたな。いわゆる霊感ってやつかな?姿かたちは見えなかったが、いるのは生きてた時から感じたな」
「そう……ですか……」
僕には霊感とか幽霊とか、到底信じられないものなだけに、ノブロウの話がどんどん胡散臭く聞こえてきた。
今までの人類史の長さを考えたら、幽霊が存在すていればそこかしこに幽霊が溢れかえってしまうではないか。
それに、幽霊は死んだ瞬間の姿で存在するとすれば、老人は老人の幽霊のままになっちゃうわけで、死んでも老いてることになる。
それじゃ悲しくないだろうか?
もし、若返って幽霊になるなら、なんだか今までの人生を否定するように感じる。
僕は、そんな幽霊の存在にどうしても矛盾を感じてしまうのだ。
とはいえ、今は僕自身が幽霊のような存在になってしまっているので、なんとも複雑な気分だった。
僕は何故、幽霊になったんだろう?
そんな僕の疑問が顔に出ていたようで、ノブロウが僕にこう言った。
「まぁ、兄ちゃんはまだ死んだばかりだから、これから色々見ていけばいいさ」
確かにそうだ。
そう思った時、玄関の方から悲鳴が上がった。
玄関に立っていたのは、僕の母だった。
1
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
呪部屋の生贄
猫屋敷 鏡風
ホラー
いじめっ子のノエルとミエカはミサリをターゲットにしていたがある日ミサリが飛び降り自殺をしてしまう。
10年後、22歳になったノエルとミエカに怪異が襲いかかる…!?
中2の時に書いた訳の分からん物語を一部加筆修正して文章化してみました。設定とか世界観が狂っていますが悪しからず。
真夜中の訪問者
星名雪子
ホラー
バイト先の上司からパワハラを受け続け、全てが嫌になった「私」家に帰らず、街を彷徨い歩いている内に夜になり、海辺の公園を訪れる。身を投げようとするが、恐怖で体が動かず、生きる気も死ぬ勇気もない自分自身に失望する。真冬の寒さから逃れようと公園の片隅にある公衆トイレに駆け込むが、そこで不可解な出来事に遭遇する。
※発達障害、精神疾患を題材とした小説第4弾です。
雪降る白狐塚の谷
さいとうかおる_きつねしのぶ
ホラー
怖いきつねの話。
極寒の『白狐塚の谷』に住む少女「お雪」と妖狐との暗黒の交流の物語。
この小説は過去に制作した作品を改稿したものです。
著作:斎藤薫
構成
第一章 狐の唄
第二章 死者の唄
第三章 赤色の瞳
第四章 桃色の花
第五章 氷の花
第六章 狐地蔵の坂
第七章 修羅の崖
第八章 獄門峡
第九章 赤狐門
FLY ME TO THE MOON
如月 睦月
ホラー
いつもの日常は突然のゾンビ大量発生で壊された!ゾンビオタクの格闘系自称最強女子高生が、生き残りをかけて全力疾走!おかしくも壮絶なサバイバル物語!
俺達の百鬼夜行 堕ちればきっと楽になる
ちみあくた
ホラー
人材不足の昨今、そこそこニーズがある筈の若手SE・葛岡聡は、超ブラックIT企業へ就職したばかりに、連日デスマーチが鳴り響く地獄の日々を送っていた。
その唯一の癒しは、一目惚れした職場の花・江田舞子の存在だが、彼女の目前で上司から酷いパワハラを喰らった瞬間、聡の中で何かが壊れる。
翌朝、悪夢にうなされる聡の眠りをスマホのアラームが覚まし、覗くと「ルール変更のお知らせ」と表示されていた。
変更ルールとは「弱肉強食」。喰われる側が喰う側へ回る、と言うのだが……
遅刻寸前で家を出た聡は、途中、古の妖怪としか思えない怪物が人を襲う姿を目撃する。
会社へ辿り着き、舞子の無事を確認する聡だが、彼はそこで「ルール変更」の真の意味と、彼自身に付きつけられた選択へ直面する事となる。
あなた、社畜、やめますか? それとも、人間、やめますか?
〇エブリスタ、小説家になろう、ノベルアップ+でも投稿しております。
ゴスウッドファミリー ー奇妙な夜ー
dep basic
ホラー
物語の舞台は、周りから不気味で奇妙だと思われているゴスウッド家。
彼らの豪邸は、古びた塔と枯れた庭に囲まれ、町の人々から恐れられている。
ゴスウッド家は家族全員が独特な能力や癖を持ち、外界との関わりを極力避けているが、彼らは彼らなりの幸せな生活を送っている。
ある晩、ゴスウッド家に謎の訪問者が現れる。
家族の誰とも違う、普通に見える人間だったが、彼にはある秘密があった。
この訪問者の登場により、ゴスウッド家の生活が少しずつ変わり始める。
家族の中で何が起こるのか?奇妙な家族と訪問者の間にどんな物語が展開されるのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる