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2.特効薬、または万能薬
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「あの、エルヴィス様。さっきの薬はいったい…」
ほとんど効果のなかった薬をたった1粒で劇的に変えた金色の粒。見たことも聞いたことも無い代物だったけれど、あれがいかに貴重な物かはフェネリアにもなんとなく予想はついた。
「そうだね…話しておく必要があるだろう」
エルヴィスは腰の袋を取り出した。中にはさきほどの物と同じ金の粒が残り2つ。
「これは、僕達エルフ族の『秘薬』と呼ばれる物だ」
「!!」
はっ、とフェネリアは息を飲んだ。そして同時に数日前に目にしたあの本を思い出す。あの本に載っていたであろう秘薬が目の前にある。
「この薬はその名の通りどんな病や傷にも効果があるとされている」
「これが…」
そんなにすごい薬を使うほど、さきほどの患者は重症だったのかと今更ながらにゾッとする。確かにあの症状はエルヴィスと共に様々な患者の治療にも関わる事のあるフェネリアにとっても初めて見るものだった。
「そこで、さっきの患者だけれど…あれは、僕も見た事がない症例だった」
「そんな、エルヴィス様も…?」
「ああ。似ているものは知っているけれど、あそこまで重度の症状を伴うものではないんだ。薬が効かないというのも気にかかる」
「だけど…秘薬があれば」
エルヴィスが首を横に振った。
「秘薬は数が限られていてね…。これが最後の2つなんだ」
1つの秘薬で救えるのは1人。節約して使ったとしてもせいぜい2、3人。あの病が広がってしまったらとてもじゃないが間に合わない。代用品を探そうにも秘薬の代わりになる物なんて思い当たるはずもなく、これならまだ新しい秘薬を作る方が現実的かもしれなかった。
「秘薬を新たに調合する事は出来ないのですか?」
「……出来ない事はないよ。幸い、材料だけなら揃っている」
「それなら…!」
フェネエリアは見えた希望にぱっと顔を輝かせた。けれど、エルヴィスの表情は晴れない。
「フェネエリア。材料というのはね、非常に高純度の魔力なんだ。私達エルフ族の体内に巡る魔力を、純粋なまま外へと抽出して小さく圧縮した物を秘薬と呼ぶんだよ」
「魔力…?」
エルフ族には多かれ少なかれ必ず宿っているものが秘薬の原料だと知り、フェネリアが目を丸くする。数年前強すぎる魔力のせいで体を壊し死にかけたフェネリアからすれば良くも悪くも身近なそれが秘薬となるだなんて思いもしなかった。しかし、それなら何故今すぐ新しい秘薬を作ろうとしないのか。
「魔力なら、私が――」
「問題は、」
エルヴィスがフェネリアの言葉を遮るように言った。重たく真剣な声音にフェネリアは口を閉じる。
「問題は、その抽出方法だ。魔力というのは非常に繊細な存在で、純粋なまま抽出する方法は限られている。…しかも、秘薬に出来るのは高純度の魔力のみだ。そんな魔力の持ち主自体がそうはいないんだよ」
「……どんな、方法だというんですか……?」
震えそうな声でそう問えば、エルヴィスはとても言い辛そうに答えた。
「―――『快楽』だ。それも、他者から与えられるもの。それが、最も確実に、そして純粋に魔力を抽出する唯一の方法なんだ」
かいらく、とフェネリアは無意識につぶやいた。そしてカアッと頬を赤くする。快楽の意味を知らないほどフェネリアは子供ではなかった。まさかそんな方法で作り出された物とは知らず、机の上に転がったままの残り最後の2つの秘薬もなんとなく真っすぐ見れない。
「分かっただろう?秘薬の原料となる高純度の魔力を持つ者がこれまでに存在しなかった訳じゃない。いたとしても、とてもじゃないけれどそんな方法で魔力を抽出させてくれとは言えなかったんだよ。この秘薬は、僕の先代の中の誰かが偶然強い魔力を持っていたために作れた物の残りなんだ」
「……っ」
「だから……新たな秘薬を今すぐ作る事は出来ない。その代わりになる物を探すしか――」
そう言いながら背を向けたエルヴィスの手を、フェネリアは思わず掴んだ。握った手がぴくりと震える。
「わ……私では、いけませんか」
「……」
「私には、強い魔力が宿っている。エルヴィス様だって、知っていますよね」
「フェネリア。離しなさい」
「私の魔力なら、秘薬の原料になるのではありませんか?…だからこそ、材料は揃っていると、エルヴィス様もさっきそう言ったのではないのですか」
「……否定はしないよ。だけどね、フェネリア。僕は君に…そんな事をしたくない」
「…っどうしてですか」
拒絶されたような言葉にフェネリアの瞳にじわりと涙がにじむ。それを零さぬように必死に目を開きながら見つめると、エルヴィスは苦しそうな、痛そうな顔でゆっくりと振り返った。
「君が……大切だからだよ、フェネリア。秘薬がどれほど貴重で、今必要な物なのかは理解している。…っだけど、それを理由に君に触れて……君を、暴くような真似をしたくない。そうすべきだと頭では分かっていても、長でありながら私情を優先するのかと詰られたとしても、僕は……!」
悲痛な叫びに、フェネリアは耐えていた涙を零した。頬を流れるそれをぬぐおうともせず、感情のままにエルヴィスの胸へと頬を寄せる。
「私が、そうして欲しいんです」
「……ッ!」
「エルヴィス様に……あなたに触れてもらえて、役に立てるのなら、こんなに嬉しい事はありません」
「フェネリア…」
「……お願いです、エルヴィス様。どうか私の魔力をお役立て下さい――……」
ほとんど効果のなかった薬をたった1粒で劇的に変えた金色の粒。見たことも聞いたことも無い代物だったけれど、あれがいかに貴重な物かはフェネリアにもなんとなく予想はついた。
「そうだね…話しておく必要があるだろう」
エルヴィスは腰の袋を取り出した。中にはさきほどの物と同じ金の粒が残り2つ。
「これは、僕達エルフ族の『秘薬』と呼ばれる物だ」
「!!」
はっ、とフェネリアは息を飲んだ。そして同時に数日前に目にしたあの本を思い出す。あの本に載っていたであろう秘薬が目の前にある。
「この薬はその名の通りどんな病や傷にも効果があるとされている」
「これが…」
そんなにすごい薬を使うほど、さきほどの患者は重症だったのかと今更ながらにゾッとする。確かにあの症状はエルヴィスと共に様々な患者の治療にも関わる事のあるフェネリアにとっても初めて見るものだった。
「そこで、さっきの患者だけれど…あれは、僕も見た事がない症例だった」
「そんな、エルヴィス様も…?」
「ああ。似ているものは知っているけれど、あそこまで重度の症状を伴うものではないんだ。薬が効かないというのも気にかかる」
「だけど…秘薬があれば」
エルヴィスが首を横に振った。
「秘薬は数が限られていてね…。これが最後の2つなんだ」
1つの秘薬で救えるのは1人。節約して使ったとしてもせいぜい2、3人。あの病が広がってしまったらとてもじゃないが間に合わない。代用品を探そうにも秘薬の代わりになる物なんて思い当たるはずもなく、これならまだ新しい秘薬を作る方が現実的かもしれなかった。
「秘薬を新たに調合する事は出来ないのですか?」
「……出来ない事はないよ。幸い、材料だけなら揃っている」
「それなら…!」
フェネエリアは見えた希望にぱっと顔を輝かせた。けれど、エルヴィスの表情は晴れない。
「フェネエリア。材料というのはね、非常に高純度の魔力なんだ。私達エルフ族の体内に巡る魔力を、純粋なまま外へと抽出して小さく圧縮した物を秘薬と呼ぶんだよ」
「魔力…?」
エルフ族には多かれ少なかれ必ず宿っているものが秘薬の原料だと知り、フェネリアが目を丸くする。数年前強すぎる魔力のせいで体を壊し死にかけたフェネリアからすれば良くも悪くも身近なそれが秘薬となるだなんて思いもしなかった。しかし、それなら何故今すぐ新しい秘薬を作ろうとしないのか。
「魔力なら、私が――」
「問題は、」
エルヴィスがフェネリアの言葉を遮るように言った。重たく真剣な声音にフェネリアは口を閉じる。
「問題は、その抽出方法だ。魔力というのは非常に繊細な存在で、純粋なまま抽出する方法は限られている。…しかも、秘薬に出来るのは高純度の魔力のみだ。そんな魔力の持ち主自体がそうはいないんだよ」
「……どんな、方法だというんですか……?」
震えそうな声でそう問えば、エルヴィスはとても言い辛そうに答えた。
「―――『快楽』だ。それも、他者から与えられるもの。それが、最も確実に、そして純粋に魔力を抽出する唯一の方法なんだ」
かいらく、とフェネリアは無意識につぶやいた。そしてカアッと頬を赤くする。快楽の意味を知らないほどフェネリアは子供ではなかった。まさかそんな方法で作り出された物とは知らず、机の上に転がったままの残り最後の2つの秘薬もなんとなく真っすぐ見れない。
「分かっただろう?秘薬の原料となる高純度の魔力を持つ者がこれまでに存在しなかった訳じゃない。いたとしても、とてもじゃないけれどそんな方法で魔力を抽出させてくれとは言えなかったんだよ。この秘薬は、僕の先代の中の誰かが偶然強い魔力を持っていたために作れた物の残りなんだ」
「……っ」
「だから……新たな秘薬を今すぐ作る事は出来ない。その代わりになる物を探すしか――」
そう言いながら背を向けたエルヴィスの手を、フェネリアは思わず掴んだ。握った手がぴくりと震える。
「わ……私では、いけませんか」
「……」
「私には、強い魔力が宿っている。エルヴィス様だって、知っていますよね」
「フェネリア。離しなさい」
「私の魔力なら、秘薬の原料になるのではありませんか?…だからこそ、材料は揃っていると、エルヴィス様もさっきそう言ったのではないのですか」
「……否定はしないよ。だけどね、フェネリア。僕は君に…そんな事をしたくない」
「…っどうしてですか」
拒絶されたような言葉にフェネリアの瞳にじわりと涙がにじむ。それを零さぬように必死に目を開きながら見つめると、エルヴィスは苦しそうな、痛そうな顔でゆっくりと振り返った。
「君が……大切だからだよ、フェネリア。秘薬がどれほど貴重で、今必要な物なのかは理解している。…っだけど、それを理由に君に触れて……君を、暴くような真似をしたくない。そうすべきだと頭では分かっていても、長でありながら私情を優先するのかと詰られたとしても、僕は……!」
悲痛な叫びに、フェネリアは耐えていた涙を零した。頬を流れるそれをぬぐおうともせず、感情のままにエルヴィスの胸へと頬を寄せる。
「私が、そうして欲しいんです」
「……ッ!」
「エルヴィス様に……あなたに触れてもらえて、役に立てるのなら、こんなに嬉しい事はありません」
「フェネリア…」
「……お願いです、エルヴィス様。どうか私の魔力をお役立て下さい――……」
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