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1『オーロラ 1』
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俺がいるのは各ユニットに与えられた控室だ。今日の大会エントリーは今年新しく組まれた新規ユニット達の紹介も兼ねていて、その新規ユニットの1つであるオーロラの一員である俺はこうして控室で出番を待っていた。
コンコン、とノックの音が聞こえてきて、「入るぞ」と声がする。
「ど、どうぞ」
「どうだ、準備は出来たか?」
入ってきたのは、オーロラのリーダーであり、俺をユニットに誘ってくれたセラス・コルウィングだ。チョコレートみたいな色の髪にすらりと均衡のとれた体つき、涼しげで端正な顔。イケメンを体現したような奴で、前世ではゲームのプレイヤーにも人気が高かった。俺を誘い、そして俺の加入を誰よりも喜んでくれたセラスには、エルシュカとしての俺は感謝してもしきれない大恩があり、貴一としての俺は……一言で表すのは難しい。
「他の皆はもうロビーに集まってるぞ。お前も来るか?」
「ん……そう、だな。そうしようかな」
セラスは急遽オーロラに加入する事になった俺を気遣って、こうして控室でしばらく気持ちを落ち着かせるよう言ってくれていた。お言葉に甘えて少しゆっくりしながら身だしなみでも整えようかと鏡を覗き込んだところで、前世の記憶を思い出したわけだけど。
他の皆というのはオーロラの俺とセラスを除いた他のメンバーの事だ。俺の加入が突然も突然だったせいで、まだ自己紹介もちゃんと出来てない。だけど皆歓迎してくれているというのはセラスから聞いていた。ちなみに、セラスとの自己紹介は誘われた時にちゃんと済ませてある。
「はは、そんなに緊張しなくても良い。欠員が出て困っていた所に加入してくれて、助けられているのはこちらだからな」
「いや……えーと、俺の方こそ」
恩があるのは確かなのに、これから1年かけてメンバー達とエロい事をしまくらねばいかんというとんでもない道のりを思うと素直に言葉が出てこない。ただ、それは嫌悪だとかではなくどちらかというと羞恥や照れだ。俺も年頃の男だし、もともと気持ち良い事は好きだ。ただそれを同性を相手にする事、そして自分のあられもない姿が国どころか世界中に晒される事。それがどうしてもすっと受け入れられない。
歯切れの悪い俺に、セラスは心配そうに眉を寄せた。
「どうした、さっきよりも大分……その、気落ちしているように見えるが」
そりゃあ、まだ前世を思い出していなかった俺はセラスの誘いにものすごい勢いで飛びついた。自分で言うのも何だけど、全身で喜びを表してたと思う。それが突然こんなしどろもどろになれば誰だって困惑する。
「や、違うんだよ。気落ちっていうか……」
ちら、と俺よりも背の高いセラスの顔を見上げる。俺を心配してる目は出会って間もないというのにとろりと親愛にとろけて、俺と目が合った事に気が付いて、「ん?」と優しく首を傾げられる。
「……は、」
……俺、こんな優しくてかっこいい奴に……エロい事されるのか。そう思うとかあっと顔が熱くなるのが分かった。
「恥ず、かし……く、なってきて」
「……」
震えた声を出した俺にセラスは何を思ったのか黙ってしまった。怒ったような感じじゃない……と思いたいんだけど、どうした?
「それは、俺達と共鳴するのが、か?」
共鳴、とは共鳴力を生み出す行為の事。つまり鳴力を持った男同士での性的接触の事を指す。嘘をつくわけにもいかず、恐る恐る頷いた。
「あ…嫌じゃないんだ。辞めようとも思ってない。……でも俺、こういう事……誰かと、した事なくて」
「……した事ない?共鳴を?」
「……うん」
鳴力を持って生まれた以上、ほとんど全員がWORLD NOVAでの優勝を目指す。ただその参加基準の年齢に至るまで共鳴をしちゃいけないという決まりはない。むしろこの世界はこんな創りだからこそ性に関して前世の俺からすれば考えられないくらい寛容で、開放的だ。大会に参加する前に共鳴を経験してない奴の方が珍しかった。
だから、セラスは共鳴未経験の俺に呆れたのかもしれないと、そんな奴を誘ってしまって後悔してるんじゃないかと、そう思った。
「……そうか」
「呆れたか…?」
「いいや。……嬉しいと、思った」
だけど返ってきたのは予想外の言葉だ。
「こんなに綺麗で素直なお前の初めてを、俺は、俺達は、貰えるんだな」
な……んて顔で何て言い方をするのかこいつは。顔が熱い。俺の顔は真っ赤に染まってるに違いない。
「……可愛い」
爪先まで綺麗に整った指に頬を撫でられた。可愛いってなんだ。まだ出会って数時間かそこらの男に。
そう言われて嫌な気がしないどころか……嬉しいとまで思ってしまってる俺も、どうなんだ。
「かわ…いくは、ない」
「ふは」
「何で笑うんだ」
温かい声でセラスは笑った。互いの距離を一歩つめられて、顔が近づく。
「お前を誘って良かった」
「え、ああ、ありが……、」
ふに。と柔らかく頬に口付けられた。親愛の意味のそれ。同じ年頃の、男に。ゆっくりと顔が離れる。至近距離で目が合う。さっきよりも熱を灯した目だ。何も言えずにいると、また顔が近づいてくる。今度は正面から。ああ、唇だ。キスだ。そう分かっていても、俺は避けようとも抵抗しようとも、思わなかった。
「っ……」
触れるだけのキスはすぐに終わって、温もりが離れる。たったそれだけの接触なのに、俺は泣いてしまいそうなくらいに緊張して、体中熱くなって、胸は馬鹿みたいにドカドカ鳴った。
何か……思ってたよりも、俺、大丈夫そうだな……。
コンコン、とノックの音が聞こえてきて、「入るぞ」と声がする。
「ど、どうぞ」
「どうだ、準備は出来たか?」
入ってきたのは、オーロラのリーダーであり、俺をユニットに誘ってくれたセラス・コルウィングだ。チョコレートみたいな色の髪にすらりと均衡のとれた体つき、涼しげで端正な顔。イケメンを体現したような奴で、前世ではゲームのプレイヤーにも人気が高かった。俺を誘い、そして俺の加入を誰よりも喜んでくれたセラスには、エルシュカとしての俺は感謝してもしきれない大恩があり、貴一としての俺は……一言で表すのは難しい。
「他の皆はもうロビーに集まってるぞ。お前も来るか?」
「ん……そう、だな。そうしようかな」
セラスは急遽オーロラに加入する事になった俺を気遣って、こうして控室でしばらく気持ちを落ち着かせるよう言ってくれていた。お言葉に甘えて少しゆっくりしながら身だしなみでも整えようかと鏡を覗き込んだところで、前世の記憶を思い出したわけだけど。
他の皆というのはオーロラの俺とセラスを除いた他のメンバーの事だ。俺の加入が突然も突然だったせいで、まだ自己紹介もちゃんと出来てない。だけど皆歓迎してくれているというのはセラスから聞いていた。ちなみに、セラスとの自己紹介は誘われた時にちゃんと済ませてある。
「はは、そんなに緊張しなくても良い。欠員が出て困っていた所に加入してくれて、助けられているのはこちらだからな」
「いや……えーと、俺の方こそ」
恩があるのは確かなのに、これから1年かけてメンバー達とエロい事をしまくらねばいかんというとんでもない道のりを思うと素直に言葉が出てこない。ただ、それは嫌悪だとかではなくどちらかというと羞恥や照れだ。俺も年頃の男だし、もともと気持ち良い事は好きだ。ただそれを同性を相手にする事、そして自分のあられもない姿が国どころか世界中に晒される事。それがどうしてもすっと受け入れられない。
歯切れの悪い俺に、セラスは心配そうに眉を寄せた。
「どうした、さっきよりも大分……その、気落ちしているように見えるが」
そりゃあ、まだ前世を思い出していなかった俺はセラスの誘いにものすごい勢いで飛びついた。自分で言うのも何だけど、全身で喜びを表してたと思う。それが突然こんなしどろもどろになれば誰だって困惑する。
「や、違うんだよ。気落ちっていうか……」
ちら、と俺よりも背の高いセラスの顔を見上げる。俺を心配してる目は出会って間もないというのにとろりと親愛にとろけて、俺と目が合った事に気が付いて、「ん?」と優しく首を傾げられる。
「……は、」
……俺、こんな優しくてかっこいい奴に……エロい事されるのか。そう思うとかあっと顔が熱くなるのが分かった。
「恥ず、かし……く、なってきて」
「……」
震えた声を出した俺にセラスは何を思ったのか黙ってしまった。怒ったような感じじゃない……と思いたいんだけど、どうした?
「それは、俺達と共鳴するのが、か?」
共鳴、とは共鳴力を生み出す行為の事。つまり鳴力を持った男同士での性的接触の事を指す。嘘をつくわけにもいかず、恐る恐る頷いた。
「あ…嫌じゃないんだ。辞めようとも思ってない。……でも俺、こういう事……誰かと、した事なくて」
「……した事ない?共鳴を?」
「……うん」
鳴力を持って生まれた以上、ほとんど全員がWORLD NOVAでの優勝を目指す。ただその参加基準の年齢に至るまで共鳴をしちゃいけないという決まりはない。むしろこの世界はこんな創りだからこそ性に関して前世の俺からすれば考えられないくらい寛容で、開放的だ。大会に参加する前に共鳴を経験してない奴の方が珍しかった。
だから、セラスは共鳴未経験の俺に呆れたのかもしれないと、そんな奴を誘ってしまって後悔してるんじゃないかと、そう思った。
「……そうか」
「呆れたか…?」
「いいや。……嬉しいと、思った」
だけど返ってきたのは予想外の言葉だ。
「こんなに綺麗で素直なお前の初めてを、俺は、俺達は、貰えるんだな」
な……んて顔で何て言い方をするのかこいつは。顔が熱い。俺の顔は真っ赤に染まってるに違いない。
「……可愛い」
爪先まで綺麗に整った指に頬を撫でられた。可愛いってなんだ。まだ出会って数時間かそこらの男に。
そう言われて嫌な気がしないどころか……嬉しいとまで思ってしまってる俺も、どうなんだ。
「かわ…いくは、ない」
「ふは」
「何で笑うんだ」
温かい声でセラスは笑った。互いの距離を一歩つめられて、顔が近づく。
「お前を誘って良かった」
「え、ああ、ありが……、」
ふに。と柔らかく頬に口付けられた。親愛の意味のそれ。同じ年頃の、男に。ゆっくりと顔が離れる。至近距離で目が合う。さっきよりも熱を灯した目だ。何も言えずにいると、また顔が近づいてくる。今度は正面から。ああ、唇だ。キスだ。そう分かっていても、俺は避けようとも抵抗しようとも、思わなかった。
「っ……」
触れるだけのキスはすぐに終わって、温もりが離れる。たったそれだけの接触なのに、俺は泣いてしまいそうなくらいに緊張して、体中熱くなって、胸は馬鹿みたいにドカドカ鳴った。
何か……思ってたよりも、俺、大丈夫そうだな……。
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