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あの子が耳を塞いだ時だけ現れる記録用紙

くつわだち

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 つい先週の話なんですけど。バス停ってあるじゃないですか。街中にあるようなのじゃなくて、ほんと田舎にあるような、無いほうがマシなくらいの粗末な小屋がついてるやつです。私は免許無いし、実家から駅に向かうのにバスが要るんで、待ってたんです。
 少しして気づいたんですけど、小屋の薄いトタン越しに、人影が見えるんですよ。頭髪とか服の色とか見る感じ、老人っぽかったですね。老人といえどあんな小屋に入る人、いるんだなぁと思いましたが。ひっそり俯く感じで、じっと座ってました。私はそのときイヤホンをしてたんですが、イヤホンしながら何かしたり移動するのが嫌なので、予め外しとこうと思って、外したんです。そこで初めて気付いたんですけど、小屋の人、ずっと何か言ってるみたいだったんです。でも、私に対してというか、独り言……譫言のような感じで、

「あけてくださいませんかあ」

って、ずっと言ってるんです。小声でもなく、普段の声量って感じです。ずっとそれを繰り返してて。でも小屋にはそもそも扉すら無いので、好きに出入り出来るんです。もう、バスを待ってるんじゃなくて、ただボケちゃってるのかなぁと。5分くらい、それが続きました。亡くなった祖父も、晩年はあんなだったので我慢できないことはなかったんです。ただ、5分くらい経ってその声がぴたりと止んで。少し気になって、一瞬振り返ってみたんです。そしたら、その人、もうこっち向いてたんです。トタン越しに顔の肌色が一面に見えて。私をじっと見ているんです。目や口までははっきりしてなかったんですが。それまで何の音もしなかったので、私びっくりしちゃって。そしたら、一間おいてその人が言うんです。

「あけたら、これを、べちゃってくださいませんかあ」

 いろいろ意味のわからないことが重なり過ぎて、それを聞いた途端、次のバス停まで逃げちゃったんです。車道の脇の、ごく狭いとこを1.5kmぐらい走って。やっと着いて息切らしてたら、すぐバスが来ました。一応軽く座席を見渡したんですけど、老人どころか乗客は私しかいませんでした。
 まあ、私も今となっては、逃げちゃったことを申し訳ないと思ってる面もあります。べちゃれなかったせいで、ああなると次は頬ですから。
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