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一章 新入生歓迎会
マッドベア包囲戦
しおりを挟む三人で休憩していた大きな木を飛び出してから数分後。イオは三人の誰よりも早く、目的地である湖のほとりに到着していた。森の深層部にあるためまだマッドベアは他の生徒とは遭遇していない。
しかし、時間が経てばいずれマッドベアに見つかり命の危険がある。早急に、そして目立たぬように仕留めることが肝要だ。
「でもなぁ、ウンディーネは目立つからまず無理だし、水辺じゃサラマンダ―は力を出し切れない……そもそもマッドベアを倒せる精霊をここに召喚したら流石に勘の鋭い人にはバレそうだな」
『イオ様! 空を見てくださいっ!』
悩んでいたイオの周りを飛び回っていたエルフのトムテが空を指差す。見上げるとこの近くまで飛んできているイーヴルが見えた。
「イーヴル……そう言えば竜族って、確かブレス攻撃が得意だったよね?」
『はい。威力は四元精霊に匹敵する攻撃力を持っているとか……』
「ふぅん……ねぇ、トムテ、ちょっと協力してもらいたい事があるんだけど……」
『何か閃いたんですか?』
「うん! とっておきの作戦がね」
一方、その頃アレンとイーヴルは地上から放たれる魔法を避けながら空中を飛行していた。
空を飛行するアレン達は目立つ。地上にいる在校生達は、皆アレン達を地に落とそうと躍起になって攻撃しているようだが、アレンの的確な指示とイーヴルの俊敏力により、今のところ一度も当たっていない。
『後どのくらいだ? アレン』
「一時間半ってところかな。疲れた?」
『いや。余裕だ』
通常、精霊の言葉は人には解らない。だが、契約した聖霊と主人の間では意思の疎通が可能になる。
しかし、それは絶対的な信頼関係を築かないと出来ないものだ。会話が出来るということはアレンとイーヴルの絆が強い証拠である。
森の中で罠にかけられ、何とか脱出したものの、怪我をして精霊界に帰れなくなっていた彼の怪我を治してくれたのが当時9歳だったアレン。
気が立って威嚇するイーヴルに対して、アレンは恐がるどころか血を流している傷口を脱いだ自分を服でふさぎながら『いたいのいたいのあっちけっ!』って泣きそうな顔で何度も言っていた事を思い出す。
その後、アレンが探してくれた薬草のおかげでイーヴルは無事に精霊界に帰る事が出来た。再会したのはアレンが12歳の時。彼が行った精霊召喚術は実は綻びだらけで、E級精霊すら見向きもしなかったが、イーヴルは自主的にその召喚に応じた。
アレンはA級のイーヴルが召喚された事に驚いた様子だったが、すぐに気付いて『あの時のイーヴルだね!元気そうでほっとしたよ』と微笑んだ。
以来、アレンとイーヴルは運命共同体、パートナーとなったわけである。のんびり屋で少々鈍感な所が時々心配になるが、気が優しくていざという時は頼りになる主人の事をイーヴルはとても気に入っていた。
イーヴルがその気配を感じたのは森の最深部にさしかかったところだ。
『アレン、あの湖から異様な邪気を感じる』
「異様な邪気……?」
『魔物だ……もしかするとこれはS級かも知れん』
「えぇっ!? そんな馬鹿な……ここは、魔の森だよ? 学園長自らが張った結界のおかげで下級モンスターしか出ないはずでしょ」
『しかし、現に感じるのだ……とても邪悪な気を』
「……わかった。確かめに行こう。もし本当なら大変な事になる。急いで」
『うむ。しっかり掴まっておれ』
イーヴルは全速力を出して湖に向かう。そしてその上空からマッドベアの姿を見つけた。
『よりによってマッドベアか……』
「マッドベアってどんな魔物なの?」
『熊のような大きな体と、鋭い爪と牙を持つ狂暴な魔物だ。加えて腕力も強い。動きは鈍いが一つ一つの攻撃威力が強すぎて普通の人間は一撃に耐えられずに死亡する恐ろしい魔物。一刻も早く退治せねば被害者が出る可能性が高い』
「そんな……早く先生達を呼んで来なきゃ!」
アレンとイーヴルが急いで引き返そうとした時、小さな妖精がアレン達の前に立ち塞がった。
「エルフ……?」
『どうやら我らに何かを伝えに来たようだ』
エルフがイーヴルに話しかける。アレンには妖精の言葉が解らないので二人の会話が終わるのを待つしかない。イーヴルはエルフの話を聞いて大きな声をあげた。
『何!? イオ様が……あのお方はまったく何をしているのだ!』
「……どうかしたの?」
『それがのう……アレン。どうやら我々は今ここでマッドベアを倒さねばならぬようだ』
「え!? ぼ、僕らがS級魔物を倒す!?」
『うむ。我々だけではなく、他の精霊も協力してくれるらしい。地上いる精霊達がマッドベアの動きを封じ、そこに我々がブレス技を仕掛けるという作戦だ』
「ブレス!? 無理だよ。成功した事1回もないのに……ボムじゃ駄目なの?」
『ボムではマッドベアに傷一つ付けられぬ』
「うっ……」
精霊が技を使う場合、精霊の力のみで発する事が出来る魔法と、契約した主の呪文により発動する魔法と二種類がある。
威力が強いブレス技を、最初から身につけている精霊というのは極わずかであり、イーヴルの場合も例外ではなくアレンの呪文が成立しなければ成功しない。
しかし、ブレス技は呪文が長く、詠唱に時間がかかる。それにタイミングよく精霊に魔力を与えなければならないのでかなり難度が高い。
アレン達もこの間ようやくブレス技の特訓を始めたばかりで、成功したことは一度もないのだ。
『アレン。我もまだ早いとは思う。しかしここで仕留めなければ生徒達が襲われる心配があるのだ。精霊達が動きを止めて詠唱する時間を稼ぐ……だから頑張ってくれぬか?』
イオが居る限り、最悪の事態は免れるであろう。アレンが無理だと言えばイーヴルは無理強いをしないつもりだった。
しかし、イーヴルはアレンの事を信じていた。我が主ならこの状況で絶対に逃げるような真似はしないと言う事を知っていたのだ。
だからこれは質問では無く『覚悟は出来ているか?』という確認のためにしたようなものだ。
案の定、アレンはイーヴルを真っ直ぐな瞳で見つめて言った。
「やろう。イーヴル。ここで僕達があのマッドベアを倒そう!」
『それでこそ我が主……行くぞアレン!』
「うん!」
イーヴルは地上に居るマッドベアの頭上目掛けて降下した。
アレンが目を閉じて詠唱を始める。それに気付いたマッドベアが咆哮をあげたが……。
「お願いドリアードさん達っ! マッドベアを押さえつけて!」
地上で待機していたイオがこの森に住む木の精霊ドリアードの集団をマッドベアに仕掛ける。美しい女性達の手足がマッドベアに撒き付き、それは一瞬にして太い根に変わる。
マッドベアはその枝を引きちぎろうとする。イオはすぐさま別の精霊を呼び出した。
「サンドマン! 君の出番だよっ! くれぐれもドリアードさん達には当たらないように注意してね!」
出てきたのは全長10cmもない小人の精霊だ。可愛い顔をした少年は大きな袋を担いでいる。
その袋から出てきたのは黒く光る砂。それを興奮して暴れるマッドベアに投げつけると、マッドべアは睡魔に襲われて動きが鈍くなった。
「……にして、我が内に眠りしその力を解き放て! イーヴル、ウィンド・ブレス!」
そこでアレンの詠唱が終わり、イーヴルからブレス技が飛び出す前に、ドリアード達はマッドベアから一斉に距離を取る。
そして、イーヴルのウィンド・ブレスにより全身を引き裂かれてたマッドベアは声をあげることもなく消滅した。
「や……やった! 成功したよ! 僕達マッドベアを倒したよ!」
『あぁ、よくやったなアレン』
「君のおかげだよイーヴル! ありがとう!!」
難関のブレス技を一発で成功させて、マッドベアを倒したアレンとイーヴル達は喜びの声をあげる。
地上のドリアード達も勝利を祝う舞いを踊りはじめる。サンドマンとトムテ、イオは互いに手を叩いて勝利を喜んだ。
「こっちは皆のおかげで退治する事が出来たよ……アーサー、トシキ。二人とも頑張って」
イオはここには居ない二人の成功を祈りながら祝福の歌を唄いながら踊るドリアード達の輪に入って喜びを分かち合った。
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