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12、一ヶ月遅れのハッピーバースデー
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九月一日。
私がこの彩花荘にやってきてから一か月と一日が過ぎた。
彩花荘の前では今も大根おばさんたちが彩花荘は最下層なんて言っている。
確かに未だトイレお風呂共同はちょっと慣れないけど、ここは最下層なんかじゃなくてとっても良いところだ。
「うまい! すげぇ、めっちゃうまい!」
「うん、美味しい美味しい!」
「食卓のレパートリーは増えたけど、お前らは言ってる事同じなんだな」
私がフライパンを購入したこともあって、彩花荘の食卓のレパートリーはかなり増えた。
作り置き系ならきんぴらごぼうに挑戦したりもしたし、肉野菜炒めを作った日なんかお肉の争奪戦である。
お昼ご飯はおなじみの焼きそば屋台。ここの焼きそばもいずれ食い収めを迎えるのだと思うと、感動もひとしきり。やっぱり美味しい!
そして昼過ぎには、大家さんがやってきた。
「はいはい、お前たち。相変わらず元気だねぇ。九月分の家賃の徴収だよ!」
「オレ、今回はさくっと払えますぜ! 太鼓叩きや親方のとこで働いたから!」
「なに胸を張ってるのよ秀男! 毎回さくっと払うのが常識だろ!」
大家さんにどやされつつ、秀男さんが家賃を収める。私もアルバイトのお金や貯金があるので、難なく収めることが出来た。
「アンタ、今月も暮らすのかい。こんなむさ苦しいとこでよく女の子がもつねぇ」
「ちょっとむさ苦しいは否定できないけど……とっても素敵なおうちですから!」
「そう。あなたが良いんならそれで良いんだけど」
蓮人くんもさらりと家賃の支払いを終え、大家さんが去っていく。
私は増宮米店のアルバイトがあるので、支払いを終えてすぐ家を出る。
仕事の関係もあり、都子さんには、今月末には町を出ようと思っていることを伝えた。
都子さんは「残念だわぁ」と寂しがっていたが、不意に私の頭を撫でて「でも、お父さんをポイ捨てせずに前に進むんやね。よく決断したねぇ、偉いわぁ」とも言ってくれた。
お仕事は滞りなく進んだけれど、最後に都子さんにちょっと変わった提案をされる。
「響子ちゃん、今日十五分くらい残業頼める? ここ片して欲しいんよ。シャッターの閉めかたは知ってるよね。頼むわぁ」
「はい、わかりました。やっておきます」
私より先に都子さんが仕事をあがるなんて初めてだなぁ、なんて考えつつ私は残りの業務を片づけた。増宮さんは相変わらず奥にいる。「お先にあがります」と声をかけて増宮米店を出る。
都子さんが早上がりで私が残業なんて不思議だなぁ、と思いながら家路につく。
彩花荘につくと、電気がついていなかった。いつも台所の明かりはつけているのに。
「秀男さーん、蓮人くーん。ただいまー、帰ったよー。台所の電気どうしたのー?」
大きな声で語りかけるが、返事はない。秀男さんは寝ていて、蓮人くんはネットゲームのヘッドフォンで聞こえていないのかな。
でも、ふたりとももう夕飯は済ませた時間のはずだ。
それなのにわざわざ電気を消しているのはおかしい。いったいどうしたのだろう。
「めずらしくふたりで飲みにでも行ったのかなぁ、私も誘ってくれたらいいのに」
そう愚痴をこぼして台所の戸を引くと、一斉に『パパーン!』と大きな音がして、私の頭に何か降りかかってきた。
そして、パッと台所の明かりが灯される。
そこには秀男さんと蓮人くんだけでなく、都子さんや灯里さんもいた。
「えっ、えっ、これ、どういう……皆、どうして!?」
戸惑う私に、秀男さんが照れくさそうにこほんと咳払いをしたあと言った。
「響子! 誕生日おめでとう!」
「まぁ、一か月遅れなんだけどね。おめでとさん」
蓮人くんがクールに付け足した。
「響子ちゃん、一か月遅れちゃったけどハッピーバースデーやで!」
「響子さん、お誕生日おめでとう。びっくりさせちゃったかな?」
都子さんが華やかに笑い、灯里さんが微笑んだ。
(私の、バースデーを祝ってくれているの……!?)
先月、八月一日は彩花荘に来て二日目、大家さんと話したりいろいろバタバタしていて、あっという間に一日が終わり、誕生日だなんてほとんど感慨もなかったけど――。
「まったく、ここの男どもは料理せんから。お祭りの屋台のものばっかやけど」
「ち、違うって! これがその……裏御神楽町流のおもてなしってやつだ!」
「はいはい、フライパンに油もしけないひとがよく言うよ」
「そういう詩人さんは料理してあげなかったの?」
「オレは中途半端には料理しないの。やるなら朝から仕込みたかったけど、朝は響子がいたし……」
「蓮人くん、それ言い訳くさいわー」
テーブルには確かに屋台のお店で作られたものがずらりと並んでいる。
焼きそば、焼きとうもろこし、ケバブに唐揚げにポテトにお好み焼きに――。
でも、それらは全部丁寧にお皿に移してあって、その心配りがありがたい。
何より、私の都合で何も出来なかっただけなのに、一か月の節目にこうして皆が私を祝ってくれることが本当に嬉しかった。
「秀男さん、蓮人くん、都子さん、灯里さん……皆、ありがとうございます!」
「ホントは誕生日の翌日とかに出来たら良かったんだけどよ、そのころはオレらもまだ打ち解けていなかったし、なんかうまく出来なくてよ……」
「ほら、ボーっとしてないで座れよ響子。主役が席に着かなきゃ始まらないだろ」
蓮人くんに促されて、テーブルに座る。
彩花荘のテーブルは四席しかないので、秀男さんは引っ張り出してきたのか、踏み台の上に腰を下ろしていた。
私が席に着くと、都子さんが声をあげた。
「それじゃあ、改めて! 響子ちゃんお誕生日おめでとー!」
皆が拍手で祝福してくれる。
こんな風にお誕生会みたいにバースデーを祝ってもらったのなんて、いつぶりだろう。
ホントにこの場所は、私にとって第二の家族のような場所だ。
暖かくて、優しくって、でもちょっぴり不器用で。
そんなぬくもりに包まれて、私の気持ちもほっこりと心地よい熱を帯びた。
「ホントに、ありがとうございます。突然でびっくりしちゃって、それしか言えないけど……ホントにホントに嬉しいです!」
「いやぁ、アタシも蓮人くんから連絡貰ったときは驚いたわぁ」
「うん、詩人さんがこんなことを現実でするなんて思わなかった。ゲームの中みたい」
「まぁ、発案者は秀男さんなんだけどね。スマホも持ってないし、連絡するのも恥ずかしいっていうからさ。仕方なくってとこ?」
「ば、バカ! オレが言い出しっぺなワケないだろ!」
秀男さんが顔を真っ赤にして否定する。だけど、その態度でバレバレだ。
「秀男さんが企画してくれたんですね。嬉しいな」
テーブルの上をよく見ると、肉じゃががあった。なんだか懐かしい家庭のお料理だ。
「あれ? これって……こんなの屋台にないですよね?」
「これはね、私が詩人さんと作ったの。お口に合えばいいけど……。パーティー向きの料理じゃないなって思ったんだけど、詩人さんがこういうのが良いだろうって」
「ま、まぁオレたちの朝飯晩飯はあんなだし、昼は各自屋台だろ。こういうのも有りかなって思ったんだよ。作ったのは灯里。オレはちょっと口出ししてただけだ」
ふたりの手料理かぁ、ありがたいなぁ――。
「さぁさ、いつまでも料理に見とれてないで冷める前に食べよか!」
「おう! オレたちも晩飯抜いてたからな。遠慮なく食っちまうぞ響子!」
「秀男さん、マジ遠慮しないと思うから。食いたいのはさっさと食っちまえよ」
「ありがとう! それじゃあ遠慮なく、いただきます!」
私がそう言って箸を取ると、皆も口々に「いただきます」を言って箸を取った。
肉じゃがは甘じょっぱくも優しい味付けで、いかにも灯里さんらしい感じがした。
食べなれた屋台の料理たちも、こんな日は格別に美味しく感じられる。
「しかし十八歳になって最初のイベントが家出なんてねぇ、そんなやつ早々居ないな」
「だーかーらー! 何度も言ったでしょ蓮人くん! これは家出じゃなくて旅立ち!」
「旅立ちかぁ、なんかかっこええわぁ。でも思い切ったもんやねぇ」
「ホントにスゴイね、私、家出なんてぜったい出来なさそう……」
「そういう灯里は病院脱走だろうが。同じようなもんだ」
「皆大変なんだなぁ……! オレぁ泣けてくるぜ!」
食卓にはお酒も並んでいる。秀男さんは酔ったのか早くも涙目になったり大笑いしたりと忙しい。私も最近ようやくちょっと慣れてきたサワーで、皆と自分に乾杯。
一か月遅いけど、改めて十八歳になったんだなぁと感じる瞬間だ。
「せやけど、ようもとの世界に戻る決心したなぁ響子ちゃんは」
「秀男さんと蓮人くんのおかげです。ふたりがいろいろ話してくれて気持ちが決まりました」
「まぁ、役に立ったんなら何より。大した事言ってないけど」
「こんなこと言ってるけど、詩人さん、ネットゲームでもよく悩み相談とか受けてるのよ」
「オレはよぉ……響子の未来を思うとよぉ……良い形であって欲しいと、うううっ!」
「はいはい秀男さん泣かないでくださいよ、もう」
楽しく食事を終えたあとは、皆が手早く食器を流しに片づけ始めた。
「あ、そんな都子さんや灯里さんまで! 私がやりますから!」
「今日の主役はゆっくり座っておきや、洗い物は男ふたりがしっかりするんやで」
「いつもは茶碗三個と箸を洗うだけなんで、これはハードだな……」
「詩人さん、私も手伝ってあげるから」
食卓がキレイに拭かれて、さっきまでの賑やかさが一転いつものテーブルに戻る。
そこに、秀男さんが冷蔵庫から恐る恐る、大事そうに取り出したもの――ホール状のケーキが置かれた。
「わぁぁ! ケーキまで……感激です!」
「感激するのはまだ早いぞ響子! 都子さん、そこのスイッチ切って」
「はいなぁ」
パチンと台所の明かりが消されると、周囲が真っ暗になる。
そこに秀男さんのライターから、二本のろうそくに火が灯された。
「おしっ! 皆やるぞ!」
「ねぇ、ホントにやるワケ? くっそ恥ずかしいんだけど」
「こういうのは形式が大事なんや! ほないくで、せーっの!」
都子さんの掛け声とともに、四人がハッピーバースデーの歌を歌い始める。
歌詞も「ハッピーバースデー響子ちゃん」に変えられていて、照れくさいけどものすごく嬉しい。歌い終わったあと、拍手とともに秀男さんが言った。
「さあ! 響子、ろうそくの明かりを吹き消せ!」
「声がでかい、秀男さん。その声で火が消えるっつーの」
「皆さん、ありがとうございます。今日の私、なんだかありがとうございますしか言えてないけど、ホントにありがとうございます! それじゃあ……ふっー!」
私は身を乗り出してケーキの火を吹き消した。
それと同時に拍手があがり、それが収まると改めて電灯がつけられる。
丸いホールのケーキを六つ切りにする。五人だけど、こればかりはしょうがない。
「良いんだよ、響子が二個食え! なんせ今日の主役だからな!」
「響子さん、甘いものとか平気? 平気なら秀男さんの言う通り二個食べて」
秀男さんや灯里さんに勧められて、私のお皿にはケーキがふたつ並べられた。
フォークも並ぶ。この家でフォークを見たの初めてかも――。
食器も、大きなお皿がたくさんあったけど、このふたりに使うイメージはない……。
(あ、そうか。ここは前に大家さんが住んでたんだもんね。大家さんが使ってたのかも)
「誕生日にケーキを食べることはあったけど、今回は贅沢だなぁ、いただきます!」
私はもう割りとお腹いっぱいだったけど、ケーキは別腹!
シンプルな生クリーム主体のケーキだけど、だからこそなんだか誕生日っぽさがある。
ケーキを和気あいあいと美味しくいただいて、私のバースデーパーティーもおひらきの時間がやってきた。
と思ったが、まだ皆はニコニコと席に座っている。
「今日は響子ちゃんをきちんと祝えて良かったわぁ。ほら、蓮人くん」
「詩人さん。もう皆ケーキ食べ終わったよ。そろそろ……」
「あー、はいはい。うーん、こほん」
蓮人くんがめずらしく緊張した様子で咳払いをして立ち上がった。
そして台所の奥の棚から、ラッピングされた箱を取り出す。
「皆で選んだプレゼントだ。まぁ、オレの意見も入ってる。おめでとう、これ」
「まったくもう、蓮人くんは不器用やなぁ。もう少し渡し方ってものがあるやろ」
都子さんが笑い、私は立ち上がって蓮人くんの持ったプレゼントを受け取る。
「これって……誕生日プレゼントですか!? ここまで良くしてもらっちゃって……」
「こういうのは最初から最後までやり切るもんだ! いいから開けてみろ響子!」
「うん、響子さん。開けてみて」
皆に促され、私はリボンをほどきラッピングされた箱を開ける。
奥から出てきた白い箱のふたを取ると、そこには美しいネックレスがあった。
「わぁ……素敵です! ああもう、どうしよう嬉しい!」
「水晶のあしらってあるネックレスだ。水晶には魔除け・厄除けの効果もある。まぁ、そういうのをオレは頭から信じているワケじゃないけど、縁起物っつーか」
「そうそう、蓮人くんの発案なんやで。なかなかやるやろ」
「オレはこーいうの疎いからな! 助かったぜ!」
「ねぇ、響子さん。良かったらさっそくネックレス付けてみてくれない?」
灯里さんのリクエストに応えて、ケースからネックレスを取り出して首に着ける。
皆に見えるように襟元を開いて、私は照れ笑いをして聞いた。
「大人っぽいデザインだけど……どうですか? 変じゃないかな?」
「よく似合ってるぞ響子! いやぁ、良かった。ここに来てからオシャレの機会なんて作ってやれなかったもんな!」
「まぁ、似合ってるんじゃない。さすがオレのチョイスって感じ?」
「ええ感じや響子ちゃん。それなら派手過ぎないから、お仕事に着けてきてもええからな」
皆口々に褒めてくれて、なんだか照れくさい。
ごちそうに、ケーキに、プレゼント。
私、ここに来てまだ一か月なのに――こんなに素敵にバースデーを祝ってもらえるなんて。なんて幸せものなのだろう。私はちょっぴり涙ぐんでしまう。
「皆、ホントにありがとうございます。今日の私、お礼しか出てこない。嬉しい」
「よし、じゃあまぁ、照れくさいイベントもここで幕。片づけしますか秀男さん」
「ここでぶった切るかぁ? でもあんまり遅くなっても女の子ふたりに悪いか」
「あら、秀男さんらしからぬ気配りねぇ」
都子さんが笑うと、蓮人くんが言った。
「灯里はオレが送っていくよ」
「詩人さん、ホント? ありがとう。それなら私、片づけもやっていく」
「私も! これだけ祝ってもらったんだし、片づけくらい手伝わせてください!」
そう言ったけど、蓮人くんが皮肉な笑みを浮かべて私の提案を却下した。
「あいにくうちの台所は狭いんでな。定員オーバーだ。お前は温泉でも行ってこい」
「そや、それは良い考えやなぁ。最後にさっぱりするのもええかもしれん」
「ここは任せて、響子さん。今日は年に一度のあなたが主役の日なんだから」
「でも……」
「そうだ、ほらほら行ってこい響子!」
秀男さんに背中を押されるようにして温泉に送り出されそうになる。
私はなんとか着替えとタオルを持って、彩花荘を出た。
温泉にやってきて、ゆっくり湯船につかる。
(最高のバースデーのお祝いだったな。皆にはホントに感謝だ)
露天風呂に入る。暖まったあと、お風呂の淵に座り夜風にあたる。
まだ九月は始まったばかりだけど、以前風に当たったときより涼しく感じられた。
(彩花荘で暮らすのもあと一か月を切ったのか。私、家に帰ったら頑張らなきゃな)
そんな前向きな思いになれるのも、皆のおかげ。
本当にこの場所は暖かい、皆は優しくて思いやりがある。
(私、今世界で一番幸せ者かも!)
そう思いながら夜空を見上げる。
晴れ渡った空に、いくつもの星々がきらめいていた。
私がこの彩花荘にやってきてから一か月と一日が過ぎた。
彩花荘の前では今も大根おばさんたちが彩花荘は最下層なんて言っている。
確かに未だトイレお風呂共同はちょっと慣れないけど、ここは最下層なんかじゃなくてとっても良いところだ。
「うまい! すげぇ、めっちゃうまい!」
「うん、美味しい美味しい!」
「食卓のレパートリーは増えたけど、お前らは言ってる事同じなんだな」
私がフライパンを購入したこともあって、彩花荘の食卓のレパートリーはかなり増えた。
作り置き系ならきんぴらごぼうに挑戦したりもしたし、肉野菜炒めを作った日なんかお肉の争奪戦である。
お昼ご飯はおなじみの焼きそば屋台。ここの焼きそばもいずれ食い収めを迎えるのだと思うと、感動もひとしきり。やっぱり美味しい!
そして昼過ぎには、大家さんがやってきた。
「はいはい、お前たち。相変わらず元気だねぇ。九月分の家賃の徴収だよ!」
「オレ、今回はさくっと払えますぜ! 太鼓叩きや親方のとこで働いたから!」
「なに胸を張ってるのよ秀男! 毎回さくっと払うのが常識だろ!」
大家さんにどやされつつ、秀男さんが家賃を収める。私もアルバイトのお金や貯金があるので、難なく収めることが出来た。
「アンタ、今月も暮らすのかい。こんなむさ苦しいとこでよく女の子がもつねぇ」
「ちょっとむさ苦しいは否定できないけど……とっても素敵なおうちですから!」
「そう。あなたが良いんならそれで良いんだけど」
蓮人くんもさらりと家賃の支払いを終え、大家さんが去っていく。
私は増宮米店のアルバイトがあるので、支払いを終えてすぐ家を出る。
仕事の関係もあり、都子さんには、今月末には町を出ようと思っていることを伝えた。
都子さんは「残念だわぁ」と寂しがっていたが、不意に私の頭を撫でて「でも、お父さんをポイ捨てせずに前に進むんやね。よく決断したねぇ、偉いわぁ」とも言ってくれた。
お仕事は滞りなく進んだけれど、最後に都子さんにちょっと変わった提案をされる。
「響子ちゃん、今日十五分くらい残業頼める? ここ片して欲しいんよ。シャッターの閉めかたは知ってるよね。頼むわぁ」
「はい、わかりました。やっておきます」
私より先に都子さんが仕事をあがるなんて初めてだなぁ、なんて考えつつ私は残りの業務を片づけた。増宮さんは相変わらず奥にいる。「お先にあがります」と声をかけて増宮米店を出る。
都子さんが早上がりで私が残業なんて不思議だなぁ、と思いながら家路につく。
彩花荘につくと、電気がついていなかった。いつも台所の明かりはつけているのに。
「秀男さーん、蓮人くーん。ただいまー、帰ったよー。台所の電気どうしたのー?」
大きな声で語りかけるが、返事はない。秀男さんは寝ていて、蓮人くんはネットゲームのヘッドフォンで聞こえていないのかな。
でも、ふたりとももう夕飯は済ませた時間のはずだ。
それなのにわざわざ電気を消しているのはおかしい。いったいどうしたのだろう。
「めずらしくふたりで飲みにでも行ったのかなぁ、私も誘ってくれたらいいのに」
そう愚痴をこぼして台所の戸を引くと、一斉に『パパーン!』と大きな音がして、私の頭に何か降りかかってきた。
そして、パッと台所の明かりが灯される。
そこには秀男さんと蓮人くんだけでなく、都子さんや灯里さんもいた。
「えっ、えっ、これ、どういう……皆、どうして!?」
戸惑う私に、秀男さんが照れくさそうにこほんと咳払いをしたあと言った。
「響子! 誕生日おめでとう!」
「まぁ、一か月遅れなんだけどね。おめでとさん」
蓮人くんがクールに付け足した。
「響子ちゃん、一か月遅れちゃったけどハッピーバースデーやで!」
「響子さん、お誕生日おめでとう。びっくりさせちゃったかな?」
都子さんが華やかに笑い、灯里さんが微笑んだ。
(私の、バースデーを祝ってくれているの……!?)
先月、八月一日は彩花荘に来て二日目、大家さんと話したりいろいろバタバタしていて、あっという間に一日が終わり、誕生日だなんてほとんど感慨もなかったけど――。
「まったく、ここの男どもは料理せんから。お祭りの屋台のものばっかやけど」
「ち、違うって! これがその……裏御神楽町流のおもてなしってやつだ!」
「はいはい、フライパンに油もしけないひとがよく言うよ」
「そういう詩人さんは料理してあげなかったの?」
「オレは中途半端には料理しないの。やるなら朝から仕込みたかったけど、朝は響子がいたし……」
「蓮人くん、それ言い訳くさいわー」
テーブルには確かに屋台のお店で作られたものがずらりと並んでいる。
焼きそば、焼きとうもろこし、ケバブに唐揚げにポテトにお好み焼きに――。
でも、それらは全部丁寧にお皿に移してあって、その心配りがありがたい。
何より、私の都合で何も出来なかっただけなのに、一か月の節目にこうして皆が私を祝ってくれることが本当に嬉しかった。
「秀男さん、蓮人くん、都子さん、灯里さん……皆、ありがとうございます!」
「ホントは誕生日の翌日とかに出来たら良かったんだけどよ、そのころはオレらもまだ打ち解けていなかったし、なんかうまく出来なくてよ……」
「ほら、ボーっとしてないで座れよ響子。主役が席に着かなきゃ始まらないだろ」
蓮人くんに促されて、テーブルに座る。
彩花荘のテーブルは四席しかないので、秀男さんは引っ張り出してきたのか、踏み台の上に腰を下ろしていた。
私が席に着くと、都子さんが声をあげた。
「それじゃあ、改めて! 響子ちゃんお誕生日おめでとー!」
皆が拍手で祝福してくれる。
こんな風にお誕生会みたいにバースデーを祝ってもらったのなんて、いつぶりだろう。
ホントにこの場所は、私にとって第二の家族のような場所だ。
暖かくて、優しくって、でもちょっぴり不器用で。
そんなぬくもりに包まれて、私の気持ちもほっこりと心地よい熱を帯びた。
「ホントに、ありがとうございます。突然でびっくりしちゃって、それしか言えないけど……ホントにホントに嬉しいです!」
「いやぁ、アタシも蓮人くんから連絡貰ったときは驚いたわぁ」
「うん、詩人さんがこんなことを現実でするなんて思わなかった。ゲームの中みたい」
「まぁ、発案者は秀男さんなんだけどね。スマホも持ってないし、連絡するのも恥ずかしいっていうからさ。仕方なくってとこ?」
「ば、バカ! オレが言い出しっぺなワケないだろ!」
秀男さんが顔を真っ赤にして否定する。だけど、その態度でバレバレだ。
「秀男さんが企画してくれたんですね。嬉しいな」
テーブルの上をよく見ると、肉じゃががあった。なんだか懐かしい家庭のお料理だ。
「あれ? これって……こんなの屋台にないですよね?」
「これはね、私が詩人さんと作ったの。お口に合えばいいけど……。パーティー向きの料理じゃないなって思ったんだけど、詩人さんがこういうのが良いだろうって」
「ま、まぁオレたちの朝飯晩飯はあんなだし、昼は各自屋台だろ。こういうのも有りかなって思ったんだよ。作ったのは灯里。オレはちょっと口出ししてただけだ」
ふたりの手料理かぁ、ありがたいなぁ――。
「さぁさ、いつまでも料理に見とれてないで冷める前に食べよか!」
「おう! オレたちも晩飯抜いてたからな。遠慮なく食っちまうぞ響子!」
「秀男さん、マジ遠慮しないと思うから。食いたいのはさっさと食っちまえよ」
「ありがとう! それじゃあ遠慮なく、いただきます!」
私がそう言って箸を取ると、皆も口々に「いただきます」を言って箸を取った。
肉じゃがは甘じょっぱくも優しい味付けで、いかにも灯里さんらしい感じがした。
食べなれた屋台の料理たちも、こんな日は格別に美味しく感じられる。
「しかし十八歳になって最初のイベントが家出なんてねぇ、そんなやつ早々居ないな」
「だーかーらー! 何度も言ったでしょ蓮人くん! これは家出じゃなくて旅立ち!」
「旅立ちかぁ、なんかかっこええわぁ。でも思い切ったもんやねぇ」
「ホントにスゴイね、私、家出なんてぜったい出来なさそう……」
「そういう灯里は病院脱走だろうが。同じようなもんだ」
「皆大変なんだなぁ……! オレぁ泣けてくるぜ!」
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一か月遅いけど、改めて十八歳になったんだなぁと感じる瞬間だ。
「せやけど、ようもとの世界に戻る決心したなぁ響子ちゃんは」
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「まぁ、役に立ったんなら何より。大した事言ってないけど」
「こんなこと言ってるけど、詩人さん、ネットゲームでもよく悩み相談とか受けてるのよ」
「オレはよぉ……響子の未来を思うとよぉ……良い形であって欲しいと、うううっ!」
「はいはい秀男さん泣かないでくださいよ、もう」
楽しく食事を終えたあとは、皆が手早く食器を流しに片づけ始めた。
「あ、そんな都子さんや灯里さんまで! 私がやりますから!」
「今日の主役はゆっくり座っておきや、洗い物は男ふたりがしっかりするんやで」
「いつもは茶碗三個と箸を洗うだけなんで、これはハードだな……」
「詩人さん、私も手伝ってあげるから」
食卓がキレイに拭かれて、さっきまでの賑やかさが一転いつものテーブルに戻る。
そこに、秀男さんが冷蔵庫から恐る恐る、大事そうに取り出したもの――ホール状のケーキが置かれた。
「わぁぁ! ケーキまで……感激です!」
「感激するのはまだ早いぞ響子! 都子さん、そこのスイッチ切って」
「はいなぁ」
パチンと台所の明かりが消されると、周囲が真っ暗になる。
そこに秀男さんのライターから、二本のろうそくに火が灯された。
「おしっ! 皆やるぞ!」
「ねぇ、ホントにやるワケ? くっそ恥ずかしいんだけど」
「こういうのは形式が大事なんや! ほないくで、せーっの!」
都子さんの掛け声とともに、四人がハッピーバースデーの歌を歌い始める。
歌詞も「ハッピーバースデー響子ちゃん」に変えられていて、照れくさいけどものすごく嬉しい。歌い終わったあと、拍手とともに秀男さんが言った。
「さあ! 響子、ろうそくの明かりを吹き消せ!」
「声がでかい、秀男さん。その声で火が消えるっつーの」
「皆さん、ありがとうございます。今日の私、なんだかありがとうございますしか言えてないけど、ホントにありがとうございます! それじゃあ……ふっー!」
私は身を乗り出してケーキの火を吹き消した。
それと同時に拍手があがり、それが収まると改めて電灯がつけられる。
丸いホールのケーキを六つ切りにする。五人だけど、こればかりはしょうがない。
「良いんだよ、響子が二個食え! なんせ今日の主役だからな!」
「響子さん、甘いものとか平気? 平気なら秀男さんの言う通り二個食べて」
秀男さんや灯里さんに勧められて、私のお皿にはケーキがふたつ並べられた。
フォークも並ぶ。この家でフォークを見たの初めてかも――。
食器も、大きなお皿がたくさんあったけど、このふたりに使うイメージはない……。
(あ、そうか。ここは前に大家さんが住んでたんだもんね。大家さんが使ってたのかも)
「誕生日にケーキを食べることはあったけど、今回は贅沢だなぁ、いただきます!」
私はもう割りとお腹いっぱいだったけど、ケーキは別腹!
シンプルな生クリーム主体のケーキだけど、だからこそなんだか誕生日っぽさがある。
ケーキを和気あいあいと美味しくいただいて、私のバースデーパーティーもおひらきの時間がやってきた。
と思ったが、まだ皆はニコニコと席に座っている。
「今日は響子ちゃんをきちんと祝えて良かったわぁ。ほら、蓮人くん」
「詩人さん。もう皆ケーキ食べ終わったよ。そろそろ……」
「あー、はいはい。うーん、こほん」
蓮人くんがめずらしく緊張した様子で咳払いをして立ち上がった。
そして台所の奥の棚から、ラッピングされた箱を取り出す。
「皆で選んだプレゼントだ。まぁ、オレの意見も入ってる。おめでとう、これ」
「まったくもう、蓮人くんは不器用やなぁ。もう少し渡し方ってものがあるやろ」
都子さんが笑い、私は立ち上がって蓮人くんの持ったプレゼントを受け取る。
「これって……誕生日プレゼントですか!? ここまで良くしてもらっちゃって……」
「こういうのは最初から最後までやり切るもんだ! いいから開けてみろ響子!」
「うん、響子さん。開けてみて」
皆に促され、私はリボンをほどきラッピングされた箱を開ける。
奥から出てきた白い箱のふたを取ると、そこには美しいネックレスがあった。
「わぁ……素敵です! ああもう、どうしよう嬉しい!」
「水晶のあしらってあるネックレスだ。水晶には魔除け・厄除けの効果もある。まぁ、そういうのをオレは頭から信じているワケじゃないけど、縁起物っつーか」
「そうそう、蓮人くんの発案なんやで。なかなかやるやろ」
「オレはこーいうの疎いからな! 助かったぜ!」
「ねぇ、響子さん。良かったらさっそくネックレス付けてみてくれない?」
灯里さんのリクエストに応えて、ケースからネックレスを取り出して首に着ける。
皆に見えるように襟元を開いて、私は照れ笑いをして聞いた。
「大人っぽいデザインだけど……どうですか? 変じゃないかな?」
「よく似合ってるぞ響子! いやぁ、良かった。ここに来てからオシャレの機会なんて作ってやれなかったもんな!」
「まぁ、似合ってるんじゃない。さすがオレのチョイスって感じ?」
「ええ感じや響子ちゃん。それなら派手過ぎないから、お仕事に着けてきてもええからな」
皆口々に褒めてくれて、なんだか照れくさい。
ごちそうに、ケーキに、プレゼント。
私、ここに来てまだ一か月なのに――こんなに素敵にバースデーを祝ってもらえるなんて。なんて幸せものなのだろう。私はちょっぴり涙ぐんでしまう。
「皆、ホントにありがとうございます。今日の私、お礼しか出てこない。嬉しい」
「よし、じゃあまぁ、照れくさいイベントもここで幕。片づけしますか秀男さん」
「ここでぶった切るかぁ? でもあんまり遅くなっても女の子ふたりに悪いか」
「あら、秀男さんらしからぬ気配りねぇ」
都子さんが笑うと、蓮人くんが言った。
「灯里はオレが送っていくよ」
「詩人さん、ホント? ありがとう。それなら私、片づけもやっていく」
「私も! これだけ祝ってもらったんだし、片づけくらい手伝わせてください!」
そう言ったけど、蓮人くんが皮肉な笑みを浮かべて私の提案を却下した。
「あいにくうちの台所は狭いんでな。定員オーバーだ。お前は温泉でも行ってこい」
「そや、それは良い考えやなぁ。最後にさっぱりするのもええかもしれん」
「ここは任せて、響子さん。今日は年に一度のあなたが主役の日なんだから」
「でも……」
「そうだ、ほらほら行ってこい響子!」
秀男さんに背中を押されるようにして温泉に送り出されそうになる。
私はなんとか着替えとタオルを持って、彩花荘を出た。
温泉にやってきて、ゆっくり湯船につかる。
(最高のバースデーのお祝いだったな。皆にはホントに感謝だ)
露天風呂に入る。暖まったあと、お風呂の淵に座り夜風にあたる。
まだ九月は始まったばかりだけど、以前風に当たったときより涼しく感じられた。
(彩花荘で暮らすのもあと一か月を切ったのか。私、家に帰ったら頑張らなきゃな)
そんな前向きな思いになれるのも、皆のおかげ。
本当にこの場所は暖かい、皆は優しくて思いやりがある。
(私、今世界で一番幸せ者かも!)
そう思いながら夜空を見上げる。
晴れ渡った空に、いくつもの星々がきらめいていた。
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家から追い出されました!?
ハル
青春
一般家庭に育った私、相原郁美(あいはら いくみ)は両親のどちらとも似ていない点を除けば、おおよそ人が歩む人生を順調に歩み、高校二年になった。その日、いつものようにバイトを終えて帰宅すると、見知らぬ、だが、容姿の整った両親に似ている美少女がリビングで両親と談笑している。あなたは一体だれ!?困惑している私を見つけた両親はまるで今日の夕飯を言うかのように「あなた、やっぱりうちの子じゃなかったわ。この子、相原美緒(あいはら みお)がうちの子だったわ。」「郁美は今から施設に行ってもらうことになったから。」と言われる。
急展開・・・私の人生、どうなる??
カクヨムでも公開中
C-LOVERS
佑佳
青春
前半は群像的ラブコメ調子のドタバタ劇。
後半に行くほど赤面不可避の恋愛ストーリーになっていきますので、その濃淡をご期待くださいますと嬉しいです。
(各話2700字平均)
♧あらすじ♧
キザでクールでスタイリッシュな道化師パフォーマー、YOSSY the CLOWN。
世界を笑顔で満たすという野望を果たすため、今日も世界の片隅でパフォーマンスを始める。
そんなYOSSY the CLOWNに憧れを抱くは、服部若菜という女性。
生まれてこのかた上手く笑えたことのない彼女は、たった一度だけ、YOSSY the CLOWNの芸でナチュラルに笑えたという。
「YOSSY the CLOWNに憧れてます、弟子にしてください!」
そうして頭を下げるも煙に巻かれ、なぜか古びた探偵事務所を紹介された服部若菜。
そこで出逢ったのは、胡散臭いタバコ臭いヒョロガリ探偵・柳田良二。
YOSSY the CLOWNに弟子入りする術を知っているとかなんだとか。
柳田探偵の傍で、服部若菜が得られるものは何か──?
一方YOSSY the CLOWNも、各所で運命的な出逢いをする。
彼らのキラリと光る才に惹かれ、そのうちに孤高を気取っていたYOSSY the CLOWNの心が柔和されていき──。
コンプレックスにまみれた六人の男女のヒューマンドラマ。
マイナスとマイナスを足してプラスに変えるは、YOSSY the CLOWNの魔法?!
いやいや、YOSSY the CLOWNのみならずかも?
恋愛も家族愛もクスッと笑いも絆や涙までてんこ盛り。
佑佳最愛の代表的物語、Returned U NOW!
【完結】僕は君を思い出すことができない
朱村びすりん
青春
「久しぶり!」
高校の入学式当日。隣の席に座る見知らぬ女子に、突然声をかけられた。
どうして君は、僕のことを覚えているの……?
心の中で、たしかに残り続ける幼い頃の思い出。君たちと交わした、大切な約束。海のような、美しいメロディ。
思い出を取り戻すのか。生きることを選ぶのか。迷う必要なんてないはずなのに。
僕はその答えに、悩んでしまっていた──
「いま」を懸命に生きる、少年少女の青春ストーリー。
■素敵なイラストはみつ葉さまにかいていただきました! ありがとうございます!
岩にくだけて散らないで
葉方萌生
青春
風間凛は父親の転勤に伴い、高知県竜太刀高校にやってきた。直前に幼なじみの峻から告白されたことをずっと心に抱え、ぽっかりと穴が開いた状態。クラスにもなじめるか不安な中、話しかけてきたのは吉原蓮だった。
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【完結】さよなら、私の愛した世界
東 里胡
青春
十六歳と三ヶ月、それは私・栗原夏月が生きてきた時間。
気づけば私は死んでいて、双子の姉・真柴春陽と共に自分の死の真相を探求することに。
というか私は失くしたスマホを探し出して、とっとと破棄してほしいだけ!
だって乙女のスマホには見られたくないものが入ってる。
それはまるでパンドラの箱のようなものだから――。
最期の夏休み、離ればなれだった姉妹。
娘を一人失い、情緒不安定になった母を支える元家族の織り成す新しいカタチ。
そして親友と好きだった人。
一番大好きで、だけどずっと羨ましかった姉への想い。
絡まった糸を解きながら、後悔をしないように駆け抜けていく最期の夏休み。
笑って泣ける、あたたかい物語です。
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