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第38話 試合

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「おっまだいたのか……ってなんだよ、でかい割に腕ほっそいなお前、そんなんで剣振れんのかよっ」
リング際で振り返るランド王子だが俺を見て明らかにがっかりしている。

仕方ないだろ。俺は魔法使いなんだから。
筋トレばかりしている戦士や剣士たちとは違うんだ。

「まあいいだろ、ちゃっちゃとやろうぜっ。手加減はしてやるからよっ」
「そりゃどうも」
「いつでもいいぜ、かかってこいっ」

『手始めにギリギリまで近付け。ランド王子の間合い直前で私が止まれと言うから止まるんだ、いいな』
はいはい。

プルセラ王女の操り人形と化した俺は剣を構えながらじりじりと距離を詰めていく。
『そのままゆっくり近付け……三、二、一、止まれっ』

俺はプルセラ王女の声に従い止まった。
ランド王子は攻撃してこない。

『さっきまでの戦いを見る限りランド王子は右から左下に剣を振り下ろした後少しだけ隙が出来る。そこを狙え』
狙えって言っても……。

「そっちからこいよ、木偶の坊っ」
向こうは先に攻撃する気がないようだ。

「ランド王子は手加減する気満々なんで剣振ってこないですけど」
俺は小声で話す。

『だったらお前から仕掛けろ!』
いや、それだと作戦もくそもないんじゃ……。

『いいから、行けっ!』
俺の心の声を感じ取ったのかプルセラ王女は大声で叫んだ。

仕方なく俺は剣を振りかぶって「やあっ!」とランド王子に向かっていった。

「おいおい、マジかよお前」
ランド王子は俺の剣をひょいと簡単にかわすと俺のふくらはぎあたりをザシュッと斬りつけた。

「いっ!」
俺は足がもつれてリングに倒れてしまう。

「お前もうリングから下りろ、弱すぎて話になんねぇ」

『な、何やってるんだっ、バカもの! さっさとそいつを倒せっ!』
無茶な要求をしてくるプルセラ王女。

「今のお前じゃ一万回やってもオレに一発も食らわせることだって出来ねぇよ」
確かにランド王子の言う通り今の俺では絶対に勝てない。
だから……。
俺は剣を足元に置き、両手を胸の前で合わせ目をつぶった。

「……おい、なんのつもりだ?」
ランド王子の声の調子が少し変わった。

「い、いやあちょっと精神集中を……」
「ふざけんな! オレの前で剣を捨てて目をつぶるなんていい度胸してるじゃねぇか、ああ?」
「別に捨てたわけでは――」
「黙れ!」
ランド王子は声を荒らげる。

「オレが手加減してやってたらいい気になりやがって、おらぁっ!」

ザクッ!

お腹のあたりを刺された。剣が体を貫通しているのが感覚でわかる。
「ぐぅっ……」
俺は体を丸めて地面に倒れ込む。
生温かい。きっと大量の血が出ていることだろう。

『スタンスっ!』
プルセラ王女の声が聞こえる。

ダンッと俺の頭を踏みつけるランド王子。

「オレをバカにした奴はどうなるか教えといてやらぁ!」

『スタンスやめだっ、もういいっ!』
プルセラ王女の必死そうな声。

俺はサッカーボールのように顔面を強く蹴られる。

「ぶふっ……!」

鼻で息が出来ない。
鼻血も出ているようだ。

『スタンス、今そっちへ向かっている! お前はもういいからリングを下りろっ!』

俺はよろめきながら立ち上がる。
「はぁっ……はぁっ……」

「はんっ。これは剣術の正式な試合だ。つまり……試合中に死んでもおとがめなしだぜっ!」
ランド王子が大声を上げた瞬間俺はカッと目を見開き後ろに跳びのいた。

すかっ。

ランド王子の剣が空を切る。

「なっ!?」
ランド王子が驚きの顔を見せた。

「お前、まだ動けたのかっ」
「まだ動けたも何も俺はピンピンしてるぞ」
服をめくってお腹を見せてやる。
ヒールの魔法が効力を発揮し体に負っていた傷は全回復していた。
もちろん鼻血も止まっている。

「何っ、ど、どういうことだ!? オレは確かに内臓を突き破ってやったはずなのにっ!」
「スタンスっ!」
その時プルセラ王女がリング下に駆けつけてきた。

俺は剣を拾うとプルセラ王女に「言いつけ通り倒しますよ」と言い放つ。

「倒すだとっ、オレをか、クソやろーっ!」
ランド王子の剣を俺は紙一重でかわす。

「クソがっ……」
次々と襲い掛かってくる剣撃。
ランド王子の剣さばきは見事としか言いようがないがダブルアクセルで身体強化した今の俺には避けられないことはない。

「なんで当たらねぇんだっ!」

ランド王子が右から左下に剣を大きく振り下ろした。

今だっ!

俺は一瞬の隙を逃さずがら空きになったみぞおちに思いきり剣の柄を突き当てた。

「ごはぁっ……!!」

よだれを垂らしながらリングに前のめりに倒れるランド王子。
「ランドっ!?」と叫んだあとガシュウ国王も泡を吹いてVIP席に倒れ込む。

なんか厄介な親子だな。


静寂が辺りを包んでいると、イヤホンからプルセラ王女の声が届いてきた。

『私がこれから言うことをランド王子に言うんだ。いいなっ』

リング下にいるプルセラ王女に目をやると「こっちを見るな」というジェスチャーをしてくる。


『ランド王子、俺の勝ちだ』
「……」
『言え、早くっ』
「……ランド王子、俺の勝ちだ」
俺は倒れているランド王子を見下ろしながら言った。

『約束通りジュエル王女はいただく』
「約束通りジュエル王女はいただく」

『両国王が見ている前での試合だ、男に二言はないな』
「両国王が見ている前での試合だ、男に二言はないな」

『それとジュエル王女!』
「それとジュエル王女!」
VIP席にいるジュエル王女に向かって叫ぶ。

『結婚しよう!』
「結婚し……って言えるかっ」

『こら、ちゃんと私の言う通りに言え!』
「結婚はやっぱり好きな人とするべきですっ」
『お前好きな奴でもいるのか?』
「いませんよ」
『だったらいいじゃないか』
「ジュエル王女がよくないでしょ」

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VIP席から目を細めながらジュエル王女が声を発した。
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「……」
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「だからジュエル王女……まずは友達になりましょう!」
「……」
ジュエル王女は何も返さない。

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