上 下
32 / 66

第32話 動いた石像

しおりを挟む
石像が剣を振りかぶりながらこっちに向かってジャンプしてきた。

ドスーン!

棺を飛び越えて俺たちの前に剣を振り下ろしながら着地する。
「うあっぶねっ」
ギリギリのところで剣には当たらなかったがもう少しで死んでいた。

「な、なんなんだこいつはっ!?」
プルセラ王女が声を震わしながら言う。

「わかりませんよ。プルセラ王女は知らないんですかっ?」
「知らないから訊いてるんだろうがっ」

石像はまた剣を振りかぶった。

「とにかく逃げますよっ」
「なんでだっ。倒せよ、お前強いんだろっ」
「だってこいつモンスターじゃないですよっ」
むしろ棺を守っていたようにすら思える。

俺はプルセラ王女の手を取るともと来た道を走った。

後ろを確認すると石像は走れないようでドスーン、ドスーンとジャンプしながら追ってきている。

「おい、あいつ追ってくるぞっ」
「わかってますよ」

狭い通路をジャンプしながら追いかけてくる石像だったが、通路は入り口に行くほど狭くなっていたためズズンッと壁に挟まり動けなくなった。

俺たちはその間に外に避難した。

「はぁっ、はぁっ、王女を走らせやがって、お前という奴は……」
「はぁっ……逃げ切れたんだからいいじゃないですか」
膝に手を置き息を整える。

「ふぅっ……あっついな、まったく」
額の汗をドレスの袖で拭うとプルセラ王女はスカートをばさばさっとめくる。
白い脚が太ももまであらわになる。

「ちょっと、王女なんだからはしたないことしないでくださいよ」
「暑いんだからしょうがないだろ。もとはといえばお前があの石像を倒さないから悪いんだぞっ」
「だからさっきも言いましたけど――」

ドゴン!

王家の墓の中から音がした。

「おい、今のなんの音だ?」
「さあ?」
「さあ? だと。役立たずめ……嫌な予感がするのは私だけか?」

すると、

ドガーン!

狭い通路を無理矢理破壊して石像が飛び出してきた。

「うわっやっぱり、また来たぞっ」
プルセラ王女は声を上げる。

「今度こそあいつを倒せスタンス、これは命令だ。やらないなら報酬は払わないからなっ」
「なっ……わかりましたよ」

そう言うと俺は手をクロスさせ、

「ウインドカッター!」

風の刃を放った。
十字型の風の刃が石像めがけて飛んでいく。

これで石像は四分割になるはずだ。
そう確信した。が、石像に当たる寸前で風の刃はばしゅんとかき消えた。

「何してるんだ、お前っ。手加減してる場合かっ」
「いや、手加減とかではなくて……あいつ魔法を無効化できるっぽいです」
「なんだとっ!?」

魔法無効化の特性を持つモンスターというものはまれにいる。
そういうモンスターは魔法が一切効かないので物理攻撃で倒すしかないのだがあいにく俺は非力な魔法使いだからそういう相手はまさに天敵なのだ。

「お前の攻撃は効かないってことかっ? じゃあどうするつもりだスタンスっ」
「そうですね……」
とりあえず……。

「アースクエイク!」
俺が唱えると石像の足元が崩壊し石像が地中に埋まる。

「おお! やったのか?」
「いえ、ただの時間稼ぎです」
「時間稼ぎっ? じゃあやっぱりお前には倒せないのかっ?」
「もう少し時間をもらえれば多分何とかなると思います、けど……」
「けどなんだ?」
不安そうに言うプルセラ王女を残して俺は「スカイハイ!」と唱え空に飛び上がった。

「あっ、おいこらっ。私を置いて逃げるのかっ!」
「そうではなくて少し時間が必要なんです」
「えっ、何? よく聞こえないぞっ!」

プルセラ王女が何か叫んでいるが俺は気にせず胸の前で手を合わせ、

「ダブルアクセル!」

と呪文を唱える。

この魔法は魔力を体の表面に集中させて纏い身体能力を高めるものなのだが集中するのに時間がかかってしまうのが難点なのだ。

「おいこら、下りてこいバカ者っ! お前は私の護衛役だろうがっ!」

しかもこの魔法、発動までの溜めの間は目をつぶってないといけない。
だからいったん空中に避難したのだ。決してプルセラ王女を見捨てたわけではない。
むしろ助けるためにこうやっているというのに、

「スタンス、お前はクビだっ! 報酬なんか絶対払ってやらないからなっ!」

などとプルセラ王女は大声を上げながら石像から逃げ回っているようだった。

「死んだら化けて出てやるぞっ!」
「もうすぐですから頑張ってください!」
「何がだーっ!」


☆ ☆ ☆


俺はカッと目を見開く。
「よしっ」
魔力を体に纏った俺は石像に追われているプルセラ王女の後ろに瞬時に移動すると振り下ろされた剣を片手で受け止めた。

「お待たせしました。プルセラ王女」
振り返って言う。

「お、お前……今まで何してたんだこらっ!」
俺の背中をどすどす殴ってくるプルセラ王女。
身体強化しているから全然痛くない。

俺は掴んだ剣を上に持ち上げる。すると剣ごと石像も持ち上がった。
俺はそのまま思い切り剣をびゅんと振り下ろした。
石像が剣から手を放し王家の墓に吹っ飛んでいき激突する。
がらがらと音を立てて崩れる王家の墓。

石像は再び立ち上がろうとしたが地面に前のめりに倒れると一切動かなくなった。

俺は石像が持っていた剣を地面に投げ捨てる。
「大丈夫でしたか? プルセラ王女」
「あ、ああ、ありがと……って死ぬとこだったぞ、もっと早く助けろっ!」
胸をばすばすどつく。もちろん痛くはない。

「いや、だからそのために――」
「報酬はやらん!」
「えっちょっと、それは話が違うでしょう」
「知るかっ!」
プルセラ王女は俺を置いてずんずんと歩いていく。

この後一応報酬はもらえたのだが、壊した王家の墓の修繕費用に金貨百枚を請求された俺は結局収支プラマイゼロで終わった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界の約束:追放者の再興〜外れギフト【光】を授り侯爵家を追い出されたけど本当はチート持ちなので幸せに生きて見返してやります!〜

KeyBow
ファンタジー
 主人公の井野口 孝志は交通事故により死亡し、異世界へ転生した。  そこは剣と魔法の王道的なファンタジー世界。  転生した先は侯爵家の子息。  妾の子として家督相続とは無縁のはずだったが、兄の全てが事故により死亡し嫡男に。  女神により魔王討伐を受ける者は記憶を持ったまま転生させる事が出来ると言われ、主人公はゲームで遊んだ世界に転生した。  ゲームと言ってもその世界を模したゲームで、手を打たなければこうなる【if】の世界だった。  理不尽な死を迎えるモブ以下のヒロインを救いたく、転生した先で14歳の時にギフトを得られる信託の儀の後に追放されるが、その時に備えストーリーを変えてしまう。  メイヤと言うゲームでは犯され、絶望から自殺した少女をそのルートから外す事を幼少期より決めていた。  しかしそう簡単な話ではない。  女神の意図とは違う生き様と、ゲームで救えなかった少女を救う。  2人で逃げて何処かで畑でも耕しながら生きようとしていたが、計画が狂い何故か闘技場でハッスルする未来が待ち受けているとは物語がスタートした時はまだ知らない・・・  多くの者と出会い、誤解されたり頼られたり、理不尽な目に遭ったりと、平穏な生活を求める主人公の思いとは裏腹に波乱万丈な未来が待ち受けている。  しかし、主人公補正からかメインストリートから逃げられない予感。  信託の儀の後に侯爵家から追放されるところから物語はスタートする。  いつしか追放した侯爵家にザマアをし、経済的にも見返し謝罪させる事を当面の目標とする事へと、物語の早々に変化していく。  孤児達と出会い自活と脱却を手伝ったりお人好しだ。  また、貴族ではあるが、多くの貴族が好んでするが自分は奴隷を性的に抱かないとのポリシーが行動に規制を掛ける。  果たして幸せを掴む事が出来るのか?魔王討伐から逃げられるのか?・・・

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

ハズレ職業のテイマーは【強奪】スキルで無双する〜最弱の職業とバカにされたテイマーは魔物のスキルを自分のものにできる最強の職業でした〜

平山和人
ファンタジー
Sランクパーティー【黄金の獅子王】に所属するテイマーのカイトは役立たずを理由にパーティーから追放される。 途方に暮れるカイトであったが、伝説の神獣であるフェンリルと遭遇したことで、テイムした魔物の能力を自分のものに出来る力に目覚める。 さらにカイトは100年に一度しか産まれないゴッドテイマーであることが判明し、フェンリルを始めとする神獣を従える存在となる。 魔物のスキルを吸収しまくってカイトはやがて最強のテイマーとして世界中に名を轟かせていくことになる。 一方、カイトを追放した【黄金の獅子王】はカイトを失ったことで没落の道を歩み、パーティーを解散することになった。

【完結】異世界転移特典で創造作製のスキルを手に入れた俺は、好き勝手に生きてやる‼~魔王討伐?そんな物は先に来た転移者達に任せれば良いだろ!~

アノマロカリス
ファンタジー
俺が15歳の頃…両親は借金を膨らませるだけ膨らませてから、両親と妹2人逃亡して未だに発見されていない。 金を借りていたのは親なのだから俺には全く関係ない…と思っていたら、保証人の欄に俺の名前が書かれていた。 俺はそれ以降、高校を辞めてバイトの毎日で…休む暇が全く無かった。 そして毎日催促をしに来る取り立て屋。 支払っても支払っても、減っている気が全くしない借金。 そして両親から手紙が来たので内容を確認すると? 「お前に借金の返済を期待していたが、このままでは埒が明かないので俺達はお前を売る事にした。 お前の体の臓器を売れば借金は帳消しになるんだよ。 俺達が逃亡生活を脱する為に犠牲になってくれ‼」 ここまでやるか…あのクソ両親共‼ …という事は次に取り立て屋が家に来たら、俺は問答無用で連れて行かれる‼ 俺の住んでいるアパートには、隣人はいない。 隣人は毎日俺の家に来る取り立て屋の所為で引っ越してしまった為に、このアパートには俺しかいない。 なので取り立て屋の奴等も強引な手段を取って来る筈だ。 この場所にいたら俺は奴等に捕まって…なんて冗談じゃない‼ 俺はアパートから逃げ出した!   だが…すぐに追って見付かって俺は追い回される羽目になる。 捕まったら死ぬ…が、どうせ死ぬのなら捕まらずに死ぬ方法を選ぶ‼ 俺は橋の上に来た。 橋の下には高速道路があって、俺は金網をよじ登ってから向かって来る大型ダンプを捕らえて、タイミングを見てダイブした! 両親の所為で碌な人生を歩んで来なかった俺は、これでようやく解放される! そして借金返済の目処が付かなくなった両親達は再び追われる事になるだろう。 ざまぁみやがれ‼ …そう思ったのだが、気が付けば俺は白い空間の中にいた。 そこで神と名乗る者に出会って、ある選択肢を与えられた。 異世界で新たな人生を送るか、元の場所に戻って生活を続けて行くか…だ。 元の場所って、そんな場所に何て戻りたくもない‼ 俺の選択肢は異世界で生きる事を選んだ。 そして神と名乗る者から、異世界に旅立つ俺にある特典をくれた。 それは頭の中で想像した物を手で触れる事によって作りだせる【創造作製】のスキルだった。 このスキルを与えられた俺は、新たな異世界で魔王討伐の為に…? 12月27日でHOTランキングは、最高3位でした。 皆様、ありがとうございました。

エラーから始まる異世界生活

KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。 本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。 高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。 冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。 その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。 某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。 実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。 勇者として活躍するのかしないのか? 能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。 多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。 初めての作品にお付き合い下さい。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。

ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。 剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。 しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。 休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう… そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。 ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。 その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。 それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく…… ※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。 ホットランキング最高位2位でした。 カクヨムにも別シナリオで掲載。

チートスキル【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得&スローライフ!?

桜井正宗
ファンタジー
「アウルム・キルクルスお前は勇者ではない、追放だ!!」  その後、第二勇者・セクンドスが召喚され、彼が魔王を倒した。俺はその日に聖女フルクと出会い、レベル0ながらも【レベル投げ】を習得した。レベル0だから投げても魔力(MP)が減らないし、無限なのだ。  影響するステータスは『運』。  聖女フルクさえいれば運が向上され、俺は幸運に恵まれ、スキルの威力も倍増した。  第二勇者が魔王を倒すとエンディングと共に『EXダンジョン』が出現する。その隙を狙い、フルクと共にダンジョンの所有権をゲット、独占する。ダンジョンのレアアイテムを入手しまくり売却、やがて莫大な富を手に入れ、最強にもなる。  すると、第二勇者がEXダンジョンを返せとやって来る。しかし、先に侵入した者が所有権を持つため譲渡は不可能。第二勇者を拒絶する。  より強くなった俺は元ギルドメンバーや世界の国中から戻ってこいとせがまれるが、もう遅い!!  真の仲間と共にダンジョン攻略スローライフを送る。 【簡単な流れ】 勇者がボコボコにされます→元勇者として活動→聖女と出会います→レベル投げを習得→EXダンジョンゲット→レア装備ゲットしまくり→元パーティざまぁ 【原題】 『お前は勇者ではないとギルドを追放され、第二勇者が魔王を倒しエンディングの最中レベル0の俺は出現したEXダンジョンを独占~【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得~戻って来いと言われても、もう遅いんだが』

処理中です...