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第20話 デボラさんの頼み事

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「えっ? マーキュリーさん帰っちゃったんですか?」

夜になってマーキュリーが故郷の村に帰ったことをフローラに報告するとフローラは驚いた様子で訊いてきた。

「ああ。よろしく言っといてくれってさ」
「そうですか。せっかく仲良くなれたのに残念です」
「まあ、またそのうちひょっこり顔を出すだろ」
フットワークの軽い奴だったからな。

「そうですね。その時を楽しみにしています」
フローラが笑顔で返した。

とその時、
「スタンスいるかい! ちょっと邪魔するよー!」
玄関の方から大きな声がした。

声の主はデボラさんだった。
リビングに勝手に上がってくるがこの村ではごく自然なことなのでもう慣れた。

「こんばんは、デボラさん」
「こんばんは、フローラ。はいこれおすそわけの豆のシチューだよ。二人で食べとくれ」
「わあ、ありがとうございます」
デボラさんは持っていた鍋をフローラに手渡す。

「こんばんはデボラさん。俺に何か用ですか?」
「ああ、実はあんたに頼みがあって来たんだよ」
いつになく真剣な顔でデボラさんは言う。

「頼み?」
「前にあたしの息子たちのことを話しただろう。都会で働いてるって」
「言ってましたね」
なんとなくだが憶えている。

「下の方の息子はあんたと同い年なんだけど今カルネ地区のゴッサム城で衛兵見習いをやっているんだよ」
「ゼットさん小さい頃からお城で働くのが夢でしたもんね」
とフローラ。

「まあね。それで念願の夢が叶ったのはいいんだけどどういうわけかゼットがその仕事を辞めたがっているんだよ」
「はぁ、そうなんですか」
「理由を訊いても教えてくれないし、最近は手紙もめっきり返ってこなくなってね。あのバカ何を考えているんだか……」
額に手を当てため息をつくデボラさん。

うーん。デボラさんが困っているのは分かった。
だがそんな話を俺にされても……。

「あのう、それで俺に頼みっていうのは?」
「あんたにちょっと城まで行ってバカ息子にガツンと言ってもらいたいんだよ。そんな簡単に夢を諦めるんじゃないって」
「俺が、ですか?」
なにゆえ?

「さっき買い物に来てたコロンちゃんに聞いたよ。あんたもとは勇者のパーティーにいた凄腕の魔法使いなんだろ。魔法でどんな遠いところにでも一瞬で行けるってコロンちゃんが教えてくれたんだよ」
「……コロンが? 喋っちゃったんですか?」
「ああ。そのあとすぐに口を滑らせちゃいました~って言いながら自分の頭をぽかぽか叩いてたけどね」
「あー……」
その時の慌てているコロンの姿が目に浮かぶ。

「近所のよしみで頼まれてくれないかい。お願いだよ、スタンス」
「そんな、頭を上げてくださいって……」
深々と頭を下げるデボラさん。
デボラさんにはこの村に来た当初からお世話になっているからむげには出来ない。

「わかりましたよ。そのゼットでしたっけ? に会ってきますよ」
「本当かい? ありがとうよスタンス」
俺の手を取って両手で包む。

「あっ、でも俺顔知らないんですけど……」
「それなら大丈夫さ。ゴッサム城に行って衛兵見習いのゼットに会いたいって言えば会えるよ。見た目はあたしとうり二つだから間違えることはないさ」
「そうなんですか……」
デボラさんにそっくりな同い年の男か……中性的な顔立ちなのかな。

それにしてもフローラにコロンにマーキュリーにデボラさん。
なんか俺の素性を知る人がどんどん増えていっているなぁ。
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