109 / 109
第109話 メタムンと俺
しおりを挟む
気付くと俺は沖縄の実家にいた。
しかもなぜか裸でだ。
「うおっ!? 善っ!? な、何やってるんだこんなとこでっ!?」
「まあ、善っ。あんた裸で何してるのよっ!」
父さんと母さんが俺を見て驚きの声を上げる。
「と、父さんっ! か、母さんっ! お、俺、帰ってこれたんだっ! 帰ってこれたんだよーっ!」
「裸でひっつくな! それよりお前、入学式はどうしたんだっ?」
「あ、あんた、東京に行ったんじゃなかったのっ?」
「…………へっ?」
☆ ☆ ☆
父さんと母さんからよくよく話を聞くと、今日は神里大学の入学式当日だというではないか。
もちろん初めはそんなこと信じなかった。
父さんと母さんが俺を担いでいるのだろう、そう思った。
だが二人にはそんな様子はこれっぽっちもないし、何より俺を騙す理由がない。
「じゃ、じゃあ、俺は昨日家を出て東京に向かったのか?」
「そうだろうが」
「そんで今日が入学式?」
「あんたがそう言ってたんでしょ」
「あ、ああ……そうか……うん」
父さんも母さんも俺が数ヶ月もの間いなくなっていたということをまったく知らない。
その事実がすべてなかったことになっている。
「何ぼーっとしてるんだっ。さっさと東京に行って入学式に出てこいっ!」
「え、で、でも今から行ったって――」
「ここにいてもしょうがないでしょ!」
「そ、そりゃそうだけどっ」
俺は父さんと母さんに強引に家を追い出されてしまった。
やむなく俺は東京へと向かうのだった。
☆ ☆ ☆
結論から言うと、俺以外の【魔物島】にいたみんなも俺と同じだったようで、家族や知り合いにこれまでの経緯を説明してもまったく信じてもらえなかったそうだ。
そして入学式に参加した学生たちがあまりにも少なかったという理由で、翌日入学式はやり直された。
それから【魔物島】で死んでしまっていた者たち、消えた者たちもなぜか全員何事もなかったかのように戻ってきていた。
その代わりといってはなんだが、彼らには【魔物島】での記憶が一切残ってはいないようだった。
米村大地と再び顔を合わせた時はさすがに驚いたが、向こうは記憶がまったくないので涼しい顔をしていた。
だが俺は、米村大地の本性を知っている。
いつか証拠をそろえて警察に突き出してやるか。
さらに【魔物島】で発現したレベルシステムは消えていて、俺たちの身体能力は並のそれに戻っていた。
同時にスマホからも【魔物島】で入手したアイテムは【魔物島】のアプリごとすべてきれいさっぱりなくなっていた。
大学生活が始まってからも【魔物島】にいた記憶がある者たちはそのことを近しい人間に話していたが、レベルもアイテムもすべて消えてしまっていたため、その話をまともに取り合ってくれる者は誰一人としていなかった。
つまり結局、俺たちがいた【魔物島】はどこに存在しているのか今もなおわからないままだ。
☆ ☆ ☆
メタムン、聞いているか。
俺は今大学に毎日ちゃんと通っているぞ。
小中高と友達のいなかった俺にもそれなりに話しかけてくれる学生はいるんだ。
【魔物島】での出来事も無駄じゃなかったってことかな。
あー、それと、北原奏美とすみれ、そして梶谷と深町とは大学でもちょくちょく会って話をする仲だ。
特にすみれとはまるで打ち合わせたかのように履修科目がすべて同じだから、ほぼ毎日一緒にいるんだ。
お互いコミュニケーション能力に難がある者同士だけど、まあ、上手くやっているよ。
メタムン。俺、少しは変われたかな。
もし、もしそうだとしたら、それはメタムン、お前のおかげだよ。
お前がいてくれたから、【魔物島】でのメタムンとの日々があったから――
「柴木くん、次の講義遅れちゃうよーっ!」
「柴木、早くしろーっ」
「なに、一人でたそがれてんだよっ」
「し、柴木さんっ……い、急いでくださいっ……」
四人にうながされた俺は返事を飛ばす。
「あ、ああ、わかってるよ! 今行くっ!」
――まあ、とにかくだ。
メタムン、感謝してるよ。ありがとう。
俺は前に向き直ると、太陽に燦燦と照らされて輝く大学校舎へと駆け出していくのだった。
しかもなぜか裸でだ。
「うおっ!? 善っ!? な、何やってるんだこんなとこでっ!?」
「まあ、善っ。あんた裸で何してるのよっ!」
父さんと母さんが俺を見て驚きの声を上げる。
「と、父さんっ! か、母さんっ! お、俺、帰ってこれたんだっ! 帰ってこれたんだよーっ!」
「裸でひっつくな! それよりお前、入学式はどうしたんだっ?」
「あ、あんた、東京に行ったんじゃなかったのっ?」
「…………へっ?」
☆ ☆ ☆
父さんと母さんからよくよく話を聞くと、今日は神里大学の入学式当日だというではないか。
もちろん初めはそんなこと信じなかった。
父さんと母さんが俺を担いでいるのだろう、そう思った。
だが二人にはそんな様子はこれっぽっちもないし、何より俺を騙す理由がない。
「じゃ、じゃあ、俺は昨日家を出て東京に向かったのか?」
「そうだろうが」
「そんで今日が入学式?」
「あんたがそう言ってたんでしょ」
「あ、ああ……そうか……うん」
父さんも母さんも俺が数ヶ月もの間いなくなっていたということをまったく知らない。
その事実がすべてなかったことになっている。
「何ぼーっとしてるんだっ。さっさと東京に行って入学式に出てこいっ!」
「え、で、でも今から行ったって――」
「ここにいてもしょうがないでしょ!」
「そ、そりゃそうだけどっ」
俺は父さんと母さんに強引に家を追い出されてしまった。
やむなく俺は東京へと向かうのだった。
☆ ☆ ☆
結論から言うと、俺以外の【魔物島】にいたみんなも俺と同じだったようで、家族や知り合いにこれまでの経緯を説明してもまったく信じてもらえなかったそうだ。
そして入学式に参加した学生たちがあまりにも少なかったという理由で、翌日入学式はやり直された。
それから【魔物島】で死んでしまっていた者たち、消えた者たちもなぜか全員何事もなかったかのように戻ってきていた。
その代わりといってはなんだが、彼らには【魔物島】での記憶が一切残ってはいないようだった。
米村大地と再び顔を合わせた時はさすがに驚いたが、向こうは記憶がまったくないので涼しい顔をしていた。
だが俺は、米村大地の本性を知っている。
いつか証拠をそろえて警察に突き出してやるか。
さらに【魔物島】で発現したレベルシステムは消えていて、俺たちの身体能力は並のそれに戻っていた。
同時にスマホからも【魔物島】で入手したアイテムは【魔物島】のアプリごとすべてきれいさっぱりなくなっていた。
大学生活が始まってからも【魔物島】にいた記憶がある者たちはそのことを近しい人間に話していたが、レベルもアイテムもすべて消えてしまっていたため、その話をまともに取り合ってくれる者は誰一人としていなかった。
つまり結局、俺たちがいた【魔物島】はどこに存在しているのか今もなおわからないままだ。
☆ ☆ ☆
メタムン、聞いているか。
俺は今大学に毎日ちゃんと通っているぞ。
小中高と友達のいなかった俺にもそれなりに話しかけてくれる学生はいるんだ。
【魔物島】での出来事も無駄じゃなかったってことかな。
あー、それと、北原奏美とすみれ、そして梶谷と深町とは大学でもちょくちょく会って話をする仲だ。
特にすみれとはまるで打ち合わせたかのように履修科目がすべて同じだから、ほぼ毎日一緒にいるんだ。
お互いコミュニケーション能力に難がある者同士だけど、まあ、上手くやっているよ。
メタムン。俺、少しは変われたかな。
もし、もしそうだとしたら、それはメタムン、お前のおかげだよ。
お前がいてくれたから、【魔物島】でのメタムンとの日々があったから――
「柴木くん、次の講義遅れちゃうよーっ!」
「柴木、早くしろーっ」
「なに、一人でたそがれてんだよっ」
「し、柴木さんっ……い、急いでくださいっ……」
四人にうながされた俺は返事を飛ばす。
「あ、ああ、わかってるよ! 今行くっ!」
――まあ、とにかくだ。
メタムン、感謝してるよ。ありがとう。
俺は前に向き直ると、太陽に燦燦と照らされて輝く大学校舎へと駆け出していくのだった。
0
お気に入りに追加
399
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
ダンジョン菌にまみれた、様々なクエストが提示されるこの現実世界で、【クエスト簡略化】スキルを手にした俺は最強のスレイヤーを目指す
名無し
ファンタジー
ダンジョン菌が人間や物をダンジョン化させてしまう世界。ワクチンを打てば誰もがスレイヤーになる権利を与えられ、強化用のクエストを受けられるようになる。
しかし、ワクチン接種で稀に発生する、最初から能力の高いエリート種でなければクエストの攻略は難しく、一般人の佐嶋康介はスレイヤーになることを諦めていたが、仕事の帰りにコンビニエンスストアに立ち寄ったことで運命が変わることになる。
強奪系触手おじさん
兎屋亀吉
ファンタジー
【肉棒術】という卑猥なスキルを授かってしまったゆえに皆の笑い者として40年間生きてきたおじさんは、ある日ダンジョンで気持ち悪い触手を拾う。後に【神の触腕】という寄生型の神器だと判明するそれは、その気持ち悪い見た目に反してとんでもない力を秘めていた。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
無能スキルと言われ追放されたが実は防御無視の最強スキルだった
さくらはい
ファンタジー
主人公の不動颯太は勇者としてクラスメイト達と共に異世界に召喚された。だが、【アスポート】という使えないスキルを獲得してしまったばかりに、一人だけ城を追放されてしまった。この【アスポート】は対象物を1mだけ瞬間移動させるという単純な効果を持つが、実はどんな物質でも一撃で破壊できる攻撃特化超火力スキルだったのだ――
【不定期更新】
1話あたり2000~3000文字くらいで短めです。
性的な表現はありませんが、ややグロテスクな表現や過激な思想が含まれます。
良ければ感想ください。誤字脱字誤用報告も歓迎です。
日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊
北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。
天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜
八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。
第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。
大和型三隻は沈没した……、と思われた。
だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。
大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。
祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。
※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています!
面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※
※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※
現代ダンジョンで成り上がり!
カメ
ファンタジー
現代ダンジョンで成り上がる!
現代の世界に大きな地震が全世界同時に起こると共に、全世界にダンジョンが現れた。
舞台はその後の世界。ダンジョンの出現とともに、ステータスが見れる様になり、多くの能力、スキルを持つ人たちが現れる。その人達は冒険者と呼ばれる様になり、ダンジョンから得られる貴重な資源のおかげで稼ぎが多い冒険者は、多くの人から憧れる職業となった。
四ノ宮翔には、いいスキルもステータスもない。ましてや呪いをその身に受ける、呪われた子の称号を持つ存在だ。そんな彼がこの世界でどう生き、成り上がるのか、その冒険が今始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる