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第109話 メタムンと俺

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気付くと俺は沖縄の実家にいた。
しかもなぜか裸でだ。

「うおっ!? 善っ!? な、何やってるんだこんなとこでっ!?」
「まあ、善っ。あんた裸で何してるのよっ!」

父さんと母さんが俺を見て驚きの声を上げる。

「と、父さんっ! か、母さんっ! お、俺、帰ってこれたんだっ! 帰ってこれたんだよーっ!」
「裸でひっつくな! それよりお前、入学式はどうしたんだっ?」
「あ、あんた、東京に行ったんじゃなかったのっ?」
「…………へっ?」


☆ ☆ ☆


父さんと母さんからよくよく話を聞くと、今日は神里大学の入学式当日だというではないか。
もちろん初めはそんなこと信じなかった。
父さんと母さんが俺を担いでいるのだろう、そう思った。
だが二人にはそんな様子はこれっぽっちもないし、何より俺を騙す理由がない。

「じゃ、じゃあ、俺は昨日家を出て東京に向かったのか?」
「そうだろうが」
「そんで今日が入学式?」
「あんたがそう言ってたんでしょ」
「あ、ああ……そうか……うん」

父さんも母さんも俺が数ヶ月もの間いなくなっていたということをまったく知らない。
その事実がすべてなかったことになっている。

「何ぼーっとしてるんだっ。さっさと東京に行って入学式に出てこいっ!」
「え、で、でも今から行ったって――」
「ここにいてもしょうがないでしょ!」
「そ、そりゃそうだけどっ」

俺は父さんと母さんに強引に家を追い出されてしまった。
やむなく俺は東京へと向かうのだった。


☆ ☆ ☆


結論から言うと、俺以外の【魔物島】にいたみんなも俺と同じだったようで、家族や知り合いにこれまでの経緯を説明してもまったく信じてもらえなかったそうだ。
そして入学式に参加した学生たちがあまりにも少なかったという理由で、翌日入学式はやり直された。

それから【魔物島】で死んでしまっていた者たち、消えた者たちもなぜか全員何事もなかったかのように戻ってきていた。
その代わりといってはなんだが、彼らには【魔物島】での記憶が一切残ってはいないようだった。
米村大地と再び顔を合わせた時はさすがに驚いたが、向こうは記憶がまったくないので涼しい顔をしていた。
だが俺は、米村大地の本性を知っている。
いつか証拠をそろえて警察に突き出してやるか。

さらに【魔物島】で発現したレベルシステムは消えていて、俺たちの身体能力は並のそれに戻っていた。
同時にスマホからも【魔物島】で入手したアイテムは【魔物島】のアプリごとすべてきれいさっぱりなくなっていた。

大学生活が始まってからも【魔物島】にいた記憶がある者たちはそのことを近しい人間に話していたが、レベルもアイテムもすべて消えてしまっていたため、その話をまともに取り合ってくれる者は誰一人としていなかった。

つまり結局、俺たちがいた【魔物島】はどこに存在しているのか今もなおわからないままだ。


☆ ☆ ☆


メタムン、聞いているか。
俺は今大学に毎日ちゃんと通っているぞ。
小中高と友達のいなかった俺にもそれなりに話しかけてくれる学生はいるんだ。
【魔物島】での出来事も無駄じゃなかったってことかな。

あー、それと、北原奏美とすみれ、そして梶谷と深町とは大学でもちょくちょく会って話をする仲だ。
特にすみれとはまるで打ち合わせたかのように履修科目がすべて同じだから、ほぼ毎日一緒にいるんだ。
お互いコミュニケーション能力に難がある者同士だけど、まあ、上手くやっているよ。

メタムン。俺、少しは変われたかな。
もし、もしそうだとしたら、それはメタムン、お前のおかげだよ。
お前がいてくれたから、【魔物島】でのメタムンとの日々があったから――

「柴木くん、次の講義遅れちゃうよーっ!」
「柴木、早くしろーっ」
「なに、一人でたそがれてんだよっ」
「し、柴木さんっ……い、急いでくださいっ……」

四人にうながされた俺は返事を飛ばす。

「あ、ああ、わかってるよ! 今行くっ!」

――まあ、とにかくだ。
メタムン、感謝してるよ。ありがとう。


俺は前に向き直ると、太陽に燦燦と照らされて輝く大学校舎へと駆け出していくのだった。
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