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第86話 処遇

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「僕を殺すかい?」

手足を縛りあげられた米村が涼しい顔で俺を見上げる。
そんな米村は無視して俺はメタムンのもとへと歩を進めた。

「メタムン、大丈夫か?」
『問題ないってば。心配性だな、善は』
「そっか」

俺はメタムンから視線を上げ正面に立つ女子学生に声をかける。

「メタムンを助けてくれて本当にありがとう。一時はどうなることかと思ったよ」
「い、い、いえっ……全然気にしないでくださいっ……そ、それより、姉のことを頼んでいたのに、勝手に行動しちゃってて、す、すみませんでしたっ……」
と北原すみれは相変わらずのようだ。

そう。先ほどメタムンを助けてくれたのは北原すみれだったのだ。
認識阻害呪文で姿を消して米村からメタムンを救い出してくれたのだった。
その呪文も今は効果が切れている。

北原すみれは姉である北原奏美が米村によって殺されたことはまだ知らないのだろう。
一刻も早く教えるべきなのだろうが、今は米村の処遇をどうするかが問題だ。

俺はメタムンと北原すみれを置いて、米村のもとに戻る。

「僕を殺すかい?」

米村が再度問うてきた。

「そうしてやりたい気持ちはなくはない」
「ふふふ、そうだろうね。きみのおそらく唯一の女性友達である北原さんを殺されてしまったんだからね、そう思うのも当然だよ」
そう言った米村の声が北原すみれには届いていなかったようで俺はホッと胸をなでおろす。

「でもきみには無理だよね。だって僕を殺したらそれこそきみが殺人犯になってしまうんだからね」

そうなのだ。
モンスターは嫌というほど殺してきたが、それはあくまで相手がモンスターだったからでしかない。
人間を殺したら当然殺人罪で罰せられる。ここが日本じゃないとかそんなことは関係ない。
いや、そもそもこの【魔物島】が仮に殺人罪などが存在していない惑星にあるとしてもだ。
俺は人を殺すことなど到底出来ない。

とはいえ自由にするわけにもいかない。
この米村は死神のデスサイスによって、百人以上の人の魂を奪ってしまったのだから。

「僕を殺す気がないのなら解放してくれないかな? それともずっとこのままかい? このまま放っておかれて僕がモンスターに殺されたり、お腹が空いて餓死したらそれは善くん、きみの責任だよ」
「……」
「僕は心を入れ替えるよ。もうひどいことはしない。天に誓う。だから見逃してくれないかな?」
米村は俺の心を見透かしたかのように語りかけてくる。
こう言えば俺の心が揺らぐだろうとわかっていて口にしている。

「仕方ないか……」
俺は気が進まないがある方法にすべてを託すことにした。

「ん? 見逃す気になったかな?」
「いや……見逃したりはしないよ。でも殺しもしない……というか正直どうなるか俺もわからないんだ」
「うん? 何を言っているんだい? 善くん」

俺は右手を伸ばすと、
「ダークホール!」
と唱えた。
刹那、ブラックホールのような漆黒の球体が現れる。
そして、
「うおっ? な、なんだいこれはっ!?」
近くにあるものを吸い込み始めた。

米村があっという間にそれに飲み込まれていく。
「ぐ、ぐあぁっ、ちょ、ちょっと待ってくれ、た、助け――」
最後の最後には助けを請うていたようだが、時すでに遅く、米村は俺にすらわからないどこかへ消えていってしまった。
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