上 下
77 / 109

第77話 夜風に吹かれて

しおりを挟む
「僕はキングバッファローの肉を一つ手に入れたよ」
「わたしは二つ手に入れました」
「俺は三つです」

各々戦果を報告し合う。
たった今俺たちは協力してキングバッファロー八体を倒し終えたところだった。

「こんなにドロップアイテムが手に入るなんて奇跡みたいっ」
『えっへん。それはおいらの特性のおかげなんだよっ』
いつの間にか足元に来ていたメタムンが自信満々に言い放つ。

「メタムンちゃんの特性?」
『そうだよ。おいらと一緒にいるとモンスターのアイテムドロップ率が2倍に上がるんだっ』
「へー、そうだったのっ。すごいじゃない、メタムンちゃんっ」
『えっへへへ。しかもそれだけじゃないよ、獲得経験値だって2倍になるんだからねっ』
気をよくしたメタムンがつらつらと自身の特性を語る。

「えっ、そうなのっ? あっ、ほんとだ、わたしのレベルが思ってたよりも上がってるわ!」
スマホの画面を見ながら北原が興奮した様子で声を大にした。
そしてメタムンに向き直り、
「メタムンちゃん、すっごいじゃん!」
メタムンの頭を優しく撫でる。
メタムンは『えへへへー』と目を細めてそれを素直に受け入れていた。

「これで食糧は充分だよ。じゃあみんなのところに戻るとしようか」
米村さんの掛け声で俺たちはきびすを返すともと来た道を戻るのだった。


☆ ☆ ☆


昼食を終え、夕食もご馳走になった俺は一人、ハウスの外で寝そべり夜空を見上げていた。
心地よい風が頬を撫でていく。
するとどこからか甘い匂いが流れてきて、俺の鼻孔をくすぐった。
それと同時に、
「柴木くん、そんなところで何してるの?」
と北原が近付いてきた。

「あー、いや、別に……空を見てただけだけど」
「ふーん。あれ、メタムンちゃんは? 一緒じゃないの?」
「メタムンなら向こうの方で女子学生たちと楽しそうに話してた」
「あははっ、そうなんだー」
言いながら俺の隣に腰を下ろす。
髪を洗ったのか、少し前髪が濡れている。

「すみれ、元気かなー」
独り言なのかそれとも俺への問いかけなのか、微妙な声量で北原が口にした。
俺は何か答えた方がいいのかと悩んだが、結局何も返さなかった。

すると、
「ちょっと、無視しないでってば」
と北原が俺の腕を小突く。

「あ、今の俺に訊いてたの?」
「当たり前じゃん、ほかに誰がいるのっ」
「いや、いないけど……」
ここには俺と北原の二人きり。
周りにはほかに誰の姿も見当たらない。

「でしょっ。じゃあもう一回訊くからね。すみれ、元気かなぁ?」
一拍置いて、
「……うーん……まあ、元気なんじゃないか。っていうかチャットで連絡は取り合ってるんだろ」
訊き返す。

「まあね。実はついさっきも連絡したら、私は大丈夫だから心配しないでって返事が来たところ」
「そうなのか……うん、まあ、大丈夫だろ。本人がそう言ってるんだし、認識阻害呪文もあることだし」
「そうだね。ここでわたしが心配してても仕方ないか」
「ああ」

会話が一段落すると沈黙の時間が始まった。
おそらく話好きな北原にしては何も話しかけてこないことが気にはなるが、それ以上に俺はこの沈黙の時間が耐えられない。
一人きりなら何時間でも何日でも平気だが、誰かといる時に沈黙が流れるというのはその責任が俺にあるのではないかと考えてしまうからだ。

何か話しかけた方がいいのだろうか。
だが適当な話題がみつからない。
こんな時にメタムンがいてくれたら助かるのに。

それから五分ほど、俺も北原も一切喋ることはなかった。
そして、
「わたし、そろそろ行くね」
嫌気が差したのか、北原はそう言うと立ち上がりすたすたと去っていった。


あー……お腹が痛い。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

ダンジョン菌にまみれた、様々なクエストが提示されるこの現実世界で、【クエスト簡略化】スキルを手にした俺は最強のスレイヤーを目指す

名無し
ファンタジー
 ダンジョン菌が人間や物をダンジョン化させてしまう世界。ワクチンを打てば誰もがスレイヤーになる権利を与えられ、強化用のクエストを受けられるようになる。  しかし、ワクチン接種で稀に発生する、最初から能力の高いエリート種でなければクエストの攻略は難しく、一般人の佐嶋康介はスレイヤーになることを諦めていたが、仕事の帰りにコンビニエンスストアに立ち寄ったことで運命が変わることになる。

強奪系触手おじさん

兎屋亀吉
ファンタジー
【肉棒術】という卑猥なスキルを授かってしまったゆえに皆の笑い者として40年間生きてきたおじさんは、ある日ダンジョンで気持ち悪い触手を拾う。後に【神の触腕】という寄生型の神器だと判明するそれは、その気持ち悪い見た目に反してとんでもない力を秘めていた。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

無能スキルと言われ追放されたが実は防御無視の最強スキルだった

さくらはい
ファンタジー
 主人公の不動颯太は勇者としてクラスメイト達と共に異世界に召喚された。だが、【アスポート】という使えないスキルを獲得してしまったばかりに、一人だけ城を追放されてしまった。この【アスポート】は対象物を1mだけ瞬間移動させるという単純な効果を持つが、実はどんな物質でも一撃で破壊できる攻撃特化超火力スキルだったのだ―― 【不定期更新】 1話あたり2000~3000文字くらいで短めです。 性的な表現はありませんが、ややグロテスクな表現や過激な思想が含まれます。 良ければ感想ください。誤字脱字誤用報告も歓迎です。

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜 

八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。 第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。 大和型三隻は沈没した……、と思われた。 だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。 大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。 祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。 ※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています! 面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※ ※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※

現代ダンジョンで成り上がり!

カメ
ファンタジー
現代ダンジョンで成り上がる! 現代の世界に大きな地震が全世界同時に起こると共に、全世界にダンジョンが現れた。 舞台はその後の世界。ダンジョンの出現とともに、ステータスが見れる様になり、多くの能力、スキルを持つ人たちが現れる。その人達は冒険者と呼ばれる様になり、ダンジョンから得られる貴重な資源のおかげで稼ぎが多い冒険者は、多くの人から憧れる職業となった。 四ノ宮翔には、いいスキルもステータスもない。ましてや呪いをその身に受ける、呪われた子の称号を持つ存在だ。そんな彼がこの世界でどう生き、成り上がるのか、その冒険が今始まる。

処理中です...