上 下
109 / 119

第109話 難航する魔術師探し

しおりを挟む
「魔術ですか? いえ、私は使えませんが」

トレーニングルームにいたカルチェをみつけて魔術を使えるか訊ねてみたのだが結果は期待通りとはいかなかった。

カルチェはいつもの胸当てなどをつけた装備姿とは異なって薄手のトレーニング着を身に纏っていた。
タオルで汗を拭きながら俺の質問に答える。

「使おうとしたこともないのか?」
「それはありますよ。うちの祖母が有名な魔術師でしたから。でも魔術の才能は姉さんにしか受け継がれなかったようですね」
続けて、
「だからここで私は日々体を鍛えているわけです」
さわやかな笑顔を見せるカルチェ。

「そうか、邪魔して悪かったな」
「邪魔だなんてとんでもない。カズン王子様ならいつでも大歓迎です。では失礼します」
嬉しい言葉を残してカルチェは重そうなダンベルを取りに戻った。


また振り出しか。

俺はトレーニングルームを出ると自分の部屋に向かった。
一階の渡り廊下を歩いていると向こうから二人のメイドとスズがやってきた。
スズは自分の体より大きな布団を三つ重ねて頭の上に乗せて歩いてくる。

「あ、カズンどのではないですかっ」
俺に気付き駆け寄ってくる。
「おう、仕事中か? スズ」
「はいっ、今日は天気がよかったのでお城のみんなの布団を干していたんです。今それをとりこんでいるところです」
スズもすっかりメイドが板についているなぁ。

「カズン様ごきげんよう」
「こんにちは、カズン王子」
二人のメイドはそれぞれ布団を一つずつ抱えている。

「ああ、ご苦労様。重そうだなそれ、手伝おうか?」
「いえ大丈夫です」
「でもありがとうございますね、カズン王子」
メイドたちが首を振る。

「カズンどのは何をされているのですか?」
「魔術を使える奴を探しててな……」
「魔術ですか。忍術なら拙者多少心得ておりますが」
忍者を探しているわけじゃないからなぁ。

「いや、いいんだ。ありがとうなスズ」
「そうですか、それでは失礼します」
「カズン様さようなら」
「失礼しますねカズン王子」

談笑する三人の後姿を見送ってから俺は自分の部屋へと戻った。


「あら、お帰りなさいカズン王子」
「……おかえり」
部屋にはアテナがいてエルメスに勉強を教えてもらっていた。
二人が俺を見る。

「おう帰ってたのか、アテナ」
「……うん。ちょっと前に」
「学校は楽しかったか?」
「……楽しかった」
「そりゃよかった」

「それで魔術師の件、何か成果はありましたか?」
エルメスが訊いてくる。

「いや、全然」
「そうですか、やっぱり……ってなんですか? 人のことじろじろ見て」
「……お前って何気にすごい奴だったんだなぁと思ってさ」
「なんか気持ち悪いですよ」
顔をしかめるエルメス。

俺は夕日が差す窓をみつめた。
「まいったな……」
優秀な魔術師探しは暗礁に乗り上げてしまった。

とその時、窓から下を覗くと城門のところで周りの人間よりひときわ背の高い銀髪の女性が門番の兵士となにやらやり取りしているのが見えた。

「あいつは……」
カルバンインだ。

見ているとカルバンインと目が合った。

「こんにちはっすー! 王子様ー!」

大きく手を振るカルバンイン。
隣にいたこれまた銀髪の女性が恥ずかしそうにうつむいている。

俺は門番の兵士に合図してカルバンインとその隣の女性を通らせた。

しばらくすると俺の部屋にカルバンインがやってきた。
何をしに来たのだろう。
もしかして心変わりでもして宮廷魔術師になってくれる気になったのかな?

「失礼するっす、王子様っ」
敬礼ポーズをとるとカルバンインはずかずか部屋に入ってきた。
俺の目の前に立つ。
やっぱりでかいなこいつ。

バレーボールブラジル代表にいてもおかしくないほどの高身長のカルバンインが部屋を眺め、
「エルメス先輩お久しぶりっす」
気持ちのいい礼をした。

「久しぶりねカルバンイン。あんたまた大きくなったんじゃない?」
「へへっ、そうみたいっす」
にかっと白い歯を見せる。

「それで、カルバンインどうした? 宮廷魔術師になってくれるのか? それともめぼしい奴がみつかったのか?」
「その件で話があるっす。おーい、ミザリー入ってくるっす」
廊下に向かって声をかける。
しかし、
「……」
何も反応がない。

「あれ~、ちょっと待っててくださいっす」
そう言うとカルバンインは廊下に出た。
そしてうつむき加減の女性の背中を押して戻ってくる。

俺の前に押し出された女性は長い銀色の髪を前に垂らし顔がよく見えない。

「ほら、王子様っすよ。挨拶するっす、ミザリー」

カルバンインに促されミザリーと呼ばれた女性がようやく口を開く。

「……あ、あの、その、わたしはミザリーといいます。よ、よろしくお願いします……」
「はぁ……」
何をよろしくすればいいんだろう。

沈黙が流れること数秒、カルバンインが女性の肩をばしっと叩いた。

「この子は私の妹のミザリーっす。魔術の才能は私以上っす。私が保証するっす」
「妹だって?」
この貞子みたいな奴が?
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

42歳メジャーリーガー、異世界に転生。チートは無いけど、魔法と元日本最高級の豪速球で無双したいと思います。

町島航太
ファンタジー
 かつて日本最強投手と持て囃され、MLBでも大活躍した佐久間隼人。  しかし、老化による衰えと3度の靭帯損傷により、引退を余儀なくされてしまう。  失意の中、歩いていると球団の熱狂的ファンからポストシーズンに行けなかった理由と決めつけられ、刺し殺されてしまう。  だが、目を再び開くと、魔法が存在する世界『異世界』に転生していた。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

異世界転生 転生後は自由気ままに〜

猫ダイスキー
ファンタジー
ある日通勤途中に車を運転していた青野 仁志(あおの ひとし)は居眠り運転のトラックに後ろから追突されて死んでしまった。 しかし目を覚ますと自称神様やらに出会い、異世界に転生をすることになってしまう。 これは異世界転生をしたが特に特別なスキルを貰うでも無く、主人公が自由気ままに自分がしたいことをするだけの物語である。 小説家になろうで少し加筆修正などをしたものを載せています。 更新はアルファポリスより遅いです。 ご了承ください。

処理中です...