上 下
106 / 119

第106話 アテナの変化

しおりを挟む
「アテナちゃんまたねー」
「じゃ、じゃあまた明日なアテナ」
「……うん。また明日」

ピッピとウントンに帰りの挨拶を済ませるとアテナは馬車に乗りこんだ。
「……ばいばい」
馬車の窓から自主的に二人に手を振るアテナ。

「ばいばーい!」
ピッピは馬車が見えなくなるまで大きく手を振り続けていた。

「おい、アテナが帰ってくるぞ」
「そうですね。じゃあ片付けましょうか」
そう言うとエルメスは水晶玉をテーブルから下ろしベッドの下に隠した。



「……ただいま」
しばらくしてアテナが魔術学校から帰ってきた。
リュックを背に部屋に入ってくる。

「おう、おかえり」
「アテナちゃんおかえり~。学校はどうだった?」
「……興味深い」
「楽しかったか?」
「……楽しかった」

アテナはベッドの上にリュックを置くとリュックから魔術書を取り出した。
「……」
ベッドに座り無言で読みふける。


「あーそうだアテナ、新しい教科書はすぐ届くからな」
「……うん」
「アテナちゃん、私今日暇だから魔術の勉強手伝ってあげようか?」
「……ほんと?」
「ええ、ほんとよ。じゃあこっち来て」
「……うん」

エルメスはソファに腰を下ろし隣にアテナを座らせると魔術書を開いた。
それから夕食までエルメスはアテナに魔術を教えてやっていた。
俺はというと腕立て伏せならぬ指立て伏せをしていた。
筋トレしてからの食事は筋肉になりやすいからな。


食事中。
「なあ、エルメス。カズン王子も魔獣を飼っていたって前に言ってたよなぁ」
「言いましたっけ」
「言っただろ。その魔獣って今どこにいるんだ?」
「さあ。カズン王子が亡くなった時にどこかに行ってしまいましたよ」
「ふーん、そうなのか」
ふと気になったから訊いてみたのだが……まあどうでもいいか。

「そんなことよりカズン王子。私とした約束の方も覚えていますか?」
「約束って?」
「百日間の有給休暇のことですよ。ミコトの呪いを阻止するときに約束しましたよね」
そういえばそんなことを言った気がするなぁ。

「お前自分に都合のいいことだけはちゃんと覚えてるんだな」
「国王様にかけあってくれました?」
「いや、まだだ」
だってさっきまで忘れていたのだから。

「国王に頼んでみるよ」
多分無理だろうと思いながらもこの場ではそう言っておこう。

「お願いしますね、カズン王子」
エルメスはナイフとフォークをテーブルに置くとアテナを見て、
「アテナちゃんお風呂一緒に入る?」
「……うん」
「じゃあ着替え用意して」
「……わかった」
二人して風呂場に行く。

もうすっかり我が物顔で俺の部屋を使っているエルメス。
自分の部屋が直ったらちゃんと出ていってくれるんだろうな……。
ちょっと不安になる。

二人が風呂に入っている間俺は国王のもとへ行きエルメスの件を伝えてみることにした。


「だめじゃ」
国王が無機質な顔で言う。
「有給百日などやれるわけなかろう。ふざけておるのか」
やっぱりか。
当然の答えが返ってきた。

「エルメスは優秀な魔術師じゃ。そんなに休みを与えるわけにはいかん」
「でもエルメスと約束してしまったんですけど……」
「わしには関係ないわい。それはお主の問題じゃ、お主がなんとかせい」
つっぱねられる。

どうするか。
有給の話はなかったことにしてくれなんて言ったらエルメスの奴、絶対怒るよなぁ。
あいつのことだ、また「呪ってやる!」とか言い出しかねない。

俺は国王に食い下がった。
「エルメスの仕事を代わりに俺が引き受けるっていうのはどうですかね。俺時間だけはあるんで」
「お主がか? う~む。お主に出来んことはないとは思うが、魔術師が必要な案件もあるからのう」
渋る国王。

「魔術師ならあてがあります」
「地下牢のサマルタリアの魔術師のことなら無理じゃぞ。あやつは近くサマルタリアに送還することになっておるからの」
「え、そうなんですか?」
前みたいにミコトを利用しようと思っていたのに……あてが外れた。

あっでも待てよ。魔術が使える奴ならもう一人いるじゃないか。

「どうする王子よ」
「俺に考えがあります」


「……というわけなんだ。学校が休みの土日だけでも俺に付き合ってくれないか?」
俺は部屋に戻ると風呂から出たばかりのアテナに頭を下げた。

パジャマ姿のアテナはバスタオルを体に巻いたエルメスにドライヤーで髪の毛を乾かしてもらいながら、
「……わかった」
とうなづいた。

「カズン王子、こんな小さい子に仕事をさせるなんて鬼畜ですか?」
エルメスが眉をひそめる。
「だったら有給の話は無しだけどそれでもいいか?」
「う……それとこれとは話が別ですよ」
言うと思った。
「だったら口出しするなよ」

俺はもう一度アテナに念を押す。
「本当にいいのか、アテナ」
「……うん。楽しそう」
「そっか。じゃあもしお前の力が必要になったらその時は力を貸してくれ」
「……わかった。それまでもっと勉強する」

髪が乾ききったアテナは俺を見上げ、
「……アイス食べていい?」
「ん、ああ、いいぞ」
冷蔵庫に向かうとアイスを取り出し口に含んだ。

なんかアテナ変わったかな?
アテナは学校に行くようになって少しだけ自主性が芽生えてきたのかもしれない。
一応の保護者としては嬉しい限りだ。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

42歳メジャーリーガー、異世界に転生。チートは無いけど、魔法と元日本最高級の豪速球で無双したいと思います。

町島航太
ファンタジー
 かつて日本最強投手と持て囃され、MLBでも大活躍した佐久間隼人。  しかし、老化による衰えと3度の靭帯損傷により、引退を余儀なくされてしまう。  失意の中、歩いていると球団の熱狂的ファンからポストシーズンに行けなかった理由と決めつけられ、刺し殺されてしまう。  だが、目を再び開くと、魔法が存在する世界『異世界』に転生していた。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

異世界転生 転生後は自由気ままに〜

猫ダイスキー
ファンタジー
ある日通勤途中に車を運転していた青野 仁志(あおの ひとし)は居眠り運転のトラックに後ろから追突されて死んでしまった。 しかし目を覚ますと自称神様やらに出会い、異世界に転生をすることになってしまう。 これは異世界転生をしたが特に特別なスキルを貰うでも無く、主人公が自由気ままに自分がしたいことをするだけの物語である。 小説家になろうで少し加筆修正などをしたものを載せています。 更新はアルファポリスより遅いです。 ご了承ください。

処理中です...