上 下
38 / 119

第38話 国王主催の武道大会

しおりを挟む
正月の大宴会から二日、酒に弱い俺はまだ二日酔いで頭が痛い。

「あら、カズン王子。まだ二日酔いですか?」

俺が頭を押さえているとエルメスが声をかけてきた。

「ああ、お前は大丈夫なのか?」
「ええ、ピンピンしてます」
酒に強い奴がうらやましい。

「早く治してくださいね。じゃあ失礼します」
そう言って去っていった。

俺は国王に呼ばれていたので謁見の間へと歩を進める。


謁見の間の扉の前に立っていた兵士に挨拶をして中に入れてもらうと、
「よう来おった、王子よ。待っておったぞ」
隣に大臣を控えさせ、玉座に鎮座した国王が俺を手招きする。

「何か用ですか?」
「うむ。急な話なんじゃが今週末にわし主催の武道大会を開こうと思ってのう」
これまた本当に急な話だな。

「なぜ武道大会を?」
「わしにもちょっと事情があっての、まだ言えんのじゃ」
とひげを触りながらもったいぶる国王。

「どうして俺にそんな話を?」
そんなことは国王が勝手にやればいいことだ。
「それはのう。武道大会には王子にも出てもらいたいからじゃ」
「え? 俺が出るんですか?」
「そうじゃ」

なんだか面倒くさそうだなぁ。
「……拒否権はありますか?」
一応訊いてみるが、
「ないのう」
国王は首を横に振った。

「武道大会の知らせはこれからこのイリタール国中にいきわたるように発布するつもりじゃ。そうすればイリタール国全土から猛者が集結するじゃろうて。なにせ優勝者には……ほっほっほ」
何がほっほっほだ。
国王の考えはわからないが、優勝賞品は気になるな。

「優勝したらなんなんですか?」
「それはのう……どんな願いでも一つだけ絶対に叶えてやるというものじゃ」
どんな願いでも? うさんくさい。
「もっと近こう寄れ」と国王が指図する。
はいはい。

国王は俺の耳に口を近づける。
ひげがくすぐったいな、もう。
「お主が望むならもとの世界に帰してやることも出来るぞ」
そうささやいた。

「……本当ですか?」
「お主が真に望めばのう」

正直もとの世界に帰ることなど全然頭になかった。
こっちの世界にもある程度慣れてきたし、充実もしている。
もとの世界に帰ったってまたただの筋トレオタクのニートに戻るだけだ。

「自分でも驚きですが、俺は正直今のここの生活が割と気に入っています。だから――」
「別に今すぐとは言うておらん。じゃがいつか本当に帰りたくなった時どうするのじゃ? んん?」
そう言われると……。
俺は考える。
うーん。もとの世界に帰れる権利くらいは持っておいても損じゃないか。

「わかりました。優勝出来るかはともかくとして参加はします。それでいいですね」
「うむ。そうこなくてはの」
国王は大きくうなづいた。


俺は謁見の間をあとにして自分の部屋へと戻った。
天蓋付きのベッドに横になる。
もとの世界か……今頃母さんたちはどうしているだろう。
俺がいなくなってから半年くらいは経っている。おおごとになっていなければいいけど。

あっでも前にエルメスが言っていたな。世界によって時間の流れ方が異なるって。
あの時はあまり気にしていなかったけど、もっと詳しくエルメスに訊いておくか。

俺はエルメスの部屋に行こうとして自分の部屋のドアを開けた。

「うわっ!」

俺はびっくりして嬌声を上げる。

「……なんですか? 化け物でも見たみたいに」
エルメスがそこに立っていた。
「エルメスっ!? 何してるんだよドアの前で」
「カズン王子に話があったので来ただけですよ」
エルメスはあきれた様子で俺を見る。

「中に入っても?」
「あ、ああ」

部屋に入ってきたエルメスはベッドに腰を下ろした。

「まあちょうどよかった。俺もお前に話があったんだ」
「そうですか。じゃあカズン王子からどうぞ」
エルメスが長い脚を組む。

「前にこう言ってたよな。俺のいた世界とこの世界は時間の流れ方が違うって。正確にはどういうふうに違うんだ?」
「あ~なぁんだ、そんなことですか。心配しなくても大丈夫ですよ。いつかあなたがもとの世界に帰ったとき向こうではせいぜい数時間くらいしか経っていないはずですから」
とエルメスが答えた。
「そうなのか?」
浦島太郎みたいになったら困るぞ。
「私を信じてください」

「まあ、そういうことなら。俺の話は以上だ」
「じゃあ私の番ですね」
脚を組みなおすエルメス。

「国王様から武道大会の話はもう聞きましたか?」
「なんでそのことを知ってるんだ?」

エルメスは唇に手を当てる。
「う~ん、まあ一言で言っちゃえば私が発案者だからです」


「どういうことだエルメスが武道大会の発案者って?」
「まあ、いろいろありまして……」
「そのいろいろを訊いているんだが」
「あとでちゃんと話しますよ。それより武道大会にはカズン王子も出てくださいね」
「またそれか。国王にも言われたよ」
結局参加することにしたんだが。

「出てくれるならいいんです、それで」
「優勝したらいつでももとの世界に帰してもらえるんだろ?」
「そう国王様から聞きましたか? ええ、まあ間違ってはいないです」
含みのある言い方だなぁ。

「違うのか?」
エルメスはとんがり帽子を少し上げ、俺を見上げる。
「いいえ、違わないですよ。ふふっ……さぁ~てと」

そう言うとエルメスは立ち上がり部屋を出て行ってしまった。
なんだったんだ。

その日の午前十二時、イリタール国全土に国王主催の武道大会の開催が宣言された。

そして四日後。

武道大会の幕が切って落とされた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

ハズレ職業のテイマーは【強奪】スキルで無双する〜最弱の職業とバカにされたテイマーは魔物のスキルを自分のものにできる最強の職業でした〜

平山和人
ファンタジー
Sランクパーティー【黄金の獅子王】に所属するテイマーのカイトは役立たずを理由にパーティーから追放される。 途方に暮れるカイトであったが、伝説の神獣であるフェンリルと遭遇したことで、テイムした魔物の能力を自分のものに出来る力に目覚める。 さらにカイトは100年に一度しか産まれないゴッドテイマーであることが判明し、フェンリルを始めとする神獣を従える存在となる。 魔物のスキルを吸収しまくってカイトはやがて最強のテイマーとして世界中に名を轟かせていくことになる。 一方、カイトを追放した【黄金の獅子王】はカイトを失ったことで没落の道を歩み、パーティーを解散することになった。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

異世界帰りの元勇者、日本に突然ダンジョンが出現したので「俺、バイト辞めますっ!」

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
俺、結城ミサオは異世界帰りの元勇者。 異世界では強大な力を持った魔王を倒しもてはやされていたのに、こっちの世界に戻ったら平凡なコンビニバイト。 せっかく強くなったっていうのにこれじゃ宝の持ち腐れだ。 そう思っていたら突然目の前にダンジョンが現れた。 これは天啓か。 俺は一も二もなくダンジョンへと向かっていくのだった。

異世界に転移した僕、外れスキルだと思っていた【互換】と【HP100】の組み合わせで最強になる

名無し
ファンタジー
突如、異世界へと召喚された来栖海翔。自分以外にも転移してきた者たちが数百人おり、神父と召喚士から並ぶように指示されてスキルを付与されるが、それはいずれもパッとしなさそうな【互換】と【HP100】という二つのスキルだった。召喚士から外れ認定され、当たりスキル持ちの右列ではなく、外れスキル持ちの左列のほうに並ばされる来栖。だが、それらは組み合わせることによって最強のスキルとなるものであり、来栖は何もない状態から見る見る成り上がっていくことになる。

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

俺だけステータスが見える件~ゴミスキル【開く】持ちの俺はダンジョンに捨てられたが、【開く】はステータスオープンできるチートスキルでした~

平山和人
ファンタジー
平凡な高校生の新城直人はクラスメイトたちと異世界へ召喚されてしまう。 異世界より召喚された者は神からスキルを授かるが、直人のスキルは『物を開け閉めする』だけのゴミスキルだと判明し、ダンジョンに廃棄されることになった。 途方にくれる直人は偶然、このゴミスキルの真の力に気づく。それは自分や他者のステータスを数値化して表示できるというものだった。 しかもそれだけでなくステータスを再分配することで無限に強くなることが可能で、更にはスキルまで再分配できる能力だと判明する。 その力を使い、ダンジョンから脱出した直人は、自分をバカにした連中を徹底的に蹂躙していくのであった。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

処理中です...