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第38話 国王主催の武道大会
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正月の大宴会から二日、酒に弱い俺はまだ二日酔いで頭が痛い。
「あら、カズン王子。まだ二日酔いですか?」
俺が頭を押さえているとエルメスが声をかけてきた。
「ああ、お前は大丈夫なのか?」
「ええ、ピンピンしてます」
酒に強い奴がうらやましい。
「早く治してくださいね。じゃあ失礼します」
そう言って去っていった。
俺は国王に呼ばれていたので謁見の間へと歩を進める。
謁見の間の扉の前に立っていた兵士に挨拶をして中に入れてもらうと、
「よう来おった、王子よ。待っておったぞ」
隣に大臣を控えさせ、玉座に鎮座した国王が俺を手招きする。
「何か用ですか?」
「うむ。急な話なんじゃが今週末にわし主催の武道大会を開こうと思ってのう」
これまた本当に急な話だな。
「なぜ武道大会を?」
「わしにもちょっと事情があっての、まだ言えんのじゃ」
とひげを触りながらもったいぶる国王。
「どうして俺にそんな話を?」
そんなことは国王が勝手にやればいいことだ。
「それはのう。武道大会には王子にも出てもらいたいからじゃ」
「え? 俺が出るんですか?」
「そうじゃ」
なんだか面倒くさそうだなぁ。
「……拒否権はありますか?」
一応訊いてみるが、
「ないのう」
国王は首を横に振った。
「武道大会の知らせはこれからこのイリタール国中にいきわたるように発布するつもりじゃ。そうすればイリタール国全土から猛者が集結するじゃろうて。なにせ優勝者には……ほっほっほ」
何がほっほっほだ。
国王の考えはわからないが、優勝賞品は気になるな。
「優勝したらなんなんですか?」
「それはのう……どんな願いでも一つだけ絶対に叶えてやるというものじゃ」
どんな願いでも? うさんくさい。
「もっと近こう寄れ」と国王が指図する。
はいはい。
国王は俺の耳に口を近づける。
ひげがくすぐったいな、もう。
「お主が望むならもとの世界に帰してやることも出来るぞ」
そうささやいた。
「……本当ですか?」
「お主が真に望めばのう」
正直もとの世界に帰ることなど全然頭になかった。
こっちの世界にもある程度慣れてきたし、充実もしている。
もとの世界に帰ったってまたただの筋トレオタクのニートに戻るだけだ。
「自分でも驚きですが、俺は正直今のここの生活が割と気に入っています。だから――」
「別に今すぐとは言うておらん。じゃがいつか本当に帰りたくなった時どうするのじゃ? んん?」
そう言われると……。
俺は考える。
うーん。もとの世界に帰れる権利くらいは持っておいても損じゃないか。
「わかりました。優勝出来るかはともかくとして参加はします。それでいいですね」
「うむ。そうこなくてはの」
国王は大きくうなづいた。
俺は謁見の間をあとにして自分の部屋へと戻った。
天蓋付きのベッドに横になる。
もとの世界か……今頃母さんたちはどうしているだろう。
俺がいなくなってから半年くらいは経っている。おおごとになっていなければいいけど。
あっでも前にエルメスが言っていたな。世界によって時間の流れ方が異なるって。
あの時はあまり気にしていなかったけど、もっと詳しくエルメスに訊いておくか。
俺はエルメスの部屋に行こうとして自分の部屋のドアを開けた。
「うわっ!」
俺はびっくりして嬌声を上げる。
「……なんですか? 化け物でも見たみたいに」
エルメスがそこに立っていた。
「エルメスっ!? 何してるんだよドアの前で」
「カズン王子に話があったので来ただけですよ」
エルメスはあきれた様子で俺を見る。
「中に入っても?」
「あ、ああ」
部屋に入ってきたエルメスはベッドに腰を下ろした。
「まあちょうどよかった。俺もお前に話があったんだ」
「そうですか。じゃあカズン王子からどうぞ」
エルメスが長い脚を組む。
「前にこう言ってたよな。俺のいた世界とこの世界は時間の流れ方が違うって。正確にはどういうふうに違うんだ?」
「あ~なぁんだ、そんなことですか。心配しなくても大丈夫ですよ。いつかあなたがもとの世界に帰ったとき向こうではせいぜい数時間くらいしか経っていないはずですから」
とエルメスが答えた。
「そうなのか?」
浦島太郎みたいになったら困るぞ。
「私を信じてください」
「まあ、そういうことなら。俺の話は以上だ」
「じゃあ私の番ですね」
脚を組みなおすエルメス。
「国王様から武道大会の話はもう聞きましたか?」
「なんでそのことを知ってるんだ?」
エルメスは唇に手を当てる。
「う~ん、まあ一言で言っちゃえば私が発案者だからです」
「どういうことだエルメスが武道大会の発案者って?」
「まあ、いろいろありまして……」
「そのいろいろを訊いているんだが」
「あとでちゃんと話しますよ。それより武道大会にはカズン王子も出てくださいね」
「またそれか。国王にも言われたよ」
結局参加することにしたんだが。
「出てくれるならいいんです、それで」
「優勝したらいつでももとの世界に帰してもらえるんだろ?」
「そう国王様から聞きましたか? ええ、まあ間違ってはいないです」
含みのある言い方だなぁ。
「違うのか?」
エルメスはとんがり帽子を少し上げ、俺を見上げる。
「いいえ、違わないですよ。ふふっ……さぁ~てと」
そう言うとエルメスは立ち上がり部屋を出て行ってしまった。
なんだったんだ。
その日の午前十二時、イリタール国全土に国王主催の武道大会の開催が宣言された。
そして四日後。
武道大会の幕が切って落とされた。
「あら、カズン王子。まだ二日酔いですか?」
俺が頭を押さえているとエルメスが声をかけてきた。
「ああ、お前は大丈夫なのか?」
「ええ、ピンピンしてます」
酒に強い奴がうらやましい。
「早く治してくださいね。じゃあ失礼します」
そう言って去っていった。
俺は国王に呼ばれていたので謁見の間へと歩を進める。
謁見の間の扉の前に立っていた兵士に挨拶をして中に入れてもらうと、
「よう来おった、王子よ。待っておったぞ」
隣に大臣を控えさせ、玉座に鎮座した国王が俺を手招きする。
「何か用ですか?」
「うむ。急な話なんじゃが今週末にわし主催の武道大会を開こうと思ってのう」
これまた本当に急な話だな。
「なぜ武道大会を?」
「わしにもちょっと事情があっての、まだ言えんのじゃ」
とひげを触りながらもったいぶる国王。
「どうして俺にそんな話を?」
そんなことは国王が勝手にやればいいことだ。
「それはのう。武道大会には王子にも出てもらいたいからじゃ」
「え? 俺が出るんですか?」
「そうじゃ」
なんだか面倒くさそうだなぁ。
「……拒否権はありますか?」
一応訊いてみるが、
「ないのう」
国王は首を横に振った。
「武道大会の知らせはこれからこのイリタール国中にいきわたるように発布するつもりじゃ。そうすればイリタール国全土から猛者が集結するじゃろうて。なにせ優勝者には……ほっほっほ」
何がほっほっほだ。
国王の考えはわからないが、優勝賞品は気になるな。
「優勝したらなんなんですか?」
「それはのう……どんな願いでも一つだけ絶対に叶えてやるというものじゃ」
どんな願いでも? うさんくさい。
「もっと近こう寄れ」と国王が指図する。
はいはい。
国王は俺の耳に口を近づける。
ひげがくすぐったいな、もう。
「お主が望むならもとの世界に帰してやることも出来るぞ」
そうささやいた。
「……本当ですか?」
「お主が真に望めばのう」
正直もとの世界に帰ることなど全然頭になかった。
こっちの世界にもある程度慣れてきたし、充実もしている。
もとの世界に帰ったってまたただの筋トレオタクのニートに戻るだけだ。
「自分でも驚きですが、俺は正直今のここの生活が割と気に入っています。だから――」
「別に今すぐとは言うておらん。じゃがいつか本当に帰りたくなった時どうするのじゃ? んん?」
そう言われると……。
俺は考える。
うーん。もとの世界に帰れる権利くらいは持っておいても損じゃないか。
「わかりました。優勝出来るかはともかくとして参加はします。それでいいですね」
「うむ。そうこなくてはの」
国王は大きくうなづいた。
俺は謁見の間をあとにして自分の部屋へと戻った。
天蓋付きのベッドに横になる。
もとの世界か……今頃母さんたちはどうしているだろう。
俺がいなくなってから半年くらいは経っている。おおごとになっていなければいいけど。
あっでも前にエルメスが言っていたな。世界によって時間の流れ方が異なるって。
あの時はあまり気にしていなかったけど、もっと詳しくエルメスに訊いておくか。
俺はエルメスの部屋に行こうとして自分の部屋のドアを開けた。
「うわっ!」
俺はびっくりして嬌声を上げる。
「……なんですか? 化け物でも見たみたいに」
エルメスがそこに立っていた。
「エルメスっ!? 何してるんだよドアの前で」
「カズン王子に話があったので来ただけですよ」
エルメスはあきれた様子で俺を見る。
「中に入っても?」
「あ、ああ」
部屋に入ってきたエルメスはベッドに腰を下ろした。
「まあちょうどよかった。俺もお前に話があったんだ」
「そうですか。じゃあカズン王子からどうぞ」
エルメスが長い脚を組む。
「前にこう言ってたよな。俺のいた世界とこの世界は時間の流れ方が違うって。正確にはどういうふうに違うんだ?」
「あ~なぁんだ、そんなことですか。心配しなくても大丈夫ですよ。いつかあなたがもとの世界に帰ったとき向こうではせいぜい数時間くらいしか経っていないはずですから」
とエルメスが答えた。
「そうなのか?」
浦島太郎みたいになったら困るぞ。
「私を信じてください」
「まあ、そういうことなら。俺の話は以上だ」
「じゃあ私の番ですね」
脚を組みなおすエルメス。
「国王様から武道大会の話はもう聞きましたか?」
「なんでそのことを知ってるんだ?」
エルメスは唇に手を当てる。
「う~ん、まあ一言で言っちゃえば私が発案者だからです」
「どういうことだエルメスが武道大会の発案者って?」
「まあ、いろいろありまして……」
「そのいろいろを訊いているんだが」
「あとでちゃんと話しますよ。それより武道大会にはカズン王子も出てくださいね」
「またそれか。国王にも言われたよ」
結局参加することにしたんだが。
「出てくれるならいいんです、それで」
「優勝したらいつでももとの世界に帰してもらえるんだろ?」
「そう国王様から聞きましたか? ええ、まあ間違ってはいないです」
含みのある言い方だなぁ。
「違うのか?」
エルメスはとんがり帽子を少し上げ、俺を見上げる。
「いいえ、違わないですよ。ふふっ……さぁ~てと」
そう言うとエルメスは立ち上がり部屋を出て行ってしまった。
なんだったんだ。
その日の午前十二時、イリタール国全土に国王主催の武道大会の開催が宣言された。
そして四日後。
武道大会の幕が切って落とされた。
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