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第29話 スーツ
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場所は変わってエルメスの部屋。
「いいですか。カズン王子には今日一日私の恋人としてふさわしい人を演じてもらいます」
エルメスは俺を自分の部屋に連れ込むと部屋の鍵をかけた。
「今日一日ってどういうことだ?」
聞いてないぞ。
「実はお見合いは今日の夜なんです。だから両親を説得できるのは今日の夜までが勝負なんですよ」
実に急な話だ。
「俺がエルメスの両親をだますってことだろ。気が引けるなぁ」
「娘の私がいいって言ってるんだからいいんです。それよりうちの両親は……特に父は厳格な人間なので服装も必ずスーツを着てくださいね」
カズン王子の奴スーツなんて持ってたかなぁ。
俺の部屋のクローゼットにあるのはカズン王子が買いそろえた物ばかりだから俺の趣味とはかけ離れた派手な服ばかりだ。
「私もちゃんとした服装に今から着替えますから」
とエルメスが言う。
エルメスは今もそうだが普段から黒いローブにとんがり帽子というどこぞの魔法使い然とした恰好をしている。
「今から? もしかして今からお前の両親に会いに行くのか?」
「そうですよ。さっき言ったじゃないですか」
言ったかな。
クローゼットに入ると扉を閉めた。
「着替えますから覗かないでくださいね」
「はいはい」
「まず言葉遣いに気を付けてください。父はそのへんうるさいですから。それと私のことはエルメスさんでお願いします。あと食事のマナーも注意してくださいね。それから……」
クローゼットの中から次から次へと注文が飛んでくる。
「カズン王子は私の同僚ということにしましょう。そこで私たちは出会ったということに。名前は本名のユウキでお願いします。カズンなんて言ったらおかしなことになりますからね。ああ、あと変装も忘れずに」
矢継ぎ早に話すエルメス。俺の頭が追いついていかない。
「変装ってどうすればいいんだよ」
俺はクローゼットに向かって話しかける。
城下町に行くときは帽子とサングラスで変装するが、今回はそういうわけにもいかないだろう。
「それくらい自分で考えてくださいよ」
と言いながら就活中の大学生のようなスーツ姿でエルメスがクローゼットから出てきた。
「おお!」
「な、なんですか? どうせ似合ってないって言うんでしょう」
「いや、まともに見える」
普段が普段だけに普通の社会人のようだ。
「さあ次はカズン王子の番ですよ。私は城門前で待っていますからさっさと着替えてきてください」
俺は自分の部屋に戻るとクローゼットをあさった。
「ほらやっぱり、こんなのしかない」
社交ダンスでも踊るのかっていう衣装が山のようにかけられている。
「お、待てよ。これってスーツじゃないか?」
奥から引っ張り出す。
「あった。スーツだ」
しわくちゃになったスーツが出てきた。
「もうこれでいいか」
「それを着るんですか?」
ミアがドアを開けたところで立ち止まっていた。
「すみません、返事がなかったので」
スーツ探しに夢中になっていてミアが来たことに気付かなかったようだ。
「それ、アイロンかけましょうか?」
「おお、是非頼む。出来れば急いで」
「はい、わかりました」
こうしてスーツはなんとかなった。
あとは変装か。
十分後。
城門前にて。
「怪しいですね」
「やっぱり?」
俺は変装と称して眼鏡とマスクをしている。
風邪をひいているという設定だ。
「でも風邪をうつさないようにしているという点では好印象なんじゃないか」
「う~ん、正直微妙なところですけど時間もあまりないことですしそれでいくしかないでしょう」
エルメスは自分に言い聞かせるように言った。
俺たちはエルメスの家へと向かう。
「私の家は城下町の郊外にあります。さっき電話をしてこれから行くということだけは伝えておきましたから両親とも私の帰りを今か今かと待っていると思います」
「俺のことは言ったのか?」
「いいえ、言ってません」
「なんで言わないんだよっ」
「いや~なんとなく」
頬に指を当てておどけてみせる。
「お前やる気あるのか?」
「もちろんありますよ。なんたって私の将来がかかってるんですから」
その割にはなんだか楽しそうだな。
「いいですか。カズン王子には今日一日私の恋人としてふさわしい人を演じてもらいます」
エルメスは俺を自分の部屋に連れ込むと部屋の鍵をかけた。
「今日一日ってどういうことだ?」
聞いてないぞ。
「実はお見合いは今日の夜なんです。だから両親を説得できるのは今日の夜までが勝負なんですよ」
実に急な話だ。
「俺がエルメスの両親をだますってことだろ。気が引けるなぁ」
「娘の私がいいって言ってるんだからいいんです。それよりうちの両親は……特に父は厳格な人間なので服装も必ずスーツを着てくださいね」
カズン王子の奴スーツなんて持ってたかなぁ。
俺の部屋のクローゼットにあるのはカズン王子が買いそろえた物ばかりだから俺の趣味とはかけ離れた派手な服ばかりだ。
「私もちゃんとした服装に今から着替えますから」
とエルメスが言う。
エルメスは今もそうだが普段から黒いローブにとんがり帽子というどこぞの魔法使い然とした恰好をしている。
「今から? もしかして今からお前の両親に会いに行くのか?」
「そうですよ。さっき言ったじゃないですか」
言ったかな。
クローゼットに入ると扉を閉めた。
「着替えますから覗かないでくださいね」
「はいはい」
「まず言葉遣いに気を付けてください。父はそのへんうるさいですから。それと私のことはエルメスさんでお願いします。あと食事のマナーも注意してくださいね。それから……」
クローゼットの中から次から次へと注文が飛んでくる。
「カズン王子は私の同僚ということにしましょう。そこで私たちは出会ったということに。名前は本名のユウキでお願いします。カズンなんて言ったらおかしなことになりますからね。ああ、あと変装も忘れずに」
矢継ぎ早に話すエルメス。俺の頭が追いついていかない。
「変装ってどうすればいいんだよ」
俺はクローゼットに向かって話しかける。
城下町に行くときは帽子とサングラスで変装するが、今回はそういうわけにもいかないだろう。
「それくらい自分で考えてくださいよ」
と言いながら就活中の大学生のようなスーツ姿でエルメスがクローゼットから出てきた。
「おお!」
「な、なんですか? どうせ似合ってないって言うんでしょう」
「いや、まともに見える」
普段が普段だけに普通の社会人のようだ。
「さあ次はカズン王子の番ですよ。私は城門前で待っていますからさっさと着替えてきてください」
俺は自分の部屋に戻るとクローゼットをあさった。
「ほらやっぱり、こんなのしかない」
社交ダンスでも踊るのかっていう衣装が山のようにかけられている。
「お、待てよ。これってスーツじゃないか?」
奥から引っ張り出す。
「あった。スーツだ」
しわくちゃになったスーツが出てきた。
「もうこれでいいか」
「それを着るんですか?」
ミアがドアを開けたところで立ち止まっていた。
「すみません、返事がなかったので」
スーツ探しに夢中になっていてミアが来たことに気付かなかったようだ。
「それ、アイロンかけましょうか?」
「おお、是非頼む。出来れば急いで」
「はい、わかりました」
こうしてスーツはなんとかなった。
あとは変装か。
十分後。
城門前にて。
「怪しいですね」
「やっぱり?」
俺は変装と称して眼鏡とマスクをしている。
風邪をひいているという設定だ。
「でも風邪をうつさないようにしているという点では好印象なんじゃないか」
「う~ん、正直微妙なところですけど時間もあまりないことですしそれでいくしかないでしょう」
エルメスは自分に言い聞かせるように言った。
俺たちはエルメスの家へと向かう。
「私の家は城下町の郊外にあります。さっき電話をしてこれから行くということだけは伝えておきましたから両親とも私の帰りを今か今かと待っていると思います」
「俺のことは言ったのか?」
「いいえ、言ってません」
「なんで言わないんだよっ」
「いや~なんとなく」
頬に指を当てておどけてみせる。
「お前やる気あるのか?」
「もちろんありますよ。なんたって私の将来がかかってるんですから」
その割にはなんだか楽しそうだな。
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