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第12話 【毒無効】

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マ、マズい……意識が遠のく……。

そんな時何を思ったのか、エレナが僕の落としたダガーナイフを拾うとそれで自分の手のひらを切りつけた。
そしてがくがくと痙攣を繰り返す僕の口に自分の血液を垂らす。

「クロノさん、死なないでっ!」
エレナが叫ぶ声が耳に届いた。

するとその直後、
「がはぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ…………な、治った……?」
全身の硬直が解け痙攣も嘘のように消えてなくなった。
いつの間にか呼吸も正常に出来ているではないか。

「エ、エレナ、きみが……?」
「よかった、クロノさんっ!」
エレナが倒れている僕の手を取ってぎゅうっと握り締めてくる。

「エレナ、今のって……どういうこと?」
「あの蛇神様……じゃなくて、あのモンスターの唾液には毒があるんです。だからもしかしてクロノさんはその毒に侵されてしまったんじゃないかと思って……わ、わたし毒無効のスキルを持っているんです。だ、だからわたしの血を飲ませれば助かるんじゃないかなって、それで……」
「毒無効……そんなスキルをエレナが……?」
「は、はい。よかったです、わたしの血が効いてくれて」
エレナは目を潤ませながらほっと安堵の息を吐いた。

つまりエレナの言う通りなら、僕はそこに転がっている大蛇に似たモンスターを倒す時に毒を浴びてしまっていて、それが原因で全身麻痺のような症状が現れたということか。

「と、とにかく助かったよ。ありがとうエレナ」
「い、いえ。わたしなんか全然っ……」
「そんなことないよ。エレナは僕の命の恩人だ、本当にありがとう」
息が出来なくなっていた以上、あのまま放置されたら間違いなく死んでいたに違いない。

「これでエレナには借りが出来たな……エレナ、さっきの話に戻るけどお金の心配ならしなくていいよ、僕の感謝の気持ちだと思って受け取ってほしい」
「そ、そんな、恩人というならそれはお互い様ですよっ……それにもとはと言えばわたしを助けるために毒を受けてしまったわけですから……」
エレナは胸の前で両手を振って僕の申し出を再度断った。

僕は一拍置いてから真剣な顔を作ると、
「聞いてエレナ。きみは僕より年下なんだ、少しは甘えたっていいんだよ」
エレナの目をじっとみつめる。

エレナには身寄りがないと聞いた。
おそらくエレナはこれまで自分の存在価値など感じることはなく、肩身の狭い思いをしながら生きてきたのだろう。
だから人との接し方が不器用なのかもしれない。
……まあ、僕も人のことを言えた義理ではないのだけれど。

「僕は頼りにならないかい?」
「い、いえ、そ、そんなことないですっ」
「だったら少しは頼ってほしい。エレナが僕を助けてくれたように僕もエレナの力になりたいんだ」
「クロノさん……」
エレナは今にも泣き出しそうな表情になる。

「おっと、泣くのは無しだよ。これは何も特別なことじゃない、当たり前のことなんだからね」
「クロノさん……は、はい」
服の袖で涙を拭うエレナ。
薄汚れた服で拭くものだからニーナの目の周りが黒くなってしまった。

「ほら、汚れてるよ」
僕はエレナの目の周りを自分の服を使って拭いてやる。

「あ、す、すみませんっ」
「エレナ、別に敬語も使わなくていいよ、もっと友達みたいに接してくれれば。僕は全然気にしないからさ」
「い、いえ、それは駄目ですっ。クロノさんとお友達だなんて、お、恐れ多くてっ……そ、それにわたしの方が年下ですからっ……」
僕がついさっき言ったセリフを引き合いに出すエレナ。

「そっか、まあエレナがそう言うならそれはいいや。じゃあとりあえず今日は遅いからもう寝ようか。野宿だけど大丈夫?」
「は、はい。全然大丈夫です。わたしいつも馬小屋で寝てましたから」
エレナは何度もうなずいた。
……馬小屋で寝てたのか。

「あっそうだ。僕朝弱いからもし起きなかったら耳元で叫んじゃっていいからね」
「あ、はい……わかりました」
「それじゃ、おやすみエレナ」
僕はエレナの横に寝そべるとそっと目を閉じた。

「はい、おやすみなさいクロノさん」
エレナも僕にならって草の上に横になる。


――この夜、僕は何年かぶりに夢を見た。
それはとても懐かしくもあり、楽しい夢だった。
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