上 下
13 / 59

第13話 白金の大迷宮

しおりを挟む
ダンジョンを出た俺はそこに集まっていた大勢の人たちからカメラを向けられた。
だが、疲れを理由にそれらを避けつつ俺は足早に公園を去る。
ベビードラゴンのベビーに関しては、ぬいぐるみだと思ってもらえたようで特に追及はされなかった。

家に到着すると母さんが慌てた様子で玄関に駆け寄ってくる。
何事かと訊ねたところ、
「あんた、ダンジョンの所有者になったってホントなのっ?」
と身を乗り出して訊き返してきた。
さては、結衣さんから聞いたな。

「ああ、そうだよ」
返すと、
「そうだよ、じゃないわよっ。なんでそんな大事なこと黙っていたのよっ」
母さんは言葉を浴びせてくる。
どうでもいいけど結衣さんといい、母さんといい、どちらも声が大きいな。
近所迷惑にならないか心配になるくらいだ。

「ところであんた、そのぬいぐるみは何?」
「いいだろ別に。それより俺、バイト辞めてこれからはダンジョン探索するから。じゃ」
それだけ言うと、まだ何か話している母さんの横をすり抜け、俺は二階の自室へと駆け上がった。

部屋に入ると鍵をかけてベッドに腰を下ろす。
そして腕の中に抱いていたベビーを放してやった。

『へー、ここがマスターの住んでいるところなんだね』
ベビーは『んーっ』と伸びをしつつ、俺の部屋を見回す。

「ああ。ぬいぐるみのフリさせて悪かったな」
『えっへへ、おいら気にしてないよ。おいらみたいに人間の言葉を喋れるモンスターがいたら、みんなびっくりしちゃうもんね』
とベビー。
理解のあるやつで大いに助かる。

そこでふと俺は骸骨の存在を思い出した。
「なあベビー。俺さ、あのダンジョンでお前みたいに人語を操る骸骨みたいなモンスターに遭ったんだけど、お前そいつのこと知ってるか?」
ベビーはあのダンジョンについて何でも知っていると豪語していたので、訊ねてみる。

『人語を操る骸骨みたいなモンスター?』
「ああ。知らないか?」
『うん。おいらあのダンジョンに出てくるモンスターは全部知ってるけど、人間の言葉を喋れるモンスターはおいら以外いないはずだよ』
「そうなのか……うーん」
ということはやっぱり、あれは幻だったのか?
いやいや、そんなはずはない。

自問自答するが、考えても答えが出ないので俺は考えることを止めた。
そして、ついでとばかりに俺は公園にあるダンジョンについて、気になっていた質問をいくつもぶつけてみた。
おかげで公園のダンジョンの大きさや出てくるモンスターの名前や特徴など、いろいろと知ることが出来た。
ちなみにあのダンジョンは、ベビー曰はく白金の大迷宮という名前らしい。

俺のいだいていた疑問が解消されるやいなや、ベビーが目を輝かせながら口を開く。
『ねぇねぇ、それよりもマスター。おいらお腹空いたよぉ~』
ベビーが甘えた声で訴えてきた。

「わかったよ。ちょっと待ってろ」
俺はベビーに背を向けると戸棚の中にしまっておいた大好物のメロンパンを二つ取り出し、
「ほら、これでいいか」
その一つをベビーに手渡してやる。

『これなに?』
「メロンパンだ。美味しいから食べてみな」
『ふーん。あ、いいにおい。それじゃあ、いっただきまーす!』

メロンパンにかぶりつくベビー。
その途端ぴくっと動きが止まる。
どうしたのだろう。
口に合わなかったかな……?

「どうかしたか?」
すると、ベビーは俺の顔を見上げて、
『……マスター。これ、メロンパンってやつ、めちゃくちゃ美味しいよっ!』
興奮気味にまくしたてた。

『こんな美味しいものがあるなんて! マスターはこんな美味しいものいつも食べてるのっ? いいなぁ! マスター、おいらメロンパン大好きだよ!』
「おいおい、あんまり一気に食べるなよ。喉に詰まるぞ」
苦笑しながらも俺は自分のことのように嬉しくなった。

「あーそうだ。ところでさ、白金の大迷宮にゴールドメタルスライムってのがいるだろ」
『ふん、いふよ』
「そいつを倒したいんだけど、すばしっこくて攻撃が当たらないんだよな。ベビー、何かいい方法はないかな?」
『あふよ』

メロンパンをごくんと飲み込んで、
『おいらの魔結界なら、おいらより弱いモンスターの動きを封じられるから、おいらの魔結界でゴールドメタルスライムの動きを止めちゃえば、あとはマスターが倒せばいいだけさ』
ベビーはそんなことを言う。

「え、お前、そんなこと出来るのか?」
『うんっ。おいらの自慢の特技さっ』
「マジかよっ。すごいぞベビー!」

もしそれが可能ならば、もうゴールドメタルスライムは狩り放題じゃないか。
つまりはレベルも上げ放題。
ふふふ……いいぞ、ツキが俺に向いてきた!

「ベビー、俺のメロンパンもやるよ。ほらっ」
『え、いいのっ!?』
「ああ、これからはいくらでも食べさせてやるからな」
『いぇーい、やった、やったーっ!! ありがとうマスター!!』

手放しで喜ぶベビーを見ながら俺は、感謝するのはこっちの方だよ、と口元のにやけが止まらなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界帰りの元勇者、日本に突然ダンジョンが出現したので「俺、バイト辞めますっ!」

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
俺、結城ミサオは異世界帰りの元勇者。 異世界では強大な力を持った魔王を倒しもてはやされていたのに、こっちの世界に戻ったら平凡なコンビニバイト。 せっかく強くなったっていうのにこれじゃ宝の持ち腐れだ。 そう思っていたら突然目の前にダンジョンが現れた。 これは天啓か。 俺は一も二もなくダンジョンへと向かっていくのだった。

【魔物島】~コミュ障な俺はモンスターが生息する島で一人淡々とレベルを上げ続ける~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
【俺たちが飛ばされた魔物島には恐ろしいモンスターたちが棲みついていた――!?】 ・コミュ障主人公のレベリング無双ファンタジー! 十九歳の男子学生、柴木善は大学の入学式の最中突如として起こった大地震により気を失ってしまう。 そして柴木が目覚めた場所は見たことのないモンスターたちが跋扈する絶海の孤島だった。 その島ではレベルシステムが発現しており、倒したモンスターに応じて経験値を獲得できた。 さらに有用なアイテムをドロップすることもあり、それらはスマホによって管理が可能となっていた。 柴木以外の入学式に参加していた学生や教師たちもまたその島に飛ばされていて、恐ろしいモンスターたちを相手にしたサバイバル生活を強いられてしまう。 しかしそんな明日をも知れぬサバイバル生活の中、柴木だけは割と快適な日常を送っていた。 人と関わることが苦手な柴木はほかの学生たちとは距離を取り、一人でただひたすらにモンスターを狩っていたのだが、モンスターが落とすアイテムを上手く使いながら孤島の生活に順応していたのだ。 そしてそんな生活を一人で三ヶ月も続けていた柴木は、ほかの学生たちとは文字通りレベルが桁違いに上がっていて、自分でも気付かないうちに人間の限界を超えていたのだった。

最弱無双は【スキルを創るスキル】だった⁈~レベルを犠牲に【スキルクリエイター】起動!!レベルが低くて使えないってどういうこと⁈~

華音 楓
ファンタジー
『ハロ~~~~~~~~!!地球の諸君!!僕は~~~~~~~~~~!!神…………デス!!』 たったこの一言から、すべてが始まった。 ある日突然、自称神の手によって世界に配られたスキルという名の才能。 そして自称神は、さらにダンジョンという名の迷宮を世界各地に出現させた。 それを期に、世界各国で作物は不作が発生し、地下資源などが枯渇。 ついにはダンジョンから齎される資源に依存せざるを得ない状況となってしまったのだった。 スキルとは祝福か、呪いか…… ダンジョン探索に命を懸ける人々の物語が今始まる!! 主人公【中村 剣斗】はそんな大災害に巻き込まれた一人であった。 ダンジョンはケントが勤めていた会社を飲み込み、その日のうちに無職となってしまう。 ケントは就職を諦め、【探索者】と呼ばれるダンジョンの資源回収を生業とする職業に就くことを決心する。 しかしケントに授けられたスキルは、【スキルクリエイター】という謎のスキル。 一応戦えはするものの、戦闘では役に立たづ、ついには訓練の際に組んだパーティーからも追い出されてしまう。 途方に暮れるケントは一人でも【探索者】としてやっていくことにした。 その後明かされる【スキルクリエイター】の秘密。 そして、世界存亡の危機。 全てがケントへと帰結するとき、物語が動き出した…… ※登場する人物・団体・名称はすべて現実世界とは全く関係がありません。この物語はフィクションでありファンタジーです。

「残念でした~。レベル1だしチートスキルなんてありませ~ん笑」と女神に言われ異世界転生させられましたが、転移先がレベルアップの実の宝庫でした

御浦祥太
ファンタジー
どこにでもいる高校生、朝比奈結人《あさひなゆいと》は修学旅行で京都を訪れた際に、突然清水寺から落下してしまう。不思議な空間にワープした結人は女神を名乗る女性に会い、自分がこれから異世界転生することを告げられる。 異世界と聞いて結人は、何かチートのような特別なスキルがもらえるのか女神に尋ねるが、返ってきたのは「残念でした~~。レベル1だしチートスキルなんてありませ~~ん(笑)」という強烈な言葉だった。 女神の言葉に落胆しつつも異世界に転生させられる結人。 ――しかし、彼は知らなかった。 転移先がまさかの禁断のレベルアップの実の群生地であり、その実を食べることで自身のレベルが世界最高となることを――

最難関ダンジョンで裏切られ切り捨てられたが、スキル【神眼】によってすべてを視ることが出来るようになった冒険者はざまぁする

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
【第15回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞作】 僕のスキル【神眼】は隠しアイテムや隠し通路、隠しトラップを見破る力がある。 そんな元奴隷の僕をレオナルドたちは冒険者仲間に迎え入れてくれた。 でもダンジョン内でピンチになった時、彼らは僕を追放した。 死に追いやられた僕は世界樹の精に出会い、【神眼】のスキルを極限まで高めてもらう。 そして三年の修行を経て、僕は世界最強へと至るのだった。

固有スキルガチャで最底辺からの大逆転だモ~モンスターのスキルを使えるようになった俺のお気楽ダンジョンライフ~

うみ
ファンタジー
 恵まれない固有スキルを持って生まれたクラウディオだったが、一人、ダンジョンの一階層で宝箱を漁ることで生計を立てていた。  いつものように一階層を探索していたところ、弱い癖に探索者を続けている彼の態度が気に入らない探索者によって深層に飛ばされてしまう。  モンスターに襲われ絶体絶命のピンチに機転を利かせて切り抜けるも、ただの雑魚モンスター一匹を倒したに過ぎなかった。  そこで、クラウディオは固有スキルを入れ替えるアイテムを手に入れ、大逆転。  モンスターの力を吸収できるようになった彼は深層から無事帰還することができた。  その後、彼と同じように深層に転移した探索者の手助けをしたり、彼を深層に飛ばした探索者にお灸をすえたり、と彼の生活が一変する。  稼いだ金で郊外で隠居生活を送ることを目標に今日もまたダンジョンに挑むクラウディオなのであった。 『箱を開けるモ』 「餌は待てと言ってるだろうに」  とあるイベントでくっついてくることになった生意気なマーモットと共に。

異世界あるある 転生物語  たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?

よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する! 土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。 自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。 『あ、やべ!』 そして・・・・ 【あれ?ここは何処だ?】 気が付けば真っ白な世界。 気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ? ・・・・ ・・・ ・・ ・ 【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】 こうして剛史は新た生を異世界で受けた。 そして何も思い出す事なく10歳に。 そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。 スキルによって一生が決まるからだ。 最低1、最高でも10。平均すると概ね5。 そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。 しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。 そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。 追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。 だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。 『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』 不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。 そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。 その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。 前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。 但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。 転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。 これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな? 何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが? 俺は農家の4男だぞ?

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

処理中です...