【ダンジョン・ニート・ダンジョン】 ~ダンジョン攻略でお金が稼げるようになったニートは有り余る時間でダンジョンに潜る~

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第111話 スラ♀

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『ピ、ピキー……』
「スラさん、大丈夫ですかっ?」
「大丈夫か? スラっ」
俺とククリはスラに近寄り声をかけるがスラは目をぐるぐると回したまま俺たちの呼びかけに答えられないでいる。

「マツイさん、ヒールとハイキュアをスラさんにかけてあげてください。スラさんはバットに超音波攻撃を受けて目が見えていないんです」
「お、おう」
ヒールは消費魔力5の回復魔法、ハイキュアはどんな状態異常でも治すことの出来る消費魔力40の魔法だ。

俺はスラに手をかざし、
「ヒール! ハイキュア!」
続けざまに二つの呪文を唱えた。

オレンジ色とピンク色の光に包まれたスラ。
すると次の瞬間、ぐるぐると回っていたスラの目の焦点が俺とばっちり合い『ピキー!』と元気よく声を上げた。


「おい、スラ。ピキーじゃないだろ。助かったからよかったものの下手したら死んでたかもしれないんだぞ」
俺は心を鬼にしてスラをしかりつける。

誰かを説教することなど初めてなのでちょっと緊張しながら、
「俺もククリも心配したんだぞ。ちゃんと言うことを聞かないからこんなことになったんだ。いいか、これもお前のためを思って言ってるんだからな。もう二度と危ない真似はするなよ」
小さい頃父親に言われたことを思い出しつつ話してみた。

『ピキー……』
スラは申し訳なさそうに頭をへしゃげる。

「マツイさん。スラさんもごめんなさいって言っていますしもうそれくらいでいいんじゃないですか」
「うん、まあそうだな。そうするか……ってククリお前スラの言ってることわかるのかっ?」
「え? わかりますけど」
キョトンとした顔で返すククリ。

「マツイさんはスラさんの言葉わからないんですか?」
「わかるわけないだろ。ピキーしか言ってないんだから」
「そんなことないですよ。ちゃんと喋ってるじゃないですか」
『ピキー』
「ほらっ」
ククリはスラを指差す。

「何がほらっ、だよ」
「あたしちゃんと喋ってるのに、マツイさんてばもう~って言ってるじゃないですか、スラさん」
「俺にはピキーとしか聞こえないぞ」
スラは俺の目をじっとみつめて再度『ピキー』と鳴くが俺にはさっぱりだ。

大体、あたしちゃんと喋ってるのに、マツイさんてばもう~、とピキー、とでは文字数が全然合わないじゃないか……。
「――っていうかスラってもしかしてメスなのっ?」
「そうですよ。マツイさんそれも知らなかったんですか?」
「知らなかったし、もっと言うとモンスターに性別があることも知らなかったよ」
ククリはそんなこと一言も俺に教えてくれないのだからわかるはずがない。

「メスだって知ってたらスラなんかじゃなくてもうちょっとかわいい名前にしてやってたのに」
『ピキー!』
スラが俺の足元でぴょんと跳ぶ。

「ククリ、こいつ今なんて言ったんだ?」
「スラさんですか? スラって名前すごく気に入ってるって。名前つけてくれてマツイさんありがとう大好き~、だそうです」
「ふーん……」
本当か?
ククリの奴、俺がスラの言葉を理解できないと思って適当言ってるんじゃないだろうな。


少々の疑念を抱きつつ俺はこの後ククリとスラを連れて地下六階層をアイテムを探して歩き回った。
結果、バットと一切戦うことなく薬草と防御力+1の運動靴をみつける。
裸足だった俺はすぐさま運動靴を履くと薬草は布の袋にしまい込んだ。


「次は地下七階層、ボアフロアだな」
下への階段を前にして言うと、
「ボアは多分今のマツイさんには恐れず向かってくると思いますから気を引き締めてくださいね」
ククリが伝えてくれる。

「だそうだ、わかったかスラ。お前も気をつけろよ」
『ピキー』
体長二メートルほどのイノシシみたいなボアの突進をくらったらスラなんかひとたまりもないだろうからな。

「じゃあ、行くぞ」
「おーっ!」
『ピキー!』

ククリは勇ましく手を振り上げ、スラはぴょんと跳び上がって一回転。
俺たちはボアが待っているであろう地下七階層へと歩を進めた。
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