【ダンジョン・ニート・ダンジョン】 ~ダンジョン攻略でお金が稼げるようになったニートは有り余る時間でダンジョンに潜る~

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第55話 キラービー

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「攻撃魔法ですっ、攻撃魔法が有効ですっ」
ククリが教えてくれるが、
「俺の攻撃魔法は使えないものばかりだろうがっ!」
バトルマッチは指先からマッチのように小さな火を出すだけ、バトルアイスは氷の塊を出現させるだけ。

「バトルウインドがあるじゃないですかっ」
とククリが言う。

バトルウインド。レベルが26に上がった際に覚えた魔法だがまだ一度も使ったことはない。
どうせ魔力の無駄に終わるのだろうと思い使ってこなかったのだが……。

「キラービーに手を向けてバトルウインドと唱えてくださいっ」
ククリが声を張り上げる。
キラービーはもうすぐ後ろまで迫ってきていた。
「早くっ!」

「くそっ!」
もうどうにでもなれ、と俺は後ろを振り返ると刀を捨て手を前に出し「バトルウインド!」と唱えた。

その瞬間俺の手から薄緑色をした一陣の風が刃のように放たれた。
弧を描いた風の刃はキラービーの羽を切り裂いて天井にぶち当たる。

「おおっ!?」
予想外の威力に自分でも驚き、声を発した。

羽を切り裂かれ飛べなくなったキラービーが床に落ちる。
俺の足元で仰向けになってもぞもぞともがいている。

「ククリっ、バトルウインドがこんなすごい魔法なのになんで黙ってたんだよっ」
「試し撃ちしないんですか? ってマツイさんに私ちゃんと確認しましたよっ。それを断ったのはマツイさんですっ」
「そ、それはそうだけど……」
ダンジョンの案内人ならもっと親切に教えてくれたっていいじゃないか。

ククリの案内人としての資質に疑問を抱いたその時だった。
背中を下にして動けなくなっていたキラービーがお尻の針を俺に飛ばしてきた。

ブスッ。

「があっ……!」
右腕にホースほどの太さの針が刺さる。

「マツイさんっ!」

俺は急に全身から力が抜けて倒れ込んだ。
意識がもうろうとし出して呼吸が浅くなる。鼓動も早くなっていく。

それでも懸命に「……キ、キ、キュアっ……!」と解毒魔法を唱えようとするが発動しない。

「駄目ですっ、バトルウインドの消費魔力は20ですからマツイさんの残り魔力は1しかありませんっ」
ククリは俺のもとに飛んで駆けつける。
「待っててください、マツイさんの袋の中にっ……」
ククリは布の袋からマーダーゾンビを倒した時に手に入れていた魔力草を取り出すと俺の口にそれを押し込んだ。

体が思うように動かなくなってきている俺に魔力が回復する魔力草をなんとか食べさせようとしてくれるククリ。
俺は口を動かし押し込まれた魔力草を飲み込んだ。

「マツイさん、早くキュアを唱えてくださいっ!」
「……キ、ク、クっ……」
ククリは必死に叫ぶが俺は声帯までもが麻痺してしまったのか声が思うように出せないでいた。


「……そうだっ!」
とククリが思い出したように俺の持つ布の袋の中に顔を突っ込んだ。
そして緑色の何かを引っ張り出すとそれを俺の口の中に再度押し込む。今度は喉の奥まで届くように。

「マツイさん飲んでくださいっ! ムカデ草ですっ、飲み込んでっ!」

ムカデ草? ……確か、麻痺を治す効果があるんだったっけ……?
俺は吐き気を我慢しながら最後の力を振り絞り喉の筋肉を動かした。

ご……くん。


するとムカデ草の効果がすぐに表れ全身から麻痺の症状がなくなった。

「……キュア!」
もうろうとする意識の中俺は解毒魔法を唱える。
ピンク色の暖かい光が俺を包み込んだ。

そして光が消え去ると俺は立ち上がれるまでに回復していた。
「マツイさんっ!」
「ふぅ……助かったよククリ。もう大丈夫だ」

天井の石がぱらぱらと落ちてくる中、俺は刀を拾い上げると石畳の上でもがいているキラービーを見下ろした。

「今度はちゃんととどめを刺さないとなっ」
俺は妖刀きりがくれでキラービーの胸の辺りを一突きした。
泡状になって霧散していくキラービー。



「あ~……怖かった」

気が抜けてへたへたとその場に座り込む。
そんな俺の顔にククリが抱きついてくる。

「マツイさーん、やりましたねっ。フロアボスを連続で倒しちゃいましたよっ。すごいです、すごいですっ」
「……あ、ああ。そうだな」
まだ心臓が早鐘のように打っているが。

とその時キラービーがいた場所に宝箱が出現し、

ゴゴゴゴゴ……。

通路と階段を塞いでいた石の壁が消え、地下五階層への階段が姿を現した。


「マツイさん。宝箱のアイテムをとったらこの勢いで次の階層のフロアボスも倒しちゃいましょうかっ」
「鬼かよっ。しばらく休ませてくれ……」
「えへへ~」

俺はキラービーが残していった宝箱も開けないままごつごつした石畳の上に大の字に寝そべった。
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