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第85話 秘密

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なし崩し的に俺たちの旅に同行することになったゲルニカだったが訊いてみると魔物の研究にかまけていて一文無しなのだそうだ。

「それでよくついていくなんて言えたな」
「す、すみません……」
「あ、いや、ローレライさんに言っているわけではないですよっ」

そういえばローレライさんもお金を持っていないのだった。
失念していた。

「と、ところでどこへ向かってるんだ?」
俺は意気揚々と先頭を歩くゲルニカに言葉を投げかける。

「グラン湿原よ」
「グラン湿原?」

ゲルニカは当然でしょというテンションで言ってくるがもちろん俺は知らない。

「なにクロクロ、あんたグラン湿原知らないの?」
「ああ。あいにく俺は記憶喪失なんでな」
「記憶がないわけ? ふーん、そうなの」

俺の記憶がないことなどどうでもいいかのようにつぶやくゲルニカ。
するとローレライさんが代わりに答えてくれた。

「クロクロさん。グラン湿原というのはここから歩いて一日ほどの場所にある広い湿地帯のことです。様々な魔物が生息しているとされています」
「へー、そうなんですか」
「そこに最近になって湿原では見られない魔物が現れるようになったって噂があるのよ」
とゲルニカが続ける。

「だからとりあえずそこ行って魔物の発生源を突き止めようってわけ。わかった?」
「そういうことか、わかったよ」

俺とローレライさんはゲルニカの後を追うように歩くのだった。


◇ ◇ ◇


「あー、疲れたっ。今日はもう休みましょっ」
数時間後、ゲルニカが唐突に声を上げる。

「まだ夕方だぞ」
「もう少し行けるところまで行きませんか?」
俺とローレライさんは言うが、
「あたし最近徹夜続きだったから疲れてるのよね~」
どうでもいいことを口にする。

「自業自得だろ」
「いいじゃないの、どうせ明日には着くんだからっ。それにグラン湿原の話を教えてあげたのはあたしなんだからねっ」
「そ、そうですね。では今日はここで野宿しましょうか」
ローレライさんが大人の対応を見せた。

「仕方ないな」
と俺も結局それに倣う。

俺が地面にシートを敷くとゲルニカは靴を脱いですぐさまシートの上に寝転がる。
そして自分のバッグからバナナを四本取り出すと意外なことにそのうちの二本を俺たちに手渡してきた。

「え? くれるのか?」
「そうよ。あたしって気が利くでしょ」
「あ、ありがとう」
「ありがとうございます、ゲルニカさん」

ゲルニカは満足そうにうなずくと残りの二本のうちの一本を皮をむいて食べ始めた。

「うん、美味しいわっ……ってあんたたち食べないの?」
「え、あー、そうだなぁ……」

俺は昨日の夜食べたガジュの実の効果でまだお腹は減っていない。というより満腹だ。
おそらくローレライさんも同じなのだろう、俺の顔をちらちらと見てくる。

だがガジュの実はエルフ族の食べ物なのでそのことをゲルニカに話すわけにはいかない。
それにせっかくのゲルニカの厚意を無下にするのもどうかと思い、俺とローレライさんは意を決してバナナを頬張った。

「どう? 美味しいでしょっ」
「あ、ああ。美味しい」
「お、美味しいです」


◇ ◇ ◇


バナナを食べ終わり就寝時間になる。
俺たち三人は川の字になって寝ることにした。

俺が見張りとして起きていようかと提案したのだが、ローレライさんが「私、耳がいいので魔物が近付いて来ればすぐにわかりますから」と三人同時に寝ることを勧めてくれた。

「ねえ、ローレライ。あなたって寝る時もフードを被って寝るの?」
俺が目を閉じかけた時ゲルニカがローレライさんに向かって口にする。

「は、はい。私、寒がりなので……」
本当はエルフ族の最大の特徴であるとがった耳を隠すためなのだが。

「ふーんそう」
ゲルニカはローレライさんの答えを聞いた後もじぃっとローレライさんの顔をみつめている。

「な、なんでしょうか?」
「うん、あのさぁ……ローレライってもしかしてエルフ?」
「えっ!?」
ローレライさんが驚きの声を上げた。
俺も内心どきっとする。

「ど、ど、ど、どうして、そう思うのですか……?」
ローレライさんがいつになく動揺している。
その反応を見て確信したかのようにゲルニカはにかっと笑った。

「だってローレライって美人過ぎるもの、肌も真っ白だし。あたしも美人だけどあなたには勝てないわ、どうせそのフードも耳を隠すためなんでしょ」

ローレライさんは顔から血の気が引く。
そして、
「ど、どうしましょう、クロクロさんっ。私がエルフだってことバレちゃいましたよっ」
俺の耳元で必死にささやく。
ローレライさんは自分がエルフだとバレると人間に売り飛ばされてしまうとバーバレラさんに教え込まれているのでおろおろしていた。

だが、
「別にあたしはローレライがエルフだろうと構わないけどね」
言うなり反対側を向いて横になるゲルニカ。

「え、私がエルフなのに気にしないのですか?」
「だってエルフだろうがローレライはローレライでしょ」
「ゲルニカさん……」
「あたし疲れてるからもう寝るわよ、おやすみ」
「あ、お、おやすみなさい。ゲルニカさん」

ローレライさんは俺に向き直った。
何か言いたげな顔をしていたが、
「あの……私も寝ますね。クロクロさん、おやすみなさい」
とだけ言うとローレライさんもそのまま横になる。

俺はそんな二人を眺めて自然と頬が緩んでいた。
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