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第69話 エルフの里の長

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ロレンスの町を出発してから三日目の昼過ぎのこと、険しい山道を一時間以上かけて上っていると前を歩いていたローレライさんが立ち止まり後ろを振り返る。

そして俺を見て、
「クロクロさん、着きましたよ。ここがエルフの里の入り口です」
手を前に差し向けた。

だが……。
「え? ここって、何もないですけど……?」
ローレライさんが手を向けている先には切り立った断崖しかない。

困惑する俺の表情を見てくすくすと笑うローレライさん。

「あ、すみません。実はエルフの里には結界が張ってあって人間には見えないようになっているのです。クロクロさんにはただの岩山に見えているでしょうけれどこの先がエルフの里なのですよ」
ローレライさんはそう言って俺に手を差し出す。

「私の手を握ってください」
「手を握るんですか?」
「はい」

俺はよくわからないままローレライさんの言う通りにしてみた。
するとローレライさんは俺と手をつないだまま断崖に向かって駆け出した。

ぶつかるっ!

そう思った次の瞬間、ローレライさんと俺は断崖をすり抜けて気付けば広々とした集落の入り口に立っていたのだった。


◇ ◇ ◇


今起こった出来事と周りの光景に呆気にとられていると、
「クロクロさん、ここが私たちエルフの里です」
俺から手を放したローレライさんがにこっと笑う。

「す、すごい。本当にこんなところにエルフの里があったんですね」
「はい。では早速ですがエルフの里の長のもとへご案内しますね」
言うとローレライさんは軽やかに歩き出した。

ローレライさんが言っていた通りエルフの里は自給自足の生活をしているようで辺り一面田畑が広がっていた。
そこには老若男女様々なエルフがいて俺を物珍しそうに見てくる。
中には敵意をむき出しにして見てくる者や逆に怯えて隠れてしまう者もいたが人間と交流を断っていると聞いていたのでそれは致し方ないことなのかもしれなかった。

しかしこれだけ広い土地で自給自足の生活をしている割には家畜が一頭もいない。
とそこで俺は「あ、そうか」と思い出す。
家畜はすべて竜王という魔物に食べられてしまったのだと。

「……さん、クロクロさん聞いていますか?」
ローレライさんが俺の顔を下から覗き込んでいた。

「あ、すいません。ちょっと考え事をしてたので……」
「ふふっ、そうですか。それよりあの家が里の長の家です」
ローレライさんはそう言って一軒の家を指差す。
その家はログハウス風で周りの家よりもひときわ大きく目立っていた。

「行きましょう」
「はい」
俺はローレライさんとともに里の長の家を訪れるのだった。


◇ ◇ ◇


「失礼いたします、バーバレラ様。ただいま戻りました」
「お邪魔します」
「おお、よく帰ってきたのうローレライっ。無事だったかい?」
「はい。私は無事です、バーバレラ様」

家に入ると一人の老婆が俺たちを、というかローレライさんを出迎えた。
察するにこのバーバレラという年老いたエルフがこの里の長なのだろう。

「人間にひどいことされなかったかい?」
「大丈夫です、バレないようにちゃんと耳を隠していましたから」
「そうかい、それはよかったよ……それでこの人間が冒険者かい?」
バーバレラさんは俺を見上げ言う。

「はい。こちらはクロクロさんといってとても頼りになる冒険者さんです。今回の依頼もこころよく引き受けてくださいました」
「あ、どうも。はじめまして」
俺が挨拶するとバーバレラさんはじっと俺の目をみつめる。

そして一拍置いてから、
「ふん。よろしくな、クロクロさんとやら」
さっきまでローレライさんに見せていた表情とは打って変わって路傍の小石でも見るかのような顔でつぶやくとバーバレラさんは奥の部屋へと消えていった。

対応の差に多少困惑していると、
「すみません、お気を悪くさせたのなら私が謝ります」
ローレライさんが俺に顔を向ける。

「バーバレラ様は大昔、一人娘のレジーナさんを人間にさらわれてしまった過去があるのです。ですから人間のことをあまりこころよくは思っていないのです。今回の件もやむにやまれず仕方なく人間に頼ることにしたという経緯がありまして……」
「そうだったんですか……」

そういう事情があるならあまり歓迎されていない理由も理解できる。
敵意をむき出しにしていたエルフがいたのもそのせいか。

「あの……今回の依頼ですけれど……」
「大丈夫ですよ。今さら断ったりしませんから」
「そ、そうですか……ありがとうございます」

不安そうなローレライさんを安心させようと俺は笑顔で返した。
ローレライさんはそれを受けて複雑そうな顔を見せた。
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