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第61話 Sランク冒険者
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ミネルバの実験台を終えた翌日、俺は体がだるくて宿屋で寝込んでいた。
ミネルバの作った惚れ薬を飲み過ぎたせいじゃないかと疑いつつ、ついさっき病院に行ったところ俺は医者にただの風邪だと診断された。
重力十分の一の世界とはいえ俺も病気には勝てないということらしい。
「こほっ……」
まあ、病院で薬を貰ってきたし今日一日しっかり休めば明日までには完治するだろう。
「クロクロさん、お昼ご飯買ってきたけど食べるかいっ?」
宿屋の女将さんが俺の泊まっている部屋のドアを開け放つ。
気を利かせて昼ご飯を買ってきてくれたらしい。
「あ、すいません。お金はちゃんと払うので……」
「いいっていいって。それよりついでだからあたしもここで食べていこうかねっ」
「別にいいですけど、風邪うつっても知りませんよ」
「なあに、あたしゃ今まで一度も病気したことないのが取り柄だからね。だいじょぶさっ」
笑顔で返す女将さん。
女将さんの元気で明るい姿を見ているとこっちまで元気が出てくる。
この後俺たちは他愛もない話をしながら昼ご飯を一緒に食べた。
といってもほとんどは女将さんが話をしていて俺は聞き役だったのだが。
「さあて、それじゃあたしは仕事に戻るけど何かあったらいつでも呼びなさいねっ」
「はい、ありがとうございます」
俺の返事を聞き終える前に女将さんは部屋を出ていってしまった。
せっかちな人だ。
◇ ◇ ◇
翌朝、俺はすっかり風邪も治ったので女将さんにお礼を言うとギルドへと向かった。
ここ二日ばかりギルドに顔を出していなかったので新しい依頼が入っているに違いない。
そう思いギルドの扉を開ける。
とギルド内の雰囲気がいつもとは少し異なっていることに気付いた。
「ん?」
依頼書が貼られた掲示板の前には一人の若い女性の冒険者がいてその女性を遠巻きから眺めている大勢の冒険者たち。
誰も掲示板に近寄ろうとしないでいる。
「あの、どうかしたんですか?」
俺は後ろの方にいた俺と同年代くらいの男性に声をかけてみる。
「今エアリーさんが来てるんだよっ。初めて生で見たけど美人だな~、エアリーさん」
「エアリーさん?」
「なんだあんた、エアリーさんを知らないのかっ?」
男性は驚いた様子で口にした。
「え、ええ、まあ」
「エアリーさんは数少ないSランクの冒険者だぞ。しかもあの美貌だ、冒険者なら誰もが知ってるはずだろっ」
「はぁ……」
そう言われても俺はもともとこの世界の人間ではないし、冒険者になったのもつい最近だからな。
とそこへ、
「おい、エアリー。まだ依頼選びに手間取ってるのかよっ。さっさとしろよっ」
ギルドに入ってきた若い男性冒険者がエアリーとやらに声を飛ばす。
「そんなこと言うならグレイも一緒に選んでよっ」
それを受けてエアリーは男性冒険者をグレイと呼ぶとそう返した。
話から察するに二人は同じ冒険者仲間といったところだろうか。
「うおっ、グレイだぜっ!?」
「グレイさんだわっ!」
「エアリーさんとグレイさんが揃ったぞ、すげぇっ」
「なんでこんなところに二人がいるんだっ?」
周りにいた冒険者たちが二人を見て色めき立った。
その周りの反応にグレイは気分をよくしたのか、
「わっはっは。なんだなんだ、おれらってばそんな有名人だったのか。おい、そこのあんた。記念におれ様がサイン書いてやろうか? わっはっは」
高笑いしながら俺の肩に手を置く。
「いや、いらないけど」
「そうだろう、そうだろう……っていらないだとっ!? おれ様が直々にサインを書いてやるって言ってるのにいらないだとっ!」
「ああ。俺、お前のこと知らないし」
というかいつまで俺の肩に手を乗せているつもりだ、うっとうしい。
「お、お前だとっ!? このグレイ様をお前呼ばわりだとっ……!」
グレイはわなわなと震えていた。
その様子を見て周りの冒険者たちが「おい、あいつ誰だ?」とか「グレイさん相手に何考えてるんだ、あいつ……」とか口々にささやく。
「話は終わりだよな。じゃあ俺、依頼書見るから」
俺はそう言ってグレイから離れエアリーのいる掲示板の前に移動した。
すると、
「ねえ、あなた名前は?」
隣にいたエアリーが珍しいものでもみつけたかのような顔をして俺に話しかけてきた。
さっきの男性が言っていたように近くで見るとたしかにかなりの美人だ。
「黒岩蔵……いや、クロクロだ」
「へ~、クロクロか。わたしはエアリー、よろしくねっ」
「あ、ああ」
初対面の割には妙に馴れ馴れしい気がしたが不思議と嫌な気はしない。
やはり美人は得だな。
「ねえ、クロクロ。あなた、わたしを見ても他のみんなと違って――」
「ちょっと待ったぁーっ!」
エアリーが俺をみつめながら話し出すと後ろにいたグレイが大声を上げてこれを遮った。
「何よグレイ、いきなり大声なんか出して。みんながびっくりするでしょ!」
「関係ねぇ! それよりもおれはそいつに用があるんだよっ!」
とグレイは俺を指差し声を荒らげる。
「おいこら、クロクロっていったか! あんた冒険者ランクはいくつだっ!」
「俺か? Eランクだけど」
「Eっ!? Eだとっ!? あんた、EランクのくせにSランクのおれ様を馬鹿にしたのかっ!」
「いや別に、馬鹿にはしてないけどさ」
「だ、だったら敬語を使えよっ!」
グレイは俺に突きつけた指先を震わせながら言った。
どうでもいいがこいつ本当にSランクなのか?
「敬語って……お前何歳だよ。俺の方が多分年上だろ」
見た感じグレイは二十歳そこそこの年齢のようだ。
グレイがタメ口で話しているのに二十六歳の俺が敬語を使う道理はない。
「なっ!? だ、だったら勝負だっ! おれ様とどっちが強いかはっきりさせようじゃないかっ!」
「なんでそうなるんだ?」
「ちょっとグレイ、何言ってるのっ?」
「止めるなエアリー! 男には引けない時ってのがあるんだよっ!」
グレイはエアリーの制止を振り払うと俺にグッと顔を寄せてくる。
「表出ろっ。ここじゃギルドに迷惑がかかるからなっ」
……はぁ~、変な奴に絡まれてしまった。
無視してやろうかとも思うがここまでのこいつの言動を見る限り簡単に諦めてくれるとは思えない。
それにSランクがどれほど強いのか少しだけだが興味もある。
「わかったよ。その代わり俺が勝ったらもう突っかかってくるなよ」
「当たり前だっ!」
「え、ちょっとクロクロっ? あなた本気でグレイと戦う気なのっ?」
エアリーが驚きの表情で俺を見た。
「ああ」
「駄目だってば、グレイは馬鹿だけど実力はわたし以上なのよっ。Eランクのクロクロじゃ相手にならないわよっ」
エアリーが俺の腕を掴んでくる。
女性にしてはかなり力が強い。
「クロクロっ! 男に二言はないよなっ?」
「ああ、今さらやめたりしないから安心しろ」
「ちょっと二人とも、わたしの話を聞きなさいよっ」
エアリーの声を右から左に受け流してグレイはギルドを出た。
ギルドの中にいた冒険者たちも勝負の行方が気になるのかぞろぞろとグレイのあとを追う。
「ねえクロクロ、今からでも遅くないからグレイに勝負をやめるように言いましょ。わたしからもお願いするから、ねっ」
「大丈夫だよ」
「大丈夫じゃないわよっ。グレイはブーストっていうすごくレアな身体強化魔法が使えるのよ、あなた下手したら死んじゃうわっ」
とエアリー。
「平気さ、ブーストなら俺も使えるから」
「……えっ?」
「じゃちょっと行ってくる」
俺の言葉に虚を突かれた様子のエアリーを置き去りにして、俺はグレイの待つギルドの外へと飛び出した。
ミネルバの作った惚れ薬を飲み過ぎたせいじゃないかと疑いつつ、ついさっき病院に行ったところ俺は医者にただの風邪だと診断された。
重力十分の一の世界とはいえ俺も病気には勝てないということらしい。
「こほっ……」
まあ、病院で薬を貰ってきたし今日一日しっかり休めば明日までには完治するだろう。
「クロクロさん、お昼ご飯買ってきたけど食べるかいっ?」
宿屋の女将さんが俺の泊まっている部屋のドアを開け放つ。
気を利かせて昼ご飯を買ってきてくれたらしい。
「あ、すいません。お金はちゃんと払うので……」
「いいっていいって。それよりついでだからあたしもここで食べていこうかねっ」
「別にいいですけど、風邪うつっても知りませんよ」
「なあに、あたしゃ今まで一度も病気したことないのが取り柄だからね。だいじょぶさっ」
笑顔で返す女将さん。
女将さんの元気で明るい姿を見ているとこっちまで元気が出てくる。
この後俺たちは他愛もない話をしながら昼ご飯を一緒に食べた。
といってもほとんどは女将さんが話をしていて俺は聞き役だったのだが。
「さあて、それじゃあたしは仕事に戻るけど何かあったらいつでも呼びなさいねっ」
「はい、ありがとうございます」
俺の返事を聞き終える前に女将さんは部屋を出ていってしまった。
せっかちな人だ。
◇ ◇ ◇
翌朝、俺はすっかり風邪も治ったので女将さんにお礼を言うとギルドへと向かった。
ここ二日ばかりギルドに顔を出していなかったので新しい依頼が入っているに違いない。
そう思いギルドの扉を開ける。
とギルド内の雰囲気がいつもとは少し異なっていることに気付いた。
「ん?」
依頼書が貼られた掲示板の前には一人の若い女性の冒険者がいてその女性を遠巻きから眺めている大勢の冒険者たち。
誰も掲示板に近寄ろうとしないでいる。
「あの、どうかしたんですか?」
俺は後ろの方にいた俺と同年代くらいの男性に声をかけてみる。
「今エアリーさんが来てるんだよっ。初めて生で見たけど美人だな~、エアリーさん」
「エアリーさん?」
「なんだあんた、エアリーさんを知らないのかっ?」
男性は驚いた様子で口にした。
「え、ええ、まあ」
「エアリーさんは数少ないSランクの冒険者だぞ。しかもあの美貌だ、冒険者なら誰もが知ってるはずだろっ」
「はぁ……」
そう言われても俺はもともとこの世界の人間ではないし、冒険者になったのもつい最近だからな。
とそこへ、
「おい、エアリー。まだ依頼選びに手間取ってるのかよっ。さっさとしろよっ」
ギルドに入ってきた若い男性冒険者がエアリーとやらに声を飛ばす。
「そんなこと言うならグレイも一緒に選んでよっ」
それを受けてエアリーは男性冒険者をグレイと呼ぶとそう返した。
話から察するに二人は同じ冒険者仲間といったところだろうか。
「うおっ、グレイだぜっ!?」
「グレイさんだわっ!」
「エアリーさんとグレイさんが揃ったぞ、すげぇっ」
「なんでこんなところに二人がいるんだっ?」
周りにいた冒険者たちが二人を見て色めき立った。
その周りの反応にグレイは気分をよくしたのか、
「わっはっは。なんだなんだ、おれらってばそんな有名人だったのか。おい、そこのあんた。記念におれ様がサイン書いてやろうか? わっはっは」
高笑いしながら俺の肩に手を置く。
「いや、いらないけど」
「そうだろう、そうだろう……っていらないだとっ!? おれ様が直々にサインを書いてやるって言ってるのにいらないだとっ!」
「ああ。俺、お前のこと知らないし」
というかいつまで俺の肩に手を乗せているつもりだ、うっとうしい。
「お、お前だとっ!? このグレイ様をお前呼ばわりだとっ……!」
グレイはわなわなと震えていた。
その様子を見て周りの冒険者たちが「おい、あいつ誰だ?」とか「グレイさん相手に何考えてるんだ、あいつ……」とか口々にささやく。
「話は終わりだよな。じゃあ俺、依頼書見るから」
俺はそう言ってグレイから離れエアリーのいる掲示板の前に移動した。
すると、
「ねえ、あなた名前は?」
隣にいたエアリーが珍しいものでもみつけたかのような顔をして俺に話しかけてきた。
さっきの男性が言っていたように近くで見るとたしかにかなりの美人だ。
「黒岩蔵……いや、クロクロだ」
「へ~、クロクロか。わたしはエアリー、よろしくねっ」
「あ、ああ」
初対面の割には妙に馴れ馴れしい気がしたが不思議と嫌な気はしない。
やはり美人は得だな。
「ねえ、クロクロ。あなた、わたしを見ても他のみんなと違って――」
「ちょっと待ったぁーっ!」
エアリーが俺をみつめながら話し出すと後ろにいたグレイが大声を上げてこれを遮った。
「何よグレイ、いきなり大声なんか出して。みんながびっくりするでしょ!」
「関係ねぇ! それよりもおれはそいつに用があるんだよっ!」
とグレイは俺を指差し声を荒らげる。
「おいこら、クロクロっていったか! あんた冒険者ランクはいくつだっ!」
「俺か? Eランクだけど」
「Eっ!? Eだとっ!? あんた、EランクのくせにSランクのおれ様を馬鹿にしたのかっ!」
「いや別に、馬鹿にはしてないけどさ」
「だ、だったら敬語を使えよっ!」
グレイは俺に突きつけた指先を震わせながら言った。
どうでもいいがこいつ本当にSランクなのか?
「敬語って……お前何歳だよ。俺の方が多分年上だろ」
見た感じグレイは二十歳そこそこの年齢のようだ。
グレイがタメ口で話しているのに二十六歳の俺が敬語を使う道理はない。
「なっ!? だ、だったら勝負だっ! おれ様とどっちが強いかはっきりさせようじゃないかっ!」
「なんでそうなるんだ?」
「ちょっとグレイ、何言ってるのっ?」
「止めるなエアリー! 男には引けない時ってのがあるんだよっ!」
グレイはエアリーの制止を振り払うと俺にグッと顔を寄せてくる。
「表出ろっ。ここじゃギルドに迷惑がかかるからなっ」
……はぁ~、変な奴に絡まれてしまった。
無視してやろうかとも思うがここまでのこいつの言動を見る限り簡単に諦めてくれるとは思えない。
それにSランクがどれほど強いのか少しだけだが興味もある。
「わかったよ。その代わり俺が勝ったらもう突っかかってくるなよ」
「当たり前だっ!」
「え、ちょっとクロクロっ? あなた本気でグレイと戦う気なのっ?」
エアリーが驚きの表情で俺を見た。
「ああ」
「駄目だってば、グレイは馬鹿だけど実力はわたし以上なのよっ。Eランクのクロクロじゃ相手にならないわよっ」
エアリーが俺の腕を掴んでくる。
女性にしてはかなり力が強い。
「クロクロっ! 男に二言はないよなっ?」
「ああ、今さらやめたりしないから安心しろ」
「ちょっと二人とも、わたしの話を聞きなさいよっ」
エアリーの声を右から左に受け流してグレイはギルドを出た。
ギルドの中にいた冒険者たちも勝負の行方が気になるのかぞろぞろとグレイのあとを追う。
「ねえクロクロ、今からでも遅くないからグレイに勝負をやめるように言いましょ。わたしからもお願いするから、ねっ」
「大丈夫だよ」
「大丈夫じゃないわよっ。グレイはブーストっていうすごくレアな身体強化魔法が使えるのよ、あなた下手したら死んじゃうわっ」
とエアリー。
「平気さ、ブーストなら俺も使えるから」
「……えっ?」
「じゃちょっと行ってくる」
俺の言葉に虚を突かれた様子のエアリーを置き去りにして、俺はグレイの待つギルドの外へと飛び出した。
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必要最低限の感想しか返信できません、ご理解のほどよろしくお願いいたします
※現在書き溜め中、もうしばらくお待ちください
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