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第58話 錬金術師の助手
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ロレンスの町に戻った俺は騎士をやめることをドラチェフさんに伝える。
「そうかい、残念だけどしかたないね」
とドラチェフさん。
「みんなに挨拶していくかい?」
「いえ、どうせこの町にいれば会えますから」
「そっか。じゃあこれが約束の金貨二十枚だよ、とっておいてくれたまえ」
「ありがとうございます」
俺はドラチェフさんから二十枚の金貨を受け取ると宿屋ガラムマサラへと戻る。
「あら、クロクロさん。久しぶりだねぇっ」
宿屋に入ると女将さんが笑顔で出迎えてくれた。
「はい、ちょっといろいろあって」
「また泊まっていってくれるんだろ?」
「はい、お世話になります」
◇ ◇ ◇
今の俺の所持金は金貨が二十五枚。
宿屋の代金が一泊銀貨五枚として五十日泊まれる計算だ。
「五十日か……長いようで短いな」
厳密に言えば昼ご飯代や生活必需品代などを考えるともっと短くなる。
「やっぱり稼げる時に稼いでおくか……」
お金はあるに越したことはない。
俺はそう考え宿屋をあとにするとギルドへと赴いた。
◇ ◇ ◇
[健康で頑強な研究助手の募集 報酬は応相談 必須ランク:E 推奨ランク:D]
ギルドの掲示板にてEランクでも受けられる依頼書をみつけた俺はそれをミレルさんのもとに持っていく。
「すみません、これってどういう依頼ですか?」
依頼書をカウンターの上に差し出し訊ねると、
「はい、こちらは錬金術師ミネルバさまからの依頼ですね。研究助手の募集となっております」
ミレルさんはそう答えた。
「何をするんですか?」
「さあ、それはミネルバさまに直接訊いていただかないと……」
「報酬の金額が書かれていないんですけど」
「それもミネルバさまに訊いていただくことになりますね」
「そうですか……」
「クロクロさま、どうなさいますか?」
まあ、他に受けられそうな依頼もないしこれでいいか。
「その依頼受けますよ」
俺はミレルさんから依頼書を受け取ると裏面に書かれていたミネルバさんの家へと向かうのだった。
◇ ◇ ◇
「ここ、か……?」
ミネルバさんの家にたどり着いた俺はその家を前にして固まっていた。
というのもミネルバさんの家は屋根が下にあり玄関が上の方にあるという上下が逆さまになったような造りになっていたからだ。
見たこともない構造の家に呆気にとられていると、
「……何か用?」
背後から女性のか細い声がした。
振り返るとそこには眼鏡をかけ白衣を着た十代半ばほどの女の子が俺を見上げ立っていた。
「えっと、きみこの家の人?」
「……そう」
「ここにミネルバさんって人いる?」
「……ミネルバはわたし」
「え? きみが錬金術師のミネルバ?」
「……そう」
意外なことに目の前の小柄な女の子が今回の依頼主だった。
「……あなたは?」
「俺はギルドで依頼を受けてやってきたクロクロだ。よろしく」
握手を求め手を伸ばす。
だが、
「……わかった。ついてきて」
ミネルバは俺の差し出した手を一瞥するとそのまま歩き出した。
家の裏側に回り裏口から中に入るミネルバ。
俺もあとに続いて家の中へと入っていく。
「あのさ、この家なんか変わってるな」
「……そう? 別に普通」
「いや、普通ではないだろ」
家も変わっているが依頼主のミネルバとやらもなんか変わった奴だな。
その後リビングらしき部屋に通されると、
「……ちょっと待ってて」
そう言ってミネルバが部屋を出ていった。
しばらく待っているとミネルバがコップを持ってやってくる。
「……飲んで」
俺の目の前にピンク色の液体の入ったコップを置いた。
「なあ、今回の依頼内容って具体的にはなんなんだ? 俺は何をすればいいんだ?」
「……飲んで」
「ん、あ、ああ」
イチゴジュースか……そう思いながらコップに口をつける。
こくんと一口。
「うげっ! なんだこれっ!?」
飲み込んだ瞬間喉が焼けるように熱い。
「お、おいミネルバ、この飲み物一体なんだっ……?」
「……わたしが作った惚れ薬」
「惚れ薬っ!?」
「……わたしのこと好きになった?」
「なるかっ! いいから水くれ水っ」
ミネルバはぶすっとした顔で部屋を出ていった。
そういえばミレルさんの話ではミネルバは錬金術師だとか言っていた。
そして今回の依頼は健康で頑強な研究助手の募集だった。
ということは今回の依頼内容は……。
水の入ったコップを持って戻ってきたミネルバから俺は奪い取るようにしてそれを手にすると一気に飲み干す。
「かはっ、かはっ……つ、つまり今回の依頼は俺にお前の実験台になれってことか……?」
口元を拭いながら声を漏らす俺に、
「……そう。あなたはわたしが作る薬品の被験者」
ミネルバは淡々と言い放つのだった。
「そうかい、残念だけどしかたないね」
とドラチェフさん。
「みんなに挨拶していくかい?」
「いえ、どうせこの町にいれば会えますから」
「そっか。じゃあこれが約束の金貨二十枚だよ、とっておいてくれたまえ」
「ありがとうございます」
俺はドラチェフさんから二十枚の金貨を受け取ると宿屋ガラムマサラへと戻る。
「あら、クロクロさん。久しぶりだねぇっ」
宿屋に入ると女将さんが笑顔で出迎えてくれた。
「はい、ちょっといろいろあって」
「また泊まっていってくれるんだろ?」
「はい、お世話になります」
◇ ◇ ◇
今の俺の所持金は金貨が二十五枚。
宿屋の代金が一泊銀貨五枚として五十日泊まれる計算だ。
「五十日か……長いようで短いな」
厳密に言えば昼ご飯代や生活必需品代などを考えるともっと短くなる。
「やっぱり稼げる時に稼いでおくか……」
お金はあるに越したことはない。
俺はそう考え宿屋をあとにするとギルドへと赴いた。
◇ ◇ ◇
[健康で頑強な研究助手の募集 報酬は応相談 必須ランク:E 推奨ランク:D]
ギルドの掲示板にてEランクでも受けられる依頼書をみつけた俺はそれをミレルさんのもとに持っていく。
「すみません、これってどういう依頼ですか?」
依頼書をカウンターの上に差し出し訊ねると、
「はい、こちらは錬金術師ミネルバさまからの依頼ですね。研究助手の募集となっております」
ミレルさんはそう答えた。
「何をするんですか?」
「さあ、それはミネルバさまに直接訊いていただかないと……」
「報酬の金額が書かれていないんですけど」
「それもミネルバさまに訊いていただくことになりますね」
「そうですか……」
「クロクロさま、どうなさいますか?」
まあ、他に受けられそうな依頼もないしこれでいいか。
「その依頼受けますよ」
俺はミレルさんから依頼書を受け取ると裏面に書かれていたミネルバさんの家へと向かうのだった。
◇ ◇ ◇
「ここ、か……?」
ミネルバさんの家にたどり着いた俺はその家を前にして固まっていた。
というのもミネルバさんの家は屋根が下にあり玄関が上の方にあるという上下が逆さまになったような造りになっていたからだ。
見たこともない構造の家に呆気にとられていると、
「……何か用?」
背後から女性のか細い声がした。
振り返るとそこには眼鏡をかけ白衣を着た十代半ばほどの女の子が俺を見上げ立っていた。
「えっと、きみこの家の人?」
「……そう」
「ここにミネルバさんって人いる?」
「……ミネルバはわたし」
「え? きみが錬金術師のミネルバ?」
「……そう」
意外なことに目の前の小柄な女の子が今回の依頼主だった。
「……あなたは?」
「俺はギルドで依頼を受けてやってきたクロクロだ。よろしく」
握手を求め手を伸ばす。
だが、
「……わかった。ついてきて」
ミネルバは俺の差し出した手を一瞥するとそのまま歩き出した。
家の裏側に回り裏口から中に入るミネルバ。
俺もあとに続いて家の中へと入っていく。
「あのさ、この家なんか変わってるな」
「……そう? 別に普通」
「いや、普通ではないだろ」
家も変わっているが依頼主のミネルバとやらもなんか変わった奴だな。
その後リビングらしき部屋に通されると、
「……ちょっと待ってて」
そう言ってミネルバが部屋を出ていった。
しばらく待っているとミネルバがコップを持ってやってくる。
「……飲んで」
俺の目の前にピンク色の液体の入ったコップを置いた。
「なあ、今回の依頼内容って具体的にはなんなんだ? 俺は何をすればいいんだ?」
「……飲んで」
「ん、あ、ああ」
イチゴジュースか……そう思いながらコップに口をつける。
こくんと一口。
「うげっ! なんだこれっ!?」
飲み込んだ瞬間喉が焼けるように熱い。
「お、おいミネルバ、この飲み物一体なんだっ……?」
「……わたしが作った惚れ薬」
「惚れ薬っ!?」
「……わたしのこと好きになった?」
「なるかっ! いいから水くれ水っ」
ミネルバはぶすっとした顔で部屋を出ていった。
そういえばミレルさんの話ではミネルバは錬金術師だとか言っていた。
そして今回の依頼は健康で頑強な研究助手の募集だった。
ということは今回の依頼内容は……。
水の入ったコップを持って戻ってきたミネルバから俺は奪い取るようにしてそれを手にすると一気に飲み干す。
「かはっ、かはっ……つ、つまり今回の依頼は俺にお前の実験台になれってことか……?」
口元を拭いながら声を漏らす俺に、
「……そう。あなたはわたしが作る薬品の被験者」
ミネルバは淡々と言い放つのだった。
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