上 下
52 / 104

第52話 第一競技

しおりを挟む
「なるほど、そういうことでしたの。だからクロクロ様は騎士になられたのですわね」

開会宣言が終わって俺はパリスと二人きりになっていた。
俺がここに騎士としている理由を今しがた説明してやったところだ。

「では今日の大会が終わったらまた冒険者に戻るというわけですか?」
「多分な」
「ということはロレンスの町に戻ると?」
「もちろん、そうなるな」
「な~んだ、そうでしたの。どうせならずっとこのクラスコにいてくださればいつでも会えますのに」
残念そうにつぶやくパリス。
いつでも会えるからなんだと言うんだ?

「それにしてもパリスが元気そうでよかったよ」

盗賊にさらわれたことを引きずっているようにはまったく見えない。
まあそう見えるだけで本当は明るく振る舞っているだけかもしれないが。

「ありがとうございますクロクロ様っ。わたくしのことを心配してくださっていたのですね」
「うん、まあな」
「ふふふっ、嬉しいですわ~」
パリスはそう言うと楽しげに片足でくるくると回ってみせた。
言葉遣いはともかくこういうところは年相応で可愛らしい。

そうこうしていると、
「皆さん、それでは第一競技の鎧を着た状態でのハーフマラソンを始めたいと思います! こちらの競技は全員参加となっておりますので皆さんお集まりください!」
司会のムゲンさんの声が広場に響き渡る。

「おっと、全員参加だから俺も行かないと」
「頑張ってくださいクロクロ様っ。わたくし応援していますわっ」
「ああ、ありがとうな」
俺はパリスに手を振るとドラチェフさんたちの待つスタート地点へと駆け足で向かった。


◇ ◇ ◇


「よーい、ドンっ!」

ムゲンさんの掛け声を合図にして騎士たちが一斉に走り出す。
八十人もいるのでひしめき合った状態でハーフマラソンは開始した。

いつの間にかクラスコの城下町の沿道には町の住人たちが集まっていてさながら駅伝大会のように声援を送っていた。
だがその声援のほとんどはクラスコの城下町の騎士たちに向けられたものだった。
町の住人からしてみれば自分のところの騎士団が優勝したら領主に納める税金が一年間半額になるのだから当たり前と言えば当たり前だ。

鎧を纏った状態でのマラソンはなかなかハードでガッシャガッシャとみな音を立てながら懸命に走っていた。
そんな中、気付けば俺は先頭集団の中にいた。
先頭集団には他にロイさんやドラチェフさん、ランドもいる。

「はっは、ドラチェフ、初めからそんなに飛ばすとあとでバテるぞっ……」
「ロイくんこそっ……ペース配分間違えてるんじゃないのかいっ……」
俺の前を走るロイさんとドラチェフさんがお互いにけん制し合う。

「今年も優勝はおれだなっ……」
「そうはさせないよ、ロイくんっ……」

とそこに割って入る二人の三十代半ばくらいの男性たちがいた。

「おいおい……おれたちを抜きにして優勝を語るなよっ……」
「そうだぞっ、おれはこの日のために毎日二十キロ走り込んできたんだからなっ……今年こそはハルジオンが優勝だっ」
「はっ、デールとザッパか……無理すんなよ若造っ」
「デールくんもザッパくんもやっぱり追いついてきたねっ……さすが騎士団長というところかなっ」

デールさんとザッパさん。
会話から察するにおそらくは二人ともディオングンとハルジオンの町の騎士団長なのだろう。

それにしても四人とも会話しながら走り続けているとはかなりの体力の持ち主たちだ。
俺でさえ息が上がってきたというのに……伊達に騎士団長は務めていないな。


◇ ◇ ◇


沿道の人たちの声援を受けながら俺たちは走り続けた。

先頭集団から一人ずつ脱落していきスタートから一時間が過ぎた頃一位争いは俺とロイさんの二人の勝負となっていた。

「はぁっ、はぁっ……」
「はあっ、はあっ……」

そしてハーフマラソンのゴール地点であるもといた広場が見えてくるとロイさんがラストスパートをかける。

「うおおぉぉーっ……!」

正直俺は心底驚いていた。
重力が十分の一というかなりのハンデを貰っている俺と体力で互角以上に渡り合っているロイさんを脅威にすら感じていた。

すごいな、あの人……。
ロイさんの背中を見ながら思う。
他の騎士団長三人とはレベルが違う、と。

だが俺も負けてはいられない。
俺の実力を買ってくれたドラチェフさんの期待を裏切らないためにもここはなんとしても勝たなくては。

俺は最後の力を振り絞りロイさんに追いすがると――その勢いのままゴール手前で見事にロイさんを抜き去ってみせた。

そして、
「な、なんとっ、第一競技の勝者は大本命のロイさんではなくロレンスの町のクロクロさんですっ!!」
広場にいた町の人たちがどよめく中、俺がゴールテープを破った瞬間ムゲンさんから俺の名前がコールされたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

勇者に恋人寝取られ、悪評付きでパーティーを追放された俺、燃えた実家の道具屋を世界一にして勇者共を見下す

大小判
ファンタジー
平民同然の男爵家嫡子にして魔道具職人のローランは、旅に不慣れな勇者と四人の聖女を支えるべく勇者パーティーに加入するが、いけ好かない勇者アレンに義妹である治癒の聖女は心を奪われ、恋人であり、魔術の聖女である幼馴染を寝取られてしまう。 その上、何の非もなくパーティーに貢献していたローランを追放するために、勇者たちによって役立たずで勇者の恋人を寝取る最低男の悪評を世間に流されてしまった。 地元以外の冒険者ギルドからの信頼を失い、怒りと失望、悲しみで頭の整理が追い付かず、抜け殻状態で帰郷した彼に更なる追い打ちとして、将来継ぐはずだった実家の道具屋が、爵位証明書と両親もろとも炎上。 失意のどん底に立たされたローランだったが、 両親の葬式の日に義妹と幼馴染が王都で呑気に勇者との結婚披露宴パレードなるものを開催していたと知って怒りが爆発。 「勇者パーティ―全員、俺に泣いて土下座するくらい成り上がってやる!!」 そんな決意を固めてから一年ちょっと。成人を迎えた日に希少な鉱物や植物が無限に湧き出る不思議な土地の権利書と、現在の魔道具製造技術を根底から覆す神秘の合成釜が父の遺産としてローランに継承されることとなる。 この二つを使って世界一の道具屋になってやると意気込むローラン。しかし、彼の自分自身も自覚していなかった能力と父の遺産は世界各地で目を付けられ、勇者に大国、魔王に女神と、ローランを引き込んだり排除したりする動きに巻き込まれる羽目に これは世界一の道具屋を目指す青年が、爽快な生産チートで主に勇者とか聖女とかを嘲笑いながら邪魔する者を薙ぎ払い、栄光を掴む痛快な物語。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

全校転移!異能で異世界を巡る!?

小説愛好家
ファンタジー
全校集会中に地震に襲われ、魔法陣が出現し、眩い光が体育館全体を呑み込み俺は気絶した。 目覚めるとそこは大聖堂みたいな場所。 周りを見渡すとほとんどの人がまだ気絶をしていてる。 取り敢えず異世界転移だと仮定してステータスを開こうと試みる。 「ステータスオープン」と唱えるとステータスが表示された。「『異能』?なにこれ?まぁいいか」 取り敢えず異世界に転移したってことで間違いなさそうだな、テンプレ通り行くなら魔王討伐やらなんやらでめんどくさそうだし早々にここを出たいけどまぁ成り行きでなんとかなるだろ。 そんな感じで異世界転移を果たした主人公が圧倒的力『異能』を使いながら世界を旅する物語。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

異世界召喚されたのに召喚人数制限に引っ掛かって召喚されなかったのでスキル【転移】の力で現実世界で配送屋さんを始めたいと思います!

アッキー
ファンタジー
 時空間(ときくうま)は、中学を卒業し、高校入学までの春休みを自宅で、過ごしていたが、スマホゲームをしている最中に、自分が、座っている床が、魔方陣を描いた。  時空間(ときくうま)は、「これは、ラノベでよくある異世界召喚では」と思い、気分を高揚させ、時がすぎるのを待った。  そして、いつの間にか、周りには、数多くの人達がいた。すぐに、この空間全体から、声が聞こえてきた。 「初めまして、私は、転移を司る女神です。ここに居る皆様を異世界に転移させたいと思います。ただ、ひとつの異世界だけでなく、皆様が、全員、異世界に転移出来るように数多くの異世界にランダムで、転移させて頂きます。皆様には、スキルと異世界の言葉と読み書きできるようにと荷物の収納に困らないように、アイテムボックスを付与してあげます。スキルに関しては、自分の望むスキルを想像して下さい。それでは、皆様、スキルやその他諸々、付与できたようなので、異世界に召喚させて頂きます」 「それでは、異世界転移!」 「皆様、行ったようですね。私も仕事に戻りますか」 「あの~、俺だけ転移してないのですが?」 「えーーーー」 女神が、叫んでいたが、俺はこれからどうなるのか? こんな感じで、始まります。

せっかく異世界転生したのに、子爵家の後継者ってそれはないでしょう!~お飾り大公のせいで領地が大荒れ、北の成り上がり伯爵と東の大公国から狙われ

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
大公爵領内は二大伯爵のせいで大荒れ諸侯も他国と通じ…あれ、これ詰んだ?  会社からの帰り道、強姦魔から半裸の女性を助けたところ落下し意識を失ってしまう。  朝目が覚めると鏡の前には見知らぬ。黒髪の美少年の顔があった。 その時俺は思い出した。自分が大人気戦略シュミレーションRPG『ドラゴン・オブ・ファンタジー雪月花』の悪役『アーク・フォン・アーリマン』だと…… そして時に悪態をつき、悪事を働き主人公を窮地に陥れるが、結果としてそれがヒロインと主人公を引き立せ、最終的に主人公に殺される。自分がそんな小悪役であると…… 「やってやるよ! 俺はこの人生を生き抜いてやる!!」  そんな決意を胸に抱き、現状を把握するものの北の【毒蛇公爵】、東の大公【東の弓聖】に攻められ蹂躙されるありさま……先ずは大公が治める『リッジジャング地方』統一のために富国強兵へ精を出す。 「まずは叔父上、御命頂戴いたします」

拝啓、お父様お母様 勇者パーティをクビになりました。

ちくわ feat. 亜鳳
ファンタジー
弱い、使えないと勇者パーティをクビになった 16歳の少年【カン】 しかし彼は転生者であり、勇者パーティに配属される前は【無冠の帝王】とまで謳われた最強の武・剣道者だ これで魔導まで極めているのだが 王国より勇者の尊厳とレベルが上がるまではその実力を隠せと言われ 渋々それに付き合っていた… だが、勘違いした勇者にパーティを追い出されてしまう この物語はそんな最強の少年【カン】が「もう知るか!王命何かくそ食らえ!!」と実力解放して好き勝手に過ごすだけのストーリーである ※タイトルは思い付かなかったので適当です ※5話【ギルド長との対談】を持って前書きを廃止致しました 以降はあとがきに変更になります ※現在執筆に集中させて頂くべく 必要最低限の感想しか返信できません、ご理解のほどよろしくお願いいたします ※現在書き溜め中、もうしばらくお待ちください

処理中です...