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第30話 ベータ村を出る

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「えっ、冒険者ですかっ?」
「はい。俺冒険者になります」

俺はグェスさんの問いに語気強く答える。

「そ、それはまたいきなりですね」
「はい。でも今の生活のままでいいのかなって思いは少し前からなんとなくありましたよ。家事は全部グェスさんに任せて俺は一日中寝てるか村の中をふらふらしてるだけ、それはいくらなんでも自堕落すぎますからね。グェスさんも本当はそう思ってたんじゃないですか?」
「そ、それは、う~ん……」
と困り顔のグェスさん。
嘘が苦手な性格のようだ。

「でも冒険者になるってことは村を出ていくってことですよね?」
グェスさんが俺の顔を覗き込みながら訊いてくる。
ベータ村には冒険者ギルドがないからだ。

「そうなりますね。とりあえずはノベールの町に行ってみようかと思うんですけどノベールの町に冒険者ギルドってあるんですか?」
「さ、さあどうでしょう。私ノベールの町に住んではいましたけど冒険者ギルドにかかわりがなかったものですから」
「そうですか。まあ一応ノベールの町に行ってみますよ」
もしノベールの町に冒険者ギルドがなかったらその時はロレンスの町とやらに行ってみればいいさ。

「……カレンちゃんが悲しむでしょうね」
「まあ、カレンにはシロもいるしグェスさんたち村のみんながいるから大丈夫ですよ」
最近はカレンはシロにつきっきりだしな。

「よいしょっと……」
俺はカゴを背負うと、
「じゃあ一旦村に戻りますか」
グェスさんに顔を向けた。

「クロクロさん、いつ村を出発するんですか?」
「そうだなぁ……昼ご飯食べながら考えます」


◇ ◇ ◇


そして翌早朝、俺はグェスさんとパトリシアさんとカレンに見送られる形で村を出ることに。

シロを抱きかかえたカレンは「絶対遊びに来てねっ。約束だよクロクロっ」と指切りを要求してきた。
パトリシアさんは「いつでも村に帰っておいで」と優しい言葉をかけてくれた。
そしてグェスさんは「さようなら、クロクロさん……」目を潤ませながらそう言った。

みんなの思いに触れて不覚にも熱いものがこみ上げてきた俺は「行ってきます」とただ一言だけ言うとその場をあとにしたのだった。
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