3 / 104
第3話 記憶喪失
しおりを挟む
「記憶喪失? 俺が?」
「そうだよ間違いないよっ」
カレンは自信満々に首を大きく縦に振った。
もちろん俺は記憶喪失ではないのですぐに否定しようとするもそこで思いとどまる。
この世界のことを何も知らない俺にとっては異世界から来たなんて信じてもらえそうもないことを言うよりいっそ記憶喪失で通した方がこの先都合がいいかもしれないと。
「……そうだな、俺記憶喪失かもしれない。うん」
「やっぱりだーっ」
「それにしても記憶喪失なんて言葉よく知ってるな」
「えへへ~、ちょっと前にお母さんに教えてもらったんだ~」
褒めてもらいたいのかカレンは俺に頭を向けてきた。
「すごいすごい」
俺はカレンの頭を優しく撫でてやるとカレンは嬉しそうに目を細める。
「そうだクロクロ、わたしの家に来てよっ。わたしのお母さん村でお医者さんやってるからただで診てもらえるように頼んであげるっ」
「ん? この近くに村があるのか?」
「あるよ。ベータ村っていうの。クロクロどうせお金持ってないでしょ」
「ああ……うん」
「じゃあ行こっ」
カレンは俺の手を取ると楽しげに歩き出した。
◇ ◇ ◇
八歳の少女のお世話になるとはなんとも情けない話ではあるがこの世界のことを何も知らない上にお金も持ち合わせていない俺としてはカレンの厚意に素直に感謝するべきだろう。
それにさっきのゴブリンとやらがまた襲ってこないとも限らない。
カレンの護衛役という意味も兼ねて一緒に行動したほうがいいはずだ。
俺は自分にそう言い聞かせカレンとともに森を抜け出た。
「ほらっ、あそこにある村がベータ村だよっ。急ごっ」
「おい、走ると危ないって」
俺は一人駆け出したカレンのあとを追うようにベータ村へと足を踏み入れるのだった。
◇ ◇ ◇
「カレンっ、あんたどこ行ってたんだい! まさかまた一人で村の外に出てたんじゃないだろうね!」
カレンに連れられて向かった村の小さな医院。
そこの院長でもあるカレンのお母さんがカレンを怒鳴りつける。
「そ、それは……」
「何度も言ってるだろ、村の外は魔物が出るから一人で出ちゃ駄目だって!」
「だってだって、暇だったんだもん」
「まったく無事だったからいいようなものの……それでこっちの人は誰?」
カレンのお母さんは俺に向き直った。
さっきまでカレンを叱っていたので表情がやや険しい。
「あ、俺はですね、黒――」
「クロクロだよっ」
カレンが俺の言葉を遮って言う。
「クロクロ?」
「そう、クロクロ。わたしがゴブリンに追いかけられてた時に助けてくれたんだよっ」
「あんた、やっぱり危ない目に合ってるじゃないのっ」
「へぇ~ん、ごめんなは~い」
カレンはカレンのお母さんにほっぺたをつねられながら口にした。
「クロクロさんだっけ? ありがとうね、この子を助けてくれて。あー、あたしはこの子の母親のパトリシアだよ、よろしくね」
「あ、はいこちらこそ」
俺はパトリシアさんと握手を交わす。
「あたしが仕事で構ってあげられないからってこの子しょっちゅう村を抜け出しちゃうのよ。この村にはこの子と同い年の子どもがいないからつまらないのはわかるんだけどねぇ」
「そうなんですか」
「それでクロクロさんはどこの人なの? 恰好からするとどっか遠くの方から来たのかい?」
「あ、それが実は――」
「ううん。クロクロは記憶喪失なんだよっ」
またもカレンは俺より先に答えた。
「記憶喪失っ? そりゃ大変じゃないか。早速あたしが診てやるよ」
「でも俺お金持ってないんです」
「いいわよ、お金なんて。カレンの恩人だもの。それに今はお昼休憩中だからちょうどいいわ」
「わぁ~い、やったねクロクロっ」
「あ、ああ……すみませんじゃあよろしくお願いします」
こうして俺はパトリシアさんに診察してもらったのだがもちろん異常はなかった。
当然だ。俺は記憶はばっちりあるのだからな。
「そうだよ間違いないよっ」
カレンは自信満々に首を大きく縦に振った。
もちろん俺は記憶喪失ではないのですぐに否定しようとするもそこで思いとどまる。
この世界のことを何も知らない俺にとっては異世界から来たなんて信じてもらえそうもないことを言うよりいっそ記憶喪失で通した方がこの先都合がいいかもしれないと。
「……そうだな、俺記憶喪失かもしれない。うん」
「やっぱりだーっ」
「それにしても記憶喪失なんて言葉よく知ってるな」
「えへへ~、ちょっと前にお母さんに教えてもらったんだ~」
褒めてもらいたいのかカレンは俺に頭を向けてきた。
「すごいすごい」
俺はカレンの頭を優しく撫でてやるとカレンは嬉しそうに目を細める。
「そうだクロクロ、わたしの家に来てよっ。わたしのお母さん村でお医者さんやってるからただで診てもらえるように頼んであげるっ」
「ん? この近くに村があるのか?」
「あるよ。ベータ村っていうの。クロクロどうせお金持ってないでしょ」
「ああ……うん」
「じゃあ行こっ」
カレンは俺の手を取ると楽しげに歩き出した。
◇ ◇ ◇
八歳の少女のお世話になるとはなんとも情けない話ではあるがこの世界のことを何も知らない上にお金も持ち合わせていない俺としてはカレンの厚意に素直に感謝するべきだろう。
それにさっきのゴブリンとやらがまた襲ってこないとも限らない。
カレンの護衛役という意味も兼ねて一緒に行動したほうがいいはずだ。
俺は自分にそう言い聞かせカレンとともに森を抜け出た。
「ほらっ、あそこにある村がベータ村だよっ。急ごっ」
「おい、走ると危ないって」
俺は一人駆け出したカレンのあとを追うようにベータ村へと足を踏み入れるのだった。
◇ ◇ ◇
「カレンっ、あんたどこ行ってたんだい! まさかまた一人で村の外に出てたんじゃないだろうね!」
カレンに連れられて向かった村の小さな医院。
そこの院長でもあるカレンのお母さんがカレンを怒鳴りつける。
「そ、それは……」
「何度も言ってるだろ、村の外は魔物が出るから一人で出ちゃ駄目だって!」
「だってだって、暇だったんだもん」
「まったく無事だったからいいようなものの……それでこっちの人は誰?」
カレンのお母さんは俺に向き直った。
さっきまでカレンを叱っていたので表情がやや険しい。
「あ、俺はですね、黒――」
「クロクロだよっ」
カレンが俺の言葉を遮って言う。
「クロクロ?」
「そう、クロクロ。わたしがゴブリンに追いかけられてた時に助けてくれたんだよっ」
「あんた、やっぱり危ない目に合ってるじゃないのっ」
「へぇ~ん、ごめんなは~い」
カレンはカレンのお母さんにほっぺたをつねられながら口にした。
「クロクロさんだっけ? ありがとうね、この子を助けてくれて。あー、あたしはこの子の母親のパトリシアだよ、よろしくね」
「あ、はいこちらこそ」
俺はパトリシアさんと握手を交わす。
「あたしが仕事で構ってあげられないからってこの子しょっちゅう村を抜け出しちゃうのよ。この村にはこの子と同い年の子どもがいないからつまらないのはわかるんだけどねぇ」
「そうなんですか」
「それでクロクロさんはどこの人なの? 恰好からするとどっか遠くの方から来たのかい?」
「あ、それが実は――」
「ううん。クロクロは記憶喪失なんだよっ」
またもカレンは俺より先に答えた。
「記憶喪失っ? そりゃ大変じゃないか。早速あたしが診てやるよ」
「でも俺お金持ってないんです」
「いいわよ、お金なんて。カレンの恩人だもの。それに今はお昼休憩中だからちょうどいいわ」
「わぁ~い、やったねクロクロっ」
「あ、ああ……すみませんじゃあよろしくお願いします」
こうして俺はパトリシアさんに診察してもらったのだがもちろん異常はなかった。
当然だ。俺は記憶はばっちりあるのだからな。
0
お気に入りに追加
695
あなたにおすすめの小説
大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います
騙道みりあ
ファンタジー
魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。
その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。
仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。
なので、全員殺すことにした。
1話完結ですが、続編も考えています。
チートを貰えなかった落第勇者の帰還〜俺だけ能力引き継いで現代最強〜
あおぞら
ファンタジー
主人公小野隼人は、高校一年の夏に同じクラスの人と異世界に勇者として召喚される。
勇者は召喚の際にチートな能力を貰えるはずが、隼人は、【身体強化】と【感知】と言うありふれた能力しか貰えなかったが、しぶとく生き残り、10年目にして遂に帰還。
しかし帰還すると1ヶ月しか経っていなかった。
更に他のクラスメイトは異世界の出来事など覚えていない。
自分しか能力を持っていないことに気付いた隼人は、この力は隠して生きていくことを誓うが、いつの間にかこの世界の裏側に巻き込まれていく。
これは異世界で落ちこぼれ勇者だった隼人が、元の世界の引き継いだ能力を使って降り掛かる厄介ごとを払い除ける物語。
異世界召喚?やっと社畜から抜け出せる!
アルテミス
ファンタジー
第13回ファンタジー大賞に応募しました。応援してもらえると嬉しいです。
->最終選考まで残ったようですが、奨励賞止まりだったようです。応援ありがとうございました!
ーーーー
ヤンキーが勇者として召喚された。
社畜歴十五年のベテラン社畜の俺は、世界に巻き込まれてしまう。
巻き込まれたので女神様の加護はないし、チートもらった訳でもない。幸い召喚の担当をした公爵様が俺の生活の面倒を見てくれるらしいけどね。
そんな俺が異世界で女神様と崇められている”下級神”より上位の"創造神"から加護を与えられる話。
ほのぼのライフを目指してます。
設定も決めずに書き始めたのでブレブレです。気楽〜に読んでください。
6/20-22HOT1位、ファンタジー1位頂きました。有難うございます。
異世界帰りの元勇者、日本に突然ダンジョンが出現したので「俺、バイト辞めますっ!」
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
俺、結城ミサオは異世界帰りの元勇者。
異世界では強大な力を持った魔王を倒しもてはやされていたのに、こっちの世界に戻ったら平凡なコンビニバイト。
せっかく強くなったっていうのにこれじゃ宝の持ち腐れだ。
そう思っていたら突然目の前にダンジョンが現れた。
これは天啓か。
俺は一も二もなくダンジョンへと向かっていくのだった。
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
パーティーを追放された装備製作者、実は世界最強 〜ソロになったので、自分で作った最強装備で無双する〜
Tamaki Yoshigae
ファンタジー
ロイルはSランク冒険者パーティーの一員で、付与術師としてメンバーの武器の調整を担当していた。
だがある日、彼は「お前の付与などなくても俺たちは最強だ」と言われ、パーティーをクビになる。
仕方なく彼は、辺境で人生を再スタートすることにした。
素人が扱っても規格外の威力が出る武器を作れる彼は、今まで戦闘経験ゼロながらも瞬く間に成り上がる。
一方、自分たちの実力を過信するあまりチートな付与術師を失ったパーティーは、かつての猛威を振るえなくなっていた。
異世界召喚されたのに召喚人数制限に引っ掛かって召喚されなかったのでスキル【転移】の力で現実世界で配送屋さんを始めたいと思います!
アッキー
ファンタジー
時空間(ときくうま)は、中学を卒業し、高校入学までの春休みを自宅で、過ごしていたが、スマホゲームをしている最中に、自分が、座っている床が、魔方陣を描いた。
時空間(ときくうま)は、「これは、ラノベでよくある異世界召喚では」と思い、気分を高揚させ、時がすぎるのを待った。
そして、いつの間にか、周りには、数多くの人達がいた。すぐに、この空間全体から、声が聞こえてきた。
「初めまして、私は、転移を司る女神です。ここに居る皆様を異世界に転移させたいと思います。ただ、ひとつの異世界だけでなく、皆様が、全員、異世界に転移出来るように数多くの異世界にランダムで、転移させて頂きます。皆様には、スキルと異世界の言葉と読み書きできるようにと荷物の収納に困らないように、アイテムボックスを付与してあげます。スキルに関しては、自分の望むスキルを想像して下さい。それでは、皆様、スキルやその他諸々、付与できたようなので、異世界に召喚させて頂きます」
「それでは、異世界転移!」
「皆様、行ったようですね。私も仕事に戻りますか」
「あの~、俺だけ転移してないのですが?」
「えーーーー」
女神が、叫んでいたが、俺はこれからどうなるのか?
こんな感じで、始まります。
拝啓、お父様お母様 勇者パーティをクビになりました。
ちくわ feat. 亜鳳
ファンタジー
弱い、使えないと勇者パーティをクビになった
16歳の少年【カン】
しかし彼は転生者であり、勇者パーティに配属される前は【無冠の帝王】とまで謳われた最強の武・剣道者だ
これで魔導まで極めているのだが
王国より勇者の尊厳とレベルが上がるまではその実力を隠せと言われ
渋々それに付き合っていた…
だが、勘違いした勇者にパーティを追い出されてしまう
この物語はそんな最強の少年【カン】が「もう知るか!王命何かくそ食らえ!!」と実力解放して好き勝手に過ごすだけのストーリーである
※タイトルは思い付かなかったので適当です
※5話【ギルド長との対談】を持って前書きを廃止致しました
以降はあとがきに変更になります
※現在執筆に集中させて頂くべく
必要最低限の感想しか返信できません、ご理解のほどよろしくお願いいたします
※現在書き溜め中、もうしばらくお待ちください
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる