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第102話 道連れの呪文

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「だ、誰だっ……!」

振り返るとそこにいたのは――

「し、進藤さんっ……!?」

出刃包丁を握り締めた進藤薫さんだった。
進藤薫さんは以前娘の進藤美咲さんのことで依頼をしてきた人だ。

だがなぜ進藤さんがここに……?
メアリをめった刺しにしたのも進藤さんなのか……?

「ど、どうして……」
「どうしてだとっ! ふ、ふざけるなっ! わたしの娘を、美咲をどこにやったっ!」
鬼のような形相の進藤さんが声を震わせ叫ぶ。

「そ、それは説明した通り……に、逃げていってしまって――」
「嘘をつくなぁっ!」
声を荒らげ俺の話を遮る進藤さん。
目が血走っていて極度の興奮状態にあるように見えた。

「わたしはな、探偵を雇って貴様らを調べさせたんだっ! 貴様らをどうしても信用出来なかったんでなっ! するとその探偵は昨日わたしにこう言ってきたよ、あの殺し屋たちは人を殺すとその相手をこの世から消滅させる能力があるんだってな! その時は馬鹿馬鹿しいと思ったが確かにそう考えれば美咲がいなくなったことの説明がつくっ!」
「……っ」

つまり、この数日探偵が俺たちを尾行していたってことか……?
殺しの現場も殺した相手が消えるところも見られていたということなのか……?

「な、何も言葉が出ないのが何よりの証拠だっ! やっぱり貴様らが美咲を殺したんだなっ!!」

実際その通りだった。
進藤美咲は悪人だったためメアリが始末したのだった。
だがもちろんそんなことは報告できるはずもないので、俺たちは嘘の報告で進藤さんをごまかした。

「ごほっ……す、すみませんでした。あなたの言う通り美咲さんを殺したのは俺たちです」
「やっぱりか、この野郎っ!」
進藤さんは包丁を握り締め襲いかかってきた。

「死ねぇっ!!」

俺は向かい討とうと思えば出来たがあえてそうすることはしなかった。
目を閉じ両手を後ろに回して無防備な状態をさらしてみせた。
この時はそうするべきだと、それが正しい選択だと思ったからだ。
そんなことをしても美咲さんが生き返るわけではないが、少なくとも進藤さんの復讐心は満たせるだろう。

……。

……。

しかしいつまで経っても俺の体に包丁が刺さる感覚がない。
ついさっきまで大声を上げていた進藤さんの声もしなくなっていた。

俺は不思議に思いゆっくりと目を開けた。
すると目の前に迫っていたはずの進藤さんの姿は忽然と消えていた。

「な、なんで……?」

とそこでもしかしたらメアリが何かしたのかも知れないと考え、俺は後ろのメアリに視線を移す。
するとメアリは優しい笑顔を作ったまま、もうすでに息をしていなかった。

「……メ、メアリ……」

俺は数十秒の間メアリの顔を眺め続けた。
そして悟った。
メアリはおそらく道連れの呪文を進藤さんに対して唱えていたのだろうと。
だからメアリが息を引き取った瞬間、進藤さんは息絶え消滅したのだろうと。

「メアリ……」

俺はメアリの遺体を前にして、中学生時代両親が事故で命を落とした時以来の涙を自然と流していたのだった。
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