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第84話 進藤薫
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「本当にここで待っとればええん?」
「ああ。そういう約束だからな」
「なぁ、ヤマトお兄ちゃん。サンドイッチ頼んでもええ? うちお腹すいてもうたわぁ」
俺の隣に座るメアリがお腹を押さえながら上目遣いで俺を見る。
「いいけど、その代わり静かにしてろよ」
メアリは「やったぁ!」と大声を上げると早速店員さんを呼びつけた。
……全然俺の言葉を理解していない。
俺とメアリは防犯カメラの設置されていない喫茶店で今回の依頼主を待っていた。
依頼主の名は進藤薫。年齢は三十五歳。
東京のベンチャー企業に勤めるOLさんのようだ。
俺はメアリに会う数日前からこの進藤さんとメールでやり取りをしていて、今日直接会う約束をとりつけていた。
もちろん一人で会うつもりだったが、その直前にメアリとチームを組んだのでせっかくだから連れて来たのだ。
メアリの呪文は強力なので役に立つかもしれないと踏んでのことだった。
ちなみにメアリには死刑囚殺しはしばらくやめるように言ってある。
これ以上騒ぎが大きくなるとさすがに君島法務大臣だけでは隠し通せなくなるかもしれない。
そうなった時、殺人者という存在が世間にバレかねないと思ったからだ。
俺はテーブルの下で進藤さんから初めて送られてきた際のメールを再び確認する。
[はじめましてdevil様。
私は東京都のとあるベンチャー企業に勤めている進藤薫と申します。年は三十五歳です。
devil様のお噂はかねがね聞き及んでおりました。
そこで是非私の願いも叶えてほしいと思いまして今回メールさせていただいた次第です。
よろしくお願いいたします。
実は私には高校一年生の一人娘がいるのですが、この娘が最近かなりガラの悪い連中とよく一緒に行動しているようなのです。
親としては心配なので注意したのですが、思春期だからなのか私の言うことなどちっとも聞いてはくれません。
なのでその連中を二度と娘に会えないようにこの世から消してしていただけないでしょうか。
親馬鹿と思われるかもしれませんが娘は本当は真面目な子なのです。
よいお返事期待しております。]
俺は顔を上げると時計に目をやった。
現在時刻は午前十一時二十分。
待ち合わせの時間は十一時なのですでに二十分の遅刻だった。
「ねぇ、ほんまに来るん? その人。もしかしていたずらやったんとちゃう?」
サンドイッチを口いっぱいに頬張りながらメアリは言う。
馬鹿丁寧な文章からしていたずらだとは考えにくいが、その可能性もあながち否定できないかも……。
そう感じ始めた時、
ガタンっ。
斜め後ろの隅のテーブルに腰かけていた三十代くらいの男性が立ち上がり、自分の腕時計と店内の壁掛け時計を交互に見比べ出した。
そしてしきりにきょろきょろと首を振り、焦った様子で店内を見回す。
んん?
もしかして……。
俺はおやと思い、その男性と目を合わせてみた。
するとその男性は俺と目が合うなりカッと目を見開き、俺たちのいるテーブルへと駆け寄ってきた。
「あ、あのっ。も、も、もしかしてdevilさんですかっ……?」
額に汗を噴き出させながら男性は小声で訊ねてくる。
あー……やっぱりか。
この小太りの男性が依頼主のようだな。
「はい。俺がdevilです、はじめまして」
「よ、よかったぁ。て、てっきり見捨てられてしまったのかと思いました、よ……」
よく見ると依頼主である進藤さんは、確かに俺がメールで指定しておいた上下黒のスーツを着用していた。
進藤薫……男性だったのか。
「そんなことあるわけないじゃないですか。まあ、とりあえず座ってください」
「は、はい……」
進藤さんはテーブルを挟んで俺たちの前にどすんと座る。
「あれぇ? ヤマトお兄ちゃん、今回の依頼主って女の人やったんちゃうの?」
サンドイッチを食べ切ったメアリが進藤さんにも聞こえるような声で口にする。
「えっ? 女……?」
「いや、なんでもないです。こっちの話なので気にしないでください。メアリ、サンドイッチもう一つ食べるか?」
「ええのんっ? 食べる食べるっ!」
……メアリを連れて来たのは失敗だったかもしれない。
「ああ。そういう約束だからな」
「なぁ、ヤマトお兄ちゃん。サンドイッチ頼んでもええ? うちお腹すいてもうたわぁ」
俺の隣に座るメアリがお腹を押さえながら上目遣いで俺を見る。
「いいけど、その代わり静かにしてろよ」
メアリは「やったぁ!」と大声を上げると早速店員さんを呼びつけた。
……全然俺の言葉を理解していない。
俺とメアリは防犯カメラの設置されていない喫茶店で今回の依頼主を待っていた。
依頼主の名は進藤薫。年齢は三十五歳。
東京のベンチャー企業に勤めるOLさんのようだ。
俺はメアリに会う数日前からこの進藤さんとメールでやり取りをしていて、今日直接会う約束をとりつけていた。
もちろん一人で会うつもりだったが、その直前にメアリとチームを組んだのでせっかくだから連れて来たのだ。
メアリの呪文は強力なので役に立つかもしれないと踏んでのことだった。
ちなみにメアリには死刑囚殺しはしばらくやめるように言ってある。
これ以上騒ぎが大きくなるとさすがに君島法務大臣だけでは隠し通せなくなるかもしれない。
そうなった時、殺人者という存在が世間にバレかねないと思ったからだ。
俺はテーブルの下で進藤さんから初めて送られてきた際のメールを再び確認する。
[はじめましてdevil様。
私は東京都のとあるベンチャー企業に勤めている進藤薫と申します。年は三十五歳です。
devil様のお噂はかねがね聞き及んでおりました。
そこで是非私の願いも叶えてほしいと思いまして今回メールさせていただいた次第です。
よろしくお願いいたします。
実は私には高校一年生の一人娘がいるのですが、この娘が最近かなりガラの悪い連中とよく一緒に行動しているようなのです。
親としては心配なので注意したのですが、思春期だからなのか私の言うことなどちっとも聞いてはくれません。
なのでその連中を二度と娘に会えないようにこの世から消してしていただけないでしょうか。
親馬鹿と思われるかもしれませんが娘は本当は真面目な子なのです。
よいお返事期待しております。]
俺は顔を上げると時計に目をやった。
現在時刻は午前十一時二十分。
待ち合わせの時間は十一時なのですでに二十分の遅刻だった。
「ねぇ、ほんまに来るん? その人。もしかしていたずらやったんとちゃう?」
サンドイッチを口いっぱいに頬張りながらメアリは言う。
馬鹿丁寧な文章からしていたずらだとは考えにくいが、その可能性もあながち否定できないかも……。
そう感じ始めた時、
ガタンっ。
斜め後ろの隅のテーブルに腰かけていた三十代くらいの男性が立ち上がり、自分の腕時計と店内の壁掛け時計を交互に見比べ出した。
そしてしきりにきょろきょろと首を振り、焦った様子で店内を見回す。
んん?
もしかして……。
俺はおやと思い、その男性と目を合わせてみた。
するとその男性は俺と目が合うなりカッと目を見開き、俺たちのいるテーブルへと駆け寄ってきた。
「あ、あのっ。も、も、もしかしてdevilさんですかっ……?」
額に汗を噴き出させながら男性は小声で訊ねてくる。
あー……やっぱりか。
この小太りの男性が依頼主のようだな。
「はい。俺がdevilです、はじめまして」
「よ、よかったぁ。て、てっきり見捨てられてしまったのかと思いました、よ……」
よく見ると依頼主である進藤さんは、確かに俺がメールで指定しておいた上下黒のスーツを着用していた。
進藤薫……男性だったのか。
「そんなことあるわけないじゃないですか。まあ、とりあえず座ってください」
「は、はい……」
進藤さんはテーブルを挟んで俺たちの前にどすんと座る。
「あれぇ? ヤマトお兄ちゃん、今回の依頼主って女の人やったんちゃうの?」
サンドイッチを食べ切ったメアリが進藤さんにも聞こえるような声で口にする。
「えっ? 女……?」
「いや、なんでもないです。こっちの話なので気にしないでください。メアリ、サンドイッチもう一つ食べるか?」
「ええのんっ? 食べる食べるっ!」
……メアリを連れて来たのは失敗だったかもしれない。
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