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第78話 充実した日常
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夜の公園にて――
「イタブ」
武態呪文を唱えると俺の体が戦闘モードに変形する。
全身の筋肉が激しく隆起し皮膚が硬質化。
さらには爪が刃物のように鋭く伸び、視覚や聴覚といった五感が研ぎ澄まされていく。
「な、なんだてめぇっ!?」
「今から死ぬお前には関係ない」
俺は地面を強く蹴ると俺の姿を見てひるんでいる男に向かって直進した。
そして、
ザシュッ!
凶器と化した五本の爪で男の体を深く斬り裂いた。
「がはっ……!!」
男の体から大量の血しぶきが飛び散って男は地面に後ろ向きに倒れる。
「……な、なん……ごふっ……!」
満月の下、男は自分がなぜこんな目に合うのか理由もわからないまま死んでいった。
ててててってってってーん!
『鬼束ヤマトは笠井有起哉を殺したことでレベルが1上がりました』
『最大HPが2、最大MPが1、ちからが1、まもりが1、すばやさが1上がりました』
男の死体が消えたのを見届けてから俺は周りを見渡す。
この辺りに監視カメラがないことは確認済みだが万が一にも目撃者がいないとも限らない。
「うん……問題なさそうだな」
俺は自分の意思で武態を解くと、ズボンのポケットからスマホを取り出して今回の依頼主の連絡先を消去する。
「依頼完了っと……」
つぶやくと俺は夜の公園をあとにした。
◇ ◇ ◇
あきらと別れてから早三週間。
俺は今まで通り陰で殺人を請け負い、実行しながら生活していた。
レベルは34に上がり身体能力を強化する呪文も覚えたことで、殺人それ自体は以前よりもはるかに楽なものとなっていた。
殺人依頼だけで既に六百万円以上を稼いでいる俺だったが生活水準は前のままだ。
これまでと同じように安アパートに住み、朝は食パン、昼と夜はコンビニ弁当でお腹を膨らませる毎日。
俺が殺人者である以上大金が入ったからといっても目立つ行動は慎むべきだと考えた上でそうしているのだが、もともと物欲がない俺にとっては今の暮らしにまったく不満はない。
時折り隣に住む清水さん母娘が晩ご飯の差し入れなどを持って俺の部屋を訪ねて来てくれるので、栄養のバランスが偏ることもないし一人暮らしの寂しさを感じることもない。
人を殺して生きている身でありながらおかしなことかもしれないが、俺はそんな暮らしに充実感すら覚えていた。
◇ ◇ ◇
「あっ、鬼束さん。こんばんは」
「美紗ちゃん、こんばんは」
アパートの前の通りに出ると制服姿の美紗ちゃんに偶然出会う。
「学校の帰り?」
「えっと、図書館です。学校より図書館の方が勉強がはかどるので」
「そっか。でもあまり暗くならないうちに帰った方がいいよ」
「そのつもりだったんですけどつい時間を忘れちゃってて……」
時間を忘れるくらい勉強に夢中になったことなどない俺からしたら考えられないセリフだ。
「鬼束さんはコンビニですか? お弁当?」
美紗ちゃんは俺が手に持ったコンビニ袋に視線を落とした。
「そうだよ」
「サラダも買いましたか?」
「いや、買ってない」
「駄目ですよ。野菜もちゃんと食べないと」
「うんまあ、そうだね」
高校生に注意されてしまう俺。
「前にも言いましたけどやっぱり晩ご飯はうちで一緒に食べたらどうですか? お母さんもその方が安心するって言ってましたよ」
「いやぁ、さすがにそれは悪いよ」
以前から清水さん母娘には晩ご飯を三人で食べないかと誘われていた。
清水さんの作る料理はどれもプロ級なのでありがたいお誘いではあるのだが、家族水入らずの時間を邪魔するつもりは俺にはない。
「全然悪くないですってば。わたしもお母さんも鬼束さんと一緒だと嬉しいですよ」
「そう? それはありがとう。でも俺コンビニ弁当も結構好きなんだよね。それに今の仕事は時間が不規則だからさ」
「むぅ~」
美紗ちゃんは聞き分けのない子どものように頬を膨らませる。
俺に気を許してくれているのか、出会った頃よりもいろいろな表情を俺に見せてくれる美紗ちゃん。
「じゃあ今度わたしが野菜炒め作って持って行きますからそれ食べてくださいね」
「美紗ちゃん料理苦手って言ってなかったっけ?」
「えへへ、実は受験勉強の合間に少しずつお料理も勉強してるんです」
「へーそうなんだ。いろいろ頑張ってるんだね」
高校三年生で忙しいだろうにそんなこともしているのか。
向上心のある努力家なところは是非とも見習いたいものだ。
「だから今度鬼束さんのところに持って行きますね」
「うん。楽しみにしてるよ」
隣を歩く美紗ちゃんにそう告げると美紗ちゃんは嬉しそうに「はいっ」と微笑んだ。
「イタブ」
武態呪文を唱えると俺の体が戦闘モードに変形する。
全身の筋肉が激しく隆起し皮膚が硬質化。
さらには爪が刃物のように鋭く伸び、視覚や聴覚といった五感が研ぎ澄まされていく。
「な、なんだてめぇっ!?」
「今から死ぬお前には関係ない」
俺は地面を強く蹴ると俺の姿を見てひるんでいる男に向かって直進した。
そして、
ザシュッ!
凶器と化した五本の爪で男の体を深く斬り裂いた。
「がはっ……!!」
男の体から大量の血しぶきが飛び散って男は地面に後ろ向きに倒れる。
「……な、なん……ごふっ……!」
満月の下、男は自分がなぜこんな目に合うのか理由もわからないまま死んでいった。
ててててってってってーん!
『鬼束ヤマトは笠井有起哉を殺したことでレベルが1上がりました』
『最大HPが2、最大MPが1、ちからが1、まもりが1、すばやさが1上がりました』
男の死体が消えたのを見届けてから俺は周りを見渡す。
この辺りに監視カメラがないことは確認済みだが万が一にも目撃者がいないとも限らない。
「うん……問題なさそうだな」
俺は自分の意思で武態を解くと、ズボンのポケットからスマホを取り出して今回の依頼主の連絡先を消去する。
「依頼完了っと……」
つぶやくと俺は夜の公園をあとにした。
◇ ◇ ◇
あきらと別れてから早三週間。
俺は今まで通り陰で殺人を請け負い、実行しながら生活していた。
レベルは34に上がり身体能力を強化する呪文も覚えたことで、殺人それ自体は以前よりもはるかに楽なものとなっていた。
殺人依頼だけで既に六百万円以上を稼いでいる俺だったが生活水準は前のままだ。
これまでと同じように安アパートに住み、朝は食パン、昼と夜はコンビニ弁当でお腹を膨らませる毎日。
俺が殺人者である以上大金が入ったからといっても目立つ行動は慎むべきだと考えた上でそうしているのだが、もともと物欲がない俺にとっては今の暮らしにまったく不満はない。
時折り隣に住む清水さん母娘が晩ご飯の差し入れなどを持って俺の部屋を訪ねて来てくれるので、栄養のバランスが偏ることもないし一人暮らしの寂しさを感じることもない。
人を殺して生きている身でありながらおかしなことかもしれないが、俺はそんな暮らしに充実感すら覚えていた。
◇ ◇ ◇
「あっ、鬼束さん。こんばんは」
「美紗ちゃん、こんばんは」
アパートの前の通りに出ると制服姿の美紗ちゃんに偶然出会う。
「学校の帰り?」
「えっと、図書館です。学校より図書館の方が勉強がはかどるので」
「そっか。でもあまり暗くならないうちに帰った方がいいよ」
「そのつもりだったんですけどつい時間を忘れちゃってて……」
時間を忘れるくらい勉強に夢中になったことなどない俺からしたら考えられないセリフだ。
「鬼束さんはコンビニですか? お弁当?」
美紗ちゃんは俺が手に持ったコンビニ袋に視線を落とした。
「そうだよ」
「サラダも買いましたか?」
「いや、買ってない」
「駄目ですよ。野菜もちゃんと食べないと」
「うんまあ、そうだね」
高校生に注意されてしまう俺。
「前にも言いましたけどやっぱり晩ご飯はうちで一緒に食べたらどうですか? お母さんもその方が安心するって言ってましたよ」
「いやぁ、さすがにそれは悪いよ」
以前から清水さん母娘には晩ご飯を三人で食べないかと誘われていた。
清水さんの作る料理はどれもプロ級なのでありがたいお誘いではあるのだが、家族水入らずの時間を邪魔するつもりは俺にはない。
「全然悪くないですってば。わたしもお母さんも鬼束さんと一緒だと嬉しいですよ」
「そう? それはありがとう。でも俺コンビニ弁当も結構好きなんだよね。それに今の仕事は時間が不規則だからさ」
「むぅ~」
美紗ちゃんは聞き分けのない子どものように頬を膨らませる。
俺に気を許してくれているのか、出会った頃よりもいろいろな表情を俺に見せてくれる美紗ちゃん。
「じゃあ今度わたしが野菜炒め作って持って行きますからそれ食べてくださいね」
「美紗ちゃん料理苦手って言ってなかったっけ?」
「えへへ、実は受験勉強の合間に少しずつお料理も勉強してるんです」
「へーそうなんだ。いろいろ頑張ってるんだね」
高校三年生で忙しいだろうにそんなこともしているのか。
向上心のある努力家なところは是非とも見習いたいものだ。
「だから今度鬼束さんのところに持って行きますね」
「うん。楽しみにしてるよ」
隣を歩く美紗ちゃんにそう告げると美紗ちゃんは嬉しそうに「はいっ」と微笑んだ。
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