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第63話 過去
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マネージャーさんらしき女性と楽屋に入っていってしまったゆうにゃん。
俺は思い切って楽屋のドアをノックした。
トントン。
「は~い!」
中からはゆうにゃんではない女性の声。
さっきのマネージャーさんだろう。
ドアを開けた女性が、
「あっ、もうリハ始まりますかっ?」
帽子にマスク姿の俺をADさんと勘違いしたのか訊いてくる。
せっかくなので俺はそれを利用することにした。
「いえ、実はプロデューサーがゆうにゃんさんのマネージャーさんを呼んできてほしいって言っていたので伝えに来ました」
「あらっ、そうなんですかっ? なんの用かしら?」
「すみません、内容は聞かされていないので……」
「そうですか。ゆうにゃん、あたしちょっと行ってくるけど大丈夫~っ?」
「平気平気ーっ」
ゆうにゃんのあっけらかんとした声を聞いてマネージャーさんが部屋を出ていく。
「プロデューサーはBスタジオにいるのでよろしくお願いします」
「は~いっ」
俺はマネージャーさんの姿が見えなくなったのを確認するとゆうにゃんの楽屋をゆっくり開けた。
そっと入っていくとゆうにゃんは窓側を向いたままスマホゲームに興じていた。
俺は無防備なゆうにゃんの後ろから近寄っていきその細い首に腕を回す。
「うげぇっ……!?」
俺は「ンシクド」と唱えるとゆうにゃんの耳元で優しく問いかけた。
「お前は過去にどんな悪いことをしたことがある? よく思い出せ」
「うがっか……!」
腕で首を絞め上げているのでゆうにゃんはまともに声が出せないでいるが、はなから本当のことを話してくれるとは思ってもいないからどうでもいい。
俺はゆうにゃんの心の中を読み取った。
「……へー。お前かなりあくどいことしてるんだな」
ゆうにゃんは学生時代、とある本屋をターゲットにして友人数人と万引きを繰り返しその本屋を潰したことがあるのだそうだ。
さらにその友人たちと美人局で何人もの男からお金を巻き上げていたこともあるらしい。
それだけではなく、学校でおとなしい女子生徒を脅して売春行為を強要していたこともあるようだ。
そんな過去を隠すためゆうにゃんは三度の整形をして、柿崎曜子という本名も決して表に出すことはしていないということだ。
ちなみに楽曲の盗作も一度や二度ではないみたいだ。
「それだけわかれば充分だ。死で償え」
「くぁっ……か、か、かっ……!」
俺は腕に力を込めていく。
何も考えず何も感じず、ただ目の前の命を葬り去る。
どれくらいの時間そうしていただろうか。
ててててってってってーん!
レベルアップのファンファーレの音がして俺は腕を首から外した。
『鬼束ヤマトは柿崎曜子を殺したことでレベルが1上がりました』
『最大HPが2、最大MPが2、ちからが2、まもりが1、すばやさが1上がりました』
ゆうにゃん、いや柿崎曜子の死体が消えたのを確認してから俺は楽屋のドアノブに手を伸ばす。
とそこへすりガラス越しにさっき追い払ったマネージャーさんが戻ってきたのが見えた。
ドアが開きマネージャーさんと目が合った瞬間、
「ヨキウヨシクオキ」
俺はすかさず記憶消去の呪文を発動させる。
呪文を受けてぼんやりとした顔になったマネージャーさんの横を素早く通り抜けると、俺は何事もなかったかのように廊下を一人颯爽と突き進んでいく。
そして転移呪文でテレビ局の外に脱出した俺はその足で駅に向かうのだった。
俺は思い切って楽屋のドアをノックした。
トントン。
「は~い!」
中からはゆうにゃんではない女性の声。
さっきのマネージャーさんだろう。
ドアを開けた女性が、
「あっ、もうリハ始まりますかっ?」
帽子にマスク姿の俺をADさんと勘違いしたのか訊いてくる。
せっかくなので俺はそれを利用することにした。
「いえ、実はプロデューサーがゆうにゃんさんのマネージャーさんを呼んできてほしいって言っていたので伝えに来ました」
「あらっ、そうなんですかっ? なんの用かしら?」
「すみません、内容は聞かされていないので……」
「そうですか。ゆうにゃん、あたしちょっと行ってくるけど大丈夫~っ?」
「平気平気ーっ」
ゆうにゃんのあっけらかんとした声を聞いてマネージャーさんが部屋を出ていく。
「プロデューサーはBスタジオにいるのでよろしくお願いします」
「は~いっ」
俺はマネージャーさんの姿が見えなくなったのを確認するとゆうにゃんの楽屋をゆっくり開けた。
そっと入っていくとゆうにゃんは窓側を向いたままスマホゲームに興じていた。
俺は無防備なゆうにゃんの後ろから近寄っていきその細い首に腕を回す。
「うげぇっ……!?」
俺は「ンシクド」と唱えるとゆうにゃんの耳元で優しく問いかけた。
「お前は過去にどんな悪いことをしたことがある? よく思い出せ」
「うがっか……!」
腕で首を絞め上げているのでゆうにゃんはまともに声が出せないでいるが、はなから本当のことを話してくれるとは思ってもいないからどうでもいい。
俺はゆうにゃんの心の中を読み取った。
「……へー。お前かなりあくどいことしてるんだな」
ゆうにゃんは学生時代、とある本屋をターゲットにして友人数人と万引きを繰り返しその本屋を潰したことがあるのだそうだ。
さらにその友人たちと美人局で何人もの男からお金を巻き上げていたこともあるらしい。
それだけではなく、学校でおとなしい女子生徒を脅して売春行為を強要していたこともあるようだ。
そんな過去を隠すためゆうにゃんは三度の整形をして、柿崎曜子という本名も決して表に出すことはしていないということだ。
ちなみに楽曲の盗作も一度や二度ではないみたいだ。
「それだけわかれば充分だ。死で償え」
「くぁっ……か、か、かっ……!」
俺は腕に力を込めていく。
何も考えず何も感じず、ただ目の前の命を葬り去る。
どれくらいの時間そうしていただろうか。
ててててってってってーん!
レベルアップのファンファーレの音がして俺は腕を首から外した。
『鬼束ヤマトは柿崎曜子を殺したことでレベルが1上がりました』
『最大HPが2、最大MPが2、ちからが2、まもりが1、すばやさが1上がりました』
ゆうにゃん、いや柿崎曜子の死体が消えたのを確認してから俺は楽屋のドアノブに手を伸ばす。
とそこへすりガラス越しにさっき追い払ったマネージャーさんが戻ってきたのが見えた。
ドアが開きマネージャーさんと目が合った瞬間、
「ヨキウヨシクオキ」
俺はすかさず記憶消去の呪文を発動させる。
呪文を受けてぼんやりとした顔になったマネージャーさんの横を素早く通り抜けると、俺は何事もなかったかのように廊下を一人颯爽と突き進んでいく。
そして転移呪文でテレビ局の外に脱出した俺はその足で駅に向かうのだった。
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