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第41話 達成感
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門倉を殺した翌日の夜、佐々木さんから電話が来た。
門倉が無断欠勤したので会社の人間が連絡を入れたが一切音沙汰がないということで、もしかしてと思い俺に電話をしてきたということだった。
『あの、鬼束さんが何かしてくれたんですか……?』
「……」
俺は無言を貫いていた。
というのもせっかく殺人の証拠は何も残っていないのに録音でもされていたらまずいと思ったからだ。
『あの、もし録音とかを疑っているんでしたらしていませんから、大丈夫ですよ』
佐々木さんはそう言うが念のため俺は、
「……」
無言で返す。
『……わ、わかりました。では依頼料はどうすればいいですか? 成功報酬ということでしたけれど……』
「……」
あー、そういえば依頼料貰ってなかったな。
だがしかし、ここで俺がお金を受け取ると言うと門倉の失踪に自分が関わっていると認めるようなものだよな。
うーん……前金で受け取っておくべきだったか。
「……」
俺が後悔しながら沈黙を続けていると、
『じゃ、じゃあ最後に独り言を言わせてください……』
佐々木さんはそう前置きしてからこう言った。
『わたし、鬼束さんにとても感謝しています。本当にありがとうございました』
それから約十秒後、電話はぷつりと切れたのだった。
「感謝……されたのか? 俺が?」
佐々木さんは俺が門倉に何かをしたということにうすうす感づいているのだろう。
その上で俺に感謝の言葉を述べたのだろう。
人を殺して感謝されたことに戸惑うと同時に妙な達成感のようなものが俺の胸の中いっぱいに広がっていく。
俺のしたことは間違いなく悪だ。
少なくともついさっきまで俺はそう思っていた。
だが佐々木さんの穏やかな声を聞いた今となっては正直よくわからないでいる。
この世の中には殺人者である俺のことを必要としている人がいるのかもしれない。
そんなことをぼんやりと考えていた時だった。
ブウウゥゥーン……ブウウゥゥーン……。
スマホにメールが届いた。
誰からだろうと思いメールを開くとそこには新たな依頼主の名前と依頼内容が記されていた。
◇ ◇ ◇
俺がネットの掲示板に載せた文章もメールアドレスもとっくに削除してある。
それなのに新たな依頼メールが俺のもとに舞い込んできた。
依頼主は貝原久雄、三十一歳。
依頼内容は奥さんの浮気調査。
「そんなの、もっとまともな探偵事務所に依頼すればいいだろうに」
俺はそのメールを消去しようとするもその下に書かれていた文章を見て指が止まる。
依頼料:二十五万円
「二十五万っ、マジかよ……」
職を失い懐も寂しい俺にとって二十五万円はかなりの大金だった。
思わずごくりと唾を飲みこむ。
「浮気調査か……ちょっと尾行して写真撮るだけだよな」
誰にともなく口にすると俺は貝原久雄という人物がどこに住んでいるのか訊ねてみた。
すると一分もしないうちに[熊本県です]と返ってきた。
「熊本か~っ」
俺は天を仰ぐ。
あいにく俺は群馬県在住なので浮気調査は無理がある。
二十五万円は魅力的だが断るしかないか――
「って待てよ。千里眼使えばギリなんとかなるんじゃないか」
俺は思い立ち早速奥さんの名前と顔写真を送るようメールした。
するとまたも一分もしないうちに画像が添付されたメールが送られてきた。
「いいじゃん。いいじゃん」
その後貝原さんと数回メールのやり取りを済ませ契約は無事成立。
佐々木さんの時の失敗を生かして依頼料を前払いしてもらうことにも同意してもらった。
「それではお金が振り込まれ次第調査を開始いたしますっと」
最後の確認メールを送ると俺はベッドに寝ころぶ。
だがお金が振り込まれ次第とは言ったものの特にやることもないので、俺は貝原さんの奥さんの様子を試しに見てみることにした。
貝原さんの奥さんである貝原弘子さんの顔を思い浮かべながら、
「ンガリンセ」
と唱える。
そして目をつぶり動向を探ると、
「っ!?」
俺は驚きのあまり目を見開いてしまった。
「おいおい……嘘だろ」
貝原弘子さんは今まさに不倫の真っ最中だったのだ。
門倉が無断欠勤したので会社の人間が連絡を入れたが一切音沙汰がないということで、もしかしてと思い俺に電話をしてきたということだった。
『あの、鬼束さんが何かしてくれたんですか……?』
「……」
俺は無言を貫いていた。
というのもせっかく殺人の証拠は何も残っていないのに録音でもされていたらまずいと思ったからだ。
『あの、もし録音とかを疑っているんでしたらしていませんから、大丈夫ですよ』
佐々木さんはそう言うが念のため俺は、
「……」
無言で返す。
『……わ、わかりました。では依頼料はどうすればいいですか? 成功報酬ということでしたけれど……』
「……」
あー、そういえば依頼料貰ってなかったな。
だがしかし、ここで俺がお金を受け取ると言うと門倉の失踪に自分が関わっていると認めるようなものだよな。
うーん……前金で受け取っておくべきだったか。
「……」
俺が後悔しながら沈黙を続けていると、
『じゃ、じゃあ最後に独り言を言わせてください……』
佐々木さんはそう前置きしてからこう言った。
『わたし、鬼束さんにとても感謝しています。本当にありがとうございました』
それから約十秒後、電話はぷつりと切れたのだった。
「感謝……されたのか? 俺が?」
佐々木さんは俺が門倉に何かをしたということにうすうす感づいているのだろう。
その上で俺に感謝の言葉を述べたのだろう。
人を殺して感謝されたことに戸惑うと同時に妙な達成感のようなものが俺の胸の中いっぱいに広がっていく。
俺のしたことは間違いなく悪だ。
少なくともついさっきまで俺はそう思っていた。
だが佐々木さんの穏やかな声を聞いた今となっては正直よくわからないでいる。
この世の中には殺人者である俺のことを必要としている人がいるのかもしれない。
そんなことをぼんやりと考えていた時だった。
ブウウゥゥーン……ブウウゥゥーン……。
スマホにメールが届いた。
誰からだろうと思いメールを開くとそこには新たな依頼主の名前と依頼内容が記されていた。
◇ ◇ ◇
俺がネットの掲示板に載せた文章もメールアドレスもとっくに削除してある。
それなのに新たな依頼メールが俺のもとに舞い込んできた。
依頼主は貝原久雄、三十一歳。
依頼内容は奥さんの浮気調査。
「そんなの、もっとまともな探偵事務所に依頼すればいいだろうに」
俺はそのメールを消去しようとするもその下に書かれていた文章を見て指が止まる。
依頼料:二十五万円
「二十五万っ、マジかよ……」
職を失い懐も寂しい俺にとって二十五万円はかなりの大金だった。
思わずごくりと唾を飲みこむ。
「浮気調査か……ちょっと尾行して写真撮るだけだよな」
誰にともなく口にすると俺は貝原久雄という人物がどこに住んでいるのか訊ねてみた。
すると一分もしないうちに[熊本県です]と返ってきた。
「熊本か~っ」
俺は天を仰ぐ。
あいにく俺は群馬県在住なので浮気調査は無理がある。
二十五万円は魅力的だが断るしかないか――
「って待てよ。千里眼使えばギリなんとかなるんじゃないか」
俺は思い立ち早速奥さんの名前と顔写真を送るようメールした。
するとまたも一分もしないうちに画像が添付されたメールが送られてきた。
「いいじゃん。いいじゃん」
その後貝原さんと数回メールのやり取りを済ませ契約は無事成立。
佐々木さんの時の失敗を生かして依頼料を前払いしてもらうことにも同意してもらった。
「それではお金が振り込まれ次第調査を開始いたしますっと」
最後の確認メールを送ると俺はベッドに寝ころぶ。
だがお金が振り込まれ次第とは言ったものの特にやることもないので、俺は貝原さんの奥さんの様子を試しに見てみることにした。
貝原さんの奥さんである貝原弘子さんの顔を思い浮かべながら、
「ンガリンセ」
と唱える。
そして目をつぶり動向を探ると、
「っ!?」
俺は驚きのあまり目を見開いてしまった。
「おいおい……嘘だろ」
貝原弘子さんは今まさに不倫の真っ最中だったのだ。
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