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第21話 迫る選択
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「同盟? ってどういうこと?」
細谷さんは眉をひそめる。
「言葉の通りですよ」
怪訝な顔を見せる細谷さんを前に俺は話を続けた。
「俺は殺人者を感知する呪文が使えません。だからもし殺人者に狙われたりしたらよほど運がよくなければまず殺されてしまうでしょう」
「……」
俺を殺しそこなった当の本人である細谷さんは口をつぐむ。
「そこで細谷さんの出番です。感知した殺人者の人相や場所などを俺に教えてほしいんです」
そうすれば俺は危険から遠ざかることが出来るというわけだ。
「ふーん、同盟ってそういうことね。で、鬼束くんは私に何してくれるの?」
「殺さないで生かしておいてあげます」
「はぁっ!? 意味わかんない、ふざけてんのっ」
「俺に口答えしないほうがいいですよ。俺は死の呪文が使えるんで、殺したい人物の顔と名前を思い浮かべながら呪文を唱えるだけで相手を簡単に殺すことが出来るんです」
そんな呪文もちろん使えないのだが。
俺に使えるのは回復と解毒と悪人感知の呪文だけだ。
「な、何よそれっ、私を脅してるわけっ!」
だがそんなことを露とも知らない細谷さんは動揺を隠せないでいた。
「殺さないって、許してくれるって言ったじゃないっ」
「だから細谷さんが言うことを聞いてくれれば殺しませんよ」
「ひ、卑怯よそんなのっ!」
我ながら卑怯だとは思うが生き延びるためだ。背に腹は代えられない。
「どうしますか? 俺と同盟を結びますか?」
「くっ……」
俺をにらみつけながら細谷さんは恨めしそうに下唇を噛む。
「さあ、決めてください」
「…………わ、わかったわよ、それでいいわよっ」
細谷さんも生き延びるため背に腹は代えられないということだろう、俺の提案をしぶしぶ受け入れた。
すると何を思ったのか細谷さんは目の前のマグカップを掴むと、
ごくごくごくっ……。
既に冷めているであろう中の紅茶を一気に飲み干した。
そして、
「おかわりっ」
テーブルに叩きつけるようにマグカップを置く。
「さっき毒がどうとか言ってませんでしたっけ」
「念じるだけで私を殺せるならわざわざ毒なんか盛らないでしょうが。いいからおかわりちょうだいよっ」
「はいはい」
どこか吹っ切れた様子の細谷さんを尻目にちょっと追い詰めすぎたかなと反省する俺。
◇ ◇ ◇
「あの……細谷さん、話は済んだんでそろそろ帰ってくれませんか?」
「嫌っ」
紅茶のおかわりを要求すること五回。
時計の針が午後九時を回ったのでさすがに細谷さんに帰ってもらおうとするが、細谷さんは一向に帰る気配がない。
「このあとデートなんですよね? 遅刻しますよ」
「平気だも~ん」
細谷さんはまるで酔っ払っているかのように絨毯の上を転げまわる。
「鬼束くんがいけないんだも~ん」
「いじけないでください。もう脅したりしませんからマジで帰ってくださいよ」
「そう言っておいて殺す気なんだぁ~」
舌っ足らずな口調で俺を指差す細谷さん。ほんのり顔が赤い。
本当に酔っ払ってるんじゃないのかこの人。
「……ってあれ? この紅茶、アルコールが入ってる!?」
紅茶のティーパックが入っていた箱を片付けていると[アルコール3%]という文字が目に入った。
「うわっ、嘘だろっ」
アルコール入りの紅茶だったなんて……。
「うふふふ~」
見ると細谷さんは絨毯を丸めて蓑虫みたいになっていた。
そしてはむはむと絨毯を食べようとしている。
「ちょっと何してるんですか。汚いですって」
お酒に弱いのか理性の欠片もなくなっている細谷さん。
「ほら、食べちゃ駄目ですってば。口開けてくださいっ」
「嫌ぁだっ!!」
「ちょっ、でかい声出さないでくださいっ」
「あむあむ……」
「俺の手を噛まないで――」
「ぐぅ……」
「寝ないでくださいっ」
完全に幼児退行してしまった細谷さんを無理矢理外に放り出すことも出来ない俺は、仕方なしに彼女を一晩泊めてやるのだった。
細谷さんは眉をひそめる。
「言葉の通りですよ」
怪訝な顔を見せる細谷さんを前に俺は話を続けた。
「俺は殺人者を感知する呪文が使えません。だからもし殺人者に狙われたりしたらよほど運がよくなければまず殺されてしまうでしょう」
「……」
俺を殺しそこなった当の本人である細谷さんは口をつぐむ。
「そこで細谷さんの出番です。感知した殺人者の人相や場所などを俺に教えてほしいんです」
そうすれば俺は危険から遠ざかることが出来るというわけだ。
「ふーん、同盟ってそういうことね。で、鬼束くんは私に何してくれるの?」
「殺さないで生かしておいてあげます」
「はぁっ!? 意味わかんない、ふざけてんのっ」
「俺に口答えしないほうがいいですよ。俺は死の呪文が使えるんで、殺したい人物の顔と名前を思い浮かべながら呪文を唱えるだけで相手を簡単に殺すことが出来るんです」
そんな呪文もちろん使えないのだが。
俺に使えるのは回復と解毒と悪人感知の呪文だけだ。
「な、何よそれっ、私を脅してるわけっ!」
だがそんなことを露とも知らない細谷さんは動揺を隠せないでいた。
「殺さないって、許してくれるって言ったじゃないっ」
「だから細谷さんが言うことを聞いてくれれば殺しませんよ」
「ひ、卑怯よそんなのっ!」
我ながら卑怯だとは思うが生き延びるためだ。背に腹は代えられない。
「どうしますか? 俺と同盟を結びますか?」
「くっ……」
俺をにらみつけながら細谷さんは恨めしそうに下唇を噛む。
「さあ、決めてください」
「…………わ、わかったわよ、それでいいわよっ」
細谷さんも生き延びるため背に腹は代えられないということだろう、俺の提案をしぶしぶ受け入れた。
すると何を思ったのか細谷さんは目の前のマグカップを掴むと、
ごくごくごくっ……。
既に冷めているであろう中の紅茶を一気に飲み干した。
そして、
「おかわりっ」
テーブルに叩きつけるようにマグカップを置く。
「さっき毒がどうとか言ってませんでしたっけ」
「念じるだけで私を殺せるならわざわざ毒なんか盛らないでしょうが。いいからおかわりちょうだいよっ」
「はいはい」
どこか吹っ切れた様子の細谷さんを尻目にちょっと追い詰めすぎたかなと反省する俺。
◇ ◇ ◇
「あの……細谷さん、話は済んだんでそろそろ帰ってくれませんか?」
「嫌っ」
紅茶のおかわりを要求すること五回。
時計の針が午後九時を回ったのでさすがに細谷さんに帰ってもらおうとするが、細谷さんは一向に帰る気配がない。
「このあとデートなんですよね? 遅刻しますよ」
「平気だも~ん」
細谷さんはまるで酔っ払っているかのように絨毯の上を転げまわる。
「鬼束くんがいけないんだも~ん」
「いじけないでください。もう脅したりしませんからマジで帰ってくださいよ」
「そう言っておいて殺す気なんだぁ~」
舌っ足らずな口調で俺を指差す細谷さん。ほんのり顔が赤い。
本当に酔っ払ってるんじゃないのかこの人。
「……ってあれ? この紅茶、アルコールが入ってる!?」
紅茶のティーパックが入っていた箱を片付けていると[アルコール3%]という文字が目に入った。
「うわっ、嘘だろっ」
アルコール入りの紅茶だったなんて……。
「うふふふ~」
見ると細谷さんは絨毯を丸めて蓑虫みたいになっていた。
そしてはむはむと絨毯を食べようとしている。
「ちょっと何してるんですか。汚いですって」
お酒に弱いのか理性の欠片もなくなっている細谷さん。
「ほら、食べちゃ駄目ですってば。口開けてくださいっ」
「嫌ぁだっ!!」
「ちょっ、でかい声出さないでくださいっ」
「あむあむ……」
「俺の手を噛まないで――」
「ぐぅ……」
「寝ないでくださいっ」
完全に幼児退行してしまった細谷さんを無理矢理外に放り出すことも出来ない俺は、仕方なしに彼女を一晩泊めてやるのだった。
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