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第9話 それぞれの正義
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コンビニで買い物を済ませた俺と美紗ちゃんは帰るアパートが同じなので一緒に帰ることにした。
「美紗ちゃんていつも帰るのこんなに遅いの?」
「そうですね。毎日図書館で受験勉強してるので」
「そっか、高二だもんね……大学受験かぁ、懐かしいな~」
「……わたし本当は高校出たら働こうと思っていたんですけどね」
少し低いトーンで美紗ちゃんは喋り出す。
「うち母子家庭なのでお母さんに迷惑かけたくなかったので……」
「ふーん……」
なんて返したらいいかわからずふーんとだけ口に出した。
「でもお母さんにそれを知られた時に、絶対に大学には行きなさいって叱られちゃって……」
「うーん、やっぱり親からしたらそういうもんなんじゃないかな」
親の経験などないのに適当なことを言う俺。
「だからわたし受験勉強死ぬ気で頑張ってるんです」
「そっか……でもあまり遅くならないようにね、危ないから」
「えへへ、それお母さんにも言われました」
美紗ちゃんは目を細めて幸せそうに笑った。
「鬼束さん、夜はいつもコンビニのお弁当なんですか?」
俺の持つレジ袋を覗き込むようにして美紗ちゃんが訊いてくる。
「まあね。近いし便利だからつい」
もっと言うと昼ご飯もコンビニ弁当なのだが。
「自炊とかしないんですか?」
「男の一人暮らしだからね、弁当の方が楽なんだよ」
「ふ~ん、そうなんですか」
「美紗ちゃんのお母さんにたまにおかずをおすそわけしてもらってるけどね」
「はい、知ってます。わたしがお母さんくらい料理が上手だったら、鬼束さんにお弁当作ってあげられるんですけどね」
「料理下手なの?」
「はい、全然です」
美紗ちゃんはしゅんと肩を縮こませる。
「ははっ……それで美紗ちゃんは? 何買ったの?」
「わたしですか?」
俺は質問した後に余計なことを訊いてしまったかなと反省した。
女子高生にコンビニで何買ったか訊くなんてあまりほめられたことではない。
だが美紗ちゃんは、
「わたしはこれです」
俺が反省していたのがバカらしいほどにレジ袋から堂々とペンを取り出してみせた。
「ペン?」
「はい、ボールペンです。このボールペンすごく書きやすいんですよ、それに全然疲れないんです」
「へー、そうなんだ」
「あ、なんかがっかりしてます?」
「いや、別にそんなことないよ」
ただ拍子抜けしただけだ。
「本当ですか~?」
「本当だって」
「え~なんか鬼束さん――」
チリンチリン!
暗がりで押し問答していると自転車のベルが後方から鳴らされた。
振り返った瞬間、スーツ姿のサラリーマン風のおじさんが自転車で美紗ちゃんの横をビュンと風を切って走り抜けていった。
「きゃっ」
「おっと……」
体勢を崩した美紗ちゃんを手で受け止める。
「大丈夫?」
「あ、はい。すみません」
「危ないな~」
過ぎ去っていった自転車を俺がみつめていると、
「でもわたしたちが悪かったのかも……」
美紗ちゃんが口にした。
「え? なんで? どう考えても悪いのは向こうでしょ」
「道路を並んで歩いていたわたしたちをあのおじさんは車に轢かれちゃうよ、危ないよって注意しようしてあんな走り方をしたのかもしれないですから」
美紗ちゃんは独特の解釈をした。
「うーん、そうかなぁ。ただ単にイライラしてただけじゃないかな。車も通らないような道路を並んで歩くくらい悪くないと思うけど」
と言いつつ……でも美紗ちゃんのような考え方もあるのか、と再考する。
さっきのおじさんからしたらあの人が正義で俺たちは悪なのかもしれないんだな。
「美紗ちゃんていつも帰るのこんなに遅いの?」
「そうですね。毎日図書館で受験勉強してるので」
「そっか、高二だもんね……大学受験かぁ、懐かしいな~」
「……わたし本当は高校出たら働こうと思っていたんですけどね」
少し低いトーンで美紗ちゃんは喋り出す。
「うち母子家庭なのでお母さんに迷惑かけたくなかったので……」
「ふーん……」
なんて返したらいいかわからずふーんとだけ口に出した。
「でもお母さんにそれを知られた時に、絶対に大学には行きなさいって叱られちゃって……」
「うーん、やっぱり親からしたらそういうもんなんじゃないかな」
親の経験などないのに適当なことを言う俺。
「だからわたし受験勉強死ぬ気で頑張ってるんです」
「そっか……でもあまり遅くならないようにね、危ないから」
「えへへ、それお母さんにも言われました」
美紗ちゃんは目を細めて幸せそうに笑った。
「鬼束さん、夜はいつもコンビニのお弁当なんですか?」
俺の持つレジ袋を覗き込むようにして美紗ちゃんが訊いてくる。
「まあね。近いし便利だからつい」
もっと言うと昼ご飯もコンビニ弁当なのだが。
「自炊とかしないんですか?」
「男の一人暮らしだからね、弁当の方が楽なんだよ」
「ふ~ん、そうなんですか」
「美紗ちゃんのお母さんにたまにおかずをおすそわけしてもらってるけどね」
「はい、知ってます。わたしがお母さんくらい料理が上手だったら、鬼束さんにお弁当作ってあげられるんですけどね」
「料理下手なの?」
「はい、全然です」
美紗ちゃんはしゅんと肩を縮こませる。
「ははっ……それで美紗ちゃんは? 何買ったの?」
「わたしですか?」
俺は質問した後に余計なことを訊いてしまったかなと反省した。
女子高生にコンビニで何買ったか訊くなんてあまりほめられたことではない。
だが美紗ちゃんは、
「わたしはこれです」
俺が反省していたのがバカらしいほどにレジ袋から堂々とペンを取り出してみせた。
「ペン?」
「はい、ボールペンです。このボールペンすごく書きやすいんですよ、それに全然疲れないんです」
「へー、そうなんだ」
「あ、なんかがっかりしてます?」
「いや、別にそんなことないよ」
ただ拍子抜けしただけだ。
「本当ですか~?」
「本当だって」
「え~なんか鬼束さん――」
チリンチリン!
暗がりで押し問答していると自転車のベルが後方から鳴らされた。
振り返った瞬間、スーツ姿のサラリーマン風のおじさんが自転車で美紗ちゃんの横をビュンと風を切って走り抜けていった。
「きゃっ」
「おっと……」
体勢を崩した美紗ちゃんを手で受け止める。
「大丈夫?」
「あ、はい。すみません」
「危ないな~」
過ぎ去っていった自転車を俺がみつめていると、
「でもわたしたちが悪かったのかも……」
美紗ちゃんが口にした。
「え? なんで? どう考えても悪いのは向こうでしょ」
「道路を並んで歩いていたわたしたちをあのおじさんは車に轢かれちゃうよ、危ないよって注意しようしてあんな走り方をしたのかもしれないですから」
美紗ちゃんは独特の解釈をした。
「うーん、そうかなぁ。ただ単にイライラしてただけじゃないかな。車も通らないような道路を並んで歩くくらい悪くないと思うけど」
と言いつつ……でも美紗ちゃんのような考え方もあるのか、と再考する。
さっきのおじさんからしたらあの人が正義で俺たちは悪なのかもしれないんだな。
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