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3.「それが俺の役目だ」

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リビングに設置されたテーブルを挟み互いに着席し零型と名乗るアンドロイドの説明をポカーンと呆気にとられた様子で聞く天音。

零型「未来は大まかに説明をすると三つの勢力に分かれている。「帝国軍」「反乱軍」「中立勢力」の三つだ。」

無機質なまでに彼は淡々と説明をする。
指を一本ずつ立て三つの勢力について説明を続けた。

零型「未来では俺達アンドロイドが実権を握った、人間を支配し奴隷として扱い使えなくなったら殺す…そんな事が日常と化した未来だ。」

もたらされた惨たらしい未来の話。
それを信じることは出来ない…と思っていた。
だが昨日未来から実際にやって来たあの敵のアンドロイドや殺され掛けた事を思えば彼の話は真実味がある。

けれどどうして彼は敵である天音を守ったのか。
いてもたってもいられずに質問は最後にと言われていたが 

天音「けどっ…君は僕を助けてくれたよね。」 

と質問をぶつけた。

初めて彼は表情を変えた。
それは笑みではなく眉を寄せた不機嫌そうなもの。話の腰を折ってしまったらしいと大人しく引き下がるも彼は回答を交えた説明を続けてくれた。

零型「…お前を殺そうと敵を送り込んでいる勢力は帝国軍だ、奴等は人間とアンドロイド 二つの共存関係を崩し瞬く間に世界を破壊した」

真っ直ぐに向けられるスカイブルーの瞳。
揺らぐこともなく動揺を隠せぬ己に事実を簡潔に告げて行く。

零型「そして俺は反乱軍に属するアンドロイド。以前の生活を取り戻そうと立ち上がった人間率いる俺らアンドロイドの連合軍…帝国軍を壊滅させるため奴等とは日々争っている」

天音「えっと…つまり世界を滅ぼした悪者がその帝国軍で、君ら……反乱軍?…が地球を救うためのヒーローみたいな存在という解釈であっているかな?」

年寄りの頭では言葉を受け入れることで精一杯な様で、度々話を止めてしまい申し訳ないが一度整理をと彼がマグカップの隣へ置いてくれたコーヒーフレッシュをそれぞれ帝国軍と反乱軍に見立て二つ並べ認識が相違ないか彼へ尋ねた。

零型「正確には滅ぼされてはいない。それも秒読みだが…それにアンドロイドに善悪は存在しない、あるとすれば命令を出す人間ということだ」

彼の発言には胸に刺さるものがあった。
命令一つでアンドロイドが簡単に命を差し出す事は昨日の戦いで理解した。
だから未来がアンドロイドの手によって破壊されたというのも本意では無かったのだろう。

天音「じゃあ帝国軍を束ねている人物が命令を出して世界を滅ぼしたってこと?…」

「どうしてそんな…」酷いことが出来るのかとあまりの恐ろしさに言葉は呑み込まれた。

次々に告げられる絶望的な未来のお陰で忘れていたが、では何故己は殺されなければならないのか、と漸く疑問に浮かんだ。

天音「けれどそれが僕を殺すことと何が関係があるんだい?こんな年寄りを殺す利益なんて…」

未来は実に壮大で飛躍したAIに技術よる戦争が起こっているらしい、だから余計にそんな技術も知識も乏しい自分がわざわざ未来からの敵に殺されなければならないのか想像がつかなかった。

零型「お前が未来を救う唯一の光だからだ」

迷うことなく真っ直ぐに動揺を隠せず揺れる天音の瞳を見据え断言する。

そして抽象的な説明に呆気にとられている天音を置き説明を続けた。

零型「そもそも俺らアンドロイドには幾つかの大原則が存在している」 


「一,人命を最優先に行動すべし」

「一,パターンを予測し、その結果から導き出される人命を脅かす行動は禁ず」

「一,人間を心身共に傷付けてはならず」


機械的に淡々と説明する彼の口からはアンドロイドがいかに人間のエゴで作られたのか、そう話されているようで聞くに耐え難い。

零型「…大原則の一部だが、それにより人間を殺す又は傷付けることは例え命令だろうと不可能になっている」

殺すことが出来ない?傷付けることが不可能?
未来はアンドロイドの手によって滅ぼされたと話していた彼の話は矛盾している。

天音「だとしたら君の言う未来はっ…」

質問の途中でスカイブルーの綺麗な瞳が此方を見つめ「黙って聞け」と訴えていることが窺えた。
またやってしまったとしょんぼりと身を小さくさせ彼の話に耳を傾ける。

零型「単純な話だ、ウイルスをばらまかれた。人間の生活の一部となっていたアンドロイドは瞬く間に感染し殺戮マシーンへと変貌した」

ウイルスによって殺人が可能となった…日常の一部となっていたアンドロイドが突如殺戮を始めたのなら…抗うすべもなく殺されていったに違いない、そう考えるだけで天音は寒気と胃を刃物で優しく突っつかれているようなキリキリとした痛みに襲われた。

零型「勿論誰もが日々進化し続ける高度な人工知能を欺けるウイルスを簡単に作れるはずがない、…だがそれを凌駕した人間がいた」

未来ではそんなウイルスを作成するのは固く禁じられている、だが法を破りアンドロイドを掌握し意のままに操らんとする存在を確認しているのは確かだが黒幕の特定にまでは至っていない。

天音「一体何が目的で君達にウイルスを…」

考えたところで基本的に争い事を好まず、祭りも参加するより数歩後ろで見守っているような天音がウイルスを作成しバラまいた理由などわかるよしもない。
 
零型「わからない、だがそのウイルスに対抗するすべを見つけた。…それがお前だ、帳 天音」

倒すべき大将の名前はおろか姿形など全く情報をつかんでいない。
けれどそのウイルスを破壊する謂わば抗ウイルス薬は見つけたと零型は表情を変えることなく淡々と告げた。

彼の瞳は相変わらず無機質なモノだったが内容が内容なだけに眼差しが僅かに期待を含んでいるように思える。
残念ながら未来を救うための手段なんて物は余生をのんびり過ごそうと計画していた天音には皆目見当もつかない。

天音「……僕には何の事かさっぱりだよ…ごめんね。」

謝罪することしか出来ない自分の無力さが憎らしい、妻を救えなかったあの日の情けない自分を思い知らされているようで無意識に太腿の上で拳を握りそれを静かに震わせる。


零型「最初から得られるのなら苦労はしない」

予想もしなかった言葉に「えっ?」と間の抜けた声を漏らす。

零型「ウイルスを打ち砕くもの…つまりワクチンがプログラムなのか物理的な実体なのか不明だが」

アンドロイドの機能へ働きかけるプログラムなのか、それとも帝国軍を滅ぼす武器なのかいずれにせよワクチンとなり得るモノさえも把握していない彼に絶望の色は一切見えない。

それよりか己を真っ直ぐに見据えこう言い放った。

零型「この先それをお前が必ず手に入れる。だからそれまで守り抜きワクチンを未来へ持ち帰る、それが俺の役目だ。」 

曇りない綺麗なスカイブルーの瞳。
揺らぐ事もなくその未来を信じて疑わない断固とした目は先立った彼女を思わせた。

昔から彼女に見つめられたら断れなかったし反論出来なかったが不思議と己の背中を後押ししてくれる優しさを感じていた。

天音「えっと…僕で良ければそのワクチンってやつを一緒に探すよ…いつ渡せるか分からないけど」


零型「無論だ。拒否権は行使されない。」

どうやら付き合う他に選択肢は用意されていないらしい。
無機質な顔の彼の期待に沿えるようなモノを天音が見つけることが可能なのか現時点では想像すら出来ないが、あまりにも真っ直ぐに自分を信じるものだから見つからないにしろ協力したいと思ってしまった。


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