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第2話
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「そろそろ行くのか、レイエス。」
「あぁ。ヤツらもこの時間帯から動き始めるからな。」
兄ライアルと話しながら依頼のために身支度をする。私はレイエス。レクタリア王国直属の魔狩団に属するハンターだ。この日は巨大オークが農家を襲う被害が多くなっており、そのオークを討伐することになっている。それほど強くないため、早めに終わらせて帰ろう。
「今日は舞踏会があるんだ、早めにたのむぜ?」
「わかってる。行ってくるよ兄さん。」
山に入っていつものようにオークを一体、二体と倒していく。そして最後の一体を探していると異変に気づいた。異臭とやたらハエの量が多い。ハエを払いながら奥へと進むと驚くことに討伐対処のオークらしき死体が横たわっていた。身体は裂かれて内蔵が溢れ出て、頭は荒くちぎられたのか骨が見え、へし折れていることから巨体のオークよりも更に巨大ななにかにやられたと理解し、同時に警戒しつつ辺りを見回していると草が擦れる音と誰かの吐息が微かに聞こえた。なにかがいる。腰に付けた剣の柄を握りつつ音のする方へ歩くと
(女の子?!)
音の主は黒い髪を持つ1人の女性だった。それもまだ若い。髪色と服装から異国の者だとわかる。足に矢が刺さっていて、周りが黒くなっている。このままだとこの子は死んでしまう。でもこの山は許可なしの者は立ち入れないはずだなのに何故ここにいるのだろうか。
矢も普通の人間や魔物なら数分で死亡するがこの子はまだ少ししか腐敗が進んでないのは何故だろうか。何故助かっているのか気になるところだが今はこの子の命を優先する。
「ひいっ?!やだっ...!来ないで....」
また、あの人たちみたいにやられる。逃げようと身をよじらせるも痛みで動けない。だが男の人は何もせず、ポケットから棒のような何かを差し出したのだ。
「大丈夫だ。これを咥えろ。」
「え?」
「いいから。」
仕方なく男の人に差し出された腕を咥えていると腰の短い剣を抜いて
「...すまない....!」
1、2の3で腐った足から少し上を切り落としたのだ。
さっきよりも強い痛みが走り、血が吹き出す。腕を咥える口が強くなり、血の味が広がった。フゥー、フゥー、と涙目で荒い息をする僕の頭を撫でると断面に手をかざすと緑色の魔法陣が出てきて血が止まり、包帯で巻いてくれた。アニメとかでよくある光景を生で初めて見た。切断された足は塵をも残さずに消えて、靴と靴下だけが残っていた。あのままほっといていたら今頃僕はここにはいなかっただろう。
「はぁっ、はあっ、はぁっ...あっ、腕がっ!ごめん、なさいっ!」
「...!気にするな。傷はない。」
ハッとして噛んでいた腕を見ると歯の形に合わせて出来た傷がない。僕が無意識に治していたのだろうか。レイエスと名乗った男性は日本人離れした彫りの深い美形で、とても綺麗な青い瞳をもった人で鎧の付いた服からハンターだと分かる。レイエスさんはここ『レクタリア王国』という国で防衛軍として魔狩団という、庶民の依頼で悪魔を狩ったりしているギルドに入っているそうだ。
「それで、どうしてここにいるんだ?ここは我々以外は立ち入り禁止のはずだ。」
「ごめんなさい...でも、僕も分からないんです...気付いた頃にはここにいて....って言っても....信じては、もらえないですよね...」
「...君、もしかして日本という国から来たか?」
「あっ...」
「やはりな。ここでも君と同じところから来た人がいるんだ。しかし、よりによってこの場所に来てしまったか。怖かっただろう。」
「...」
そう言ってレイエスさんは僕の頭をそっと撫でた。優しい声と顔に両親を思い出した。まだ幼稚園に通ってた頃、公園で転び、泣き出した時に駆け寄ったお母さんが頭を撫でてくれて、お父さんにおんぶしてもらっていたことを。ケンカしながらも笑いあってたあの景色を。もう、あの頃には戻れないんだ。悲しくなって涙が零れて、思わずレイエスさんに抱きついてしまった。
「あっ?!すまないっ!嫌だった....」
「ごめんなさい、もう少しだけ、このままいさせて、ください...」
「....分かった。」
そう言ってレイエスさんも優しく僕を包み込んだ。レイエスさんの匂いが僕を落ち着かせてくれて、抱きつくほんの数秒がやけに長く感じた。
────────────────────────────
無理もない。彼女はまだ若いと言うのに両親の顔を見れずに死んで、こんな危ない場所に飛ばされたんだ。怖かっただろう。嗚咽を漏らしながら泣く少女の姿に私はただ抱きしめることしか出来なかった。暫くして落ち着いたのか泣きはらした顔で私を見た。声をかけながら涙を指で拭いながら問う。
「もう、大丈夫かな?」
「はい...」
「そうか。.....君が言える範囲でいい。何があったのか、聞かせてほしいんだ。ああっそれと、君の名を聞きたい。」
ハルカと名乗った少女は改めて自分の身に起きたことを素直に説明した。オークに襲われていたことや、白い服の男に襲われていたことを。矢の形と波長から『天界軍』の仕業だとすぐに分かった。かつて人類の味方として活動していたが、戦争が起こるにつれ、世界の均衡を保つには人類を、魔物を1つ残さず抹殺しかないと捉え、以降今日まで続いているのだ。
「なるほどな。....チッ、やはり、あの連中か...」
「あの人たちは?」
「...少し長くなるが、いいかな?」
レイエスさんが話したことをまとめるとここには天界、魔界、人間界に分けられ、様々な種族が暮らしているという。そんな中レイエスさん達が倒す対象が人を無差別に襲う魔物と人間と魔物を滅ぼし、人間と魔物が産まれる前にしようと動く『天界軍』だという。レイエスさん達は特に動きに気をつけているんだとか。
「...本当なら聞きたいことや話したい事が沢山あるが...ここは危険だ。とりあえず、続きは町でしよう。」
そう言ってレイエスさんは僕をひょいっと抱きかかえ...いわゆる『お姫様抱っこ』をした。
「ちょちょちょちょレイエスさん?!な、何をっ?!」
「何も、君は片足がないのにそのまま歩くのか?」
「うぅ.....」
顔が熱くなる感覚がして思わず顔を埋める。なんだろう、この感覚...僕は男だ。同性の人と接してもなんてことは無いはず。でもレイエスさんの、男性の匂いがこの体になってからやけにハッキリ伝わってきて、心臓がバクバク鳴っている...。僕は、どうしてしまったんだ。
そんなことを考えてたその時、矢がレイエスさんのギリギリをかすめて木に刺さった。見覚えのある、金色の矢。白い服の...あの男だ。あいつまだ僕をさがしていたのか。
「手こずらせやがって。ここにいたのか。」
「あぁ。ヤツらもこの時間帯から動き始めるからな。」
兄ライアルと話しながら依頼のために身支度をする。私はレイエス。レクタリア王国直属の魔狩団に属するハンターだ。この日は巨大オークが農家を襲う被害が多くなっており、そのオークを討伐することになっている。それほど強くないため、早めに終わらせて帰ろう。
「今日は舞踏会があるんだ、早めにたのむぜ?」
「わかってる。行ってくるよ兄さん。」
山に入っていつものようにオークを一体、二体と倒していく。そして最後の一体を探していると異変に気づいた。異臭とやたらハエの量が多い。ハエを払いながら奥へと進むと驚くことに討伐対処のオークらしき死体が横たわっていた。身体は裂かれて内蔵が溢れ出て、頭は荒くちぎられたのか骨が見え、へし折れていることから巨体のオークよりも更に巨大ななにかにやられたと理解し、同時に警戒しつつ辺りを見回していると草が擦れる音と誰かの吐息が微かに聞こえた。なにかがいる。腰に付けた剣の柄を握りつつ音のする方へ歩くと
(女の子?!)
音の主は黒い髪を持つ1人の女性だった。それもまだ若い。髪色と服装から異国の者だとわかる。足に矢が刺さっていて、周りが黒くなっている。このままだとこの子は死んでしまう。でもこの山は許可なしの者は立ち入れないはずだなのに何故ここにいるのだろうか。
矢も普通の人間や魔物なら数分で死亡するがこの子はまだ少ししか腐敗が進んでないのは何故だろうか。何故助かっているのか気になるところだが今はこの子の命を優先する。
「ひいっ?!やだっ...!来ないで....」
また、あの人たちみたいにやられる。逃げようと身をよじらせるも痛みで動けない。だが男の人は何もせず、ポケットから棒のような何かを差し出したのだ。
「大丈夫だ。これを咥えろ。」
「え?」
「いいから。」
仕方なく男の人に差し出された腕を咥えていると腰の短い剣を抜いて
「...すまない....!」
1、2の3で腐った足から少し上を切り落としたのだ。
さっきよりも強い痛みが走り、血が吹き出す。腕を咥える口が強くなり、血の味が広がった。フゥー、フゥー、と涙目で荒い息をする僕の頭を撫でると断面に手をかざすと緑色の魔法陣が出てきて血が止まり、包帯で巻いてくれた。アニメとかでよくある光景を生で初めて見た。切断された足は塵をも残さずに消えて、靴と靴下だけが残っていた。あのままほっといていたら今頃僕はここにはいなかっただろう。
「はぁっ、はあっ、はぁっ...あっ、腕がっ!ごめん、なさいっ!」
「...!気にするな。傷はない。」
ハッとして噛んでいた腕を見ると歯の形に合わせて出来た傷がない。僕が無意識に治していたのだろうか。レイエスと名乗った男性は日本人離れした彫りの深い美形で、とても綺麗な青い瞳をもった人で鎧の付いた服からハンターだと分かる。レイエスさんはここ『レクタリア王国』という国で防衛軍として魔狩団という、庶民の依頼で悪魔を狩ったりしているギルドに入っているそうだ。
「それで、どうしてここにいるんだ?ここは我々以外は立ち入り禁止のはずだ。」
「ごめんなさい...でも、僕も分からないんです...気付いた頃にはここにいて....って言っても....信じては、もらえないですよね...」
「...君、もしかして日本という国から来たか?」
「あっ...」
「やはりな。ここでも君と同じところから来た人がいるんだ。しかし、よりによってこの場所に来てしまったか。怖かっただろう。」
「...」
そう言ってレイエスさんは僕の頭をそっと撫でた。優しい声と顔に両親を思い出した。まだ幼稚園に通ってた頃、公園で転び、泣き出した時に駆け寄ったお母さんが頭を撫でてくれて、お父さんにおんぶしてもらっていたことを。ケンカしながらも笑いあってたあの景色を。もう、あの頃には戻れないんだ。悲しくなって涙が零れて、思わずレイエスさんに抱きついてしまった。
「あっ?!すまないっ!嫌だった....」
「ごめんなさい、もう少しだけ、このままいさせて、ください...」
「....分かった。」
そう言ってレイエスさんも優しく僕を包み込んだ。レイエスさんの匂いが僕を落ち着かせてくれて、抱きつくほんの数秒がやけに長く感じた。
────────────────────────────
無理もない。彼女はまだ若いと言うのに両親の顔を見れずに死んで、こんな危ない場所に飛ばされたんだ。怖かっただろう。嗚咽を漏らしながら泣く少女の姿に私はただ抱きしめることしか出来なかった。暫くして落ち着いたのか泣きはらした顔で私を見た。声をかけながら涙を指で拭いながら問う。
「もう、大丈夫かな?」
「はい...」
「そうか。.....君が言える範囲でいい。何があったのか、聞かせてほしいんだ。ああっそれと、君の名を聞きたい。」
ハルカと名乗った少女は改めて自分の身に起きたことを素直に説明した。オークに襲われていたことや、白い服の男に襲われていたことを。矢の形と波長から『天界軍』の仕業だとすぐに分かった。かつて人類の味方として活動していたが、戦争が起こるにつれ、世界の均衡を保つには人類を、魔物を1つ残さず抹殺しかないと捉え、以降今日まで続いているのだ。
「なるほどな。....チッ、やはり、あの連中か...」
「あの人たちは?」
「...少し長くなるが、いいかな?」
レイエスさんが話したことをまとめるとここには天界、魔界、人間界に分けられ、様々な種族が暮らしているという。そんな中レイエスさん達が倒す対象が人を無差別に襲う魔物と人間と魔物を滅ぼし、人間と魔物が産まれる前にしようと動く『天界軍』だという。レイエスさん達は特に動きに気をつけているんだとか。
「...本当なら聞きたいことや話したい事が沢山あるが...ここは危険だ。とりあえず、続きは町でしよう。」
そう言ってレイエスさんは僕をひょいっと抱きかかえ...いわゆる『お姫様抱っこ』をした。
「ちょちょちょちょレイエスさん?!な、何をっ?!」
「何も、君は片足がないのにそのまま歩くのか?」
「うぅ.....」
顔が熱くなる感覚がして思わず顔を埋める。なんだろう、この感覚...僕は男だ。同性の人と接してもなんてことは無いはず。でもレイエスさんの、男性の匂いがこの体になってからやけにハッキリ伝わってきて、心臓がバクバク鳴っている...。僕は、どうしてしまったんだ。
そんなことを考えてたその時、矢がレイエスさんのギリギリをかすめて木に刺さった。見覚えのある、金色の矢。白い服の...あの男だ。あいつまだ僕をさがしていたのか。
「手こずらせやがって。ここにいたのか。」
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