二人キリの異世界冒険 (Information Teacher's Second Life)【完結】

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第4章 魔人誕生編

22.校外学習でダンジョンへ

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 ザーセン王国では、神殿に運ばれた勇者を取り囲んで、神官達が治癒魔法を、一斉に掛けていた。
 
 「勇者殿、大丈夫ですか」

 神官長が勇者に声を掛けている。王宮から勇者を運んできた、神官達にも、声を掛けた。

 「何があったんだ。ここまで、勇者が怪我をするとは?」

 「私達が王宮に行った時は、既に、勇者は、兵士たちに担がれて、王宮の門の所に居ました。
 私達が来るのを待っていたようでした」

 「すると、お前たちは、勇者が怪我をした所を見ていないのだな」

 「はい、そうです。よし、分かった。お前達は、もう一度王宮に行き、事情を聴いてこい」

 「「はい、直ちに」」

 神官達は、王宮に向けて走り出した。

 「うーん、後は、勇者殿が気が付いてからだな」

 勇者の怪我は、見た目より軽く、その日の夜には完治した。しかし、勇者自身から、どのようにして、怪我をしたかは、語られなかった。

 新規のダンジョンから魔物が溢れ出て来た時も、勇者は、疲労で倒れている。神官長は、この勇者では、計画がうまく運ばないのではないかと、疑い始めていた。

 「仕方がない、もう一人いるか」

 神官長は、独り言のように呟いた。

 「おい、誰かいないか?」

 「はい、神官長。ここに居ます。何か、御用ですか」

 「魔力の多い者を集めよ。例の神具が使える様に、準備を始めよ」

 「はい、わかりました。早速、始めさせていただきます」

 「王宮に、悟られるなよ。分かっているな」

 「はい。分かっています」

 神官長からの依頼を受けた神官は、神殿の奥に消えていった。

★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

 一方、王宮では、魔人レッドの魔法により破壊された広場の修復に、大勢の兵士が駆り出されていた。
 
 「王様、復旧には2~3日かかる見込みです」

 「そうか、それにしても凄い魔法だな。あのような、大穴は見たことがない」

 と王様は、勇者と魔人レッドの戦いの後を見て、驚いた。

 「それにしても、勇者が敗れるとは。しかも、魔王ではないのじゃな」

 「魔法軍の四天王と申しておりました」

 「そうか、もし、魔王が復活すると、この世は終わりじゃな。何か、打つ手はないのか」

 王様は、相談する相手も居ず、一人呟いた。

★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
 
 今日の黒魔導士のミーチェ先生の錬金術の授業は、校外学習でダンジョンへ行く。

 ダンジョンの中で薬草を採取する予定だ。マナハーブは、魔力が濃い場所でないと育たない。その為、採取には、ダンジョンに潜る必要がある。しかし、そんなに危険な事はない。魔力が満ちて居れば、ダンジョンの地下深くまで潜る必要がないからだ。

 今回は、好きなグループで、ダンジョンに潜って良いと言われている。

 私達は、キリ姉・私・エルミアの3人で、潜ることにした。マナハーブは何度も採取したことのある薬草で、すぐに見つかるだろう。
 エルミアがダンジョンに潜るのが初めてと言っていたので、エルミアのペースに合わすことにした。

 「エルミア、マナハーブはわかる?」

 と、キリ姉がエルミアに聞いた。

 「はい、事前に知れべて来たので、大丈夫です。見れば、分かります」

 「そう、えらいわね。それじゃ、案内はエルミアに任せるわよ」

 「はい、任せてください」

 私達3にんは、のんびりとピクニック気分で、ダンジョンの中を進んで行った。

 今回参加したのは、私達のグループを含めて、4つのグループだ。すでに、何度もダンジョンに潜っている生徒は参加を辞退した。また、上級貴族の生徒たちは、薬草は購入するものだと言って、参加しなかった。

 そのため、ダンジョン自体に興味がある生徒や平民を含む生徒のグループが、参加することになった。担当教師のミーチェ先生は、全体を見渡せる位置で生徒の様子を観察していた。

 「マナハーブがありました。見てください」

 と、エルミアが飛び跳ねている。エルミアから、薬草を渡されて、キリ姉がアイテムボックスに入れていく。

 「もっと、いるわよ。エルミア、頑張ってね」

 「はい、頑張ります」

 いつの間にか、私達は、他のグループから離れて、2階層下の第7階層に居た。

 「あれぇ、他のグループが見えなくなったね。キリ姉、どうする」

 「まだ、第7階層だし、問題ないわ。念のため、キリはスキル探索で、危険にならないように見張っていてね」
 
 「はぁい、分かりました」

 初級ダンジョンの第7階層なので、私も、気が抜けている。全くピクニック気分だ。甘いおやつが欲しくなった。

 私達3人は、エルミアの採取したマナハーブで、必要な量は確保できていた。もう、いつダンジョンから出ても良かった。

 急に、上の階層から叫び声が聞こえて来た。

 「誰か、助けて!」

 「キリ姉、聞こえた?」

 「上の階層から、声が聞こえたね。すぐに、見に行こう」

 私は、キリ姉にエルミアと一緒に来るように頼んで、一人で、声がする所へ走っていった。

 声を出したと思われる生徒の所へは、すぐに到達した。

 「どうしたの?」

 「魔物が急に出てきた!」

 「どんな魔物?」

 「大きな蛇のような魔物」

 「それで、あなたのグループの他の人は、どうしたの?」

 「よく分からない。私だけ、逃げて来たの」

 私は、スキル探索で周囲の魔物を調べた。

 「少し離れた所に、魔物1匹と生徒が7人いるね。
 ここの周りには魔物はいないようだから、あなたは、ここで、待っていて。
 すぐに、キリ姉とエルミアが来ると思うから」

 「はい、動かずに待っています」

 私は、すぐに、魔物の所へ行った。魔物は、レベル50のサーペイントだった。

 生徒達は、固まって、サーペイントと対峙していた。担当教師のミーチェ先生は、見当たらない。

 私は、すぐに、生徒達とサーペイントとの間に割って入った。まず、生徒達を光魔法のバリアで包んで、結界を作った。結界を確認してから、サーペイントに風魔法で、風カッターを放った。風カッター初級の魔法だ。しかし、今の私はレベル70なので、上級レベルの魔法と同等の威力を発揮した。

 サーペイントの身体は、2つに分けられ、頭が地面に落ちた。同時に、魔石も飛び出した。

 「もう大丈夫よ。結界も消すね」

 生徒達は、安堵の表情で、私に声を掛けた。

 「ありがとう。怖かった」

 「「助かった」」

 「ところで、ミーチェ先生と一緒ではなかったの?」

 「そうだ、ミーチェ先生は、他のグループを助けに行ったよ。もう一つ上の階層にいるよ」

 「分かった。ありがとう」

 すぐさま、一つ上の階層に行き、ミーチェ先生と生徒達を見つけた。

 ミーチェ先生は、5人の生徒達の先頭に立ち、生徒達を魔物から守っていた。

 魔物は、ゴブリンだった。しかし、数が多い。30匹ほどのゴブリンに取り囲まれていた。

 私は、急いで、ミーチェ先生の横に行った。

 「ミーチェ先生、大丈夫ですか?」

 「キリさんね。大丈夫よ。
 でも、生徒達を守りながらでは、思ったように動けない。
 今の所は、ゴブリンから、生徒達を守るだけで手いっぱい」

 「分かりました。ミーチェ先生は、生徒達を守ってください。私が、ゴブリンを倒します」

 声を出し終わると同時に、火魔法の範囲攻撃で、ゴブリンを狩り始めた。連続で、5回ほど、魔法を放つと、ゴブリンの群れは、壊滅状態になった。数匹、まだ、動いているので、風魔法の風カッターで、倒し切った。

 「ミーチェ先生、終わりました」

 「ありがとう。キリさんは、冒険者だったのね」

 「はい、ギリギリ、Aクラスです」

 「助かったわ。でも、こんな低階層で魔物の群れが出るなんて、この初級ダンジョンは、変ね」

 「冒険者ギルドに報告した方がいいですね」

 「何故、こんな事が起こるのかしら」

 「以前にも、ダンジョンが不安定になったことがありました。
 上級ダンジョンを勇者が制圧した時に、多くの魔力がダンジョンから放出されました。
 その行く場のなくなった魔力が流れ込んできて、ダンジョンが不安定になりました」

 「そうなの。今回も同じような事が行われているのも」

 ミーチェ先生と話しているうちに、キリ姉・エルミア・生徒達がやって来た。

 「皆さん。今日は、ダンジョンから出ましょう。
 全員で、一緒に行動してください。
  分かりましたね」

 「「はい」」

 ダンジョンを抜け出して、生徒達を魔法学院の寮に送り届けたミーチェ先生は、その後で、冒険者ギルドに報告に行った。
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