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第28章 魔大陸編

2805.聖剣の秘密

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 私は、転移魔法で、カタリナの住む城に移動した。そして、カタリナの部屋に入って行った。

 「カタリナ、すまない」

 机で、仕事をしていたカタリナが振り向いた。もうすっかり、大人の女性だ。落ち着いた振る舞いも、自然な感じがした。

 「どうしたの? ムーンが謝るなんて、初めてじゃないかなぁ?」

 「そうでもないよ。いつも、カタリナには、すまないと思っている」

 「どうして、ムーンは、私にすべてを与えてくれたわ」

 「まだ、まだ、これからも、沢山の物を与えたい。何か、欲しいものはないか?」

 「そうね。そろそろ、…。いえ、何でもないわ」

 「遠慮せずに、言ってくれ」

 「そうね。その時期が来たらね。それで、私に何か、用事かしら?」

 「少し、聞きたいことがあるのだが、いいかな?」

 カタリナは、椅子から立ち上がり、私の傍に近づいて来た。そして、私の顔を見上げながら、私の両手を取った。

 「いいわよ」

 「カタリナは、ヘノイ王国の国王になったね。そして、ヘノイ王国の国王には、勇者を召喚する任務がある」

 「そうよ。それで?」

 「勝手な推測だけど、勇者を召喚する前に、何か予兆があるのではないか?」

 「ムーンの推測通りよ。予兆があるわ。それに従って、神殿長に、勇者召喚の儀式を執り行って貰うことになっているの」

 「やはり、そうか。それで、その予兆は、最近あったんじゃないか?」

 「いいえ、ないわ。どうして?」

 「実は、魔火山の噴火が近づいているようなんだ。そして、魔王の完全復活も近づいている」

 「やっぱりね」

 「カタリナは、何か、気が付いていたのか?」

 「ムーン、私、これでも国王なのよ。それぐらい、気が付くわよ」

 「そうか。カタリナは、もう、立派な国王だものな」

 「そうよ。いつまでも、子供じゃないわよ」

 「私は、何時までも、カタリナを初めて見た時のままだと、思っていた。時が過ぎるのは、早いね」

 「ムーン、もしかして、私と結婚したことも、覚えていないの?」

 「そんな、バカなことあるわけないよ」

 「ふーん、でも、私の事を妻として、扱ってくれないでしょ」

 「そんなことはないよ。カタリナの事は、一番大切にしているよ」

 「そうそう、ムーンに言っていないことがあるの。それは、勇者について、先代の国王から、後で、聞かされたことなの。他言するなと言われていたの」

 「えっ、そんなことあったのか」

 「実は、先代の国王の時に、勇者召喚の予兆があったらしいの。でも、直ぐに、それが、立ち消えになったって。500年前と同じような感じらしいの」

 「たしか、勇者召喚は、500年おきに復活する魔王に対抗するために、行うことになっていたね。そして、500年前には、それは、行われなかった。その予兆がなかった。そして、1000年前には、魔王軍の四天王に脅かされて、勇者召喚を取りやめた。しかし、魔王の復活もなかったから、大事には至らなかった。と、いうことだね」

 「そうよ。でも、500年前は、予兆があったらしいの。そして、神殿長に指示をして、準備を始めたけど、いつの間にか、その予兆が消えてしまったらしいの」

 「そうか、先代の国王が、予兆のことを聞いていたのか」

 「そうなの。そして、先代の国王が言うのには、どうも、他の者が勇者を召喚したのではないかと、思っていたというの」

 「でも、500年前には、勇者が現れたという話は、どこにも、なかったのじゃないか?」

 「そうよ。それで、今回は、500年前の事を聞いていたのと同じように、感じていた予兆が、急に消えたらしいの」

 「それは、本当なのか? それで、既に勇者が召喚されているのではないかと!」

 「そうよ」

 「それなら、直ぐに、勇者を探さないといけないね。今回、やっと、聖剣・聖盾・聖防具を揃えることができたんだ。それらを勇者に渡したい」

 「えっ、聖剣は、勇者にしか、見えないのよ」

 「でも、多分、聖剣だと思うよ」

 私は、カタリナの手を振りほどき、アイテムボックスから、聖剣を取り出した。

 「これだよ。私が、見つけたのは」

 私は、聖剣を手にとり、鞘から出して、天井に向けて、突き上げた。すると、聖剣は青白い光を帯び、周り一体を照らした。

 「本当に、聖剣なのね」

 「ほら、勇者でなくても、見えるだろ」

 「ムーン、勘違いしないでね。勇者が持てば、聖剣は、誰にでも、見えるのよ」

 「何を言っているんだ。カタリナ、どうかしているよ」

 私は、聖剣を鞘に戻してから、床に置いた。

 「ほら、そこに、聖剣があるよ。カタリナも、見えるだろう」

 「いいえ、ムーンの手から離れてからは、見えていないよ」

 「そんなバカな、私をからかっているのか?」

 「私が、信じられないの?」

 「それじゃ、まるで、私が、勇者みたいじゃないか?」

 「そうよ。そのとおり」

 私は、大声で、侍女を呼び集めた。

 「今すぐに、私の声が聞こえた侍女は、ここに集まれ!」

 直ぐに数名の侍女がカタリナの部屋に入って来た。

 「ムーン様、何でしょうか?」

 侍女たちは、私とカタリナを取り囲むように、集まった。暫くすると、更に多くの侍女がやって来た。そして、私達は、完全に侍女達に取り囲まれた。

 「私の足元にある剣を手に取れ!」

 集まった、侍女たちは、キョトンとしていた。ムーンの足元には、何も、見えないからだ。

 「何をしている! 早く手に取れ! 手に取った者には、何でも、褒美をやろう」

 私は、更に声を荒げて、侍女たちに指示を出した。だが、誰一人として、動くものは、いなかった。先ほど以上に、驚いた表情をしていた。

 「もういいでしょ。はい、はい、皆は、元の場所に戻って、仕事をしてね。ムーン、冗談が過ぎるわよ」

 カタリナの声に我を取り戻した侍女たちが、部屋を後にした。

 「ムーン、どう? これで、分かった?」

 私は、何が起こったのか、事実を受け入れることができなかった。ただ、立ち尽くすだけだった。 
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