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 第20章 恨まれたサルビア

2007.密偵マリー

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 私は、侍女が逃げ込んだ屋敷を調べることにした。

 屋敷は、2階建てで、1階には、台所、応接室、書斎があった。応接室には、侍女のマリーと3人の男達がこれからの事を話していた。

 私は、3人の男達にも、スキル鑑定で、調べてみた。すると、3人とも例のブローチを首から下げていることが分かった。

 おそらく、このグループは、全員あのブローチをを付けているのだろう。そして、リーダ的な男は更にもう一つ闇魔法の神具を付けていた。それを、腕輪のように右腕に嵌めていた。

 しかし、予想に反して、闇魔法を使える者は一人もいなかった。それどころか、光魔法も使える者がいなかった。

 リーダ格の男に指示が入ったようだ。

 「マリー、お前は、ムーンとかいう医師の所で働け。そして、何か情報を掴んで、報告するんだ」

 「分かりました」

 「それから、言っておくが、勝手な真似はするなよ。多少の事は我慢して、ムーンの所で、働け、分かったな」

 「それぐらい、分かってます。くどい」

 「いつも、お前は、反抗的だな。もっと、素直になれよ」

 「はい、はい」

 マリーは、荷物を持って、また、外に出て行った。おそらく、元の屋敷に戻るつもりだろう。

 私は、急いで、スキル探索で、神具の位置を調べ、その部屋に直行した。部屋の中には、神具が、3つ置いてあった。

 時間がないので、私は、その神具に描かれている魔法陣を控えて、急いで、マリーの後を追った。

 何とか、マリーより、先に屋敷に着くことが出来た。私は、隠密魔法を解除して、ナタ―シャの横に並んだ。

 「あら、ムーン、何時の間に戻ったのですか?」

 「ついさっきさ」

 暫くして、マリーが応接室に現れた。

 「お待たせしました。準備が出来ました」

 「遅かったな」

 ブルノン家の主人は、侍女のマリーを睨みつけた。

 「すみません」

 「それじゃ、行こうか」

 私とナターシャは、マリーを連れて、屋敷に戻った。屋敷の空いている部屋をマリーに使わせることにした。

 「マリー、この部屋を自由に使っていいよ」

 私が、マリーに注げると、マリーが聞き返してきた。

 「すみません。ムーン様、この部屋には、鍵が掛けれないのですが?」

 「うん、それがどうした? 鍵はないよ」

 「前の屋敷では、鍵付きの部屋に居たので、ここでも、同じだと思っていました」

 「そうか、じゃあ、辞めるか。そのまま、出て行っていいよ」

 「えっ、そんな。これから、どこへ行けばいいのですか?」

 「俺は、短気なんだ。文句を言うような侍女を雇う気はない。とっとと、出ていけ」

 「すみませんでした。決して、文句を言うつもりではなかったのです。どうか、機嫌を直して、置いてください」

 「面倒ごとは、嫌いなんだ。だから、出ていけ。何度も、言わせるな」

 私は、マリーの荷物を持って、玄関の外に放りだした。

 マリーが慌てて、荷物を取りに玄関を出た所で、玄関の鍵を掛けた。

 「ナターシャ、暫く、鍵を開けずに、放っておいてくれ」

 「はい、わかりました」

 マリーは、玄関先で、途方に暮れてしまった。

 「特に、我がまま勝手をしたわけではないのに。たった一言、質問しただけなのに。なぜ、こんな仕打ちをされないといけないの」

 マリーは、元の屋敷に戻る事も、隠れ家に帰ることも出来ずに、ただ、呆然として、玄関先に座っていた。

 私は、マリーを外に追いやって、書斎で、仕事を始めた。先ほどの神具の魔法陣を実際に3つの道具に描いて行った。

 1つ目の魔法陣は、「光魔法の封印」ができる。ただし、条件があるようだ。この神具が効果を発揮するためには、相手の意識があるとだめなようだ。そして、相手の光魔法のレベルが高いと跳ね返されるようだ。そして、直接、この神具を相手の身体に押し当てて使う必要がある。

 魔法を封じ込める神具だが、条件は結構厳しいものだ。

 2つ目の魔法陣は、「マナの吸収阻害」の呪いをかける物だ。魔法を使える者が、外界から、マナを吸収でき無くなれば、自然とマナ切れの状態になる。つまり、身体がマヒ状態となり、動けなくなってしまう。しかも、これは、遠隔でも掛けることができる。厄介なものだ。

 最後の3つめの魔法陣は、「スキル鑑定阻害」の効果がある。

 なるほど、光魔法の使い手には、効果が低そうだ。まして、サルビアが起きている間には、これらの神具といえども、掛けることが出来なかっただろう。そのために、予め、食事に薬を盛って、眠らせたに違いない。

 これまでの情報から、闇魔法や高度な光魔法を使える者の存在は極めて低いだろう。

 しかし、これらの神具を与えた者の存在は、危険だ。早く突き止めておく必要だある。

 「仕方がない、あのマリーを使おうか」

 私は、玄関に行き、マリーを応接室に招き入れた。

 私は、ソファに座り、マリーを立たせたまま、声を掛けた。

 「マリーと言ったか。ここで、働きたいのか?」

 「はい、ムーン様、ここで、働かせてください。お願いします」

 「だがな、俺は、短気なんだ。直ぐに、怒るぞ」

 「大丈夫です。私は、先ほどのようなことは、決して起こしません。お願いします」

 「俺の言うことは何でも聞くのか?」

 「はい、ムーン様、何なりとお申し付けください」

 「よし、分かった。そこまで、言うのなら、置いてやろう。早く、荷物を置いて、着替えて仕事をしろ」

 「ありがとうございます」

 マリーは、私に頭を下げて、2階の自分の部屋に荷物を運び、素早く着替えて、仕事を始めた。
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